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悪に正義を、阿呆に脚光を!  作者: 広炉ひろ
第四章:『カジノ・キュムラス』攻略編
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第二十二話:身分証確保1/賭博都市『メオリダ』

前回までのあらすじ


遊戯。

罠。

カードゲーマーお嬢様撃破。

〇


再び、私たちは平原に立っていた。

「うひゃー。 久しぶりの新鮮な空気だ」

大きく、体を仰け反らせて空気を吸い込んでいる。

いちいち動きが阿呆っぽい。

「では、お三方のお願い『メオリダの治安管理局への瞬間移動』を叶えてあげましょう!」

彼女の、黒いドレスの胸元が光っている。

「すず、見て! ビスケットが光ってる……」

「ビスチェのこと?」

ティエルはずっと座っていたので、気が付かなかったが、どうやら、ビスチェの右下の方に、花のアクセサリーをひっかけている。

おそらく、あれが彼女の玉の枝(ラクリマ)なのだろう。

「では、お三方のこのさきの旅路に、私からの祝福を」

「ふふっ。 楽しかったですよ。 また、しましょうね」

「アデュオース」「ちゃお!」

二人で、お嬢様っぽい挨拶を投げかけてみる。

親指を立てて、突き出すお嬢様を眺めながら、私たちはメオリダの治安管理局の勝手口に転送された。


〇


辺りにあるのはネオンと騒音。

柔らかい風が吹く草原とは、一八〇度ほど、世界観が違っている。

「へーーっ! ここがメオリダねぇ!」

声が届かないので、わざわざ大声で叫んでいる。

ネオンがまぶしすぎて、時々視界が白一色になるタイミングがある。

かわいそうなゆずも目を細めている。

「ぴかぴかしてるよぉ。 てか、聞こえてる?」

「はい! 聞こえていますよ!

ここが、賭博都市『メオリダ』です。

おもな財源は賭博による税収入と、近くにある鉱脈から取れる金や宝石などですね」

コガラさんが、声を張り上げて解説してくれた。

「とりあえず、中に入りましょう!!」

コガラさんが、ジェスチャーを交えて、私たちを、管理局へと手招いた。


〇


管理局内部は、外側の騒音が一切聞こえない。

レイアウトも、小物がギャンブルっぽいものになった程度で、ハイネの時とほとんど変わらない。

私たちは、窓口に行く前に、コガラさんに手を引かれて、個室トイレに押し込まれる。

「えっ。 ちょっと、なにしてるんですか!?」

「しーっ。 外に聞こえてしまいますよ……」

これって、もしかして、そ(・)う(・)い(・)う(・)こと!?

「いいですか。 ここで私たちは身分証を確保したいです。

身分証があれば、様々なサポートが受けられますし、都市を移動するときに、わざわざ壁を破壊したり、追手から逃げる必要もなくなりますから」

ああ、そういうことね。

「そこで、すずさんに、身分証を発行していただきたいのです」

コガラさんが、ポケットから小さなカードを取り出した。

顔写真や名前、住所などは書かれておらず、真ん中に魔法陣のようなものが浮かんでいる。

「ここに自分の神秘を流すと、身分証が起動して、その人間の顔、名前、生年月日などの個人情報がわかるようになります」

実際にやってみてくれた。

個人情報が、一気に花のように広がった。

「おおぉ。 私、これ欲しい!」

ゆずが興奮し始めた。

トイレ、狭いから暴れないでよ……

「残念ながら、今回はすずさんに行ってもらいますよ」

私に、そんないかにも面倒くさそうな手続きができるかな。

履修登録だってままならなかったのに。

「私は脱税、ゆずさんは警官暴行の事件で、すでに顔が割れていますが、奇跡的にすずさんだけは、まだ顔が新聞に載っていませんでした。 つまり、この中で、公共機関に顔を見られてしまうことに対する危険性が最も低いのは、すずさんなんですよ。

それに、そもそも私はすでに身分証の登録しちゃってますからね」

普通の人間は、奇跡などなくても顔割れなどしないと思うのだが。

「でも、ここまで来たら、警護団はわざわざ介入してこないって言っていましたよね?」

「リスクは減らした方がいいでしょう?」

まあ、ここで駄々をこねてもしょうがないし、私が行くしかないか。

ゆずを連れて行ったら、また、指名手配されてしまいそうだし。

「……わかりました。 最速で終わらせてきます」

「はい! ありがとうございます。

詳しい手順は、この紙に書いてありますので、待ち時間に読んでくださいね」

紙を、丁寧にポケットへねじ込んだ。

「任せてくださいよ」

狭い個室で、渾身の決めポーズを決めて、出口のドアへと向かう。

「すずー、がんばれー」

トイレのドアを脚で開けようとしたところで、コガラさんにもう一度呼び止められた。

「あっ、すみません。 最後に、もう一つだけ」

「はい、なんでしょうか?」

コガラさんはかなり悩んでいるようで、口をもごもごさせている。

「あの! すずち(・)ゃ(・)ん(・)と呼んでもよろしいでしょうか……」

脚を離したドアが、自重で戻った。

「……別にいいですけれど」

ニコニコしたコガラさんが小さくガッツポーズをすると、ゆずのお腹に命中した。


〇


受付で、二十九の数字が書かれたカードを受け取った。

おそらく、あそこにある魔術的掲示板が、この数字を呼ぶまで待てばいいのだろう。

奥から三番目の椅子に腰かけて、足を組んでみる。

隣には誰もいないので、バッグを置いて壁を作っておく。

静まり返った役所の待合スペースでは、職員の少しの話し声と、物音が聞こえる程度で、その他の刺激は一切ない。 声も出せないし、大きく動いたりもできないので、かなりストレスがたまる。

(さて、読んでみるかね)

ポケットに折りたたんで入れておいた、コガラさんメモを確認。

以下、メモに書かれている内容。


『身分証の発行には、出身地、顔写真、生年月日、などの簡単な個人情報のほかに、職員のいくつかの質問に答えなければなりません。

この質問というのが厄介で、職員にはかなりいろいろなことを聞かれて、整合性の取れない回答があると、めっちゃ詰められます。 

そこですずちゃんには、私がかつて住んでいた森に捨てられた拾い子という設定で、身分証を獲得してもらいます。 長い間、拾ってくれた親と共に「キクイ」という場所に棲んでいた世間知らずの女の子というのを演じれば、どうにかなります』

文章は、そこで途切れていた。


〇


とりあえず、どのような森に棲んでいたのか、親がどんな人だったのか、受付にウソ発見器が無いかなど、悩んでもしょうがないことを悩みながら、腕も組む。

なるべく、鮮明なヴィジョンを浮かべなければならない。

木々が生い茂る森、そこに立つ赤い屋根の小屋。

ベージュのエルフ魔法使いが棲んでいて、毎日、温かい魔術シチューが食べられる。

ふかふかの敷布団は、洗濯を怠ってもいい匂いのままで、かわいいお洋服もいっぱいおいてある。

朝は、ふたりでご飯を食べた後に、森に出て魔物を狩ったり、キノコを集める。


「コガラさーん! キノコ、いっぱいとれたー!」

何かの植物で創られた籠をコガラさんへ突き出す。

コガラさんは、それをうれしそうに受け取って、私をほめてくれた。

「まあ、いっぱいとれましたね。

じゃあ、お洗濯が終わったら、一緒にご飯にしましょうか」

私は籠を台所までもっていき、立てかけてあった魔法の杖で手を洗う。

ひんやりしている。

「コガラさーん! こんどはてつだいにきたよ!」

「助かりますね。 では、その上着を、そっちの竿に掛けてみてください」

竿の長さは、私よりもはるかに長く、手を伸ばしても全然届かない。

「うぅーん、うぅーん」

つま先立ちで、竿に寄りかかるものだから、バランスを崩してしまった。

「ああっ。 ごめんなさい。 お洋服汚しちゃいました……」

必死に謝る。

「いえいえ、そんなの、また洗えばいいんですよ。

こっちは全部干し終わりましたし、その服はお部屋にもっていって、お昼にしましょうか」


うへへへ…………


「受付番号、二十九番でお待ちの方。

お待たせいたしました。 三番受付口までお越しください。

繰り返します。 受付番号…………」

脚に力を込めて、上体を起こす。

そそくさと、カバンを持ち上げ三番受付口へと、私は向かった。


〇


なんとなく、殺伐とした受付口に、私は案内された。

意識をすべて抜いたような職員が、私の担当であった。

「こんにちは。 『メオリダ治安管理局』へお越しいただき、ありがとうございます。

本日はどのようなご用件でしょうか?」

「あっ、えっと…… その……!

身分証を…… ぱっ、てしてほしくって……」

世間知らず、とはこういう感じだろうか。

それとも、少し流暢すぎただろうか。

「はい! 身分証の発行でございますね。

それでは、この紙に、氏名、住所、生年月日などのご記入をお願いいたします」

ペンを持ちなれない振りをするために、わざと左手に持ち替えた。

氏名、住所、出身地、身分証が必要な理由、所有する魔法検定の段、神秘を流し込む判子など、紙の空欄をすべて埋め終わり、おどおどと、受付嬢に提出した。

これで、跳ね返されたり、変なところを指摘されたら怖いなぁ、と変な汗をかいてしまった。

「おや?『キクイの森』ですか……

キクイといいましたら、カリアナの辺りがご出身でしょうか。

城域付近からとは、随分と遠い所からいらっしゃったのですね」

職員が、出身地の箇所を、杖でなぞっている。

最悪だ。

その「キクイの森」とやらは、そんなに遠い場所なのかよ。もっと、この辺の森かと思っていた。

「そう、かもしれません」

職員が、少し変な顔をする。

頼むから、出身地についてはあまり掘り下げないで欲しい。

「と、いいますと?」

「私、そこで生まれたわけじゃなくって、たぶん森に捨てられちゃって……

だから、そこがどことかもよく分かんなくって」

さすがに無理があるだろうか。

普通、場所や付近の都市くらいは知ってるものだろうか?

「えっ。 ああっ、すみません。

そうでしたか……」

職員が、若干うつむいている。

あれ、案外ちょろいかも。

「しかし、都市の名前を知らないほどに森から出た経験がないとは考えにくいほどには、お肌も綺麗ですし、服も新品のようですね。

そのお洋服は、カリアナ周辺でお買い上げになられたものでしょうか」

ああ、始まった。

おそらく、これがコガラさんの言っていた質問攻めというやつだ。

しっかりと考えて、返答しなければ。

次回


無事、身分証発行なるか?

そして、身分証発行したのち、なにをするのか。

阿呆の冒険はまだまだ続く。

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