第二十五話:あなたを等価交換2/検証と警鐘
前回までのあらすじ。
身分証をゲットしたすず。
目の前で死んだ男の持っていた呪いの花。
『不幸の等価交換』
〇
鳥のぬいぐるみをぴょこぴょことさせながら、コガラさんが解説する。
「この花には、
① 宿主が幸福を得たとき
➁ 植物が特殊な『光合成』を行うとき
の二つのタイミングで、不幸を等価交換します」
ゆずに憑いた花を、ぬいぐるみの目の前に置き、その子がついばんでいるように動かす。
「では、このディアボロス・メジロちゃんで例えましょう。
イシニアに憑かれてしまったメジロちゃんが、道に落ちて居るおいしいパンの欠片を見つけました。
もちろんこれは、うれしいですよね?」
メジロが跳ね、コガラさんが「ぴよぴよ」と言っている。
「うれしいね」
「しかし、あら大変。
パンを食べようとした直後!
なぜか、普段は見ないはずの大型猛禽類が、こちらを見つめているではありませんか!」
シマエナガのぬいぐるみが、メジロをにらんでいる。
「これがっ、植物の『等価交換』っ!
必ず! パンを得る『幸福』と同量の『不幸』が襲ってくるのです!」
「で、解除方法は!?」
「安心してください。 とっても簡単です。
①の『幸福』に反応する交換で、植物のキャパシティーを超えるほどの、大きな『幸福』を交換させればいいのです!」
コガラさんは立ち上がり、ゆずを指さして宣言した。
「そのためには、ゆずちゃんの幸福を知らなければなりません……
さぁ。 何がゆずちゃんにとっての『幸福』ですか?」
ゆずが、顎下に人差し指をあてて、ベッドでゴロゴロしながら考えている。
「うぅ~ん。 えぇっとねぇ~。
あっ、じゃあさ、すず! ほっぺにチューして!」
「はっ!? え、いやいやいや。
おかしいよ! もっとすごいものを求めようよ!
ほら…… 例えば、えぇっと」
ベッドで横たわるゆずが、足を頭の方までもってきて、かかと落としの要領で足をベッドにたたきつけて、その力を利用して上半身を起こす。
「えぇ~ してくれないと、私死んじゃうかもよぉ?
うわーん。 死にたくないなぁ」
また、へたっぴな演技を……
「じーっ」
ああっ! こっちを、見つめないで……!
「わかったよ! してあげるから!
ゆずは目を閉じててね。 で、コガラさんはニヤニヤするのをやめてください。 見るのもやめてください。 恥ずかしいです……」
「えぇ~、はぁーい。 しょうがないですから、あっちを向いてますね」
呼吸を整える。
唇、乾燥してないだろうか……
というか、キスってどうやってやるんだ?
唇を合わせるだけでいいだよね?
「はやくしてよぉ~」
「もう! うるさいわね! 今してあげるから……」
大丈夫。 ほっぺだから。
特に問題はない。 よくあるやつよ。
そうそう、スキンシップね。
大丈夫。
「じゃあ、やってみるよ」
目を閉じて、ゆずの頬に唇を押し当てる。
〇
「おぉ。 本当にしてくれた……
すずって、案外大胆ね」
「はぁ!? ゆずが『して』って言ったんだからね!
これっきりなんだからね!」
「ふふっ。 それは、後でハマっちゃう人がいうセリフですよ」
「もう! うるさいです!
そんなことより、花は枯れ……」
ゆずの身体から、神秘が流れ出ている。
ただし、いつものゆずの淡い青の神秘ではなく、ドスの効いた黒いものだった。
最初にこの呪いが移されたときほど深くはないものの、ティークと戦った時よりは明らかに「黒」に近い色の神秘。
身体中がドス黒く包まれたゆずは、一瞬、身体をびくんっと痙攣させた。
数秒もしないうちに、神秘もどきは、ゆずの体内かどこかに消え去った。
「んっ。 何、今の感じ…… すごく、気味が悪い…… もしかして、失敗かも」
「ゆずちゃん! あぶないですよ!」
「へ?」
頭上から、ケーブルが引きちぎれたファン付きの照明が、ゆず目掛けて落下してくる。
「やばいっ! 今は執行人の対象にできるものがないっ!」
「ーーーッ!」
鈍い衝突音。
ゆずが照明の下敷きなっている。
しかし、中の電球が割れて飛び散ったり、木片がゆずに突き刺さったりはしていなさそうだ。
照明は原型をとどめている。
ゆずの方も、とっさの判断で神秘でガードできたらしく、すぐに上に乗っかった照明を退けた。
「ふぅ。 危なかった……
この交換がこの程度なら、もっとキスしてもらおうかなぁ」
「何、呑気なこと言ってるの!?
これからは、常にこれが付きまとうのよ!
早く解除するすべを考えないと、本当に死ぬより大変なことになるかもしれないんだよ!
それに、まだ①の交換で、植物が無作為に行う➁の『交換』もあるんだよ!」
「わかったよ、そんなに怒らないで。 すぐに幸福について考えるから……」
この間にも、植物のカウントは進んでいるのだろう。
窓の外を、病弱少女的(対策せずに放っておくともうじき死ぬという意味では、ゆずも病弱少女ではある)にアンニュイな感じで眺める。
一瞬、目の動きが止まった。
やっと、何か見つけたようだ。
「にへっ。 いいこと思いついた。
私たちが犯罪者狩りで稼いだ八百五十万。 それを元手にあそこのカジノで大勝しよう!」
ゆずが指さしたのは、おそらくここら一帯で最も大きいであろう、「カジノ・キュムラス」とネオンで大きく書かれた、高層ビルだった。
「あんなおっきいカジノで大勝なんて、絶対最高に幸せな気分になれるに違いないよ!」
私は、この世界については、ほとんど何も知らないので、こういう時は取り合えず、この世界の人間に聞くべきだ。
「……コガラさん、できますか?」
「カジノは魔法ではないのでよく知らないですが、私は私にできる最善を尽くします」
ということで身支度が始まった。
「あ、それとも、すずが舌入れてキスしてくれるのでもいいよぉ~」
「さぁ、さっさとカジノに行きましょう」
〇
バニーちゃんホテルの出て、カジノへ向かう。
「そうだ。 急かしておいて悪いんだけれど、ちょっといいことを思いついちゃったから、試させてもらってもいい?」
「私は全然平気だよ!」
’’全然’’平気ではないだろう。
しかし、ゆずなりの気遣いだと思って、ありがたく閃きを試させてもらう。
「じゃあ、コガラさん。 ちょっと耳打ちしてもいいですか?」
何かあったら困るので、一応ゆずには聞かせない。
特に合理的な理由はない。
「ひゃっ。 耳がくすぐったいですね……」
「まずは…… それで………… そのあと…………」
ゆずが、「私にも教えてよ!」という面持ちでこちらを見ている。
「なるほど…… ふふっ。 面白そうですね! やってみましょうか」
「じゃあ、ゆず。 ついてきてね」
ゆずを連れて、私たちは少しだけ人通りの多い道にやってきた。
三人で、低木の陰に潜む。
私は、木から葉っぱをいくつか頂戴して、触れる。
「【果樹園の執行人】
葉に触っている。 そしてこっちの石ころも、触れて媒体にする……」
これで、私は今、この葉っぱと石ころの位置を自在に入れ替えられるようになった。
果たして、うまくいくだろうか。
「じゃあ、コガラさん。 お願いします」
「はい! ……うぅーん。 ここをこうやってぇ、こっちをこうしたほうがいいですかね」
次にコガラさんの能力で、複数枚の葉っぱたちを一つにつなげて、折り紙ほどのサイズに拡張する。
「はいっ。 できましたよ、すずちゃん」
「ありがとうございます。 じゃあ、これを……」
「何するのかなっ。 わくわく」
「えいっ!」
道に向かって、投げ飛ばす。
うまく飛ぶように、フリスビーの様に投げてみた。
「ああ、投げちゃうんだ」
「まあまあ、少し待ってよ。 すぐ私の新技、見れると思うから」
私が説明してる間に、コガラさんが低木から出て行って、「接続した葉っぱ」の周りを、大量の色気を無料で垂れ流しながらうろちょろする。
それにつられた、会社帰りの男の人がコガラさんの近くを通ろうする。
「すずぅ。 せっかく作った葉っぱシートが踏まれちゃうよ?」
「ふっふー。 違う違う。 それがいいの」
低木から、見えない程度に顔をちょこんと出して、手首をスナップさせる準備をしておく。
男が、コガラさんとすれ違いそうになったその瞬間、最高のタイミングを私は逃さなかった。
「よしっ。 今だね」
一瞬で手元の石と、接続した葉っぱの位置を入れ替える。
男は、今までなかった石ころにつまずいて、コガラさんの足元へ倒れこむ。
「うわっ! なんだ!?」
顔から倒れこんで、コガラさんの脚をかすめそうになる。
男は、腕をついて受け身をとったので、顔面から倒れこむことはなかった。
「きゃーっ! ヘンタイ! 痴漢です!」
スカートの端を持ち上げ、華麗に男を避ける。
「へっ!? は、い、いいや。 俺はただ転んだだけで……」
「ウソです! 私の下着を見ようとしたでしょ、このヘンタイ!」
「いや…… 冤罪だぁ!
というか、あんた、ロングスカートじゃないか!
それなら見えるハズがないっ!」
コガラさんが、少し悪い顔をする。
「いやいや! ロングでも、見えるときはばっちり見えるんですぅ」
「そ、そんな…… でも、俺はただ転んだだけで、みるつもりなんて……
それに、第一見えていなかったし!」
男が言い訳を開始する。
「見えたか見めていないか、決めるのは被害者であるこっちですよ……
あぁ、でも、そういえば今日の私、見せパンを履いてたかもしれませんねぇ」
妖艶に笑っている。
「うへ、ははっ。
そ、そうだよな! わざわざスカートなんてものを履くのに、その下がパンツ一丁ってのが、そもそもへんだもんな……」
「うぅん。
でも、そんな暑っ苦しいもの、履いてないかもしれませんねぇ。
私、暑がりですし」
一瞬で矛盾している。
「な、なに言ってるんだ、あんた! そんなの、確認しないとわからないじゃないか!
あんたの気分次第で、どうとでもできるじゃないか!」
コガラさんが、貴族のお嬢様が階段を駆け上がるときみたいに、若干スカートを持ち上げる。
「じゃあ、私が『見せパンを履いていたかもしれない』気分にさせてくれたらいいですぉ……
ほれほれぇ」
コガラさんが、手のひらを差し出す。
男は、それが何を意味するのかを悟って、ポケットに手を伸ばした。
取り出した麻布を鬼の形相でにらみつけ、やがてなにかが吹っ切れたかのように思い切り手を突っ込む。
「チッ! 持ってけクソ女!」
麻布から、銅のコインを五枚ほど取り出して、コガラさんに乱暴に手渡す。
「ふふっ。 まいどありぃ」
自分で頼んだのにこんなこと言っていいのかわからないが、コガラさんではなく私がやるべきだった。
〇
「どう? これが私の新技。 場所を移す、『狭い隙間に大きなものをねじ込める』。
まだ名称未定だけどね」
低木に座り込んで、ちょっとしたポーズを決める。
「やっぱり、すずちゃんは天才ですね。
はいこれ。 お小遣いです」
「すっごいかっこ良かった!
コガラさんも、演技上手だったなぁ…… 私も、もっとすごいことしたいなぁ。
へへへ……」
あれ、マズイかも。
これ、幸福になっていないか?
一応、ゆずの近くによって敵がいないかとか、危ないものが無いかとかを確認しておく。
「きゃっ」
刹那、低木から大きくて、気持ちの悪い虫が三匹ほど飛び出してきた。
驚いて飛び退くと、ゆずはバランスを崩して背中を地面にぶつけた。
「ぐへぇッ!」
その上に、バランスを崩して私も腰から倒れこむ。
「あっ! ごめん、すぐ退くから……」
これは、どこまでが『等価交換』の範囲だったのだろう。
そんなことは、考えてもわかるはずがない。
とりあえずゆずを立たせてあげようとおもったのだが、ここにも交換が発生すると困るので、泣く泣く自分で立たせることになる。
「ふぅっ。 私、これから毎回、幸せになるたびにこんな目に遭うのか……
さあ、さっさとカジノ・キュムラスまでしゅっぱーつ!
大勝ちして、さっさと枯らしてやるぜっ! カス植物め」
巨大賭博施設「カジノ・キュムラス」で大金を手に入れ、ゆずを喜ばせる。
それも、大いに。
もちろん、普通にギャンブルなんてしても負けるだけだ。
私たちは「如何様」を行う。
次回
偽装工作。
開帳。
賭博の合図。




