第十一話:オポチュニスト・逃避行1/計画は慎重に。
前回までのあらすじ
小日向唯との戦闘を終えたすず。
ゆず、コガラとの合流。
豪遊。
〇
気持ちの良い朝のこと。
ゆずが早くも騒いでいる。
「早く起きてよ! 報酬を受け取りに行くよ!」
ふだん一切運動をしないことが起因して、全身が痛くてしょうがない。
「ちょっとぉ~ なにやってんのさ。
ずっと寝てると体に悪いぞ!」
むりやり私の肩をつかんで起こそうとするゆず。
「あっ、痛いってば! もう起きるから!」
なんとか、上半身だけ体を起こす。
「……しょうがないなぁ。 下で師匠と待ってるよ!」
昨日の出来事がフラッシュバックしてしまう。
殺してはいない。
でも、それに近い感覚がする。
嫌な目覚めである。
太陽は心地が良いのに。
とりあえず忘れよう。
殺してはいないのだから。
悩まずに生きていくことはできない。
服は、どこにしまったかな。
〇
「お、おまたせ~」
「すずさん、おはようございます」
「もう! 遅すぎ! 化石になるかと思った」
いったい何円くらいで落札されるのか妄想しながら、管理局へと赴く。
小鳥の鳴き声が綺麗で少し癒される。
なんでコガラさんの家は街外れの森の中にあるのだろう。
もしかして、野鳥観察の愛好家なのかもしれない。
そういえば、コガラさんは以前に「魔法雑貨店を営んでいる」と言っていたな。
こんなところに客など来るのだろうか。
森の付近ならわかるのだが、森の奥深くに店を構えるのは理解できない。
知る人ぞ知る名店なのだろうか。
それともお店を建てたはいいものの、やっぱり名残惜しくなって売りたくなくなっちゃうかもしれないから、ここを見つけた人にだけ売ることにしているのだろうか。
そんなんだと、すぐにつぶれてしまいそうだ。
〇
「はい。 確かに確認いたしました」
職員の声が、管理局に響き渡る。
こちらをちらちらと見るものもいる。
「ハイネ治安維持局からのクエスト『【急募】人殺しを捕まえてください』の成功報酬、三百万エメラルに加え、その他指名手配犯十四名の確保の報酬を上乗せした八百五十万エメラルです!
お受け取りください」
ずっしりと重たい袋の中には大量の金額が詰められている。
「やってね、すず!師匠!
これで大金持ちだ!」
「私は、教えただけですよ。
すごいのはお二人ですから」
コガラさんが、目隠しをきゅっと縛り直す。
メガネをあげるのと同じ感覚だろう。
「たったの八百五十万程度で、そんなにはしゃがないの。はしたないわよ」
もちろんウソである。
八百五十万は大金である。
しかし、ここではあえて八百五十万などはした金だ、という雰囲気を出すことで周囲の好機の視線を集めることができるのだ。
数秒もしないうちに、予想通りあたりがざわつく。
どうだ、私を見る事しかできない雑魚どもよ。
うらやましいか、このお金が。
でも、お前たちにはこの布袋もあげないもんねぇ。
私の歩いた土でも舐め……
「あのぉ すみませぇーん」
スーツ姿の、いかにも幸の薄そうな男が話しかけてくる。
「なにお前? 焼くぞ」
こんなに気分のいい私にお金をせびろうというのか。
「お金ならやらねぇぞ! さっさと消えないとお前を燃やす」
いいぞ、ゆず!
もっと言ってやれ。
「いえいえ、そんな滅相もございません。
私はこういうものでして……」
彼はテキパキとした動作で杖を取り出す。
どうやら、この世界の身分証とか名刺に近いものらしい。
名前と会社名らしきものが書かれている。
「ハイネ第二地方銀行ぉ?」
「はい。失礼ながら、御三方がお受け取りになった報酬の金額が聞いてしまいまして……」
立て続けにセールス。
「えぇ~ やはり八百五十万というのは大金!
そのままポケットに入れて持ち運んだり、家の金庫に保管するだけでは心配ですよねぇ。そこでうちの銀行でございます!当社の銀行では……」
「結構です。
行きますよ、すずさん、ゆずさん」
出会って史上、コガラさんが最速で移動した瞬間であった。
〇
管理局を出た後、私たちは唯と戦う前に来たカフェに入った。
コーヒーを一杯とコーラを二杯、たまごのサンドウィッチ三つを購入。
まるで駅前のカフェだ。
「あれは、あからさまに詐欺ですねぇ。
大体、一般客に紛れて虎視眈々と気を狙っているんですよ。 銀行に納められたお金は課税対象になりますからね」
なんて理不尽な。
それでは、労働意欲が減るではないか。
「でも師匠、そんなことしたら誰も銀行にはお金を預けなくないですかぁ~?」
「それが、そうでもないんですよ。
たとえば銀行は、頻出する盗賊や強盗からお金を守る能力は非常に高いです。
そのため、義務教育で習うような魔法しか使えない人間は、お金を自分で持つよりも、銀行に預けたほうが損失が減ることがあります」
「じゃあ、私たちはどうするんですか?
銀行に預けなかったら……」
錠剤に詰めて飲み込むとか?
「私たちの場合は、私のお片付け魔法でしまっちゃえばいいんです」
「単純だ! ……でもそれじゃあ、銀行は別に詐欺じゃないんじゃ?」
ゆずが喋り切る前に、コガラさんが比較的大きな声を出す
「なにを言ってるんですか、ゆずさん! こんな詐欺まがいな方法で民から税金を回収するなんて詐欺制度以外の何でもありません! 邪悪な国家は今すぐにでも権力者ごと根絶やしにするべきなんですよ!」
しょうがないですよ、と言おうと思った。
だが、ゆずはコガラさんの何かに感化されている様子。
〇
その後も、小一時間乙女的トークに花を咲かせていた。
「そうなんですよぉ やっぱり起きたときに、窓辺でぴよぴよ鳴いてるのがかわいいんですよねぇ~」
「分かります〜。 ちなみに、好きな鳥とかいるんですか?」
「やっぱり、かわいさで言うとプレデター・デスシマエナガですかね。
怒らせると都市一つ…… おや、なんだか外が騒がしいですね」
ドアを凝視するコガラさん。
胸ポケットに近い位置に手を置きなおす。
〇
叫び声は次第にカフェに近づいてくる。
平和な時間は、そろそろ終わりそうだ。
ドアが乱暴に開かれる。
「ここかァーっ! 出てきやがれ、クズ野郎!」
胸にバッジが付いているので、騎士団の奴らだろうか。
「いたぞっ! あの阿呆面だ!」
この店に犯罪者でもいるのか。
物騒なものだ。
迷惑なので、さっさと自主して出て行ってくれ。
「違う、そっちの阿呆面じゃない! 金髪の方だ!」
……金髪の阿呆面とは、なんだかゆずのようである。
同じカフェにそっくりさんがいるとは、なんたる偶然。
「……あんた、なにしたの?」
「………………んがー」
さて、どうするか。
「とりあえず、帰りましょうか。
すみませーん。 おつりは大丈夫でーす」
テーブルに鷲掴みにした金貨をドンと置くと、コガラさんは杖を取り出す。
「お二人とも、私の腕にしがみついてくださいね」
杖を持っていない左腕を前に出す。
身体から、赤いオーラが垂れている。
「おい! 貴様らどこへ行く!」
「うるさいですねぇ。 〈紐付け〉」
「け、警察とか怖くないし! ばーか!」
渾身の罵声を浴びせ、コガラさんに抱き着く。
私は生まれたての小鹿の様に、怒りに震えていた。
怯えなどではない。
断じて!!
〇
私の能力を使ったときの感覚に近かった。
いきなり、コガラさんの家の中庭に瞬間移動する。
コガラさんが、汚れていないのに、服を手でぱんぱんと払ってから、ゆずを見つめる。
「で、ゆずさん。 なにをしたんですか?」
泣き顔。
「あ、そんな顔しないでください! 怒るつもりはないですからぁ」
「わかんないよ! 私もすずと同じでビルにいた犯罪者をいっぱい殴っただけだもん」
もしかしたら、殴ると犯罪⋯⋯?
「そうですか。 普通なら犯罪者には、何をしても犯罪にならないはずなんですけどねぇ」
それはそれでだめなのでは?
「もしかしたら、犯罪者の中に権力者が混ざっていたのかもしれませんね。 それなら、警察側は権力者から多額の報酬を受け取れるので、捜査を始めますよ。
まぁ、こういうときこそ新聞を読めばいいんですが」
またまた杖を取り出すコガラさん。
一体何本持っているのだろう。
「えいっ」
以前私たちに能力の説明してくれた時に使っていた魔法によく似ている。
杖の纏っていたオーラが空中に漂い始め、文字になっていく。
コガラさんは非常に集中しているようだが、まだはっきりとは見えない。
「ふぅ。 苦手なんですよねぇ、情報のアウトプット」
よく私も報連相ができないと怒られたものだ。
「やっと出来ましたよ。 さあ、確認しましょうか」
「まず私が見るよ! 私が原因っぽいし」
コガラさんがぷるぷると杖を動かす。
「はいどうぞ!」
杖から生まれたビジョンを覗き込むゆず。
そもそも、新聞に載っているのだろうか。
もしそうだとするとちょっと早すぎるのではないだろうか。
「あーっ! こいつか…… 殴っちゃったなぁ」
「よかったです。 心当たりがあったんですね」
「はい! 私がぼこぼこにした犯罪者グループのなかに警護団っていう組織の人がいたみたいです!
……騎士団と警護団って何が違うんですか?」
「警護団とは、騎士団の下部組織のことです。
騎士団は、この街の強い人を集めた犯罪者を確保する組織で、警護団はその他の雑務を担当するちょっと強い人たちの集団です。 もちろん、こんな田舎の騎士団は、私の足元にも及びませんがねっ!」
しばし沈黙。
「安心してください。 この街で発生した罪はこの街でしか裁くことはできません。
つまり、警護団とか騎士団とかに捕まるよりも早くこの街を抜ければいいのです!」
「じゃあ、あんまりもたもたしてられないですよね!?
はやく夜逃げの準備を!」
ゆずを引っ張って、二階にある荷物を取りに行こうとする。
そういえば、ラッシーを置きっぱなしにしていた。
「いえ、その心配はありません。
ここには非常に強力な結界が貼ってあります。
この結界を私以外の人間が一日以内に突破するには、私の師匠レベルの魔法使いでも三人は必要ですよ。
ですから朝逃げでも十分過ぎです。
それよりも、おいしいクッキーがあるんですが、いかがですか?」
ありがたくいただこうと、クッキーに手を伸ばした直後、自分のニュース記事を読んでいたゆずが叫ぶ。
「あれぇーっ、師匠脱税してるじゃないですか!
私たちと一緒に指名手配されてますよ!」
ああ、雲行きが怪しい。
〇
コガラさんのお片付け魔法によって内側の広さを体育館なみに拡大された私のバッグには、
魔法の杖、十五本
魔法のポーション、十本
ピカピカの石、四十五粒
お金、千八百五十万エメラル
魔導書っぽい本、五冊
食料、一か月分
飲料、一か月分
替えの服、五セット
替えの下着、五セット
コガラさんの宝物がたくさん入った箱、一箱
その他、大量の人形と謎のおもちゃ
が詰められていた。
持てるわけがないと思っていたのだが、教科書二冊分ほどの重みしかなくて驚き。
さすがお片付け魔法だ。
これから、私は人生初の相棒と師匠とともに、人生初の夜逃げもどきを実行する。
次回
ハイネ脱出。
乙女奔走。
迫る追手。




