第十話:廃都市「ハイネ」8/ひとまず
前回までのあらすじ
唯との抗争。
理解。
拳。
〇
「ちょっと待ってよさ…… 僕のお話、聞かないの?」
かなりかすれた声で呼びかける。
私のせいである。
しかし、戦わなければ私が死んでいたかもしれない。
でも、やっぱりわるいことをしてしまった気がする。
ああっ!もう。
「そうね…… じゃあ、聞かせてもらおうかな」
「呼び止めてまで話すのは、ちょっとはずかしいね……」
〇
「僕はね、退屈だったよ。
つまらないくせに、なんの変りもない日々が。
本当はみんな、そうなんだろうけどね」
黙って、聞く。
「毎日、同じような事ばっかだよね。
混み合う電車に乗って、やりたくもない仕事をしてね……
そうしなきゃ、生きていけないのは知ってるよ?
でもね、そういうことを言いたいんじゃないんだよ」
すこし目を閉じて休憩している。
「でね、たしか……六月とかだったかな?
職場に向かう電車を待っていると、後ろから突き飛ばされちゃってね。
それとも、疲れて倒れちゃったのかな?」
「結構、唐突だよね。 でも、死ぬときなんてそんなもんじゃない?
ドラマみたいに、犯人を捜すわけじゃないんだし」
一呼吸。
「案外、怖くはなかったね。 うれしくもないけど。
そんな人間がさ、力なんて手に入れちゃったらさ……」
「もうわかったよ」
そろそろ騎士団に連絡しないと彼女は、到着するころには死んでしまっているかもしれない。
それは、ほんのちょっぴりだけ悲しい。
「きっと、だれでもこうなるよ。
抑えるものがなくなっちゃうんだからさ。
一度死んだら、どうでもよくなっちゃった。
この世界でも死ぬのはおんなじだし、痛いのもおんなじなのにね」
「調子に乗りすぎちゃった……♡」
「……私はそうは思えないけどね。
これは、きっと再興のチャンスだと思ってるから。
ま、そんなの人それぞれだけどね」
「でも、力はやめられないよ」
再び、呼吸。
「ありがとね。 楽しかったよさ。 ばいばい」
私は階段を下る。
〇
そういえば、騎士団にはどうやって通報すればいいんだろう。
コガラさんにもらった連絡魔法は、コガラさんとゆずにしか使えないと説明を受けている。
じゃあ、コガラさんを探して聞けばいいのか。
ビルを降りる。
「さて、ゆずを探さないとな」
もう、どこにも敵は見当たらなかった。
さきほどの抗争が嘘のように静かだ。
もうやりたくはないけれど、少しだけさみしい。
「あぁーっ いたっ!」
いつもの阿呆な声が聞こえる。
駆け寄る足音まで阿呆に聞こえる。
「随分ボロボロだね。 回復魔法、使う?」
あたりまえだけど、変わらないね。
「じゃあ、おねがいしようかしら」
外は、暗かった。
〇
ゆずにお腹にできたあざを消してもらった。
「じゃあ、次は擦り傷を……」
「ごめん。 これ一回しか使えないよ。
帰ってから師匠に頼もう?」
なんだ、期待させないでよ。
「しょうがないわね。 〈接続〉」
ポケットから杖を取り出す。
この魔法の導はどうやら私と同じ増幅型らしい。
君もぼろぼろだね……
いや、別にものにまで感情移入するほどセンチメンタリズムに浸っているわけではない。
杖のオーラが画面をかたどって、向こうの景色を移しだす。
コガラさんとつながる。
「はいっ! ターゲットを見つけたんですね。 今向かいま……」
そういえば、コガラさんには見つけたらすぐ連絡するように決めていたっけ。
「ふふふっ もう倒しちゃったよ!」
「えっ!? 殺人鬼のターゲットをですか?」
「そっちは私が片づけました」
誇らしい。
戦う前までは、勝った後に動けない唯を引きずり回して見世物にしてやるつもりだったもんな。
「でも、向かった方がいいですよね?」
「それはお願いします。 あと、回復魔法も持ってきてくれると嬉しいです」
〇
コガラさんの到着。
なにかのスペシャル魔法で飛んでくるのかと思っていたら、徒歩できた。
もし私がピンチでも徒歩だったのだろうか。
「そういえば、お二人にお渡ししたのは簡易魔法でしたね。
簡易魔法は、修行などを経ずに詠唱のみで……」
「すみません。 結構ひりひりするので、回復させてください」
「ああっ、ごめんなさい。 すぐに終わらせますね」
また胸ポケットから杖が出てきた。
「痛いの痛いの、飛んでいけー」
「そんなので…… あれっ? 服のほつれまで完璧に治っている」
「すげぇ なんですか、それ?」
感嘆のあまり、ゆずに先を越された。
「最上級の回復魔法ですね。
今は詠唱を破棄しましたが、本来は詠唱も必要ですよ」
「聞いた、すず? 詠唱だって! 滅茶苦茶かっこよさそうだよ」
「コガラさん。 あとでかっこいい詠唱の魔法を教えてください」
「いいですよぉ。 血沸きますね。」
「あぁーっ。 すず、ズルい! 私もお願いします」
「ええ、もちろんです!」
「……そういえば、特に深い意味はないんですけれど、お二人はケーキはチョコとフルーツのどちらが好きなのでしょうか?」
「チョコー!」
「私も。」
フルーツ・バスケットという能力名だが、別にフルーツは好きではない。
オシャレだから、フルーツ・バスケットなのだ。
レモンは別である。
「(よかったぁ……)」
「なんか言いましたか?」
「いえ、なんでもありませんよ!」
〇
家に着くまでの間、私たちは今日あったことをコガラさんに話した。
「なんだか、お二人とも成長が速いんですね。
私、うれしいですよ」
瞳を輝かせるコガラさん。
「師匠が良かっただけですよぉ」
「またまたぁ。 うれしいことを言ってくれますね」
先ほどまで命を懸けて戦っていたのに、随分と和気藹藹とした雰囲気がする。
これが、人の温かさなのだろうか。
一人暮らししていた時には気づけなかったな。
思い出したようにコガラさんが言う。
「そういえば、騎士団には連絡を済ませておきましたよ。
なので明日にはギルドの方から報酬が出ると思います」
「なので、今日はいっぱい贅沢しちゃいましょう!
そろそろ商店街が閉まり出すころなので、急ぎましょうか」
「れっつごー」
「おー」
〇
夜になると、店店は閉店の準備を始めるようで、まばらにつく明かりが余計に幻想的な世界を演出している。
「こっちもいいですね! ジェノサイド・サーモンの親子丼です。
目の前で子供を調理するんですよ。ひどいものです。
もにゅもにゅとした食感がくせになります」
「あ!これまだ残ってますよ! 生き残りのきのこチャウダーです。
調理されているので、もう生き残りではない気がします。
もにゅもにゅとした食感がくせになります」
全部買った。
こんなに食べれるかな……?
「これも、もにゅもにゅしてますよ」
「たのしみぃ~」
もにゅもにゅしてないのは、ないんですか?
〇
食卓に並ぶ奇奇怪怪の食事たち。
料理を運ぶだけなのに、コガラさんとゆずがエプロンを付けている。
お皿に盛りつけ終わると、二人はそそくさと椅子に座る。
私としたことが、ぼけぇっとただ立っていた。
「はーい、おまちどおさま~」
「あっ。 じゃあ、いただきます」
私は、寿司屋に行ったら絶対にいくらから食べ始める。
というわけでジェノサイド・サーモンの親子丼を食べてみる。
「っ!? もにゅもにゅだ……!」
親側の刺身が非常にもにゅもにゅとしている。
噛むたびに、おいしい味が口の中に広がっていく。
周りのいくらは、普通においしいいくらだった。
これ、うどんに入れたらもっとおいしそう……
〇
どれも非常においしかった。
だが、食卓に並んでいた食べ物は全部、もにゅもにゅとしていた。
食後のデザートにプリンを食べたはずなのに、お祝いと銘打って、大きなケーキも出てきたりもした。
もちろんそれも、もにゅもにゅとしていた。
ケーキはふわふわであるべきである。
「そうだ。 忘れていましたが、お風呂も沸いていますよ。
今日はお疲れでしょうし、早く寝ちゃいましょう」
「そうだ! 明日は早く報酬をゲットしたいしさっさと寝よーよ」
同感であった。
〇
「ふぁーっ ベッドがふかふかね。
この前は疲れてて気づけなかったけど」
ゆずの言う通りで、ベッドは非常にふかふかしている。
春休み最終日の青空にかかる雲の様にふかふかしているのかもしれない。
「枕が抱き心地がいいね。
一生寝てられそう」
私は、本来は枕を抱かないと眠れない人間である。
この前は疲れて倒れただけだ。
「それは困るよ!
明日は報酬を回収しないといけないんだからね!」
「そういえば、まだ修行中だよね。
この後はどうするんだろう」
「それは、師匠のみぞ知る……ね。
God Knows...ってやつよ」
ああ、今日はいろんなことがあったなぁ。
結構、死にかけたようなこともあった。
そういえば唯はどうなったんだろう⋯⋯
国家転覆ってたぶん、これの数百倍は大変なのだろう。
でも、なんだかすごくやりがいを感じる。
大した意味もないけれど、理由なんてこれからいくらでも見つかるだろう。
それよりも今日は眠いので寝ようか。
次回
ゆずの失態により、危機に陥る一行。
逃走。
愛着無き、ハイネにさよなら。




