第二十一話:オポチュニスト・逃避行11/お嬢様系カードゲーマー
前回までのあらすじ
一進一退の攻防。
召喚、破壊。
破壊、召喚。
☐
「では、私のターン」
投げられたサイコロが、六の目を出した。
「もう、このターンで終わらせてもらいますわよ!
星四の『噴水の呪術人形』を召喚」
「呪いの人形ですか……」
机のオーラが、人形を抱きしめるように、そのヴィジョンを映し出す。
「みんな知ってるので、説明はいりませんね」
「いや! 私たちは、師匠と違って知らないんですけどぉ!」
「うるせぇ! 黙って見てろ!」
怒鳴りつつ、ポケットから、下が平らに研磨されたガラスの玉の詰まった袋を取り出しています。
「この人形に、十三個のカウンターを乗せますわよ。
そして、各ターンの終わりに、これを所有するプレイヤーは、ダイスを振って、その出目の分だけカウンターを取り除き、このカードを、相手に渡す……
これを繰り返し、人形のカウンターがなくなったとき、その所有者は十点のダメージを受けるのです!」
また裁定のややこしいやつを……
私ほどの遊者じゃなかったら喧嘩になってましたよ。
「そして、手札から星八以上のカードを一枚、墓地へ送ることで『死ぬる程きまぐれ』を発動。 効果で、あなたのフィールドの式神一体を墓地へ送れる!」
「ああ、困りましたねぇ」
私の竜が、特に何かをすることもなく、消滅していく。
折角出せたのになぁ。
「あれ? コガラさんピンチっぽくない? だって、場に式神いなくなっちゃったよ?」
「やっと気が付いたようですね……
そもそも、除去耐性のない式神が一体しか立っていない状態を見て、すでに焦るべきなんですよ。
まったく、あなたたちは、本当にカードゲームが下手っぴですねぇ」
「はぁ!? あんたねぇ、これが終わったら引きずり回して、ぼこぼこに殴り潰してやるから!」
「お二人とも、喧嘩はいけませんよ。 ゆずちゃ…… ゆずさん。 私が勝ったら、好きなだけぼこぼこ
にしていいですからね」
いけない、いけない。 久しぶりに色々考えてしまったから、頭のなかの台詞が出てきてしまった。
「柚茶……? 私のあだ名かね」
あれ? そういえば、なんで私は愛弟子を、ちゃん付けで呼んでいないんでしたっけ。
この戦いが終わったら、ちゃん付けで呼んでもいいか聞いてみましょう。
〇
「あらあら…… もしかして、この状況から勝つおつもりなのですか?」
ティエルさんは、手拭いで汗を拭いている。
「いやいや、そんなわけないですよね。 だって、場に式神ゼロ。 残機は私のこの三体の式神で十分リーサルに届きますよ。 手札だって、こんなにあります。 それに比べて貴方はどうですか?」
私の盤面を指さしてはいるものの、目は合わせ続けている。
威嚇のつもりなのだろう。
「伏せカードがたったの二枚だけ。 そんな貧弱な体制で私の三体の式神の猛攻に耐えきれますか?
無理に決まっていますよ!」
「ふふっ。 本当にそうでしょうか…… もしかしたら、超強い切り札だったりして……?」
コガラさんのこれがハッタリかどうかは私にもわからない。
ティエルが、考え込んでいる。
「(張ったターンから、一度も起動する素振りは見せていないですね。
それに、式神が三体も並んでいるという、この状況を打破できるのは『不法侵入』や『黙する鋼鉄』などの大量除去…… 今の彼女の盤面では、発動条件は満たせていない。 つまり、これは攻撃しても安全ということだろうか……)」
「おや? 随分と迷っているようですね。 そういうときは思い切りが大切ですよ」
煽っているのだろうか。
それとも、普段からあんな感じだっただろうか。
「あぁっ! 結局、ハッタリかハッタリじゃないかなんて、私にはわからない!
それに、この量の式神が並んだ盤面を一枚で切り返せるほどのカードの発動条件は、どう見たって整っていない! 答えは『攻撃』ですよ」
ティエルが、サメ系少女で攻撃する。
「うふふっ。 いま、たしか『攻撃』と言いましたよね」
あ、私はこの流れを知っている。
「安易な選択をしてはいけませんねぇ」
「う、うるさいですよ! ハッタリ、負け惜しみなんですよ、それは……」
「では、確認しますか? この一番最初に張った紙牌を捲って、それが何なのか」
神秘を纏った手を、伏せたカードの上に乗せる。
おそらく、神秘を纏わせる意味はないと思われる。
「ええ! 攻撃しますわ」
ティエルは、再び、指をコガラに向けて、サメ系少女のヴィジョンを操作する。
「あらぁ。 せっかくチャンスをあげたのに……
では、発動!」
そういうとコガラさんは、伏せではなく、手札のカードをつかんで、表向きに変える。
「あっ、手札誘発!?」
「「なにそれ」」
ゆずと私が同じセリフをつぶやいた。
「『巫女たちの試行』っ!」
☐
「私は、これの二番目の効果を発動しますよ」
「ああっ。 伏せの方に気を取られすぎていた」
髪をかきむしっていますね。 ふふふ。
やはり、これは気持ちがいい。
「このターン、式神が攻撃するとき、その攻撃力分だけ、先に相手の残機を減らすことができますよ。
アンティーク・シャークの攻撃力は十なので、あなたの残りは……」
隣の電光掲示板が小気味良い電子音を立てながら、十個分の残機を減らしていますね。
「くっ。 残機、四……」
「でも、攻撃自体は無効になってないから、師匠の残機は一じゃん!
次で死んじゃう!」
何とか逃げ出そうと壁を思い切り殴っていますね。
ダメージはいっさい入ってなさそうです。
「安心してください。 この効果は遊者側に課すタイプの能力なので、この手番中に攻撃すれば、先に死ぬのは、ティエルさんです」
ティエルさんは、ずっと手札を眺めて、なにかの対策を考えているのでしょうか。
そういえば、彼女の場にも、あと一枚、伏せの紙牌がありますね。
「では、ターン終了です」
ダイスを転がす。
出目は八。
「人形の残りカウントは、五ですわよ」
私の盤面に、人形が押し付けられてしまいました。
手番終了時に、五以上の出目が出れば、人形の自爆ダメージで、私は負けてしまう。
☐
「私のターン」
ドローして、ダイスを転がす。
出目、四。
「ああ、これですかぁ。 なるほどなるほど。 じゃあ、キープですかねぇ」
わざと声に出してみました。
「では、この紙牌を伏せて、終了です」
ティエルさんの目を見つめる。
「えっ、もうですか!?」
すずちゃんの方を見て、うなずいておく。
「ダイス・ロール!」
重ねて言いますが、五以上の目が出れば私の負け。
最もいい出目は、四。
そうすれば、相手は次のターンに確実に負けます。
「運要素なんかで負けてはたまりませんわ…… お願いっ! 八とか、九とかが出て!」
それではダメなのです。
神に祈るようではダメなのです。
最後の最後で、自分ではなく、他人に、勝敗をゆだねるような人に、勝ち目は
ありません。
ダイスは、まだ回っている。
〇
ああ、これで私たちが警護団につかまって牢獄行か(牢獄ではなく、地下労働施設かもしれない)、メオリダとやらに到着して、無事成功か決まるというのか。
本当ならパンチやらキックやらで決めたかったところだが、私は身体能力がよわよわなので、むしろこの決め方の方がよかったのかもしれないが、何もしていない私は、そんなことを考えるよりも、コガラさんを応援することに集中するべきだ。
ダイスは、静かに、回るのを辞めた。
出目は、三。
「さっすが師匠!」
「これで、私たちの勝ちね!」
☐
「いえ、まだ、私が負けない、とわかっただけで勝負の行方は決まっていません」
「そうよ。 勝負は、これからなんですからね」
目くばせをしました。
「それでは、私のラスト・ターンです! ドロー!」
互いに、少しだけ汗をかき始めいますね。
「さあ、行きますよ! 星五『冷却の解体者』召喚!」
おそらくこの決闘最後の式神ですね。
「効果発動! あなたの手札のうち、一枚を使用不可にできますわ」
ティエルさんの互いの額に、走る汗。
「さて…… どれに、しますか?」
二枚の紙牌を、相手に提示。
どくん、と互いの心音まで聞こえてきている、気がした。
「右端のカードにしますわ」
「……はい。 これでよろしいですね」
えらばれた目印として、上下を逆にして、手札に戻す。
「そして、さらに今引いたこれも発動します。
場の式神二体を解放状態に変更し、魔法『魔法相殺結界』を発動します」
机は、思い出したかのように、一面を呪印のような模様で染め上げました。
「これで、あなたは式神に対して、魔法の効果を使用できなくなりましたよ。所詮、伏せてあるカードも、魔法に過ぎません! これで私の勝ちですわ!」
「それは、どうでしょうか」
すこし、にやりとしてみる。
「うふふっ。 もういいですよ、そういうのは。
これで、正真正銘終わりです!
『お嬢の友達 アンティーク・シャーク』、直接攻撃です!」
〇
サメ系女子が手持ちのトライデントを、コガラさんに突き刺す。
「え? 師匠が、負けちゃった……?」
「うぅっ。 コガラさん……!」
ああ、終わった。
牢獄か、地下労働か、水商売だ……
もう、いっそう死んだほうが楽かも?
とか思ったいたら、コガラさんが、ニヤニヤしながら伏せたカードに手を掛けている。
「おや? いいですか、エルフのコガラさん。 いくら負けたくないからと言っても、ルールは守らないといけませんよ?
折角、かなり強い人だったな、って思い始めましたのに」
コガラさんが、再びニヤリとする。
「いえいえ、このコは発動できるんですよ」
「はい? だって、式神に対して魔法の効果は使えないんですよ!
だからバウンスして攻撃を防いだり、無効にしたり、破壊したりすることはできないんです!
そうしないと、この攻撃は止まらないです!」
コガラさんが、カードの端に爪を掛けて、にっこりとした。
「ええ、ですからそのどれもやりませんよ。
このコは、ほとんど魔法じゃないですから」
「何意味の分からないことを……! 負けは負けですわよ!さあ、早く懸賞金になってくださいな」
ティエルがまくし立てる。
「ふふっ。 見ればわかりますよ。
それでは⋯⋯ 反応魔法『暗黒術師/カノエ』を発動!」
机の上には、起死回生の眼鏡っ娘くのいちが召喚された。影から這い出て、黒い風と木の葉のようなエフェクトが舞い散る。
「…………あっ」
「ふふっ。 これの効果は、ご存じのはず。
この魔法を、攻撃力二十、守備力二十の式神として場に出せます。 それだけで、破壊も無効もバウンスもしませんよ」
「あっ、あっ、やっちゃいましたわ。
攻撃のキャンセルはできないのです!」
「攻撃力十の式神が、防御力二十の式神に攻撃したら、反射のダメージはいくらでしょうか?」
「……………十」
クナイでトライデントを弾き飛ばされる。
攻撃手段を失ったサメ系女子は、むちっとしたくのいちのふとももで、腹部を蹴り飛ばされた。
くのいちの返り討ちにあい、ぐるぐる目になるサメ系女子。
〇
残機の表示がゼロになると、カウンターが砂のように砕け散って消滅した。
机の上に居た、もろもろの美少女カードたちも、すべて消滅し、いつの間にか魔法の机はただの机に戻っている。
「私の勝ち~、ですね。
すごく楽しかったですよ」
手を差し出すコガラさん。
「……ええ!
私も楽しかったですわ。 また、いつかもう一度一緒に決闘できる日が来るといいですね」
ティエルは、丁寧に握手をした。
負けたのに、立ち直りが早いのか。
それとも、これが決闘なのか。
互いにデッキを束ねて、机から立ち上がる。
一連の動作を流麗に完了させた後、手に神秘を溜めたティエルがこちらへ振り向く。
「あ、そうだ。 そこのお荷物二人組!」
まだ言うか。
「はっ! そうだった。 タコ殴りに……」
「ちょっと、ゆず。 なにか話したそうだよ」
おびえて後ずさりするティエルの心境を、適当に代弁してあげた。
ティエルは、小馬鹿にするような目はしていなかった。
「今度会う時までに、ルール、憶えておきなさいね。
私が相手、してあげなくもないから……」
絶対に目を合わせようとはしない。
合わせようとしても逃げていく。
「じゃあ、タコ殴りにするのは、その時にすることにする。
また、どこかで会おうね」
珍しく、ゆず側からも、謝罪ともとれる台詞を聞いた。
「あ、私もあなたを倒しますからね!
次はお荷物なんて呼ばせませんから」
「まぁ、それは楽しみですわね。
たくさん頑張ってくださいよね。 私、強いですから」
広げたカードを束ねて、手元で混ぜている。
手癖なのだろう。
「さて、そろそろ出発ではないのですか?」
「あれ? 殴ったりは、しなくていいんですか」
「ええ、私は強い人とゲームができればそれで良いですから。 懸賞金は、勝利のおまけですし、暴力には興味ありませんから。
まあ、お嬢様風な生活スタイルを維持するためにも、懸賞金は欠かせませんがね」
この空間が、段々と歪んでいき、入ってきた時のようなぐにゃぐにゃとした背景に戻る。
◇ アイキャッチ
ティエル=テュエル
能力名:【遊戯の流儀】
解説 :アナログゲームが大好きな、三級魔術師。
特に、カードゲームが得意。
漫画で見た名家のお嬢様に憧れて、物価の安いハイネに引っ越ししてきた。本名はティエル=テュエルだが、高貴さの演出のためにティエル=ノーブルを名乗る。キスはしたコトないが、なぜか上手いと確信している。
能力は、神秘で生み出した別世界の個室内で、ゲームを行い、勝者のささやかな願いをかなえる増幅型の能力。能力の発動のためには、ある程度の情報を相手に伝えなければならない。また、能力の空間内では、自他ともに一切の暴力行為が許されていないため、犯罪者と個室に一緒でも安全である。
次回
ついにメオリダに到着する一行。
次なるミッションは、身分証の発行。
身分を偽り、身分を手に入れよう!




