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悪に正義を、阿呆に脚光を!  作者: 広炉ひろ
第四章:『カジノ・キュムラス』攻略編
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第二十五話:あなたを等価交換2/検証と警鐘

前回までのあらすじ。


身分証をゲットしたすず。

目の前で死んだ男の持っていた呪いの花。

『不幸の等価交換』


〇


鳥のぬいぐるみをぴょこぴょことさせながら、コガラさんが解説する。

「この花には、

① 宿主が幸福を得たとき

➁ 植物が特殊な『光合成』を行うとき

の二つのタイミングで、不幸を等価交換します」

ゆずに憑いた花を、ぬいぐるみの目の前に置き、その子がついばんでいるように動かす。

「では、このディアボロス・メジロちゃんで例えましょう。

イシニアに憑かれてしまったメジロちゃんが、道に落ちて居るおいしいパンの欠片を見つけました。

もちろんこれは、うれしいですよね?」

メジロが跳ね、コガラさんが「ぴよぴよ」と言っている。

「うれしいね」

「しかし、あら大変。

パンを食べようとした直後!

なぜか、普段は見ないはずの大型猛禽類が、こちらを見つめているではありませんか!」

シマエナガのぬいぐるみが、メジロをにらんでいる。

「これがっ、植物の『等価交換』っ!

必ず! パンを得る『幸福』と同量の『不幸』が襲ってくるのです!」

「で、解除方法は!?」

「安心してください。 とっても簡単です。

①の『幸福』に反応する交換で、植物のキャパシティーを超えるほどの、大きな『幸福』を交換させればいいのです!」

コガラさんは立ち上がり、ゆずを指さして宣言した。

「そのためには、ゆずちゃんの幸福を知らなければなりません……

さぁ。 何がゆずちゃんにとっての『幸福』ですか?」

ゆずが、顎下に人差し指をあてて、ベッドでゴロゴロしながら考えている。

「うぅ~ん。 えぇっとねぇ~。

あっ、じゃあさ、すず! ほっぺにチューして!」

「はっ!? え、いやいやいや。

おかしいよ! もっとすごいものを求めようよ!

ほら…… 例えば、えぇっと」

ベッドで横たわるゆずが、足を頭の方までもってきて、かかと落としの要領で足をベッドにたたきつけて、その力を利用して上半身を起こす。

「えぇ~  してくれないと、私死んじゃうかもよぉ?

うわーん。 死にたくないなぁ」

また、へたっぴな演技を……

「じーっ」

ああっ! こっちを、見つめないで……!

「わかったよ! してあげるから!

ゆずは目を閉じててね。 で、コガラさんはニヤニヤするのをやめてください。 見るのもやめてください。 恥ずかしいです……」

「えぇ~、はぁーい。 しょうがないですから、あっちを向いてますね」

呼吸を整える。

唇、乾燥してないだろうか……

というか、キスってどうやってやるんだ?

唇を合わせるだけでいいだよね?

「はやくしてよぉ~」

「もう! うるさいわね! 今してあげるから……」

大丈夫。 ほっぺだから。

特に問題はない。 よくあるやつよ。

そうそう、スキンシップね。

大丈夫。

「じゃあ、やってみるよ」

目を閉じて、ゆずの頬に唇を押し当てる。


〇


「おぉ。 本当にしてくれた……

すずって、案外大胆ね」

「はぁ!? ゆずが『して』って言ったんだからね!

これっきりなんだからね!」

「ふふっ。 それは、後でハマっちゃう人がいうセリフですよ」

「もう! うるさいです! 

そんなことより、花は枯れ……」

ゆずの身体から、神秘が流れ出ている。

ただし、いつものゆずの淡い青の神秘ではなく、ドスの効いた黒いものだった。

最初にこの呪いが移されたときほど深くはないものの、ティークと戦った時よりは明らかに「黒」に近い色の神秘。

身体中がドス黒く包まれたゆずは、一瞬、身体をびくんっと痙攣させた。

数秒もしないうちに、神秘もどきは、ゆずの体内かどこかに消え去った。

「んっ。 何、今の感じ…… すごく、気味が悪い…… もしかして、失敗かも」

「ゆずちゃん! あぶないですよ!」

「へ?」

頭上から、ケーブルが引きちぎれたファン付きの照明が、ゆず目掛けて落下してくる。

「やばいっ! 今は執行人(バスケット)の対象にできるものがないっ!」

「ーーーッ!」

鈍い衝突音。

ゆずが照明の下敷きなっている。

しかし、中の電球が割れて飛び散ったり、木片がゆずに突き刺さったりはしていなさそうだ。

照明は原型をとどめている。

ゆずの方も、とっさの判断で神秘でガードできたらしく、すぐに上に乗っかった照明を退けた。

「ふぅ。 危なかった…… 

この交換がこの程度なら、もっとキスしてもらおうかなぁ」

「何、呑気なこと言ってるの!?

これからは、常にこれが付きまとうのよ!

早く解除するすべを考えないと、本当に死ぬより大変なことになるかもしれないんだよ!

それに、まだ①の交換で、植物が無作為に行う➁の『交換』もあるんだよ!」

「わかったよ、そんなに怒らないで。 すぐに幸福について考えるから……」

この間にも、植物のカウントは進んでいるのだろう。

窓の外を、病弱少女的(対策せずに放っておくともうじき死ぬという意味では、ゆずも病弱少女ではある)にアンニュイな感じで眺める。

一瞬、目の動きが止まった。

やっと、何か見つけたようだ。

「にへっ。 いいこと思いついた。

私たちが犯罪者狩りで稼いだ八百五十万。 それを元手にあそこのカジノで大勝しよう!」

ゆずが指さしたのは、おそらくここら一帯で最も大きいであろう、「カジノ・キュムラス」とネオンで大きく書かれた、高層ビルだった。

「あんなおっきいカジノで大勝なんて、絶対最高に幸せな気分になれるに違いないよ!」

私は、この世界については、ほとんど何も知らないので、こういう時は取り合えず、この世界の人間に聞くべきだ。

「……コガラさん、できますか?」

「カジノは魔法ではないのでよく知らないですが、私は私にできる最善を尽くします」


ということで身支度が始まった。

「あ、それとも、すずが舌入れてキスしてくれるのでもいいよぉ~」

「さぁ、さっさとカジノに行きましょう」


〇


バニーちゃんホテルの出て、カジノへ向かう。

「そうだ。 急かしておいて悪いんだけれど、ちょっといいことを思いついちゃったから、試させてもらってもいい?」

「私は全然平気だよ!」

’’全然’’平気ではないだろう。

しかし、ゆずなりの気遣いだと思って、ありがたく閃きを試させてもらう。

「じゃあ、コガラさん。 ちょっと耳打ちしてもいいですか?」

何かあったら困るので、一応ゆずには聞かせない。

特に合理的な理由はない。

「ひゃっ。 耳がくすぐったいですね……」

「まずは…… それで………… そのあと…………」

ゆずが、「私にも教えてよ!」という面持ちでこちらを見ている。

「なるほど…… ふふっ。 面白そうですね! やってみましょうか」

「じゃあ、ゆず。 ついてきてね」

ゆずを連れて、私たちは少しだけ人通りの多い道にやってきた。

三人で、低木の陰に潜む。

私は、木から葉っぱをいくつか頂戴して、触れる。

「【果樹園の執行人(フルーツ・バスケット)】

葉に触っている。 そしてこっちの石ころも、触れて媒体にする……」

これで、私は今、この葉っぱと石ころの位置を自在に入れ替えられるようになった。

果たして、うまくいくだろうか。

「じゃあ、コガラさん。 お願いします」

「はい! ……うぅーん。 ここをこうやってぇ、こっちをこうしたほうがいいですかね」

次にコガラさんの能力で、複数枚の葉っぱたちを一つにつなげて、折り紙ほどのサイズに拡張する。

「はいっ。 できましたよ、すずちゃん」

「ありがとうございます。 じゃあ、これを……」

「何するのかなっ。 わくわく」

「えいっ!」

道に向かって、投げ飛ばす。

うまく飛ぶように、フリスビーの様に投げてみた。

「ああ、投げちゃうんだ」

「まあまあ、少し待ってよ。 すぐ私の新技、見れると思うから」

私が説明してる間に、コガラさんが低木から出て行って、「接続した葉っぱ」の周りを、大量の色気を無料で垂れ流しながらうろちょろする。

それにつられた、会社帰りの男の人がコガラさんの近くを通ろうする。

「すずぅ。 せっかく作った葉っぱシートが踏まれちゃうよ?」

「ふっふー。 違う違う。 そ(・)れ(・)が(・)い(・)い(・)の(・)」

低木から、見えない程度に顔をちょこんと出して、手首をスナップさせる準備をしておく。

男が、コガラさんとすれ違いそうになったその瞬間、最高のタイミングを私は逃さなかった。

「よしっ。 今だね」

一瞬で手元の石と、接続した葉っぱの位置を入れ替える。

男は、今までなかった石ころにつまずいて、コガラさんの足元へ倒れこむ。

「うわっ! なんだ!?」

顔から倒れこんで、コガラさんの脚をかすめそうになる。

男は、腕をついて受け身をとったので、顔面から倒れこむことはなかった。

「きゃーっ! ヘンタイ! 痴漢です!」

スカートの端を持ち上げ、華麗に男を避ける。

「へっ!? は、い、いいや。 俺はただ転んだだけで……」

「ウソです! 私の下着を見ようとしたでしょ、このヘンタイ!」

「いや…… 冤罪だぁ!

というか、あんた、ロングスカートじゃないか!

それなら見えるハズがないっ!」

コガラさんが、少し悪い顔をする。

「いやいや! ロングでも、見えるときはばっちり見えるんですぅ」

「そ、そんな…… でも、俺はただ転んだだけで、みるつもりなんて……

それに、第一見えていなかったし!」

男が言い訳を開始する。

「見えたか見めていないか、決めるのは被害者であるこっちですよ……

あぁ、でも、そういえば今日の私、見(・)せ(・)パ(・)ン(・)を(・)履(・)い(・)て(・)た(・)かもしれませんねぇ」

妖艶に笑っている。

「うへ、ははっ。

そ、そうだよな! わざわざスカートなんてものを履くのに、その下がパンツ一丁ってのが、そもそもへんだもんな……」

「うぅん。

でも、そんな暑っ苦しいもの、履いてないかもしれませんねぇ。

私、暑がりですし」

一瞬で矛盾している。

「な、なに言ってるんだ、あんた! そんなの、確認しないとわからないじゃないか!

あんたの気分次第で、どうとでもできるじゃないか!」

コガラさんが、貴族のお嬢様が階段を駆け上がるときみたいに、若干スカートを持ち上げる。

「じゃあ、私が『見せパンを履いていたかもしれない』気分にさせてくれたらいいですぉ……

ほれほれぇ」

コガラさんが、手のひらを差し出す。

男は、それが何を意味するのかを悟って、ポケットに手を伸ばした。

取り出した麻布を鬼の形相でにらみつけ、やがてなにかが吹っ切れたかのように思い切り手を突っ込む。

「チッ! 持ってけクソ女!」

麻布から、銅のコインを五枚ほど取り出して、コガラさんに乱暴に手渡す。

「ふふっ。 まいどありぃ」

自分で頼んだのにこんなこと言っていいのかわからないが、コガラさんではなく私がやるべきだった。


〇


「どう? これが私の新技。 場所を移す、『狭い隙間に大きなものをねじ込める』。

まだ名称未定だけどね」

低木に座り込んで、ちょっとしたポーズを決める。

「やっぱり、すずちゃんは天才ですね。

はいこれ。 お小遣いです」

「すっごいかっこ良かった!

コガラさんも、演技上手だったなぁ…… 私も、もっとすごいことしたいなぁ。

へへへ……」

あれ、マズイかも。

これ、幸福になっていないか?

一応、ゆずの近くによって敵がいないかとか、危ないものが無いかとかを確認しておく。

「きゃっ」

刹那、低木から大きくて、気持ちの悪い虫が三匹ほど飛び出してきた。

驚いて飛び退くと、ゆずはバランスを崩して背中を地面にぶつけた。

「ぐへぇッ!」

その上に、バランスを崩して私も腰から倒れこむ。

「あっ! ごめん、すぐ退くから……」

これは、どこまでが『等価交換』の範囲だったのだろう。

そんなことは、考えてもわかるはずがない。

とりあえずゆずを立たせてあげようとおもったのだが、ここにも交換が発生すると困るので、泣く泣く自分で立たせることになる。

「ふぅっ。 私、これから毎回、幸せになるたびにこんな目に遭うのか……

さあ、さっさとカジノ・キュムラスまでしゅっぱーつ!

大勝ちして、さっさと枯らしてやるぜっ! カス植物め」

巨大賭博施設「カジノ・キュムラス」で大金を手に入れ、ゆずを喜ばせる。

それも、大いに。

もちろん、普通にギャンブルなんてしても負けるだけだ。

私たちは「如何様」を行う。


次回


偽装工作。

開帳。

賭博の合図。

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