第九話:廃都市「ハイネ」7/日溜まりで咲けない花
前回までのあらすじ
ゆずがサリを撃退。
すずは唯を発見。
戦闘の開始。
〇
徐に、私たちは散らばる廃材を持ち上げた。
「あれ? もしかして、君も似たような能力なのかな。 ……えぇっと
ごめん、そういえば名前を聞いてなかったね。
教えてくれる?」
「すず」
「そっか。 じゃあ、すずの能力も僕とおんなじなんだね」
「そうかもねっ!」
先手を打ったのは私である。
隣の柱に向かって走り出す。
すでに手元に加えた二つの瓦礫と私自身に、能力のマーキングを施してある。
これで奴の背後に立って、重めの石で後頭部を直撃させればしばらくは動けないだろう。
いくら私でも人を殺すような真似はしない。
「どこいくのー?」
奴は拾った廃材を上に投げ、遊んでいる。
警戒の気配は読み取れない。
隙だらけだ。 このまま気絶させる!
即座にふたつの瓦礫を投げる。
奴の目の前と真後ろに。
後ろにあるのが【果樹園の執行人】の対象、もう片方はただの石ころ。
運が悪ければ気づかれるが、高度な心理戦をただの運の勝負に持ち込めるのは非常にありがたい。
勝負の出だしはおそらく重要なのだ。
打ち付けるためのコンクリの固まりを抱き、手首をしならせる。
奴は、目の前に投げた石を眺めている。
執行人の発動条件はすべて達成された。
〇
音もなく、私は奴の背後に瞬間移動した。
私の能力は、ふたつの条件を満たした対象同士の位置を入れ替える能力だ。
もとからそこにいたようになる。
なのに、なぜか気づかれた……!
「みーっけ」
神秘を集中させた重いキックをお腹に食らう。
よろけてしまう。
吐きそうだ。
「なるほどね 君の能力は瞬間移動か。
よくできてるね。 石は前から来ると思わせるフェイクだったね」
「わかっても、対応しきれるかな?」
別に痛くなかった、というふりをする。
垂れた涎をぬぐう。
「簡単だよ。 君に次はないしね」
左手に神秘が集中していく。
おそらく、肉弾戦のつもりだろう。
私も構える。
「さっさと終わらせてやるわ!」
私が言い終わる前に、金属的に光る何かが顔の横を過ぎてゆく。
頬に鮮血。
胸に戦慄。
〇
「あれ? もう怖くなったの。
まだまだこれからなのにさ♡」
「そ、そうなの。 それは楽しみね……」
ああっ 腐れカスめっ。
怖いよう。
なんで私はこんなことしてるんだよ。
「あんたみたいなね、人殺しなんかがね。
わ、私みたいなね、高潔な意思を持って戦う人間にね、勝てるはず」
でもでも、もうここまで来てしまった。
やるしかないのか。
「ないんだからぁぁ!」
やってしまった。
また何も考えずに飛び出してしまった。
さっきのは相手が雑魚だったから問題はない。
でも、こいつは絶対強い。
私より数段上!
ああ、絶対死ぬ。
「いいね 楽しくなってきたよ」
今はとにかく【執行人】を使って逃げ回る。
柱の後ろとか、瓦礫の山の後ろとかに。
何か素晴らしい妙案が浮かぶまで。
「もう、いい加減にしてよね。
逃げてないで、正々堂々戦ってよ!」
逃げるのも戦略だろう、馬鹿め。
〇
そうだ。
思いっきり投げ飛ばした石と私の位置を入れ替えたらかなり重いパンチを繰り出せるのでは?
幸いにも相手は、さっき私の能力を「瞬間移動」能力だと勘違いしていた。
これはチャンスだ。
下あごに私の拳を喰らわせる。
決まりだ。
叩き潰す。
「ああ やっとでてきたね
第二ラウンドだ!」
大丈夫。
ポケットには合計十二個の石が入っている。
新品の服に石を詰めるなんて嫌だし、そもそも新品の服で戦いたくなんてないのだが、コガラさんなら修復魔法みたいなのを持っているだろう。
「行くよっ! 【花の咲く左手】!」
彼女も私の様に石ころを投げる。
ただし大量に。
「〈白刃〉」
彼女の投げた石ころがどんどんとダガーやナイフ、フォークなどに変化していく。
どうやって避けよう……
ああ、やばい。
たぶん考えてる間に死ぬ。
あっ そうだ。
さっき使った石が、奴の足元に落ちてる。
時間がないな。
手首をしならせる。
〇
「花ってのは、種とは全然見た目が違うよね。
僕の能力は、種が花に代わるように、物体を変えることができるんだ。
だから、花の咲く左って名付けたの」
ごちゃごちゃとうるさい!
殴るぞ!
「おっ♡」
奴の目の前に瞬間移動して思い切り殴る。
お腹に拳を食い込ませる。
食い込んだ状態から、全身に散った神秘をかき集め、威力を上げる。
どんどんと腕に力が追加されていく。
だが能力の発動時にすでに神秘を集中させるわけだから、拳に全部を集中させられたわけではない。
それでもダメージは十分だ。
苦痛に悶えた顔をしている。
「ぐへっ ぐへへ そうそう。 こーユーのだよね、戦いってのは!」
数分前の私の様に、涎を垂らしている。
しばらく動けないことは、私がよく知っている。
その隙を突き、今度は最初から全身の神秘を右足に集中させる。
「くたばりな!」
このまま下あごにヒットさせ、気絶させる。
しかし私の身体能力では、足がそこまで上がらず首のあたりに命中した。
神秘の強化があっても、上がるのは身体能力だけのようだ。
「やったか!?」
「んぐッ それ、一番言っちゃいけない言葉だよ……
死亡フラグってやつ……!」
声がかすれている。
かなりのダメージがあったとみて間違いない。
「ふひひっ 『この戦いが終わったら、お前の賞金で遊びまくってやるわさ』ってね」
〇
その後も、体勢を立て直す暇を与えず殴り続ける。
時々蹴る。
こいつ、こいつ神秘でガードしようとしない。
たぶん知らないんだ。
神秘のガードすら。
このままいけば勝てそうだ。
しかし、そろそろ神秘が八割ラインを切りそうだとも感じる。
そうなると、次第に私はただの乙女になってしまう。
早めに決着をつけたい。
「君…… 競争したことないでしょ」
突如、蹴り飛ばされながら奴が言う。
「は? 負け惜しみ? それとも遺言?」
「いいや、違うよ。 だって」
何を言いたい?
私を侮辱して……
「今の僕の台詞に反応してて、隙だらけだもん!」
「っ!?」
奴は蹴られながら、神秘を回復させていた。
そのため防御に神秘を回していなかったのだ。
まずい、こいつは「知って」いた!
少なくとも、形だけでも理解はしている!
〇
コンクリの破片や瓦礫で柔肌に切り傷が増えてゆく。
たった一瞬の気のゆるみと蹴りだけで、形勢が一気に逆転してしまった。
「ほらほら もっと頑張りなよ。 そんなもんじゃないでしょ、君は!」
「うるさいわよっ!」
防戦一方である。
私だって、これ以上神秘の消費は避けなければならない。
次に能力を使うとなると、その後防御に回してから八割を切るまでの時間はおそらく四十秒ほど。
身体がそう感じている。
このまま、殴られ続けジリ貧になるよりはマシだ。
「【果樹園の執行人】っ!」
「そうそう。 そうこなくっちゃ!」
〇
私が位置替えの候補に選んだのは、先ほど奴の足元にあった石だった。
どれでもいいわけではない。
同じような場所に移動することで、奴に私の能力を「ある固定の場所に瞬間移動する能力」と誤認させることができる。
これによって、奇襲を読まれにくくすることができる。
そうすると、さっきまで石ころをいくつも抱えていたことが不自然に見えるかもしれない。
しかし、それは私の能力が「同じものを起点にしなければならない」という条件が付いているように見せかけるためだ。
奴が能力に条件があるのかを知っているかはわからないが。
つまり、私が投げた大量の石ころは、本命の石のフェイクとして彼女には認識させられる。
まだ同じものしか使っていなかった、思考力の遅さがここで活きた。
しばらくこの方法で耐え、奴の神秘を私ほどまで削る。
能力の発動には、(少なくとも私は)それほど多くの神秘は必要にならないので、防御や攻撃さえ控えれば、攻撃し続ける彼女の神秘はいづれ私を下回るだろう。
そうして、神秘が互いに七割を切り始めるタイミングが勝負。
思い切り投げた石と位置替えを行い突如現れ殴り飛ばすという新技、名付けて〈転がる果実〉を決め、奴を気絶させる。
そのためにも、完璧にヒットさせられるよう、かなり集中しなくては。
〇
「あら、随分と短い攻撃だったわね。 私はまだ全然平気だわよ?」
「おもしろい! もろい非能力者とは全然違うよ。
ひさびさに楽しくなってきちゃった!
もう一度行くよっ!【花の咲く左手】!
〈残骸〉!」
彼女の投げた石ころたちは今度はバールや釘に変化する。
身体を動かすのにもかなり、慣れてきた。
投げると速度が上昇するようなこともないので、避けることはそこまで苦ではない。
もしかして私は戦いの才能があるのかもしれない。
なんだか、さっき私がついた「神に選ばれし~」とかいう嘘が本当のように感じられる。
それにしても、奴はもしかして変形させるもの一つ一つに名前を付けているのか……?
〇
どうやら、奴の能力は「投げている間のみ、物体を変形」させるものらしい。
地面に落ちるとただの石ころに戻っている。
好きなものに変形させられるのだろうが、おそらく自分でイメージできないものには変形させられないのだろう。
そのためナイフやバール、釘などの構造が単純なものばかり作っているのであろう。
もしなんでもいいのなら、催涙弾や煙幕、爆弾なんかを作ってしまえばよい。
なのにそうしないことがその証明だ。
もしかしたら、私との戦闘を楽しんでいて、
まだ本気を出していないだけかもしれないが。
〇
「あーあ 全部よけられちゃったな。
もう、肉弾戦の方がいいかもね。
折角作った攻撃が、見切られちゃうなら」
奴の神秘のオーラが少し弱まり始めた。
あと少しで倒せる。
だが、私も戦闘中に神秘が八割を下回るのは確かである。
「ファイナルラウンド、かな?」
両者、敵を殴るために走り出す。
先に拳を打ち込んだのは、今度はこいつだった。
右の拳を私の顔面に目掛けて振り下ろそうとする。
もちろん、そんな体勢になると脇腹ががら空きである。
少し悪い気もするが、肋骨とお腹のお肉の間を狙って力の限り殴る。
私も防御を捨てて殴ったので、互いに後ろに倒れこむ。
〇
今度、先に立ち上がったのは私だった。
もう、これ以上神秘を消費すれば、元の身体能力が非常に低い状態に戻ってしまう。
ここで決める。
「おお なんでか強く見えるよ。 覇気とか言うやつかな?」
少し距離をとる。
「どうしたの?」
「こうしたいの」
残りの神秘を四割ほど残すくらいにして、そのほかをすべて腕に集める。
手元にある石は当然、すでに触れている。
条件、達成。
「【果樹園の執行人】っ!!」
「……! そういうことね。 でも、もう遅いな……
僕の能力じゃなぁ」
「〈転がる果実〉」
石は軽く小さいので、スピードが落ちにくい。
私が石と入れ替わることで石についたスピードをそのまま引き継げる......かもしれない。
石そのものを攻撃と勘違いした唯には、突如現れた私の全霊の一撃を受け止めるほどの猶予はなかった。
「あ、でもね、楽しかったよ」
〇
私の妙案により、唯を倒すことに成功。
ただ、小石からスピードを受け継ぐ事は出来なかった。
「さてと、後はこいつを騎士団に突き出して、ゆずと合流かな」
彼女を騎士団に渡すのは少しもったいない気がする。だが、犯罪者はいらない。
サヨナラ。
小日向唯。
◇ アイキャッチ
小日向 唯
能力名:【花の咲く左手】
解説 :すずやゆずと同じく、死んで転移してきた日本人。
人知を超えた能力の魅力にとりつかれ犯罪に手を染める。
彼女は自由になったつもりでいた。
能力は、自分の手で触れた物体を投げることで、それが地面や壁に接触するまでの間、任意の物体に形状を変化させる変質型の能力。
基本的に変質型は、その物体の構造を理解していないと能力を発動できないため、比較的簡単なものが生成される。
次回
ゆずとの合流。
気づかぬ失態。
再度、日常。
次回もお楽しみに。




