第七話:廃都市「ハイネ」5/【団長の弾丸】と【後戸代行サービス】
前回までのあらすじ
動き出す殺人鬼。
ほのぼのショッピング。
廃ビルへの潜入。
○
コガラさん曰く、能力者の力の源「玉の枝」はこの世界で非常に高価で流通しているらしい。
よくわからんが感覚としては、日本でいうところの拳銃を所有しているようなものだろう。
つまり、犯罪者「小日向唯」は、圧倒的な武力を持っていることになる。
武力があるのなら、それは権力のようにもなる。
では、権力者がいる場所といえば?
相場は高いところと決まっている。
私はこの廃ビル群の建造物すべてを最上階まで確認することにした。
△(柚須ゆず)
コンクリート片やら材木やらの屍が積み重なっていてとても歩きにくいことこの上ない。
今、私がいるのは入口から見て左に一つ、そのまま奥にひとつ進んだ場所にある部屋だ。
目の前には部屋四つ分ほどの開けた空間がある。
何かの会場だったのだろうか、ところどころ椅子や机が残っている。
そこに腰掛け酒をあおる浮浪者。
ああっ、騒がしいったらありゃしない。
もしかしたら犯罪者かもしれない。
しかし私の妨害をしなければなんてことはないので無視することにしよう。
私の目的はすべての階を確認するために上に行くこと。そしてターゲット「小日向唯」を見つけ出し騎士団に引き渡すことのふたつ。
空気が悪く、ガスも漏れているようで居心地が悪いから早く終わらせたい。
だが二階へ上がる階段は、そこへ行くための部屋のドアが瓦礫の崩落により塞がれていて真っ直ぐ向かうことは出来ない。
しかし、上に行く方法がひとつもないわけではない。
さっき入口で見たこのビルの地図によれば、ここは四つの小部屋とその奥にある大部屋の合計五つの部屋から成り立っていて、階段は大部屋に設置されたひとつ。
だから私はあの人たちを横切って階段をのぼればいい。(もちろん階段自体が崩落してなければ)
なにごともなく階段まで行かせてくれると嬉しいぞ。
〇
コガラさんによると、能力名を発声することによって練ることのできる神秘の量が増えるらしい。
つまり能力がパワーアップ!といった感じなのだろうが、私の能力のようないわゆる位置を変える能力はどこがパワーアップするのだろう。
そういえば、あの時コガラさんは能力を私たちに見せてくれるとき、射程距離がどうとか言っていた。
もしかしたら能力には有効な範囲があるのかもしれない。
普通に考えればそうである。
もし射程距離の概念が無ければ、私の能力で国王の首を撥ねた後に二万キロメートルほど離れた場所にある小石と入れ替わるようなこともできてしまう。
なんだかイメージしづらい。
……また関係のないことを考えてしまった。
今考えたことは後々検証するとして、目の前のことに集中しなければ。
つまり、あの男たちをどうするか。
もっとも望ましいのはここで戦闘を行うことだろう。
そうすることにより自分の現在の戦闘能力を測ることができる。
もし、あの見るからに雑魚そうな相手にも身体能力で劣ることがあれば、それを統括していると推測される能力者はもっと強いだろう。
そそくさと退却して準備を整える期間を設けることができる。
しかし問題は、ここからはよく見えないが奥にも部屋があり、そこに能力者がいるかもしれないということだ。
そんな漫画のような都合のいい展開になることはないだろうが、万が一ということもある。
非常に悩ましい。
とどのつまり痛いのは嫌だ。
こういう困ったときは、一人暮らしで身に着けた究極のスキル
【私はあなた、あなたは私】を発動するしかない。
△
「うぇーい。 おじゃましまーす」
まるで元から仲間だったかのように挨拶してみる。
男どもの喧騒が一瞬止む。
瓶を床に置くもの、立ち上がって何かの構えをするもの、こちらを汚い目で見るもの。
だれ一人として私に興味を示していない人はいなかった。
しょうがないね、こんなにかわいい乙女が薄汚い男まみれの廃ビルに入ってきたのだもの。
恥ずかしがらずに歓迎してくれていいのよ。
「なにみてんだよコノヤロウ。
私をあんたらのボスのところに案内しろってんだ薄ノロ。
まとめてヤっちまうぞコノヤロウ」
適当に暴言を投げかけてみた。
さて、どうなるか。
「お、女だァーッ!」
再び騒ぎ出した男どもは剣や銃を取り出し乱舞する。
見たことない武器もある。
せっかくの女を殺すのか!?
私は即座に指輪に嵌めたラクリマをぎゅっ、と握りこむ。
さすがに能力名を詠唱できるほどの暇はなさそうだ。
〇
—あら ひさしぶりね 私。
—いろいろ立て込んでいてね。 そうだ 私お友達と師匠ができたのよ。
—知ってるわよ だって私はあなただもの。
—ああ そうだったわね じゃあ言わずとも、私が聞きたいこともわかるわね?
—ええ、もちろん。
—どっちがいいかな?
—折角なら、力試しという意味でも突っ込んでみては? 別に殺したって、ここでは犯罪者を殺すことは犯罪にはならないわよ それどころか騎士団から報酬が出る。
—でも、あの人たちはただの犯罪者じゃないかも……
—なによ 私らしくないわね じゃあ、ゆずに転移魔法を覚えさせて帰る?
—べつに、浮浪者だとか犯罪者の命がどうのこうの言っているんじゃないの! 私たちの最後の目標は国家転覆なんだから、大義のために犠牲はつきものでしょ?
—じゃあ、何を心配してるの?
—もしかしたらあの中には能力者がいて、返り討ちにあったら? 拷問されたら? 死ぬよりつらいことがあったら?
—私の悪いくせね 妄想のしすぎ そんなこといったら私だってあなたの妄想の産物だけどね。
いま、どこかでゆずも頑張ってるじゃないの?
さあ そろそろ時間よ 最後に決めるのは本体のあなたなんだからね。
—ああっ まって
△
「ごめーん、痛くしすぎちゃったね。 次があったら気を付けるよ」
ああっ 圧倒的な力を以て調子に乗るのってスゴク気持ちがいい!
漫画のキャラってのはこんな感じだったのか。
浮浪者の血液には触れたくないので、近くにあった鉄骨の残骸を突き刺して引きずる。
もちろん、誰も殺しはしていない。
「ねえねえ。 君たちのボスはどこかなぁ」
死んではいないはずなのに答えない。
「おいっ てめぇっ 私を無視するの!?
ふーん そういうことしちゃうん……」
何か半透明な物体が壁に突き刺さる。
一瞬何が起きたのか理解できなかった。
壁の一部が崩れ始めるのと同時に、私は右肩に走る激痛を認識した。
無機質のコンクリートを溢れる血が彩る。
「チッ 外したか……」
いつの間に後ろにいたんだろう。
肩にナイフで切られたような傷跡が残る。
怖い。
どこから飛んできたのだろう。
もちろん、能力者と戦闘になることはある程度は予想していたが、現実を見ることと、予測することはまるっきり違う。
ああ、痛い。
血が暖かいよ。
死にたくないなあ。
「いやぁ もったいないね。
君、強くてかわいいし、本当なら仲間にしてあげてもよかったんだけどなぁ。
でもねぇ、ウチのシマでこんなことされちゃあねぇ」
さんざん痛いと思ってはいるものの、(実際右肩は非常に痛いけれど)動けないことはない。
それに後に死ぬことと比ぶれば、この程度の痛みは我慢できる、と気合いを出す。
なんとか体の向きを変え、相手の顔を見ることができた。
次の攻撃に備えるため手元に視線を落とすも、相手は武器のようなものは所有していない。
「こう見えて、結構大変なんだよ?
身分のない人を集めるのって。
あーあ、これで私の銀行襲撃計画がぱあだなぁ。
どー責任とるん?」
私のポケットには師匠から、ここに来る前にもらった簡易の回復魔法がいくつかある。
かろうじて動く左肩でポケットの魔導書に触れ簡易的な詠唱を行う。
「〈簡易回復〉っ」
どうやら、治せるのは傷一つだけらしい。
しかし、魔法がなんなのか知らない私でも傷を完治させられたということを考えると、相当いいもののように思えるな。 消滅はしないものの、一度使うとしばらく使えない。
残り一冊。
「あぁ だるっ。 傷治っちゃったかぁ。
ウチの能力だってさ、ただで打てるわけじゃないんだよ?
いっぱい条件が必要なの。
さっき当たったのだって偶然だし。
そんな事言ったら、このキラキラをゲットしたのも偶然だし」
非常に粗いオーラが流れ始める。
師匠ほどではないにしても、私よりかは明らかに多い。
「次のは…… 痛いよ?」
〇
「うわぁぁぁっ! 【果樹園の執行人】ぉぉっ!」
もうどうにでもなれ、という感じだった。
階段につながる部屋を彼らが陣取っているのだからしょうがない。
どうせ戦うことになるのだ。
「なんだこいつ!」
「なんでもいい、殺せ殺せ!」
「焼き殺してやるぜ!ひゃっはー」
先ほど拾った瓦礫を幾分か手元に残してばらまく。
今気づいたのだが、触れながら能力を発動した場合、それは能力発動前に触れたという判定になるらしい。
オーラの付き方が違う。
これは応用が利きそうだ。
「曲者か。 死ねぇっ! 【団長の弾丸】!!」
もう、さっそく予想が外れた。
私はついていない。
だが師匠やゆずよりもオーラの量が少なく薄いので、なんとか倒せそうなのが不幸中の幸いというやつ。
彼女の手元から大量の半透明な弾丸が放たれる。
銃は使わずに神秘を弾に変換しているようだ。
「うわぁぁーっ」
能力を発動したことで、私はすでにリーダーらしき女の後ろに立っていた。
そして放たれた銃弾のうち何発かは下っ端に命中した。
銃弾が当たったところから黒い手が伸びて、あたりのものをなりふり構わず握りつぶし、その残骸を弾痕に引きずり込んでいる。
お陰で、下っ端は全滅。
私を探してきょろきょろしているリーダーを後ろから思い切り殴り飛ばすと、リーダーは気絶して黒い手は薄れた。
△
「こうやってね、右手に力を籠めるとね」
敵の全身のオーラが腕に集中する。
「じゃーん、果物ナイフー。 まあ、ニセモノだけれどね」
これが私の右肩をえぐった能力なのかな?
「あー 違う違う。 たぶん君が考えてるのはハズレ。
どうせここで死ぬんだし特別に教えてあげようかね。
対策なんてできっこないし」
「随分舐められたものね」
私も、相手に対抗するため、神秘を沢山練る。
「うーん そういうのじゃないんだよねェ。 だってわかってても逃れられないからさっ」
ごちゃごちゃと喋っていて隙だらけ。
全速力で敵の方向へ走る。
「死に急がなくたって、すぐに始末してあげるわ
こいつでねっ!」
「そんな暇があるかなっ?」
神秘を拳に集中させ、思い切り殴り飛ばす。
難なくヒットした。
「うぅッ」
腕で防御はされたものの反応が遅れたことに起因して、七割ほどのダメージは入ったとみていいはず。
「あれ? なぁんだ、弱いじゃん」
地面を転がり倒れる敵。
瓦礫で頬がすりむけている。
「チッ 私の顔に傷つけてくれるとか、やってくれんじゃん。 ここからが本番……
【後戸代行サービス】」
「かわいらしいお顔が凛々しくなりましたよ。 お嬢様~♪」
足に力を込めて、似非戦闘ポーズをとった。
〇
「さて、こいつら全部騎士団に渡すと何円くらいになるのかな?
あ、でも死んでたらお金にはならないかな……」
ちょっと申し訳ないけど、殺したのは私じゃなくってあんたらのボスだから、祟ったりしないでほしい。
足でつつき反応がないことを確認してから、しゃがんでリーダーの体を隈なくチェックする。
いい匂いがする。
「ああ、あったあった。 ラクリマね。 中古でも売れるかな……
もしかして『魔導書OFF』みたいなお店があったら買い取ってくれるかも?」
彼女からラクリマを回収し二階に上がる。
しかし二階には警備兵すらいない。
まあ、犯罪者の棲みかと言っても組織のような大それたものではなく行き場をなくした者たちのルームシェアのようなものなのだろう。
闇の組織のアジトのようにうじゃうじゃと黒服が居るわけないか。
次の階に上がろうとして、体を階段の方へと翻すと、そこには崩れかけた柱によりかかった女が一人いた。
「僕ともシようよ…… それ♡」
不気味で冷たい、白いオーラが流れ出ている。
△
「殺すッ!」
「こちらこそ!
【一剣二鎌三爆破】っ!」
殴打の応酬、互いに顔を狙っている。
あんなにかわいいって言ってくれたのに。
時折、お腹へのフェイントも入ってくる。
だが、その程度のフェイントじゃあ、私は攻略できない。
私の能力、【一剣二鎌三爆破】は相手の行動を予言し、それが実際に行われた場合にスロットを回転させることができる。
しかし、「蹴る」や「筋肉を動かす」、「心臓が動く」など大ざっぱな物、回避ができないものを宣言することは出来ない。
つまり、今私が最も知りたいのは『どこ』に『どんな攻撃』が来るか、だ。
別に、私でなくとも戦闘中は誰だってそう思うだろうが。
「宣言は『右頬への右フック』!」
宣言と同時にスロットが光りだした。
◇ アイキャッチ
チェイン
能力名:【団長の弾丸】
解説 :犯罪者のたまり場、廃ビル群の三番棟一階を牛耳っていた三級魔術師。
すずによって気絶させられる。
非常にキレやすいが、味方と味方に優しくしてくれた人に優しい。
【玉の枝】は、日本人転移者から強奪したもので彼女の持ち物ではない。
そのため、使い方自体は知っていたものの神秘の錬成についてなど実践で使える知識はほとんど持っていなかった。
銃の使い方は知っているが、反動や引き金の重さを知らないのと同じである。
能力は、自身の手で拳銃の形を真似、そこから神秘を弾丸として発射する変質型の能力。
着弾後はその弾痕から黒い手が生成されあたりに存在する様々なものを引きちぎって吸収する。
黒い手は最大で一時間程度で消滅する。
次回
鈴寿すずと小日向唯の邂逅。
すずとゆず、それぞれの死闘。
ふたりは無事、再会できるのか。
次回もお楽しみに。




