第一話:転移者1/鈴寿すずの独白。
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目覚めたばかりの私、鈴寿すずの体は動かない。
それはおそらくあまりに長い時間へたりこんだことと、私に馬乗りになる金髪の美少女のせいである。
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私、鈴寿すずは名誉大学七回生であった。
大方の人々は、私がこのように自己紹介すると「あっそれ、阿呆が出た出た。 よよいのよい」などと言って私を蔑むか邪険に扱ってくる。
私は通常の大学生が四年そこらしか勉強できない講義を、その二倍もの期間学び続けて精進しているというのだから、当然彼らよりも頭がいいことは明白である。
一体何を根拠に人を阿呆と罵るのか。
純潔で優しき私にはつゆほどもわからぬものである。
勉学に加えて、私はバイト活動にも精を出す。
私の働く書店「闇書房」は、最新作から不朽の名作まで古今東西の実益のある書物の一切を店に並べないどころか、入荷すらしないことをポリシーとしている書店である。
初めて聞いたときは「つぶれるぞ、阿呆か」などと思ったものだが数カ月もしないうちに、ここに訪れる奇奇怪怪の客との交流は、私に何とも言えぬ楽しみをもたらした。
結局私は今年で六年間もここで働くことになっている。
そして、なんと私は今、そのバイトに向かう途中である。
来週が給料日なので、なにを買おうか迷ってもいる。
最近私の中で話題になっている製氷機を買ってみようか。
低温調理器もよい。
そういえば、この前駅前の本屋で買った漫画の続きも読みたいな。
あ、黒歴史概論Bの教科書まだ買っていなかったような。
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刹那、まぶしい閃光。
足元の浮遊感。
自分が見えるような感覚。
世界はこれを「死」と呼ぶらしい。
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目覚めたばかりの私、鈴寿すずの体は動かない。
私に馬乗りになる金髪の美少女のせいであった。
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口が動くので、抵抗してみる。
「うぅ、曲者じゃ。 死にたくないよう」
ふり絞る声に驚き、飛び退く金髪。
思いっきりバックで殴ってやろうと思ったのだが、体が動かずそもそもバックがない。
「バッグ返してよお」
すかさず金髪が応答。
「盗ってないよ! もともと何も持ってなかったよ」
「嘘だ。 私はさっきまで…… あれ」
私のバッグらしきものはない。
そして、私が死んだであろう、東京の景色もない。
場所はどこでもいいとして、二回生の頃に四千円も使って手に入れたアザラシのキーホルダーのラッシーちゃんはどこに行ってしまったのだろうか。
さみしい思いをしてはいないだろうか。
「とりあえず、立てるの?」
金髪で手を差し伸べてくれた。
なんとなく、首を振る。
「しょうがないな。 んんっ、重っ」
金髪が私のかわいい腕を引っ張り上げる。
指が筋肉に食い込んで痛いし、重いとか言うしで何とも嫌な奴である。
「あんがと」
思いつく限り最も礼節を欠く感謝の意を示して、あたりを見回す私。
その隣で、汚れた手をぱんぱんする金髪。
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金髪の外見は、金髪であることを除き高潔であり、なんとも美麗で可愛らしい顔立ちをしている。
街なかで一瞥すれば名家のお嬢様のようにも、気ままな文豪のようにも見えるし、誰もが振り返るかもしれないし、私はたぶん振り返る。
しかし、似合わない金髪との不釣り合いなコントラストが、彼女の阿呆さを際立たせている。
さらに服装に至っては尚のこと意味不明であり、下着の類はつけず、ワイシャツを、ボタンを留めずに羽織り、その上から黒のサラシをぐるぐると巻き、真夏だというのに灰色のジャンパーを着込んでいる。
下は、チェーンの付いたロングのスカート。
耳には色違いのイヤリングを付け、ジャンパーのファスナーには、鏃のペンダントがチェーンで付けられている。
つまるところ、阿呆らしい。
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今度は世界を眺めてみる。
あたりは見渡すかぎり灰色であり、さながら闇書房の処分予定の在庫のようであった。
周りには私のように横たわる人間が何人か。
草などはあまり生えておらず、瓦礫が散らばっている。
広義的な意味では建物と呼べそうなものがちらほら点在するなかに、私は自分のバッグを見つける。
「あーっ。 らっきー」
駆け寄り、拾ってあげる。
中身はすべてなくなっていたが、そもそも何が入っていたのか思い出せないようなものばかりだし、とりあえずはラッシーちゃんの無事を喜ぶこととする。
「あっ、そうだ写真撮ろ」
左のポケットをまさぐる左手の、その行方は虚無であった。
よく考えたら私は右利きなので左にスマホがあるはずない。
右のポケットをまさぐる右手、その行方は有限へと収束していく。
「よかったぁ、これはあるのね。
じゃあ、とりあえず動画を撮ってバズって、レスバしないと!」
手帳型ケースの内側もまた、虚無であった。
「貴様ぁ!」
布生地にめいっぱいの力を籠め、ぼけぇとしている金髪に叩き込む。
予期せぬ攻撃に唖然とする阿呆面の金髪。
「私のスマホをどこにやった! 先月通信料を払ったばかりなのに!」
「知らんよ 私も持っていないね! 所持品は全部、遥か彼方。
ここに来るまでに何人か見たけど、私だって手持ちはゼロだよ!」
「チッ」
通信料の腹いせにもう一発だけ金髪を叩く。
金髪の報復があった。
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とりあえず地面に座って、金髪からあったことをすべて聞く。
彼女も(推定)死んだこと、彼女は私より数時間ほど早く起きただけであること、私と同様に所有していたバッグの中身、スマホ、ポケットに入れていた財布の中身だけがなくなっていることを教えてくれた。
「と、まあ 私が知っていることはこのくらいだね」
前髪を指ではじきながら、続けて質問
「ところで君の名前を聞いていなかったよ。
お名前なんてーの。
私は柚須ゆず。 柑橘類の柚に、必須の須で柚須ね」
「私は、鈴寿すず ってーの」
しばし沈黙。
「ねえ、ここに来る前は何をしてたの?」と私。
「大学生をちょっぴり。 たしか三回生だよ。
今日は、自主休講して遊びに行こうと思ってたんだけれど、途中で爆裂に巻き込まれて死んじゃった」
私と大体同じようなものであるので、うなずいてあげる。
「家族とかは?」
「心配ではあるけれど、どうしようもないね
たぶん死んでるんだし。 そういうすずは?」
もうすず呼びするのね。
ちなみに、私は苗字も「すず」と発音する。
「私もそう思うかな。 どうしようもないと思う。
泣いたら帰れるってわけじゃないし」
再び沈黙。
「ここってなんだと思う?」
「死後の世界、かな」
彼女がどういう宗教を信仰してきたのかは知らないが、死後の世界というには空がきれいすぎるきらいがあるし、風も心地が良い。
死後の世界なんて見たことないけれどね。
「あれかな。 死んで異世界に来るってのは、異世界転生ってやつかもよ。
あ、でも赤ちゃんからスタートしないから異世界転移かもね」
「じゃあ、私も女神のご加護とやらでモテモテチート無双できるやもしれぬ」
モテてどうすんだ、という疑念はぬぐい切れない。
女神の行方も、私は知らなかった。
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二人で、身の上話をした日の、夕暮れ時にて。
「あっ すずもそれ持ってるんだ。
そうそう、そのストラップ」
私はブレスレットに見知らぬストラップがついていることに気が付く。
「私も持ってんのー。 じゃーん! かわいいでしょ」
若干形状は異なるものの、無関係ではなさそうだ。
「これね、宝石のところ触ると光るのさ。
私のは青~」
触る。
「私のは……赤だね。 キレイだ」
しばらく眺める時間が続く。
透明な水晶の奥でうっすらと光がともっている。
文系の私にこれが一体どのような原理で光るのかは知らないが、ここに来るまでの人生では、一度も見たことがない。
「おーん。 すずもそれが何か知らなそねー。 残念」
あからさまにがっかりしたふうの演技をするゆず。
「ねねっ これはなんだと思う?」
ゆずが、ストラップを私の目の前に置く。
触ると光る宝石、それを覆う金銀の美しき装飾。
いきなり見知らぬ土地に瞬間移動のようなかたちで現れたことの以上を加味した結果、おそらくこれは
「なんかスゴイやつだ!」
ここまで脳内時間で約十秒、現実時間に換算して約十秒が経過した。
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固い地面に並んだ二つのストラップ。
彼女のものは全体的に青み掛かったシルバー、私のは艶のあるゴールドだ。
「へえ、スゴイやつなんだあ! どんな感じですごいのかな、すず」
「きっと、ほら…… あれよ! 特殊能力みたいな。
これがいわゆる女神さまのご加護ね!
試しに何か念じてみたらどうかしら」
適当ではあるものの、なんだか的を射ているような気がする。
ストラップを乱暴に掴むゆず。
目を瞑って思い切りストラップを振り回す阿呆がいる。
なぜだか私の眼には、ストラップの光がどんどんと強くなるように見える。
「はぁーっ!」
数分間の葛藤の末、彼女は満面の笑みで私にストラップを突き出す。
当たったら危ないではないか。
「青く、なってるね」
さきほどまでの半透明な光は消え去り、今では青い宝石そのものになっている。
「たぶん、『特殊能力』ゲットね」
予想はどうやら的中したようだ。
もしくは、いい感じに的を射た考察だったようだ。
「次はすずの番ね!」
どうやら、これは結構すごそうだ。
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その前に確認したいことがあった。
「ゆずは一体、何を念じたの?」
自分で言っておいてなんだが、石にお願いするだけで特殊能力なんてもらえるのだろうか。
「そりゃあ、もちろん使い勝手のよさそうな特殊能力をね」
手で何かのジェスチャーをしているようだが、それが何をあらわしているのかは、私には伝わらなかった。
「私の話よりさ、すずは何を念じるの?」
わくわく、という感じの顔をしてこちらを見ている。
まあ、本当に特殊能力が開花するのなら、惜しみなく強いものが欲しいな。
「それじゃあね……」
やっぱりチート能力と言ったらこれだろう。
手に持ったきらきらを思いっきり振り上げて、私は宣言した。
「『触ったら即死!』」
くだらない現世とはおさらばだ。
私は最強チートスキルで、異世界の神になる。
次回
ついに能力に目覚める二人。
得た能力を試すための二人の模擬戦闘。
そして、明かされる根本的な事実。
次回も見てね。




