第二十三話:身分証確保2/質疑応答
前回までのあらすじ
メオリダに到着。
トイレで作戦会議。
実践。
〇
「わ、わからないです…… この服は、向こうの土地でお師匠様がお土産で買ってくれたものでして」
実際、これはコガラさんが、私に買ってくれたものである。
「なるほど、そうでしたか。 仲の良いご家族なんですね」
「えへへ」
笑っておきつつ、相手の細かいしぐさを確認しておく。
私には読心術に準ずる特殊能力も洞察力もないが、気休め程度にはなるだろう。
「では、次の質問です。 なぜ、『キクイの森』から最も近いカリアナの管理局ではなく、片道一カ月以上もある、この街へやってきたのですか?
移動費も馬鹿になりませんし、何より道中危険ではないでしょうか」
ああ、一番聞かれたくないことを聞かれてしまった。
正直に、国家転覆のためって言う?
いや、たとえ、国家転覆が合法だったとしても、その返答は変だ。
「キクイの森」があるカリアナは、城域の付近にある都市だという。
ということは、やはりそこで身分証をとったほうが得だ。
いや、それとも近くで身分証を取るより、遠くで身分証をとったほうが、リスクが……
いや、違うぞ、すず。
そもそも、「国家転覆」を企てる事自体、おそらくアウトだ。
それを基準に考えてはいけない。
ああっ。 こういう時に【私はあなた、あなたは私】を使えればいいのだが、あいにくそれほど時間に猶予はない。
「どうしましたか? なにか答えづらいことや、つらいことがあれば、ゆっくりでいいですからね」
なるほど、その手があったか。
「……あ、あの。 例えば、私がここで回答を拒否した場合でも、身分証をいただくことは、で、できますかね?」
「それは、今後の面接の応答次第です。 そうでなければ、わざわざ都市が高い金を払って私をここに座らせてなんかいないで、机に置いときゃよくなりますからね。 ナプキンみたいに」
そりゃそうか。
しょうがないが、こういう時は、適当で行こう。
あとから辻褄を合わせればいい。
だいたい、今私が受付嬢に提示した情報は(ウソ含め)『名前』、『森から来た』、『服はもらいもの』、『拾い子であること』くらいだ。
ここに、適当な理由を付け加えても、リカバリーする術ならいくらでもある。
「はい、お、お師匠様のお勧めの場所、と聞いて……」
「なるほど。 そのお方はギャンブルがお好きなんですね。 私もですよ。
でも、ほかにも賭博都市は、カリアナから二週間ほどの距離の場所にも、ありますよね?
そこに行かなかったのはどうしてか、教えていただいてもよろしいでしょうか」
ああっ! うぜぇよ、知らないよ。
気分で遠出したくなる時だってあるだろ。
何事にも合理性のある回答が用意されてると思ってんじゃないよッ!
「アァッ! えぇっと、その……」
腹が立ちすぎて、少し大きな声が出てしまった。
「お師匠様の、魔法の移動先に、こ、ここが登録されていたので……」
「ああ、そういうことですね。 ということはかなりスゴイ魔法使いのようですね。
その方は。 ここからカリアナまでの瞬間移動ができるだなんて」
「あははー。 そうですよねー。
ここまでぴゅーっ、って。 誰にも会わないで、ぴゅーって!」
そういえば、コガラさんは、瞬間移動する魔法が苦手とか言っていたな。
「でも、それだと、ちょっとまずいかもですねぇ……」
「は?」
一瞬、取り繕うのを忘れてしまった。
「いえ、まだわからないのですが、原則として都市と都市を移動魔法で渡る際には、通行料が発生します。 あなたの先ほどの言い分からすると、まだ通行料は納めていませんよね?
それでは、原則として不法侵入となってしまいますが……」
「あぁっ! それは………… えぇっと……」
マズイなぁ。
折角、ここまで逃げてきたのにここでも、また犯罪者かい。
しかし、この移動魔法は、そもそもの能力が、自身がマーキングした場所を自由に行き来できる魔法。
ということは、入った瞬間に門番やら、役人やらに通行料を納める必要はないはずだ。
彼らに金を払いに行くまでの間に、必ず「彼らを探す」というタイムラグが発生するのだから。
つまり、その間の道に、この管理局があったことにして、先に身分証をとったほうが、後々の金の受け渡しについてが楽になる、と考えたことにすればよいだろうか。
それが、この場面における最善の選択肢ではないだろうか。
普通に考えて、この場は、知らなかったといい、あとで通行料なり罰金なりを支払えばいい。
それだけのこと。
「瞬間移動、したのが、ここの真ん前で。
だっ、だから、まずここで身分証をもらえってことなのかと、思って……」
「そうでしたか。 では、今回は見逃してあげますので、次から気を付けてくださいね」
案外あっさりと……
「しかし、これほどの魔法で、ここに転送されてきたのであれば、神秘が少しくらいは残っていると思うんですが、あなたの体には、その残り香すら感じられません。 あなた、なにかウソをついています?
それも、かなり大事なことに関して」
〇
「さて、あなたのそのお師匠様、いえ、あなたは何ものでしょうか……
詳しく調べさせていただいてもよろしいでしょうか」
そういうと、職員は、後ろの職員に、合図を送った。
屈強な大男がうなずくと、受付内側にある倉庫へと向かった。
「そんなに心配しないでくださいね。
貴方が、一般人であればいいのです!
『正直』なね……」
数分もしないうちに、大男が、緑の植木鉢を持ってきた。
鉢の中には、二つの黒い蕾が生えた花が植えられている。
「これは、『リッウ』と呼ばれる植物の一種です」
「そ、それが一体……」
「私が持ってきたこの品種は、偶然洞窟へと持ち込まれたものが、餓死した死体を媒体に進化した品種です。 これらは、暗い洞窟の中で確実に獲物を捕らえるために、独自の進化を遂げました」
草を撫で、私の瞳を見つめている。
「この植物は、付近の生物が発する生命エネルギーを感知するように進化したのです。
虫、鼠、蝙蝠、それから人間だってです。
全ての生物が発する、生命エネルギー。
それを感知して、食べるんです」
「まさか、私の肉体を食べさせて、ウソかどうかをっ……!?」
しかし、即座に否定される。
「いえいえ、私たちは、そのようなことは行いません。
マフィアではないですから。
貴方には、この植物に触れた状態で私の質問にウソ偽りなく答えていただきます」
「ということは……」
「はい、その通りでございます。
植物は、ウソをつくときの強力なエネルギーを感知して、口を開けるんです。
もちろん、人に危害を与えるほど嚙む力は弱いので、安心してください。
あなたが心配しないといけないのは、あなたが『正直』かどうか……
それだけですから」
先ほどまでの、多少は物腰の柔らかかった職員とは別人のような顔つきになっていた。
「安心してください。 それだけですから」
〇
「さあ、早く手を、植物に触れてください」
もはや、抵抗するすべはなく、私の後ろには、さっきの大男が立っている。
少し怖い。 もちろん、私の方が断じて強いが、ほんのり怖い。
「置きました、よ」
「それでは、動作確認です。
今からいう質問には、ウソで答えてください。
あなたの名前は『鈴寿すず』だ」
「いいえ……」
しかし、蕾は動かない。
「あれ? おかしいですねぇ。 ちょっと!新入りィ。
しっかりしてくれる? ちゃんと使える奴を持って来いよなっ!
だからあれほど、三次面接まで行えと……」
ペンでこめかみをつついている。
「じゃあ、反対側でやってくれるかな?」
その通りになった。
「行くよ。 あなたの名前は『鈴寿すず』だ」
「いいえ」
今度は、蕾は正常に、口らしき場所をパクパクとさせた。
こんな感じなんだね。
「いいわ。 あのドブの脳スカ野郎の処罰、すこしだけ軽くしてやる」
何かのボードに、こめかみを小突いていたペンで殴り書きしたのち、私を見つめる。
「さあ、始めましょうか……」
〇
湿った植物の蕾をてのひらに乗せて、悪魔の尋問が始まった。
「あなたには、あなた以外の仲間がいるわね」
「……はい」
メモを取る。
「あなたのここでの真の目標は、身分証ではない」
「……いいえ」
メモ。
「あなたは、だれかの命令でここにきた」
「……いいえ」
職員が、顎に手を当てている。
「あなたは、犯罪者である」
「……いいえ」
植物が若干口をパクパクとさせる。
「ふっ! ふはは!
やっぱりそう、犯罪者だったのね!
いや、でも、蕾は完全に開ききってはいない。
巻き込まれたか、重大な罪でないと認識しているか、ってところね……」
マズイ、犯罪に片足突っ込んでいることはバレた。
おそらく、指名手配犯のゆずとコガラさんと逃亡したことだろう。
しかし、こいつは、直前に私の「ここへの不法侵入疑惑」を持っていた。
これは、不法侵入疑惑への回答として受け取られるだろうか。
それとも、なにか別のものとして、すでにあのメモに記入されたか。
「必ず、尻尾をつかんであげるわ」
ペンを回して、再び質疑応答が開始する。
「あなたは、犯罪者の集団をかくまっている」
「っ!? ……はい」
動け動け、蕾、開け……!
再び、蕾は、若干口をパクパクとさせた。
「ふふ。 なるほどぉ。 犯罪者と自覚した人間を、かくまっているわけねぇ。
でも、まだ確証じゃないわ。 だって、ぱくぱくとしているだけだもの。
きっと、かくまったのではなく、逃がした、それか一緒に逃げている……ってところね」
ヤバいな。
こいつ、見た感じ、石使いではなさそうだ……
今、この瞬間に殺して、って、それでは再びここから逃げることになる。
大丈夫。かならず何かいい手はある。
「さて、次の質問よ!
あなたは、犯罪者を引き連れて、メオリダへの逃亡を援助した!」
「……っ いいえ!」
蕾が大きく開き、口をぱくぱくとさせた。
「あははっ! これで確定! あなたは犯罪者!
いいわ、あなたの罪状を根掘り葉掘り聞きだしてあげる」
嗚呼、どうしよう。
私がこの蕾に触れてるうちは、すべて筒抜けだ……!
いずれ、なにも知らないコガラさんとゆずの場所もバレる。
こいつを、手に乗っているように見せて、退かすことさえできれば。
……ん? 手の上の蕾を、退かす。
退かす、退かす。
あっ! そうだ。
私は、テストプレイ時に触れている! 機能しない蕾に!
つまり、私の能力を使って、入れ替えればいい。
「さて、じゃあ、あと二問くらいで終わりにしようか。
君のお仲間も捕まえてね。
あなたは……」
私は、腰につけて玉の枝を握って能力を発動した。
どうやら、相手は気が付いていない。
やはり、玉の枝で加工された神秘は、能力者にしか見えていないようだ。
これで、いい。
手を、赤い神秘が伝う。
【果樹園の執行人】
私の能力は「能力を通して触れたものと、触れていないものの位置を入れ替える」もの……
カウンターの下で、小さく手をスナップさせる。
それが条件。
蕾の位置を「入れ替えた」
見た目は、ほとんど変わっていない。
私でも分からないほどに。
「あなたには、三人以上の仲間がいる」
「いいえ」
今度は、自信満々に答える。
「ふっ。 じゃあ、あなたには二人以下の仲間がいるのね」
「いいえ」
蕾は微動だにしない。
「んん? おかしい。 さっきの質問によれば、仲間はいるはず!
いま、裏切ったってことか? ありえる。
あなたは、犯罪者をかくまってはいるのよね?」
「いいえ」
蕾は、もちろん動かない。
「はッ!? さっきは動いたじゃないのよ!
どういうことだよ。 あ、あなたはこの都市外から犯罪を行う目的でここに来たの!」
「いいえ」
職員が取り乱す。
「ふざけんなっ! おかしい。 あなた、植物に何かしたでしょ」
「ふふっ...... いいえ」
植物は、死んだように動かない。
騒ぎを聞きつけたほかの職員が向かってくる。
「ちょっと、サワラムさん。 なにやってるんですか。
植物は、反応していませんでしたよ。 あなたの勘違いです」
「いやっ! こいつは、犯罪者なんだ! おかしい!
私は……」
「すみません…… この人、自分のことを疑わない人でして」
サムワラと呼ばれた職員は、大男に引きずられ、奥の部屋へと連れていかれた。
「違う! あいつは犯罪者なんだ!
たぶんテロリストなんだぁーーっ!」
「はいはい、お話は後で原稿で聞きますから」
扉に詰め込まれたサムワラ氏の声が、もう聞こえなくなったため。
新しい職員がこちらを向いて頭を下げる。
「うちの者がすみません」
「あへぇ〜。 いえいえー、私もよく間違えちゃうことありますからぁ」
なんだかクリスマスイルミネーションで憂鬱な帰り道で、彼女にビンタされる彼氏を見れたように、晴れ晴れとスッキリとした気分だ。
今なら、誰だって騙せそうな気さえしてくる。
「これで、勝った……のかね?」
とりあえず、何故か吐き出さなかった息を吐き出し、能力を解除する。
〇
今度は、別の職員が、私の担当を行ってくれた。
先ほどのトラブルでことがあいまいになったことや、この職員が、植物が実際に動いたところを見ていなかったため、質疑応答はすぐに終わった。
「はい、それではこちらが、身分証になります。
そこの魔法陣にご自身の生命エネルギーを流し込んでいただければ、精神を象った誰と被ることのない紋章が浮かびます。
それが、あなたを判別してくれますよ」
流れ込んだ神秘からユリのような、赤い花が、咲いた。
次回
ゆずにつく、呪い。
ふたたび植物の攻撃。
乙女賭博。




