第二十四話:あなたを等価交換1/交換植物『イシニア』
前回までのあらすじ
謎の植物。
職員撤退。
身分証ゲット。
〇
身分証明書をぱたりと閉じて、ポケットへと慎重にぶち込む。
あまたの困難を乗り越えた軽快な足で、急いで二人のいたトイレへ戻る。
もちろん、ただの市役所なので、すぐについた。
だが、なんだかトイレが騒がしい。
変態が出没したのだろうか。
ゆずが変なこと、していないといいのだが。
「ふざけてんじゃァねェッ!
オタクら、いつまでトイレに籠ってやがんだァ~ッ!」
ああ、ゆずの馬鹿が喧嘩を売ったんだな、と理解せざるを得なかった。
「うるせぇよ、新参!
隣の個室使えばいいじゃねーかよ!
あんまりうるせぇと、お前の個室の紙、全部口にぶち込むぞ」
トイレに反響するゆずの声を聴いて思ったのだが、可愛らしい見た目には似合わない、随分と低い声をしていたことに気が付いた。ギャップだ。
「あれェ~? てかよォ、オタクさッ
個室で座ってるわりには随分出てんじゃァないの?
そのキッタねェ声がよォ……
ああッ! もしかして、『ふたり』いるわね?」
「ッ!?」
随分とくせの強い喋り方で、ゆずがまくしたてられている。
特にバレても問題はないが、コガラさんの存在もバレそうだ。
「キャハッ! なるほどネェ~~ オタク、市役所のトレイでヤッちゃってんだなァ。
これはッ! よろしくないなァ~ッ! このメスネコがッ!」
滅茶苦茶に激しく、ドアを蹴りつけられている。
ゆずも蹴り返しているようが、あの狭い個室で蹴ったりしたら、コガラさんにもあたってそうな気がする。 というか、ゆずはいったい何をしたらこんな奴と言い争いになるのだ。
個室なら隣も、その隣も開いているぞ。
「あ、あのー。 うるせぇーよぉ」
たぶん、ただの一般人だろうが、一応神秘を練って戦闘態勢に入っておく。
「チッ。 パンピーが来やがったぜ……」
「ぱ、パンピー?」
よくわからないが、女は一番奥の個室へ入っていった。
「すずだよー」
ゆずの個室をノックした。
〇
「遅いよ! すず。
おかげで、遊び相手がくるまで暇だったじゃん」
「一体何したの」
指の第一関節をまげて、櫛の様にして髪をとかしながら、解説してくれた。
「いやぁ、ドア開けるのめっちゃうるさかったし、革靴の足音もうっとおしかったし、すずが来なくて暇だったのもあって、つい『うるせぇよメス豚! 死ぬまで死んだつもりで生きろカス!』って言っちゃんだよね」
「阿呆」
しばらく髪をとかすゆずを眺める。
「ところで、すずさ……ちゃん。 身分証はどうなりましたか」
「そりゃあ、楽勝でしたよ」
ドヤ顔をして、身分証をポケットから取り出す。
「素晴らしいですね! 紋章、見せてもらってもいいですか」
コガラさんが目をキラキラさせている。
「いいですよぉ」
身分証の起動には、非常に微弱な神秘を練るだけでいいらしく、つけようと思う前に紋章が薄っすらと出てきていた。
空中ディスプレイの様に、滑らかに花が咲くモーションが流れる。
周りには、なにかの魔法陣のような紋章が描かれている。
「まあ、綺麗な赤いユリですね……」
しばらく私のディスプレイ・ユリを鑑賞したのち、コガラさんが口を開く。
「これは、個人個人の精神を具現化したものですから、これはすずちゃんの精神がとうえいされたものなんです。 いいですね、愛と情って感じがします」
私は、大方そんなものは持ち合わせてないはずである。
〇
夕暮れ時。
市役所を後にした私たちは、とりあえず宿を探すことになった。
「あそこのホテルとかいいんじゃん。
カジノとは違うタイプの装飾が綺麗だよ」
「まっ、まぁ。 ゆずちゃん……
まだ、そんなのダメですよぉ……」
コガラさんが、顔を赤らめている。
とりあえず、触れないであげよう。
「そうですかぁ。 じゃあ、あっちのバニーちゃんが集客してるところはどーですかー」
ゆずが指さすと、バニーガールが手を振ってくれたので振り返してあげた。
「うわぁ〜、かわいいね。 あそこにしよっか」
「わーい。 でも、ちょっと複雑」
日が沈む前に宿が決まると、今度は別の問題が発生した。
「だ…… 助……げで……」
地面を這う、汚らしい男がゆずの足を掴もうとしていた。
変態か、性犯罪者か、もしくは地獄からの使者か。
「うひゃっ。 汚なっ」
男が助けを求め終わる前に、ゆずはティークの股を蹴り上げたときと同じ要領で、顔面に蹴りを入れていた。
「んぐふっ」
ちょうど立ち上がろうとして、不安定な体勢で立ち上がったので、思いのほか遠くまで跳んで行く。
「まぁ、いいキックですね〜」
男の体が転がって、さっきコガラさんが赤面したホテルの看板を倒した。
「クリーンヒットぉー」
そう言いながら、倒してしまった看板を直しに行こうとした。
「お…… 願……い゛……」
そういってこっちを見てくる男。
ゆずが無視して看板を立て直そうとすると、突如男の上に巨大な壺が落ちてきた。
男の頭の真上に。
「うげっ。 汚ないなぁ」
さっきとほとんど変わらない反応だった。
しかし、私はこの一瞬で理解した。
本来なら、目の目でこんなのが何万人死のうと気にはしない。
しかし、これはすでに「男」ではなかった。
「(血で濁った声。 聞き取り不可の笑い声)
移ったッ! 呪いはスデに貴様のモノだァーーーッ!!!
(血で濁った笑い声)」
潰れた顔面で「男」だったものが叫ぶ。
さらにもう一つ、壺より小さい花瓶が降ってきて、それは完全に沈黙した。
「何よ、コイツ。
大げさよねぇ。 勝手に死んだだけのくせして」
服に血が飛び散っていないか確認している。
「そうだといいんですけどねぇ……」
「あれ? 何これ、いつこんなの拾ったっけ」
ゆずが、謎の黒い花をこっちに持ってくる。
コガラさんの表情が一瞬険しくなった。
「コガラさんは、なにか心当たりがありそうですね」
「ええ…… 結構最悪な展開ですねぇ。
ですが、まだ猶予はあります。 とにかく今は、急いで部屋を確保しましょう」
特にけがをしたわけではないだろうが、一応ゆずに肩を貸してあげた。
〇
チェックインは非常にスムーズに終わった。
こんなにかわいいバニーちゃんがいっぱいいるというのに、あまり人気が無いのだろうか。
「で、師匠。 これは何なんですか……
良いものではなさそうですが」
コガラさんが、羽衣を脱いだ。
「それは、『イシニア』と呼ばれる特殊な植物です……」
また植物ですか。
イシニアと呼ばれた植物は、テーブルに置かれている。
「一体、こいつの何が特別なんですか?
まさか、さっきのが死んだのもこれが原因だなんていいませんよねぇ?」
「いいえ。
残念ながら、十中八九この植物が原因です」
コガラさんが、胸からお馴染みの魔法の杖を取り出す。
「その植物には、特殊な生態があります。
それは『等価交換』です」
「全然わかんないです! 等価交換が何なんですか」
「私も、本で読んだことしかないですが。
その原理は理由の一切はまだ解明されていません。
とにかく、この植物は、同時に十一つの白黒の花を開花させます。
そのうち、六つは幸福を、残りの五つは不幸を等価交換するのです」
「その等価交換ってのはなんなんですか!?
それで、何が起こるんですか」
「それは…… ゆずちゃんの場合では、平たく言うと『自分を不幸させる代わりに、周りが幸福になる』のです。 それが、黒の『不幸の等価交換』を行うイシニアの生態なのです」
ゆずが、珍しく参っている。
「えぇっと、それは、任意ですか?」
「残念ながら、強制です。
ランダムなタイミング、それとゆずちゃんが幸福を得たときに、不幸との交換が始まります」
ゆずが近くの椅子に座った。
「へ? じゃあ、私はこれから、誰かのために、私が不幸になり続ける人生を送るってことですか…………?」
「いえ、そんなに生易しいものではありません。
植物が『等価交換』で起こす出来事は、交換が完了するたびに、どんどんと深刻な出来事になっていきます」
ゆずの顔がうっすら青くなる。
「ってことは……」
「ゆずは、さっきのやつみたいに、死ぬってこと…………!?」
コガラさんがうなずく。
〇
ゆずがベッドの上で暴れまわっている。
「いやだいやだいやだ! あんな風に死にたくないし、そもそも私は私の幸せを追求したよぉ!」
コガラさんが、なんとかゆずをなだめようと、私のバッグから鳥のぬいぐるみを取り出したりしてあやしている。
「ねえねえ、ゆずちゃん聞いて? この呪いは解く方法があるんだよ!」
「えーっ! そうなの?」
なんとかゆずの気を引くために、コガラさんが一人で人形劇をしている。
普段の妖しい感じの声とは打って変わって、はちゃめちゃに声が可愛い。
それはそれとして、私も自分のやるべきことをやらなければならない。
「ちょっとゆず! 落ち着きなよ!」
出会った時とは逆で、今度は私がゆずに馬乗りになる。
「うわっ。 びっくりした…… すずもこういうことするんだね」
少し、顔が赤くなっている。
「それはいいから。
どう、お話聞く気にはなったかな?」
コガラさんは、まだ懸命に人形劇を続けている。
「あ、あのぉ。 もう落ち着いたので……」
「ああ、すみません。 気が付きませんでした。
それでは、いまから呪いの解除方法、というか植物を『枯らす』方法を教えます」
コガラさんは、人形劇で説明してくれるそうだ。
次回
交換植物「イシニア」の解呪。
始まる等価交換。
不幸と幸福。
次回もお楽しみに。




