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悪に正義を、阿呆に脚光を!  作者: 広炉ひろ
第一章:すずとゆず編
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第二話:転移者2/【果樹園の執行人】と【一剣二鎌三爆破】

前回までのあらすじ。


バイトに向かう途中に死亡した鈴寿すず。

倒れ伏す彼女にかかずらう金髪少女、柚須ゆず。

推定特殊能力の発現。


〇


いくら強く念じてもストラップを振り回しても、私のストラップの水晶に変化は起こらなかった。

もしかしたら「触ったら即死」がダメだったのかもしれないと思い、時間停止やら精神操作やら創造スキルやら、たくさんの能力を水晶に向けて念じてみる。

「ふざけんじゃないわよ! なんで私はダメなのさ」

怒号が、空しい大地に響いて、余計空しくなった気がした。

「もしかして、そーユー能力は創れないのかもね。強いし。 何か条件が必要なんじゃない?」

「じゃあ、ゆずは何を願ったの」

身を乗り出す。

「それは、後のお楽しみっ」

ゆずは、そう問われると知っていたようだった。


〇


すでに見苦しい三十分が、ゆずの能力の発現(推定)から経過していた。

この感覚を私はよく覚えていた。

自分だけが遅れているこの感覚を。

そもそも前提が間違っていたのではないだろうか。

これは特殊能力を与えてくれるようなものではなく、例えばこの世界における身分証やパスポートのようなものなのかも。

ゆずの水晶の色が変化したのは、別のことを考えていてアクセス権のようなものを取得する条件がたまたま満たされてしまっただけなのではないだろうか。

それに、ゆずは「能力を手に入れた」などと言っていたがそれは本当なのだろうか。

私は彼女の能力をまだ見ていない。

もちろん彼女が私に嘘をつくメリットなどないのだが。

というか、そもそも彼女はいったい何なのだ。

「難しそうな顔してるよ! 阿呆っぽいからやめときなよ」

殴り飛ばしそうな憤怒を抑え込み、理性的かつ合理的な質問を淑女的に投げかける私。

「やっぱりどうしても気になるんだけどさ、本当に特殊能力なんて手に入れたの? もしかして嘘ついてる?」

「はぁ~ しょうがないなぁ、そんなに見たいの?

本当はすずも能力を手に入れてから、見せ合いっこしたかったのになぁ」


〇


少しだけ歩いた先にある開けた場所に連れていかれた。

目を閉じ呼吸を整えるゆず。

瞬間、ゆずの全身に青色のオーラが立ち込める。

髪の毛先や、服の装飾がゆらゆらと揺れている。

「なにこれ…」

と私は驚嘆。

「あっ 話しかけないで あとちょっとで来そうだから…」

オーラが揺れ始め、次第にそれは一つの形を作り始める。

その瞬間は見えなかったものの、ゆずの体を覆っていたオーラはほとんどなくなる。

そして彼女の背後にはレバーが付いた巨大で豪華なデジタル時計のようなものが出現していた。

しばらくすると、両方のビジョンがだんだんと安定していく。

「ふぅ…… うわっ! ホントにできてるっ」

「な、なによ…… これ」

これは、私にもわかるが、科学の域を超えたものであった。

もし科学が、これを再現できるほど楽しい学問であったら、私は喜んで科学者になっていただろう。

「すずが見せてくれって言ったんだよ? これがたぶん私の能力?

名前は【一剣二鎌(キラーチューン・)三爆破(スロット)】にしたよ。」

「あぁ… あぅ」

消沈。


〇


しばらく奮闘。

まず、能力をチートスキルじゃないものにしてみた。

「あれかもよ? 条件が軽すぎるのかも。

もっと複雑に組み直してみたらどうかな」

「なるほどねぇ。 じゃあ、『タッチしたやつを対象に』みたいにする方がいいかもね」

「タッチのタイミングを能力の発動中と、発動外での条件にしてみたら?

それなら、いちいち能力を切り替えないといけない面倒くささがあるけど、一度触れば、片方はずっと対象にし続けられるよ」

「たしかに、面倒くさいけど、使いやすいのかもしれないね」

ということで、それに決めた。

ストラップを握って、再び念じてみる。

今度は、先ほどとは違い、体から溢れ出る「なにか」を認識できるようになっていた。

水晶と一緒で赤い。

「ああっ! できたかも……」

身体に、「なにか」がなじんで定着するまで意識を集中してみる。

二分もしないうちに、私はそれが身体になじんだことを確信した。

ストラップを見てみると、ゆずの様に水晶が宝石に変わっている。

「やったーっ! これが私の能力、【果樹園の執行人(フルーツ・バスケット)】!」

フルーツ・バスケットというのは、籠からたくさんの種類の果物が代わる代わる出てくるのをイメージして命名された、非常におしゃれな名前である。


〇


舞台は、私たちが目覚め能力を発現させた瓦礫の山から少し離れ、渋谷のスクランブル交差点ほどの広さの広場に移る。

ただそこに立つ私たち。

今から私たちは、能力で組み手のようなことをするのだ。

「準備はいい、ね。

ルールは覚えてる?」

私が問う。

「もちろん! 先に相手の背中に触ったほうの勝ち!」とゆず。


〇


火ぶたを切ったのは私であった。

私の能力は触れなければ何も始まらないからである。

触れても位置が変わるだけなので、正直私にはどうすればいいのかよくわからない。

しかし、触れぬことには何も始まらないというのは明らかである。

ゆずに向かって走っているうちに私は気づく。

能力を得たことによる影響だろうか。

普段の体が重いような感覚がなく、むしろ軽い。

エネルギーに満ち溢れるような。

そのままゆずの背後に回るが、

「甘いっ!」というセリフとともに交わされる。

あたりまえだが、身体能力の強化はゆずにも施されていた。

自分だけ特別と、少し調子に乗りすぎていた。

再び、背後に回ろうとするも

「すずー。 同じような攻撃が二度は、あたるはずないよねぇ~」

と、後ろに振り向いてたやすく躱される。

直後ゆずが、青く強いオーラを覆う。

背後にはすでに先ほど見せてもらったものと同じ、彼女の能力が出現していた。

「んぅーん、そうだなぁ。

じゃあ、『右足にタッチ』にしようかなっ!」

彼女がそう言うと、背後の能力が動き始める。

レバーのついた「それ」は電子音を立てて中心の絵柄を回し始める。

これはデジタル時計ではなかった。

能力名のまま、これは「スロット」だった!

おそらく、彼女が宣言した、「右足にタッチ」という行動をきっかけにあのスロットの、何らかの能力が発動するのだろう。

「さて、ここからが楽しいんじゃないかな」

今度は、彼女が先に仕掛けてくる。

真正面からの攻撃なのに、防御どころか避けられる気もしない。

とてつもなく早い回し蹴りを転ぶように間一髪で躱し、体勢を立て直す。

風を斬る音がしたような気がしなくもない。

「本気ではやらないから、大丈夫だよ」

立て直すのも束の間、再び蹴りを入れようとする彼女。

速度自体は先刻のものより下がっているものの、この距離で顔面に食らえばおそらく相当痛いだろう。

いくら手加減しているとは言えども。

利き手じゃない左腕でガードをする。

ダメージを最小限に抑えはしたが、その反動でまた倒れこむ。

しかし、偶然にもその勢いでついに彼女の足に触れることができた。

彼女の体に付着する私の赤いオーラ。

しかし、私は先刻彼女がスロットに宣言した行為を行ってしまった。

「はぁーい。 条件達成!」

彼女のスロット能力が発動した。

豪快な電子音とライトは虚無の荒野には似合わなかった。


〇


レバーが下がり回転を始めるゆずのスロット。

その左端のリールが次第に回転速度を落とし始める。

「さぁて 何が出るのかなぁ~♪」

ゆずはスロットのリールを、目を光らせて眺めている。

リールには1から6までの数字が刻まれていた。

数秒もしないうちに左端のスロットは動きを停止し、何かが当たったかのようなめでたい電子音を鳴らす。出た目は数字の3だった。

「おーん。 たぶん当たりねっ!」

まだ残っている彼女のオーラが、能力発動時のように一か所に集まり、なにかを形成し始める。

次第に、それはどの創作物でもよく見るものに変形していった。

彼女の手には剣が握られている。

「それじゃあ、【空木の剣(うつぎのつるぎ)】って呼ぼうかな」

自分の身の丈ほどもある剣を、軽々と担いで、刃の平らなところを舐めている。

「当てないから大丈夫だよ」

そんなことを言われても剣は怖い。

少しでもかすったら痛いではないか。

しかし、彼女が剣をふるったタイミングで【執行人】をうまく発動できれば、背中がガラ空きのゆずに拳をヒットさせられるかもしれない。

そうすればルール上は私の勝ちだ!

と、思うところまではいいもののなんと彼女にマーキングしたはずの私のオーラが消えているではないか。

おそらく、さっきの能力の発動でかき消されてしまったのかも知れない。

「ぺろっ。 せっかく手に入れた能力は使わないの~?」

「そう慌てなさんな」

彼女は剣を構えふるう準備をしている。

その隙に、私は自分をタッチする。

これで、位置替えの条件が達成された。

満を持して、私の能力のお披露目である。

「喰らえ~」

ゆずの剣が振るわれる。

それよりも少し早くに、この瓦礫をゆずの背後に目掛けて投げ飛ばす。

「【果樹園の執行人(フルーツ・バスケット)】っ!」

手首をスナップさせて、私自身と投げた瓦礫の位置を入れ替える。

「これで、執行人の条件達成ね」

入れ替えは一瞬であった。

体を覆うオーラ、瓦礫にマーキングしたオーラが一気に増幅し、瞬きするよりも早く、私の位置は、ゆずの正面から背後に入れ替わっていた。

あまりに急であったため、少々バランスを崩してしまう。

「おぉ。 スゴイ、本当にどっかに消えた」

組み手なのだから、背中が見えてても、致命傷を負わせる必要はない。

ゆずがこちらに振り向くよりも早くに駆け寄り、ゆずの背中にタッチする。

「私の勝ちぃ~っ」と私。

二人の静かな吐息。

「マジかぁ~。 あとちょっとだったんだけどなぁ」

そういった後、ゆずは力尽き倒れこむ。

私も一緒に倒れる。


〇


「まあまあだったね 私にはおよばない」

と捨て台詞を吐く。

「もーっ 次は勝つからね!」

ゆずの体力はもうほとんど回復していそうだ。

末恐ろしい。

次は負けそうなのでもうやりたくないものだ。

二人で仰向けになり能力を解除。

ふっ、と何かが抜けてゆく。

そういうものなのか、それとも急激な変化に体が追い付けていないのかドッと疲れが押し寄せる。

少し目を閉じる。

流れる風。

そういえば、ここはもう私たちが住んでいた元の場所ではないことを思い返す。

これからどうしようか、私は帰れるのだろうか、というか帰ってどうするのか。

嫌なことを考えるのは苦手で、逃げるように目をあける。

目前に数多の星、ここに来る前に最後に見た景色と同じ雲一つない夜空。

あの時は昼であったけれど。

実はここは、もとの世界とはそこまで変わらないのかもしれない。

「キレイね」と私。

「楽しかったね」とゆず。


◇ アイキャッチ


鈴寿すず

能力名:【果樹園の執行人(フルーツ・バスケット)】

解説 :東京に住んでいた七回生の阿呆。

バイトに向かう途中に爆破テロに巻き込まれ、死亡。

特に思い入れはないため気にしていないらしい。

黒い服がよく似合う。

自尊心が強く、世界を征服したいと思っている。

能力は、能力を使用している間と、能力を使用していない間に触れた二つの物体の位置を、手首のスナップを行うことで、入れ替えることができる【果樹園の執行人(フルーツ・バスケット)】


次回


人里目指す、文無し少女たち。

そこで見舞われるいくつかのトラブル。

能力を得た、ふたりのしたいこと。

次回もお楽しみに。

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