第四話:廃都市「ハイネ」2/術者のラクリマ
前回までのあらすじ
森で捕食されかけるすずゆず。
一般通過千年エルフ。
街行く三人。
〇
この街は、どうやら長年に続く戦争で荒廃した都市らしい。
隣国から攻め入られた際に、最も国の外側にあったこの都市が、燃料の補給場として重宝されたのだが、それにより弾圧された民たちが反乱を起こそうとした。
そこで、軍たちとの激しい抗争があり、今ではぼろぼろになってしまった。
統治者は悪霊に疲れ、病気に苦しめられ、行政もうまくいっていないのかもしれない。
など暇つぶしに妄想に耽りつつ、検問に引っかかったゆずを眺めている。
しかし街は、そう思われてもしょうがないほどに、ボロっちい。
城門のアーチ部分には大きく「ハイネ」と書かれた鉄のプレートがついていた。
〇
「いやぁ~ 人気者は困っちゃうよね~ かれこれ五時間くらい拘束されちゃってさぁ」
「ゆずの着けてたイヤリングが、悪魔崇拝者のシンボルに似てたからでしょ!
処刑されたらどうすんの! 寂しくなっちゃうじゃない」
口論、それを眺めるコガラさん。
目的を思い出す。
「あっ、すみません。 くだらないことで……
とりあえず入りましょうか」
「いえいえ。 お気になさらず~」
城門を抜けるとそこには、煉瓦造りの建物が立ち並ぶ不思議な商店街があった。
城門で仁王立ちしているだけでも、すでに十種類以上の店が見える。
食品、ファッション、食品、食品、食品、雑貨。
「来るのは初めてのようですね。 ここは、ハイネと呼ばれる都市です。
先住民の言葉で『美しさ』という意味らしいですが、今は見る影もありませんね」
確かに、美しさははあまりないが、レトロとか、アンティークな感じでわくわくする。
ゆずもはしゃいでいる。
「ねえ! こっち来て来て! この服、超カッコいい!」
「これ気持ち悪い、脳みそかな? 店員さーん! これなに?」
「何この服、やば〜 裸より恥ずかしい~
すずこれ着てよー!」
「これで攻撃されたらめっちゃ痛そー! 死ぬな」
「あーっ! イヤリング無くしたーっ! 助けてすずーーっ!」
私が注意し終える前に、ゆずは、別の店に瞬間移動並みの速さで移動するのだから手に負えない。
助けを求めて、コガラさんに目をやる。
目隠しをしているので目は見えないのだけれど。
「うぇ!? あっ、あーっ えーっと……
あ、でも! す、素敵な、お仲間さんですね!
わ、私も駆け出しの頃はいろいろ問題とか起こしてましたし!」
気を使われた。
〇
ゆずを回収しコガラさんについてゆく。
辺りは、先ほどとは違うタイプの、森の中だ。
歩けば歩くほど、綺麗に整えられた花園の様になっていく。
魔術的ランプが非常にきれい。
「もうそろそろ着きますよ お疲れでしょうから、よろしければお風呂とお食事の準備をしましょうか?」
「おねがいしまぁーす」
コガラさんに借りた縄で引きずられているゆずが答える。
「あ、あと泥だらけなんで洗濯もぉー」
おこがましいぞ、とは思った。
しかし、私も服が泥だらけなので、ぜひとも洗濯をさせていただきたい。
「ワクワクしますね〜 幾年ぶりでしょうか 人を家に招くなんて
なんだか、若いころを思い出しますよ」
若いころ……?
ぱっと見二十代後半なのだが。
この世界では、十歳前後で冒険に駆り出されるのだろうか。
「あ、付きましたよー」
目の前には、巨大な木造りの家があった。
外から見ただけでも十個以上の部屋がありそうで、ところどころ明かりが付きっぱなしの部屋がある。
玄関までは、砂利で舗装されているようで、豪華なアーチをくぐってそこまで招待される。
扉には、魔方陣が描かれていた。
「私のおうち兼お店へようこそー。
可能な限りくつろいで行ってくださいね」
コガラさんがドアを開けると、木の匂いが漂ってきて、なんとも心が落ち着く。
森の中の野性的な樹木とは違い、人との共存を目的に加工された木々の匂い。
それを粉砕する阿呆。
「すずーーっ! もう悪いことしないから縄ほどいてーーっ!
腕のところがすりむいちゃって血が出てるよぉーーっ!
ああっ! 痛くて死ぬぅーーっ!」
なんと騒がしいのだろう。
「じゃあ、私はお風呂掃除をしてきますので、すこしリビングでくつろいでいてくださいね」
「ありがとーございまーす」
コガラさんは、左の方へと曲がっていった。
ふたりでお礼を言ってから、ゆずの縄をほどいてあげる。
結び目を解くと、縄は光の粒子になって消えていった。
「はぁ。 痛いなぁ」
「阿呆をしたゆずがいけない。
とりあえず、座ろ?」
私も靴を脱いで、ゆずとソファに行こうとすると、コガラさんがひょっこりと出てきた。
「お風呂、沸きましたよ
お二人とも、別々に入りますか?」
なんだか、めちゃくちゃに速いのだけれど……
「うぅん! 二人一緒でダイジョブです!」
はっ? この阿呆は何を言っている。
まだ出会って二日だぞ。
「えぇ。 あ、あの、それはちょっと…… 恥ずかしいというか⋯⋯」
「いいじゃ~ん 入ろうよ~ どうせこれから長い付き合いになるんだしさぁ」
ゆずが擦り寄ってくる。
何を根拠にそんなこと。
「ね~ 入ろ~?」
きらめく瞳でこちらを見てくる。
講義中によく見ていた、癒し動画のネコにそっくりだった。
「ああ、もうっ! わかったよ、しょうがないな! この一回だけだからね!」
「わーい! これで、これからの生活もたのしくなるね」
まるで、二度目があるような喜び方だった。
〇
脱衣所に向かう前に、ポケットに入っていたものを取り出す。
なぜか持っていたストラップ、毒吐きルテアとかいう植物の罠金貨、スマホカバー……ほかは無し。
貧しいポケット。
「おや? それは……」
「どうかしましたか? あっ、そうだ! 泊めていただくお礼にこの金貨をどうぞ」
「いえいえ、私は、ただおふたりを泊めたくなったですから。
気になったのは、そちらではなく『玉の枝』の方ですよ。
あと、その金貨は危ないやつなので回収しておきますね」
ああ、私のおもちゃがとられた。
ところで、その「らくりま」というのは、一体なんだ。
「ああ、もしかして、ストラップのことです?」
コガラさんに、らくりまを手渡す。
脱衣所から、いつまでたっても来ない私を呼ぶゆずの声が聞こえる。
「詳しいことはお風呂を上がってからにしましょう! ゆずさんが呼んでいますよ?」
その通りになった。
〇
風呂上がり。
「ふぁ~っ 温かくって気持ちよかった~
ここに来る前はゴミみたいなアパートのカスみたいなお風呂しか使えなかったからね~
やはり、お風呂は大事ね」
そういえば、ゆずのここに来る前の話をまだ聞いていないのを思い出す。
今度聞いておかねば。
「それにしてもすず~ すずって意外とさぁ……胸が」
「それ以上言ったら二カ月くらい口聞いてあげないからね!」
「んもぅ 冗談じゃん、冗談! 怖いなぁ」
そそくさと、コガラさんが用意してくれた服を着る。
手に取った下着にコガラさんの目に巻いているものと同じ模様が描かれている。
え? もしかしてコガラさんって⋯⋯
「あっ! やっべ コンタクトどうしよう!
もう替えが無い! というか、もともと持ち物が何もない!」
慌てるゆずをしり目に、髪を乾かそうとする私。
しかし、ドライヤーもない。
「すみませーん コガラさーん ドライヤーどこですかーっ」
「どらいやあ? それはなんでしょうか? 申し訳ないのですが、存じ上げないですね……
お二人の故郷の魔道具か何かでしょうか 必要なら入荷しましょうか?」
そういえば、ここは推定異世界であった。
〇
「で、話ってなんですかー? スチャッ」
ゆずはコガラさんの魔法に作ってもらった眼鏡をかけている。
どうやら甚く気に入っているようだ。
眼鏡はあるんかい。
「あっ いえ、話というほどだいそれたものではないのですが……
ただ、お二人とも『玉の枝』をお持ちになっていらっしゃったので……」
「らく……りま? なぁにそれ? もしかしてストラップのことですか~?」
私と同じ反応をしている。
「はい、そうですね。 お二人とも、これが何かはご存じでしょうか?」
「うん! 超能力者になれる魔法の石でしょ!」
「ということは、お二人ともすでに能力は決めているのですか! 誰かに教わることなく?」
驚くエルフ。
目隠しをしているが、驚いているのが良くわかる。
「なんで驚くんですかー? 欲しい能力をお願いするだけでしょう?」
「ええ、おおむねその理解で当たってはいるのですが……
『おそらく導』や『制約』についてはご存じではないですよね」
「知らなーい」
ふたりで、同じタイミングで答える。
〇
「少々お待ちくださいね」
コガラさんが立ち上がって、杖のようなものを持ってきた。
「えいっ! 〈形成〉っ」
彼女が短く詠唱すると、杖が緑のオーラを纏い始める。
水を張り付けたような感じで、ぽたぽたと零れ落ちているが、どこにも跡は残ってない。
「うぉー。 すごー」
「お二人が『ストラップ』とお呼びになってるものは、正しくは『玉の枝』と呼ばれる魔法の石の一種です」
コガラさんが杖を振ると、こぼれていたオーラたちが集まって、イラストのようなものになっていく。
簡素で可愛らしいイラストが、空中に描かれている。
私もやってみたいなぁ。
「その起源は、ある一人の大魔法使いが国家転覆を企てるために、量産できて扱いやすく、そして強力な魔法を生み出す過程で、偶然生まれた植物性の鉱石だと聞いています。
植物の蕾を刺激すると、涙の様に開いて、この鉱石が露出することから、そう名付けられたそうです」
空中には、その通りのイメージ図が生成されていた。
「花から石が生まれるんだ…… 枕元に置いてみたいなぁ」
「私もしてみたいですねぇ。
ですが、玉の枝は、製作者の大魔法使いがどこかへ消えた後も、この宝石の苗は、なんども接ぎ木をされ、闇市で法外な値段で取引されています。
私だって、一個買うのが限界でしたし、そもそも一人一つしか持っていても意味がないんですけれどね」
「なんで、コガラさんがその『玉の枝』とやらを持つ必要が?」
「そんなの決まっているじゃないですか! 魔法をきわめて、世界一綺麗で強い存在になるためですよぉ」
なんだか、私たちは似た者同士な気がする。
「ところで、お二人とも『制約』という言葉の意味は分かりますか?」
空中に大きく書かれた「制約」の二文字。
「何かの条件、みたいなことですよね」
「その通りです! 能力には、制約というものが付きます。
それは、能力を組み立てるのに、欠かせないだけでなく、魔法を扱ううえでもとても大切なものなのです」
「あれ? 玉の枝と、魔法は違うんですか?」
「いい質問ですね。
玉の枝とは、平たく言えば、使いやすく、さらに強くした魔法のようなものです。
実際に見てみると早いかもしれませんね」
〇
家を移動する。
地面には、多種多様な魔法雑貨が転がっており、二層目の床になっている。
恐れ多くも、しかしどうしようもないので、雑貨をつま先で踏みながら歩く。
ゆずは、面白そうなものをピックアップしている。
しばらくすると、私たちは天井に大きなガラスの付いた、室内庭園のような場所にやってきた。
月光が、コガラさんを照らしている。
「それでは、お見せしましょう。
まずは、これですね」
そういうと、コガラさんは、服の胸のあたりから、杖を三本ほど取り出して、その内二本は、近くのトライポッドなテーブルに置いた。
「一応お聞きしますが、お二人は魔法についても何もしらないのですか?」
「はい、なにも」
「私も~」
二人そろって阿呆みたいで恥ずかしい。
「いいですねぇ。 つまり、私がお二人を開発するわけですかぁ~。 ふふっ」
怪しげな笑い声が少し聞こえたかと思うと、今度はこちらを見つめている。
「いいですか? まず、私たちの体には血以外にも『神秘』と呼ばれる生命エネルギーが流れています。
言われるだけではわからないと思いますので、見せますね」
コガラさんが、棒立ちする。
その姿にも、気品というか、美しさがにじみ出ている。
間を置くことなく、一瞬で体全体が、乳白色のオーラに包まれた。
これが「神秘」か……
たしかに、温かくて柔らかで、神秘的な魅力がある。
「これが、神秘です。 玉の枝の能力を使うなり、魔法を使うなり、運動をするときにも、常にこれを消費して、人々は生きていきます」
「すごい…… いままで生きてきて一度も気が付かなかったぁ」
「ふふっ。 お二人は、すでに玉の枝で能力が開花していますからね。
そうでなかれば、大量の神秘を込めた状態で殴られると、見えるようになることもありますが」
次にコガラさんは、先ほどから手にしている杖を私たちにも見えやすいように構えてくれた。
「ただ、神秘はこのままでは使い道が限られてしまいます……
体で受けるダメージを減らしたり、逆に身体能力を上げたり、とかですね」
今度は、杖が垂れ流すのではなく、杖が乳白色の神秘を吸っている。
というか、神秘が杖に向かって行っている?
「魔法を使用するときは、この様に杖を通さなければなりません。
試しに、一つ魔法を使ってみましょうか。 しっかり見ててくださいね」
何を使うか、少し考えている。
「これでいきましょうか。 〈取り出し〉」
一瞬で、杖の周りの神秘が乳白色からピンクに近い、柔い赤に変化した。
そして瞬きよりも早く、目の前には豪華な魔方陣が出現していた。
「では、ゆずさん。 手を入れてみてくださいな」
「私ですか? ……食べられちゃったりしないですよねぇ?」
「私の魔法ですよ? 安心してくださいな」
まだ、出会ったばかりなのだが。
でも、私は悪い人ではないと思っている。
ゆずが、魔方陣に手を突っ込むと、反対側から出てこない。
「うわぁっ! 私の手が切り飛ばされたっ!?」
「安心してください。 そんなことはしませんよ。 よーく感じてください。
そうすれば見えてきますから」
言われるがままに、ゆずは目を閉じる。
そして、何かを感じたのか、急に腕を引き抜く。
すると、その手には、小鳥のぬいぐるみが握られていた。
「これが『魔法』です」
コガラさんが、ドヤ顔を披露してくれた。
「あれで、銀行とか襲えるかなぁ」
「私にもできるかな」
また、ふたりで同じようなことを言ってしまった。
〇
「魔法は、既存のモノを模倣する形で使いますが、玉の枝は違います。
おふたりは、自力で見つけているようなので、必要のない解説かもしれませんが、一応しておきますね」
「よろしくお願いします」
「ます」
さっきの杖はしまって、テーブルの杖を手に取る。
さっきの緑のやつだ。
「もうお気づきだとは思いますが、神秘には色があります。
これは、人の精神に影響されるものなので、個人個人で違います。
しかし、大まかにはこの六色に分かれますよ」
空気黒板には
赤「増幅」
青「降霊」
黄「操作」
緑「残留」
白「変質」
黒「特殊」
と書かれている。
「神秘は、この六色によって得意なことがあるんです。
例えば、赤の人は、空間を操る魔法や、身体を強化する魔法が得意です。
青の人なら、具現化や霊獣の召喚などが得意なんですよ。 これは、玉の枝も同様です」
「なるほどぉ。 適当に能力決めたけど、実は大正解だった訳か……」
私が即死能力を作れなかったのも、それが原因か。
「ところで、もしよろしければ、お二人の能力を見せていただいてもよろしいですか?」
快諾。
玉の枝に触れると、能力が発動する。
能力について理解したからか、昨日よりも扱いが上手くなっている気がする。
「おぉ。 すずさんは増幅型、ゆずさんは降霊型なんですねぇ」
「私の能力は
『物体に触れる』
『そのふたつの位置を入れ替える』
【果樹園の執行人】ですよ!」
「面白い能力ですね! まさに増幅型って感じですよ。 ゆずさんは?」
「私の能力はですねー。
相手の行動を予測して、的中するとランダムな武器がもらえる【一剣二鎌三爆破】!」
「ロマンですね。 やっぱり、魔法にはそれが必要ですよ」
ゆずの能力まで解説が終わったところで、少し静かになった。
「……寝ましょうか」
私たちは、少し遠くの、客人用の部屋に招かれる。
未開封のティッシュ箱と、タグが付いたままの枕が、新品と思わしきベッドの上に置かれていた。
〇
翌朝、私たちはベッドの上で目が覚める。
「おはようございます」
「あれ? コガラさん……
どうしたんですか」
目がしょぼしょぼする。
「あっ。 せっかくなので、能力の修行でもいかがなかぁ、と思いまして……
私は下で待っていますので、気が向いたらぜひ。
あと、お菓子とコーラを置いておきますから、遠慮せず食べたり飲んだりしてくださいね」
コーラあるんだ……と私は思った。
次回
神秘の修行に励むふたり。
クエストを受けたり、お話をしたり、目標を立てたり。
ついに現れる悪い能力者。
次回もお楽しみに。




