第三話:廃都市「ハイネ」1/つながりを求めて。
前回までのあらすじ。
能力を発現するゆず、すず。
ふたりだけの試合と決着。
そして、眠る。
〇
最初の朝。
「助けてすず!変な虫がいっぱい付いてる!たぶん、これヤバイ虫だよ! 精神操作とか肉を食って私に化けたりしないよね!?」
「え!? あ、ほんとだ キモいよぉ! かまれたりしてないだろうねっ!? 早く除去しないとっ」
我々乙女の、十数分にわたる悪魔的健闘により、各々の体からすべての虫を、おそらく排除することができた。
ゆずの服を触っていて思ったのだが、そういえば、私、この服まだ洗濯していないな。
「ふぅ。 ねぇ、すずぅー。 お風呂入りたいなぁ」
⋯⋯というか、これからどうしよう。
ゆずと二人でここに来るまでにそれなりに歩いたが、有用な人は一人もいないし(倒れている転送者は何人かいた。私は付き合う人間を顔と性格で選ぶので、助けはしなかった。)使えそうな施設すらない。
この世界はいったいどうなっているのだろう。
風呂、洗濯、睡眠などはどうすればよいのだろうか。
転送者を除き、人はどれくらいいるのだろうか。
そもそも、ここはいったいどこなのだ。
しかし、そんなこといくら考えたってここで答えが出ないのは火を見るよりも明らかであるので、私らしくはないのだが、今はとにかく歩いて確かめるしかない。
「とりあえず、ここ以外の人がいる場所を見つけて、泊まれる場所とお金の稼げる場所、探してみない?」
ゆずは私の提案を快諾した。
〇
周りには、十五人ほど倒れこんだ人がいた。
おそらく私やゆずと一緒に、爆破テロに巻き込まれた「転移者」なのだろう。
もし、彼(彼女)らも能力に目覚めると考えたほうが妥当だろうか。
その場合は、彼らは私たちを襲うだろうか、それともゆずのように友好的な存在になるだろうか。
「ぼけーっとしてどうしたの? 足場が悪いんだから転んじゃうよ。
そしてできた傷から未知のウイルスが侵入してきて、対処法を持たない私たちはどろどろになって森の養分になるの」
「変なこと言わないでよね。 それに、ウイルスで体を溶解なんてさせられるのかしら?」
私たちは今、瓦礫の広場から見て、体内方位で南西の方向へ進んでおり、つい先刻森林地帯に突入した。
変な色のキノコもどきや不気味な触手が大量に生えており、非常に不気味である。
そのうち、私たちはビュッフェみたいに、取って食べられるかもしれないという不安がよぎる。
木の上では怪鳥のようなものが鳴いている。
ざわっという音が森の奥からした。
すこし、歩く速さがあがる。
〇
「ねえ。 見て、すず。 金貨が落ちてる」
「資本か? どれどれ……」
確かにそこにはキラキラと光る金貨が落ちている。
中心には10と書かれている。
私は、こんな文字は知らないが、この世界の言語はすでに転生した時に喋れるようになっているのかもしれない。もちろん、そんなことを考えても仕方がないので、とりあえずコインを拾って、手の上で弾いた。
「おもて? うら?」
「うら」
表だった。
「じゃ、私のだね」
メダルをポケットにしまう。
と同時に、地面の揺れる音。
しかし、周りの木から、実やら葉っぱやらは落ちて居ないので、ここだけが揺れているとみて問題ないだろう。
ゆずが体勢を低くし臨戦状態に入る。
そして、穴が私たちを飲み込む。
阿呆な悲鳴。
〇
少しすると、揺れは止んで、私たちは穴に落ちて居た。
目の前が見えないのは、ゆずが私の顔面に乗っかっているからだろう。
「ちょっと…… 重いよ、ゆず」
「急かさないでよ。 動きづらいんだから」
どうやら、あの金貨は食虫植物の罠のようなものだったのだろう。
きらきらとしたものに興味を示して近づく動物は多い。
もちろん、人間も例外ではないが。
わざわざ餌を用意するように進化したということは、十中八九、落とし穴の中に引きずり込むことで、捕食するタイプの植物なのだろう。
阿呆でもわかるが、あまり長い時間ここにはいてはいけない。
幸い、まだ溶解液は分泌されていないようなのでさっさと脱出方法を考えて出なくては。
どうしよう……
「そうだ! あれ使えばいいじゃん、すずの能力。 フルーツなんとか!」
「【果樹園の執行人】だよ! 忘れないでね」
いつの間にかゆずが私の上から退いていた。
服の、土を払っている。
「深さは、だいたい五メートルほどだね。 私は自分の能力で上がれるからまずはゆずから出していい?」
「そりゃもちろん!」
ゆずは、体についた土を土のついた手で拭っている。
「でも、投げられそうなもの、無いよ? どうするの?」
「…………んがー」
〇
瞬時に私が思いついた解決策は、以下の三つである。
① 服を玉状に丸めて投げ飛ばす。
ただの服では、空気抵抗を受けて飛距離が伸びないので、いくつかの服を融合させ、重量を上げつつ空気抵抗を軽減して遠くまで飛ばすのだ。
しかし、アイロンがあるかわからない世界で、服にしわを付けるのはあまりにリスクが高すぎる。
ただ、ゆずのパーカーなら、よく腰に巻かれていたのか、すでにしわだらけなので問題はないかもしれない。
② ゆずのイヤリングを投げ飛ばす。
軽く、飛ばしやすいだろう。
手順としては
一、イヤリングとゆずを能力の対象に。
二、イヤリングを外まで投げ飛ばす。
三、【果樹園の執行人】を発動、ゆずと入れ替わったイヤリングは私が回収。
四、…………あれ?
内側には、私しかいないから、これでは外には出られないのでは?
それなら、ゆずに石を持った状態でもう一度穴に入ってもらって、もう一度同じことをすればいいのかな。
というか、そもそも私の能力は、物体の位置を入れ替えるものだから、人が入ってこなくても、上から石とかを落としてもらえれば……
③ さて、どうしようか……
お風呂溜めるときみたいに、粘液が出始めている。
私の思考が遮られた。
「あのー、必要でしたらお助けいたしましょうかぁ~?」
そして、ついに第三者の介入。
〇
「結局、すずの能力は使わなくって良かったね」
「うるさい! もうちょっとでいいアイディアが思い浮かびそうだったんだから! 断じて!」
「危機一髪でしたねぇ。 あとちょっとでお二人とも骨すらなくなっていましたからね。
この辺りには、毒吐きルテアという人食い植物が多く生息していて、非常に危険です
あまり無暗に出歩かないようにしてくださいね」
「すみません、ありがとうございます」
毒吐き…?
粘液、すこし浴びてしまったけれど平気だろうか。
「時に、お二人ともここではあまり見ない格好をしていらっしゃいますね?
旅のお方でしょうか?」
非常に美麗で優雅な人であった。
後ろで結ばれたベージュの長髪に、不思議な魔法的模様が刻まれた金レイヤーの白い目隠し、髪に宝石のアクセサリーを編み込んでいる。
さらにカーディガンの上から羽衣という、羽織りものの上から羽織ものを着ているという珍妙なスタイルではあるものの、なぜだかとてつもないおしゃれな感じがする。
ちなみに、カーディガンの下にシャツなり下着なりを着ている雰囲気はしないのだが、それについては触れないことにしておく。
「大体そんなところ! お姉さんは?」
「私はですねぇ、私はこの先の街で、魔法雑貨店を営んでいるコガラと申しますよ。
今日は、在庫の入荷をしていたところです」
「そうだったんですか。 邪魔をしてしまってすみません」
ゆずの分も含め、私が謝っておく。
「いえいえ、ちょうど不足分の在庫は確保して、帰ろうと思っていたところですから。
それに、久々に外からのお方にも会えましたしね」
わずかな話をしているうちに、森の木々がまばらになり始め、開けた土地が見えてくる。
随分小さい森のようだ。
こんなところででさえ、迷子になりかけたのか。
「見てみて、すず! でっかい門があるよ! お店もある!」
鋼鉄の城門は、修羅への介入を想起させる。
次回
魔法雑貨店を営むエルフ、コガラと出会う二人。
廃都市「ハイネ」の能力者たち。
そして、能力について知るすずゆず。




