第十八話:オポチュニスト・逃避行8/ティエルちゃんの【遊戯の流儀】
前回までのあらすじ
平原を散策。
メンダコと遊んだり、クッキーを食べたり。
そして、敵との遭遇。
〇
気を失ったわけでも、視力がなくなったワケでもない。
すでに、先ほどまでいた平原は見えなくなっており、ぐにゃぐにゃとした空間に、ただ我々は屹立している。
「ふふっ。 ここは、私の神秘で形作られた現実世界には存在しない空間。
つまり、精神の中と言ってもいいわね」
ここはどこなのだ?、という私の疑問を一瞬で見抜いたように答える。
彼女の姿は、貴族の令嬢のようだ。
「よくわからんが、こういうのは本体をぶん殴ればいいんだよっ」
ゆずが神秘を練り攻撃しようとする。
「【一剣二鎌…… あれ? 能力が出ない」
腕を何度も振り回すゆず。
「ふふっ。 この空間では、私含めすべての人間の暴力行為が禁止されています」
敵が静かにそう言ったところで、情報が途切れた。
〇
敵含め、私たちは四人とも、一つの大きな机に向かって座っていた。
机の上には、大量のゲームが置いてある。
ゆずは、まだ能力を発現させようと悪戦苦闘している。
手を広げて、敵は手を広げた。
「ほれ。 好きなのをひとつ選びなさんな」
ゆずは言われる前から、すでに大量のゲームをかき分けている。
「やばっ、思ったよりおもしろそう! 私これやりたい」
明らかに難しそうな、重厚なパッケージのボードゲームを持ち上げると、阿呆は自信満々にこちらに振り向いた。
「ダメよ、絶対ダメ。 私たちの命がかかってるんだから!」
「えー、だからこそ私が……」
遮る。
「コガラさんは、頭がいいですよね。 お任せしても大丈夫ですか?」
私はゲームは、というより、頭を使うものは大体得意ではない。
ゆずは、たとえ得意だったとしても命運を握らせるのは、その手はあまりにも小さすぎた。
申し訳ないが、最も勝つ可能性が高いのはコガラさんである。
「ええ。 大丈夫ですよ! 三千年エルフの実力を見せてあげましょう」
こちらに、親指を立てている。
〇
コガラさんが吟味する。
おもちゃの山をかき分けて、最も心を惹かれるものを探しているようだ。
ガラガラと音がしていて、色々なおもちゃやらゲームが出てくるので、退屈しない。
うずうずしているゆずを落ち着かせていると、突如、コガラさんの手が止まる。
「あっ! これ、師匠が好きだった奴だ」
一瞬、ゆずみたいになったような気がした。
「まあ、それになさるのですね」
コガラさんが取り出したのは、カードゲームの空き箱であった。
すでに開封されたであろうものであり、中身はおそらく空っぽだろう。
「でも、コガラさん、デッキが無いんじゃないですか……?」
私でさえ、カードゲームにはデッキが必要なことは知っている。
コガラさんがにやりとする。
「すずさん、バッグに宝箱があるでしょう」
……まさか。
バッグから宝箱を引っ張り出す。
床に置くと、かなり大きな音がする。
「えぇっとぉー。 ああ、これですね」
乳白色の小箱が出てきた。
コガラさんもカードゲームするんだ。
「では、はじめましょうか……」
そういうと、敵もポケットからデッキを取り出した。
「ちなみに、このゲームは、私が最も得意とするゲームの一つですよ!」
逃亡者が荷物におもちゃを入れる余裕があるのか甚だ疑問だったのだが、そういえば、コガラさんは家を捨てたということを思い出した。
〇
テーブルに視線を戻すと、なぜかすでにカードゲーム用のテーブルに変化していた。
いくつかのマス目があり、おそらくカードをここに置いたりするのだろう。
「では、願い事を決めてもらいましょう。
最初に言った通り、私の能力は、勝者の小さな願いをかなえるもの。
発動のためには、両者が願いを宣言しなければならないのです」
コガラさんがこちらに視線を持ってくる。
「どうしますか?」
「『小さい』の定義が分かりませんが、できるのなら、安全にメオリダまで移動させてほしいです。
たぶん、このくらいならできると思います」
「わかりました。 ゆずさんはそれでいいですか?」
少し不服そうに
「本当は五千億エメラルくらいほしかったけどね」
と、ゆず。
話を聞いていなかったのか、それとも五千億エメラル(つまり約五千億円)ははした金だと思っているのだろうか。
どちらにせよ、ゆずが阿呆であるということの証明には十分すぎる返答であった。
「決めたようね。 では、願いの宣言です。
私の願いは『ここに警護団を呼び出し、懸賞金を得る』ね。
賞金稼ぎですもの」
「では私は、『メオリダの治安管理局への瞬間移動』で平気です」
突如、机からたくさんの電子的なヴィジョンが浮かび始めた。
「それでは……」
「「決闘っ!!!」」
それは、共通の挨拶なのか、それとも今ここで生み出された決闘者同士の奇遇なのかは、私には知る由もなかった。
〇
浮かび上がったヴィジョンには、
経過:
残機:二十
遊星:なし
と表示されている。
とりあえず、意味不明である。
かろうじてわかるのは、残機がヒットポイントをあらわしているかもしれない、ということだけだ。
となりには、多種多様なダイスがいくつも入った小物入れと、二色のメダルの山が両者に用意されている。
さて、いったいどんなゲームなのか。
〇
二人がデッキを切り終わり、デッキを置いた。
「うぅん。 楽しみですね」
コガラさんが非常に大量の神秘を流している。
おそらく本気なのだろう。
そういえば、いままでコガラさんの本気を見たことはなかった。
コガラさんと戦ったことはないけれど、なんとなく、コガラさんを本気に出来なかった自分が悔しい。
「すず、私、全然わかんないから解説してね」
いや、私もしらない、と言ってやりたかったが、この場においてそれは無粋である。
快く引き受けるのが、戦えない傍観者のせめてもの贖罪である。
ふたりがダイスを手に取り、手元で、繊細で豪快に解き放った。
「ダイス・ロール!」
コガラさんの袖から、シマエナガと宝石の付いたブレスレットがちらりと見えた。
コガラさんと同様に、乳白色に光を放っている。
これがきっと、コガラさんの玉の枝なんだろうな。
手元からテーブルへと視線を移す。
出た目は、敵が三、コガラさんが七だった。
「では、先攻をいただきましょう」
デッキをテーブルの右端に設置し、五枚のカードを手元に。
「……そういえば、自己紹介がまだでしたね。
私はティエル=ノーブル。普通の賞金首狩りです」
「私は、エルフのコガラですよ」
〇
「ねえ! 今はどっちが優勢なの!?」
早速ゆずが騒がしい。
「まだ始まったばかりでしょ。 しばらく静かにしましょう」
おそらくコガラさんは本気なのだろうが、なぜか目隠しを取らないのが非常に気になる。
「私のターンです」
コガラさんのターンだからか、コガラさん側のテーブルが、ファンタジー的に光っている。
周りのオシャレな小物もすべてお手製なのだろうか。
そういえば、私が通っていた大学にも「遊戯主義者の会」なるボードゲーム部があった気がする。
〇
「ダイス・ロール!」
それ、さっきもしてなかった?
しかし、今度は先ほどとは違い、ダイスの出た面が光った。
「すごい! すず、今の見た? ぴかってしたよ!」
「ふふっ。 私は、やっぱり運がいいんですよね」
出た目は九。
それと同時に、コガラさんの真横にあるカウンターヴィジョンの「遊星」の数値がゼロから九に上がった。
コガラさんはダイスを、丸い印のつけられた箇所に置く。
「では、三コストで『蝸蟄』を召喚」
机から、赤いオーラがあふれ出し、先ほどのカウンターと同様のヴィジョンを生み出す。
こんどは、かわいらしい、羽の生えたカタツムリだ。
あくびをしている。
カタツムリがあくびをするか否かは、今の論点ではない。
「どう、いいでしょう? 私の能力。
こうやって、ゲームの中にあるものを実体化させることもできるの。
というか、そっちがメイン。」
私の目線に気が付いたのか、ゆずの阿呆な声に反応したのか、ぺらぺらと語り出すティエル氏。
随分と応用の聞きそうな能力だな。
無視して、コガラさんがプレイを続行。
「つぎに、手札から『欲望の代償』を発動」
カードをテーブルに置くと、封印のお札に書かれているようなエフェクトが発生して、相手側のテーブルまで伸びた。
「ほう、そういう感じですか……
ニッチなカードを使うんですねぇ」
「そっちの方が楽しいでしょう? ゲームは楽しんだもの勝ちです」
なにか、面白いことが起こっているのだろうが、私にはさっぱりわからない。
「では、山札から紙牌を五枚、手札に加えてください」
コガラさんはすでにカードをドローしている。
「では、遠慮なく」
「その後、全員の手札三枚につき、一点の残機を減らします」
能力の解説が終わると、二人の残機カウンターから、数字が引かれていく。
コガラさんの手札は八枚、ティエルの手札は十枚。
つまり二点と三点が引かれた。
「そして、ここで『蝸蟄』の効果を使用します。
自身を解放状態にすることによって、山札から『蝸蟄』を除いた星三の紙牌一枚を回収できます」
コガラさんが、カタツムリのカードを横向きに倒した。
「ふふっ。
しかし『欲望の代償』の制約で、このターン中、あなたは手札からカードを使えませんよ」
「その後、この紙牌を場に設置して手番を渡します」
場には、裏向きのカードと、眠るカタツムリが表示されている。
〇
「それでは、ターンをいただきますね。
ドロー」
「ちょっと、コガラさんはドローしてなかったよ! ズルだ!」
ゆずの怒声が、架空の空間に響いている。
「ああ、お連れの方たちはルールをご存じでないのですね。
では、説明しながらやりましょうか。 いいですよね、コガラさん?」
「ええ、もちろん。 お二人も、彼女を倒したら終わったら一緒にやりましょうね」
もう勝った気になっている。
が、それがいい。
「では、そのまま私のターン。 先攻のプレイヤーはドローできないのです。
それでは、えいっ」
相手もまた、サイコロを回す。
出目は五。
「まあまあ、ってところですかね」
「ふっ、なんだ雑魚じゃん」
ゆずが、再びちょっかいを掛ける。
「いいですか、お連れの方。
カードゲームというものは、運だけでなく、運が無い時のリカバリーができてないと生き残れませんよ」
すでに、場にはカードが出されている。
カウンターの「遊星」の項目の数値が、すでにゼロになっている。
「このゲームでは、遊星 と呼ばれるコストを消費して式神を召喚するのです。
そして、召喚した式神を魔法でサポートしたり、レイズして攻撃力を上げたりして、相手の残機を削り取るのです。 では、五つの遊星を消費して召喚『迷宮の生ける屍』」
今度は、地面を突き破って逆三角形のマスコットが召喚された。
可愛い顔で、唸り声をあげている。
’ー’ < うわぁぁ
「さらに手札から魔法カード『死体の攻撃』を発動!
デッキトップから五枚のカードを墓地へ送り、内一体をコストを支払わずに召喚できるわ」
次に出てきたのは、巨大な爆弾の発射装置を担いだクモだった。
「そして、式神が墓地から出された際、『迷宮の生ける屍』の効果が発動するわ。 その式神の攻撃力、守備力を一上げる。」
カードの上に、コインが一枚置かれた。
「『ランチャー・スパイダー』ですか…… 少々厄介ですね」
なにが厄介なのかは、見てからのお楽しみ、ということか。
「出した式神は、そのターン中は攻撃ができないわ。 ターン終了です」
ターンはコガラさんに移る。
「ねえ、すず。 今はどっちが有利? カードは敵のやつの方が多いよ!」
私に聞かないでよ……
目の前にうまい人がいるでしょ……
「わかんないけど、まだ勝負は始まったばかり、ということはわかる」
両者の「経過」の数値が一ずつ増えている。
次回
敵の強力なカードたち。
コガラさんの知性と戦術。
打開と障壁。
次回もお楽しみに。




