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悪に正義を、阿呆に脚光を!  作者: 広炉ひろ
第二章:廃都市「ハイネ」編
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8/25

第八話:廃都市「ハイネ」6/サリちゃんの【後戸代行サービス】

前回のあらすじ


廃ビルの抗争。

すずは、犯罪者集団の一つを討伐。

ゆずは、苦戦中。

△


予想通り、彼女は私に「右頬へ右フック」を命中させてくれた。少し痛かったけど。

「ざんね〜ん。 君は今から自分のしたことを悔いることになるよ」

せっかく能力が決まったのでカッコつけてみる。

「馬鹿にしすぎね。 後悔するのは君よ」

神秘で構築したナイフを取り出す。

近距離で私に突き刺そうとする。

「やべっ」

避ける、というより左に倒れ込み何とか躱す。

が、どうやらそれは敵の読み通りだったよう。

すでに構えられた拳で、私の右脇を思い切り殴る。

突き刺すような激痛と漏れる声。

そして、何かが折れる音。

感覚的に骨ではなさそうだ。

……もしかして「あれ」かも!?

「後(・)悔(・)す(・)る(・)の(・)は(・)君(・)の(・)ほ(・)う(・)ね(・)」

強がりのセリフを吐いて敵は隣の部屋へと逃げ込んだ。二度も言うな。

「逃がすかよっ!」

すでに敵は隣の部屋に逃げ込んでおり、ここからでは見えない。

追跡しようとした刹那、先ほどと同じようなことが起こる。

風を切る音がした。

「んグッ」

今度は左足の太ももが斬られた。

そして地面に半透明の果物ナイフが突き刺さる。

どうやら当たりどころがよかったらしく、激痛ではあるものの先ほどの痛みよりかはちょっとだけマシだった。

痛いものは痛いけど。

「ふざけやがって!

【一剣二鎌(キラーチューン)三爆破(スロット)】ッ!!!」

背後にある私のスロットが動き出す。

スロットにはふたつの使用方法がある。

時間経過でランダムに武器を選択してくれる自動消費と、私がスロットに付いているボタンを思い切り叩くことで目押しができる手動消費だ。

もちろん私は、この手で決める。

「何か来るっ だが次のナイフの生成には少なくともあと十秒はかかる…… 今の私に止める術はないか」

スロットはピタリと動きを停止した。

出てきた数字は、四!

えーっと四は、たしかナイフだったかな。

「ちょうどいい お前にもナイフを突き刺す!

覚悟しなよ」

青いオーラを纏った七本のナイフが宙を舞う。

このナイフたちは私が視界内に収めさえしていれば、手で触れることなく操れる。

「【サレンダー・ラベンダー】

降参しなっ、てことね」

神秘を込めた拳を思い切り突き出すと、それに沿うような形でナイフが飛び出す。

そのままナイフを投げ飛ばすような動きをイメージしてみると、そのようになった。

ナイフが銃弾のように飛び出す。

数秒後、一本目のナイフが壁に突き刺さった。

柄の部分まで突き刺されば、数本で完全に壁を破れるだろう。


本当は、走れる余裕はあるわけがないので〈簡易回復(ギフト)〉を発動したい。

だがそうなると手持ちの回復手段がなくなり、本命の小日向唯との戦いで回復ができなくなってしまう。

だからまだ使えない。

幸い、今私が引き当てたのは遠隔操作の能力だ。

このまま押し切る……


「ふふっ あとちょっとで三発目が完成ね」

敵がそう言うのと同時に窓の縁が崩れる。

「ひさびさのご対面だね〜」

近くにあった窓の崩落に連鎖して周りの瓦礫も崩れ始め、敵の二の腕まで見えるほど大きな穴が空いた。

「ウザいんだよ! くたばれっ」

また能力が来るっ、と思って構えるが、どこにもナイフは刺さらない。

手元のナイフで襲ってこようともしない。

ただ捨て台詞を吐いて逃げようとしているだけだ。

なぜ逃げる?

その能力で果物ナイフを飛ばせばいいじゃない。

何かそのナイフにあるのか。

ああ! そうか、これが師匠の言っていた制約というもの。

おそらく彼女は制約を満たせていないから攻撃ができず逃げるしかないのだ。

「ふざけんなよ…… 今のあたしじゃ追えねぇっての」

このままでは死刑を待つようなものだけど、どのみち私は這いつくばるのが関の山なのでここに座り込み敵の能力を考察するしかなかった。

さっき向かった方向からみて、このまま私が入るのを断念した部屋からこちらに回り込むつもりかな?

そうだ、こういう時のためにコガラさんから通信用の魔法を貰ったんだった。

たしか右ポケットに……

右ポケット。

嫌な予感が的中してしまった。

さっきの殴打により、魔法の杖は折れてしまっていた。まずいな。

これでは、そもそも救助要請すら出せない。

考えることがひとつ増えてしまった。


△


敵の能力はたぶん、すずと似たような「位置を変える」能力に近いものだと思う。

ナイフはおそらく能力の制約の一環で生み出せるものだ。

だからナイフそのものではなく、その形をした神秘が飛んでくるんだろう。

だとしたら、何と位置を入れ替えている?

すでに二回も喰らっているのに攻撃の方法が見えていない。

それどころか攻撃する瞬間すら見ていない。

よくよく考えるとそもそも敵がこちらに姿を見せないで攻撃をする、というのはおかしい。

いくら神秘によって強化されているとはいっても所詮はただの乙女の体。

神秘によって生み出したナイフで攻撃できるのなら、普通のナイフも使用して二刀流で戦った方が勝率は上がるのではないだろうか。

二本扱うのが難しいにしても、忍ばせて奇襲を仕掛けることはできるはずだ。

それに、本来ならば十本ほど一気に作って放てば私は即死だろうに、それをしないのも変だ。

一度に二本以上は作れないのだろう。

そして私が最初に攻撃を喰らった瞬間は入口から逆の方向を見ていた。

二度目にはその逆側から見ていた。

一回目はよいとしても、二度目は敵の方向を向いていたにも関わらず背後から太ももを斬られた。

つまり敵はおそらく私の背後の物体とナイフの位置を交換しているのだろう。

以上のことから敵は「能力の使用の瞬間を見せない」、「能力以外での攻撃を封じる」、「攻撃が完了するまで次のナイフは生み出せない」、「攻撃できるのは対象の背後のみ」という四つの制約を能力に組み込んでいる可能性が挙がる。


△


敵が隠れてからすでに十秒は経過していた。

私は、左足を引きずり壁に背中をぴったりとくっつける。

これで背後への攻撃はできない。

ラベンダーたちは瓦礫の中や私によって死角になっている場所に隠す。

さあ、ここまですればあとは貴様の右肩と左脚に突き刺すだけだ。

「どうしたんですかぁ~? もしかして怖くなっちゃって逃げちゃったんですかぁ?」

ここまで完璧に推察ができていたはずだ。

なんの矛盾点もなかったはずだ。

なのに、これはなんなの?

「んぐっ!」

右脇腹にナイフが突き刺さっている。

「惜しいわね! いい線行ってるよ。

大体そんなもんさ」

さすがに肩や太ももとは違う。

このままでは私は数分で衰弱して死ぬ。

まずい。

やっと足に自由が復活し始めたのに。

あと少しのところで私は結局殺されるのか。

「安心しなよ。 初心者の能力で出来たナイフだからね。

実際には人体に触れた時点でほとんど実態はなくなってるよ。

でも、神秘に込めたイメージは逆に人体に逆流するわけだから、仮想ダメージはナイフを刺されるよりも痛いかもしれないけどね」

「来ないでっ!」

手を思い切り振り回し最後の悪あがき、のふりをした。

「くひひ。 私の計画をぱあにしてくれたお礼よ。

ありがたく受け取りな……!」

ナイフを振り上げた。

ガラ空きだね。

私の手の動きに沿って瓦礫の下からナイフが飛び出す。

「んぐぅっ」

血反吐。

やはり「私を見ない」という制約は的中していたようだ。

そうでなければ、地中に潜らせたり背後に隠した物陰を警戒しないわけがない。

このナイフは彼女の能力のようなパチモンではない。

実際に物体として存在するのだ。

私の傷の深さとは比べ物にならないだろう。

痛みはどうだか知らないが。

「安心しなよ…… 私は犯罪者の頂点を目指してるんじゃないからさ。

深めのかすり傷さ」


△


「甘すぎね。 そのせいで君、死ぬのね!

今度こそ成功させる 【後戸代行サービス(バックイン・ブラック)】ッ!」

敵は地面に倒れ伏したまま、叫び声をあげる。

少し掠れた声で。

「私が見えてるじゃない。 どうするつもり?」

「こうすればいいのよ!」

そういうと彼女は目を閉じた。

そして神秘を凝縮し最後になるであろうナイフを作り出す。

「能力で突き刺せないのなら、私が突き刺してやる」

私の服をつかみ思い切り手繰り寄せ、神秘のナイフを突き刺そうとする。

だが、ナイフは私の服を掠ることすらなく光の粒になって消滅する。

神秘は生命エネルギーだと師匠が言っていた。

私でもわかるような荒い神秘しか練れない人間が、こんな状態で能力の発動なんてすれば、この結果は当然である。

まだ若干生きている。

「あぶねー。 いくらなんでも人殺しはできんもんなぁ」

早く外に戻り騎士団に連絡をしなければ。

死んでたら賞金減額されるかも。

さっさと全てのビルを確認しないと。

すずと、ターゲットと出会うために。


「お、おい なんだぁてめぇは!」

さえない中年の男が杖を構えて私に怒鳴る。

「う、動くと撃つぞぉ!」

「はいはい、そういうのいいから」

すこし腹を殴ると男は気絶した。

その後、すべてのフロアを確認したが、能力者はいなかった。


〇


「なによ、あんた。

殺されたいわけ?」

こういう時はなるべく相手を刺激せずに距離を置くことが重要である。

「ひどいね、あなた。 でも僕だって、捉え方によってはひどい人よね」

おそらくこいつも私たちと同じ日本人転移者だ。

コガラさんをはじめ、この世界に住む人々の言語を私は知らない。

だが、なぜか日本語として認識することができている。

意味は分かるが、言語は知らないという気持ちの悪い状態だ。

しかしこの女は、私が最もよく知っている言語を使っている。

「あんた、小日向唯かしら?」

「まあ、僕ってそんなに有名なのかな うれしいよ」

不気味な表情をしている。

「で、あなたはなんで僕を待っていたかのような問い方をするのかな?」

「あんたを騎士団に突き出して懸賞金をゲットするために決まってるでしょ

あんたは今、賞金首なのよ」

「なるほどね まあ、普通に考えたらそういうのもあるか。

指名手配とかと同じかな?

そうじゃないと治安ってのは、悪くなるだけだもんね」

「なにをごちゃごちゃと。 私はさっさとあんたを捕まえて懸賞金が欲しいだけなの。

いま降参するなら、痛いことはしないであげるわ。 どうする?」

「でも、お金が絡んでくるとさ、犯罪者を捕まえるために犯罪をしたり、無罪の人を脅迫して犯罪を犯させ捕まえる、みたいなことする人も出てくるだろうね」

彼女は私のことを無視して話し続ける。

「ちょっと、聞いてんの?」

「ああ、ごめんなさい。 いいわよ。 受けてあげる。

その勝負♡」

その眼には、期待と興奮が宿っていた。


〇


「僕の能力は知ってるのかな?」

「変質型で宝石関係の能力ということだけ。」

「宝石? 僕の能力に宝石は関係ないよ? 名前に入ってるだけだからさ」

「じゃあ、なんで宝石店ばっかり襲うわけ?」

首をかしげる。

「ああ。 そーゆーこと?

決まってるじゃない。 こ(・)れ(・)があるお店を探してるの。」

彼女は服の袖につけられた玉の枝(ラクリマ)を揺らす。

彼女の玉の枝(ラクリマ)は煌めくピンクの装飾が花を象っていた。

中心には宝石が埋め込まれている。

その宝石が玉の枝(ラクリマ)の本体だ。

「お店の人は、僕の能力のお試し実験に使っただけだよ。 わかんないことも多いからね」

別に関係ない人間はどうでもよい。

だが、この街にいる限り私の仲間がこんな奴のために危険にさらされると思うと、吐き気がしてくる。

「それを見つけてどうしたいの?」

「質問ばっかりだね。 つまんないな。

わかるでしょ? 能力者を増やしたいんだよ。

それで、生まれた強い人を殺す」

「そのストラップについてはどこまで知ってる?」

明らかにいらいらしている。

オーラがひりついている。

「それで最後の質問ね。

これに触りながらお願いすると、天からのプレゼントをもらえるんだよ。

僕は神に選ばれてここにいるんだよね。

で、君も選ばれたんだよね?」

こいつ、能力については、ゆずと二人きりだったころの私程度の理解しかしていない。

これはチャンス!

連続殺人鬼とかいうから非常に強力な手練れを一瞬連想してしまったが、こいつは能力を手に入れて調子に乗っているだけだ。

「なるほど、かなり知っているのね

そう、私も神に選ばれた、神託の騎士」

もちろんウソである。

何も知らないのなら玉の枝(ラクリマ)にこれ以上何かあると悟らせてはいけない。

神秘とか錬成とか。

喋るのはここまでにして、さっさと終わらせよう。

「じゃあ、遠慮なく……」

「ふふ 楽しみ♡」

流れていた白いオーラは彼女の手を中心に集まっていく。

「【花の咲く左手(クリスタル・キラー)】…… やっと手ごたえのある人と戦えそうだね」


◇ アイキャッチ


サリ

能力名:【後戸代行サービス(バックイン・ブラック)】

解説 :犯罪者のたまり場、廃ビル群の九番棟を牛耳っていた犯罪者。

ゆずに邪魔をされなければ、翌週に集めた戸籍を持たない人間を使い、銀行強盗をする予定だった。

過去にも同様の犯罪を行っているが、サリ自身は現場に出ないため証拠が出ない。

過去に同様の事件を四件起こしている。

能力は、自分と相手の両方が見えない位置に立ち、この能力によって生成されたナイフを対象の死角に設置、最も防御意識の低い箇所を音速で切り裂く増幅型の能力。

神秘で構築された刃は、他人の神秘で中和されるため、切り裂くことはできない。

しかし、中和されると神秘に込められた殺傷のイメージが流れ出て対象に仮想のダメージを与えることができる。


次回


ついに廃ビルでの決戦。

すずとターゲットを探すゆず。

死闘は決着に向かってゆく。


次回もお楽しみに。

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