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悪に正義を、阿呆に脚光を!  作者: 広炉ひろ
第二章:廃都市「ハイネ」編
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6/25

第六話:廃都市「ハイネ」4/キラー・レディ

前回までのあらすじ


国家転覆を目論む一行。

錬成の修行。

殺人鬼捕獲クエスト。

♡


ドアに掛けられた鈴は鳴らない。

糸が切れ、ガラス玉が落ちていたからである。

「いらっしゃい! 今日もいろいろ仕入れてあるよ!」

店主の声が狭い店に響く。

僕はそそくさと店に入り奥の棚を眺めるふりをする。

ある棚に置かれた宝石を引っ張り出して店主に見せる。

「この商品、お値下げ可能かな?」

もちろん、買うつもりはない。

「随分といい目をしているね、お嬢ちゃん。

そいつぁちょうど処分しようと思っていたところさ。

端数を落としてやろう」

「ありがとうね」

僕は、光る石を三粒ばかり握りこみ会計を行う。

「合計で、一万エメラルだな」

「『これ』で支払えるかい?」

握りこんでいた手元の商品をそのまま店主に突き出す。

「はぁ?どういうことだい、お嬢ちゃん。

それは君が買いたいものだ……」

店主の脳天を貫通するナイフ。

残る、床から響いた鈍い音。

「【花の咲く左手(クリスタル・キラー)】 つまり、こーユーこと……♡」

寂れた店をあとにする。


〇


「っていってもさぁ! どこを探せばいいのかなぁ?

私が犯人だったら絶対見つからないようにするよ」

私たちは、城門から少し離れたところにたたずむ異世界喫茶店にいた。

ここに来た時から思っていたのだが、やけに日本のどこかにもありそうな雰囲気がする。

「みんなそう思うもんでしょ。 それができりゃ世の中犯罪だらけよ」

氷が音を立てる。

「あらっ。 ふたりとも、もうこんな時間ですよ?

早く犯人探しに行く準備をしないと、先を越されるかもしれませんよ」

「あっ やば~い すずより早く見つけないと、裸で逆立ちさせられるぅ」

「そんなことしないよ……」

「えぇー でもすずにはしてもらうからね!」

私たちが店をでる支度をしているうちに、コガラさんがすでに会計をすませてくれていた。

申し訳ない。

「すみません。 お金出しますね」

「いえいえ。 こんなかわいい弟子たちと一緒に旅ができると考えたら安いものですっ!」

なぜか元気になっているように見えるのは私だけだろうか。

「それでは気を取り直して。

犯罪者狩りぃ スタートっ!」

ゆずの威勢のいい声が静かな川の流れ方を少し変えたような気がする。

「えっ もしかしてお二人ともその格好のまま行くおつもりですか?」

「ええ。 そのつもりでしたが……」

驚くエルフ。

目隠しをしているのに、なぜこうも表情が豊かに読み取れるのだろうか。

私よりも人間らしい。

「そんなのいけません! せっかくの初戦闘になるかもしれないんですよ!

せっかくなら、かわいい晴れ着を買いましょう!

お金はもちろん私持ちでかまいませんからぁ」

ほとんどなし崩し的に近くの魔道具商店街に、我々はつれてこられた。

木造建築が美しく一列に並び立ち、さらにそこに作られた並木が風情を感じさせている。

大きな窓にはその店の自慢の品と思われるものが飾れらていて眺めているだけで楽しい。

あっ、待ってゆず。

そっちはガラス工芸のお店だから近づかないで!

「うひゃーっ 見てこれすずーっ! このコップ、めっちゃきらきらしてる!」

「おおぉ この街って、やっぱすっごいやばい服ばっか売ってるね」

「店員さーん ここからここまで、ちょっとだけくださーい!」


〇


ふたたびゆずを回収した私たちは、「TraVEる」という名前の店に入った。

ゆずが、ここが良いといって聞かない。

「うひゃーっ ゆず!これとこれのセットとかどう?

ん? だいじょーぶ 阿呆には見えないだけだってさ! 服はちゃんとここにあるよ」

「すずさん! こちらはいかがでしょう。 神秘はかっこいいと思うこと以外にも、羞恥心や精神の興奮を刺激することでも活性化するんですよ! そうおっしゃらず! ああっ まってください! せめて試着だけでもぉ!」


〇


押し付けられたものを押し返して何とか好みの服を見つけられた。

私が選んだのは、黒のフード付き着物と黒と赤のハーネスタイツ、腰に巻くベルト、百合のアクセサリーが付いた黒のローファーの四点。

「なるほど…… 上半身の露出は極限まで抑えつつ、太ももの僅かな部分のみ露出させると……

これはかなり『あり』ですね」

「わかってますねぇ 師匠ぉ」

ゆずは黒のチェーン付き多機能ローブにチェーン付きショートパンツ、太ももに巻くタイプのホルスターセット(片方は武器、片方は雑貨が収容可能らしい)、チェーン付きの指輪の四点を買ったらしい。

チェーンがたくさんついていて便利そうだ。

いささか多すぎるきらいもあったりなかったり。

「あっ ゆず、指輪のチェーンにつけてるんだね、ラクリマ」

「おっ 気づいたぁ? いいでしょぉ。 ちなみにいざとなったらこのチェーンに神秘を流し込んで相手にダメージを与えることもできるって、店主さん言ってたよ」

あ、私もそういうの欲しかったような気がしてきた。

「そうだ! すずもラクリマ、どっかに付けちゃいなよ。そのタイツとかにさぁ」

それはいい、と思いつつもどこにつければいいのかわからない。

太ももでは触れにくいが見つかりにくい。

指ではたぶん邪魔になる。

チョーカーは嫌いなのでヤダ。

となると……

「では、その腰に巻いているベルトに巻き付けてはどうでしょうか?

そうそう、そこのループパーツに」

カチャっと填る音がした。


〇


一通り買い物を終え、街をふらつく私たち。

「ところで、服のタグに、それぞれ数値がついていたのには気が付きましたか?」

「はい でもその数値までは……」

「結構です。 その数値はその服があなたたちの体に流れる神秘を増幅してくれる量を示しています。

たとえば、すずさんのそのハーネスタイツは五でしたね。

そのタイツの模様が神秘の流れを潤滑にしてくれるため、五パーセントほど上がります。

主に神秘の流れる場所は、頭、胸、腹となっています。

そのため、脚の装飾品の上昇率は低くなります。

そういえば、私のこの目隠しも私が独自に開発した模様が刻まれていますよ。

数値はしっかりと図ったことはありませんが、おそらく八十ほどです。

ちなみに、皆さんの下着にも施してありますよ」

よかった。コガラさんのあの目隠しは下着ではなかったのか。

「ただし、神秘の上昇率が百パーセントを超えると過剰錬成に……」

「きゃーーーーっ!」

長くなりそうだったコガラさんの会話を遮り、商店街を悲鳴が包む。

「早くも発見かもねぇ!」

「あっ、ちなみに服の話は全部ウソです!」

一体何のための嘘だったのだろうか⋯⋯


〇


私たちが着いたころにはもう遅く、そこにあるのは額に大きな傷がついた店主の屍と転がる石、おびえる来客だけだった。

「ひぃっ きもっ」

ゆずがおびえている。

私は、大学五回生時代に暇つぶしにために見ていた映画の中にスプラッターが混ざっていたので耐性がある。

「あなたたちですかっ!? これをしたのは!」

「ごちゃごちゃ騒いでるとテメーもヤっちまうぞメス豚ッ!」

「こら馬鹿っ」

ゆずを引っ込める。

「私たちも今ここに来たばかりです。

じつは、この事件の犯人を追うクエストを受けていて犯人の情報が欲しいです。

何か知っていることはありますか?」

こんなぱっとしない顔の奴と喋ったところで実益はないと私の第六感が助言してくれるので、出口の方に足を向けておく。

「いえ…… 私は今ここに来たばかりで…… それより彼は大丈夫な」

役立たずが喋り終えるよりもはるか先に、私たちは大義のため店を後にした。

私たちが出た後、悲鳴を聞きつけ人たちが集まり始め、やじ馬がざわめき出した。


〇


「あれは確実に能力者の仕業ですね」

「はい、私もそう思います。

人間の頭蓋骨に対して、向こうの景色が見えるほどの穴をあけるなんて人間の力では出来ませんから」

「だとしたら、相手の能力はどんなものでしょうか?」

ゆずがどこからか取り出した資料をぱらぱらする。

「こいつ、宝石店の店員ばっかヤっちまってるよぉ?」

「ゆず、その喋り方はやめなさい」

「すみません」

「でも、それはかなりいい視点ですね。

もしかしたら犯人の能力は宝石を媒介にしたかもしれません。

もちろん、ただの宝石愛好家の可能性もありますが。

しかし、どのみち宝石関連で間違いは無さそうですよ」

あっさりと犯人の行動が予測できてしまって、なんだか物足りない。


〇


「実際にどのような能力なのか、事前に知っておくことは損にはなりません。

備えあればうれしいな、というやつです。

漫画やアニメでは、敵の能力はわからないほうがわくわくすることもありますがね。

しかし、大切なのは能力が判明した後もわくわくさせ続ける筆者の手腕こそがもっとも必要だと思っています」

コガラさんも実は転移者なのだろうか。

「師匠! 備えあればうれしいな じゃなくって 備えあれば狂いなし、ですよ!」

いや、どちらも違うのだが。

「あと、おそらく犯人の……コヒナタ?さんの導は変質型でしょうね」

「どうしてそれが?」

「見たからです。 現場に落ちて居た死体の頭部と周りの石に白いオーラが見えましたよ。

見えていなかったですか?」

「はい……」

「いや、私は見えていた!でも違ったら恥ずかしいから言わなかったんだ!」

高校生の言い訳か。

「しかし変質型の能力というのは最も、わかっても意味がない導です。

変質型は基本、形状を変える事くらいしかできませんから」

「つまり、制約を推測する必要があると」

「いえ、制約は基本的に能力の発動中に行うことで達成されるものなので、今から推測する必要はありません。 実際に見てからでも遅くはないでしょう。

それにほとんど情報のない今、制約を考察しても混乱が生まれるだけです」


〇


我々は、三人で手分けして犯人を捜すことになった。

命がかかっているので少々酷なのでは、と思ったがハイネでラクリマについて最も詳しいのは彼女であること、私たちにはかなりの量の修行をさせたこと、実際に緊張感が無ければ実践の意味がないという三つのことから、私たちは別行動になった。

一応、三人で会話することの出来る魔法の杖をもらったので有事の際はそちらから話しかければよいとのこと。

名前はたしか〈接続(コンタクト)〉だったはず。

間違えていたら私は死ぬかもしれない。

そういえば英単語の暗記は苦手だったな。


〇


私がまず確認したのは、コガラさんの家とは正反対の方向にある廃ビル群だ。

私が犯罪者になったらここに住みたいと思うほど、犯罪適性が高いそうだ。

無論、こんなにもかわいい乙女がいたらすぐに襲われてしまうだろうけれど。

とりあえず私は、直感で左の奥から三番目の廃ビルに潜入した。

男の騒ぐ声が聞こえる。


△


すずとコガラ師匠のもとを離れた私は、案外途方に暮れていた。

すずを丸裸に剝いてやると豪語したはいいものの、犯人の居場所など皆目見当もつかない。

まだ一人暮らしを始める前は、実家でよく刑事ドラマを見たものだ。

「同伴」みたいなタイトルだったっけ。

「協力者」だったけかな。

とりあえず私は目についた廃ビル群に潜入することにした。

直感で選び抜かれた、右の奥から三番目の廃ビルを攻略する。

待ってろよ、すず。

目にもの見せて呉れよう。


□


すずちゃん、ゆずちゃんと離れた私はとりあえず、二人がけがをした時のための回復魔法と有事の際に脱出するための転移魔法、がんばったご褒美を買っておく。

一体あの子たちは何が好きなのだろうか。

そうだ、ご褒美と一緒に温かいお風呂も沸かしておいてあげよう。

あ、このシャンプー、いい匂いのやつだ。


次回


廃ビルに潜入、すれ違うふたり。

劣悪な犯罪者たち。

そしてのんきに買い物中のエルフ。

次回もお楽しみに。

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