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悪に正義を、阿呆に脚光を!  作者: 広炉ひろ
第三章:乙女奔走編
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17/25

第十七話:オポチュニスト・逃避行7/紙牌と決闘者。

前回までのあらすじ


森を歩く一行。

森を抜ける一行。

平原を歩く一行。


〇


森を抜け、気づかぬ間に山も抜け、残るはこの平原だけである。

土で舗装された道以外には、特に何もない。

「うひゃぁー。 暑いねぇ」

右手で、効果があるのかわからない扇ぎ方をしながら、ゆずがつぶやく。

「じゃあ、その上着脱いだら?」

黒は光を吸収するそうで、見ているだけで暑そうだ。

「いや、それがさ、この服自体は、別に関係なさそうなんだよね。

魔法の力かな?」

「言われてみれば、そうかもね……」

私だってかなり重ね着しているが、そのわりには、案外暑さを感じない。

「いいところに気が付きましたね。

ゆずさんの予想の通り、ほとんどの市販の服の糸には、作る際に魔法が編み込まれているんですよ」

「そこまでするなら、体温調節もしてほしいものですね」

そこまで熱くはないけれど、一応服の隙間でぱたぱたと風を起こしておく。

「あるにはありますけど、ブランドものですから結構高いんですねぇ」

しばらく、歩く。

ただただ開けた平原にはところどころ、いわゆるモンスターというやつが這ったり走ったりなんなりしている。

私たちには、一切興味を示していない。

私の強そうなオーラを怖がっているのだろう。

「何を見つめているのですか? もしかして、恋しちゃいましたか」

コガラさんが、こちらに気づいて、後ろ向きに歩き始める。

いや、それは目隠しの有無にかかわらず危険なのではなかろうか。

「違いますよ。 なんか、あっちのほうに変な生き物がいっぱいいるなぁって思って」

ここから五十メートルほど先の距離にいる巨大なメンダコのような生物を指さす。

魔法やら、能力者やら、エルフやら散々ファンタジーの王道を行くものばかり見てきたので、いちいちこんなものに驚いたりはしないことにする。

「うひゃぁ~。 ぶよぶよー」

「あれは、メンダコですね。 防御力と瞬発性が結構高いです」

メンダコって名前なのかい……

「あ、私わかっちゃいましたよ!」

阿呆なゆずが、人差し指を立てている。

「まず、あいつはその二つの能力が高いから、倒すのが難しいんですね?」

「はい、そうですね」

一瞬の間。

「つまり、強いあいつを倒すことで、経験値がいっぱいもらえて、ちょうどいいレベル稼ぎになるってことですね!」

きょとん、とコガラさんはゆずを見つめている。

「経験値……? まあ、言い方によってはそんな感じですが……

少し、不自然な言い回しのようにも聞こえますね」

たぶん、コガラさんは「経験し努力することで得られる成長性」という意味と勘違いしてそうだ。

そしてゆずが、いかにもこれから何かすごいことをする、という感じの顔をしている。

「まあ、見ててくださいよ! 行きます!」

「わくわく」

ゆずが手元に神秘を溜めて、思い切り振りかざして叫ぶ。

「〈情報解禁(ステータス・オープン)〉っ!!」

……沈黙。

「知らない魔法ですね…… あと、魔法を使うには、基本は杖が必要ですよ」

「あっ、そんなものなかったか」


〇


「でも、そのとおりですね。

あれを倒すことによって経験値、つまり経験は得られます。

せっかくだし、やってみましょうか」

コガラさんが神秘を絡ませた指をくわえる。

ぴゅーっという音が鳴り、巨大メンダコがこちらに気が付く。

他の動物たちは、巨大メンダコを避けるように逃げて行った。

「先ほど私は、防御力が高い、と言いましたが、それはあくまで一般人目線での言葉です。

神秘を上手に扱えているのなら、あの子を爆発四散させずに、いい感じにダメージを与えて退避させることができるはずですよ」

私が返答するよりも先に、ゆずが拳に神秘を溜めていた。

「さっきの失態を挽回するためにも、まずは私がやりますよ」

迫っては来るものの、メンダコなので鳴き声は無い。

「食らえ!〈狂気と憤怒(台パン)〉ッ!」

向こうまで、全速力で走り出した。

メンダコがゆずに気づき、防御の姿勢をとる。

ゆずが、メンダコの若干手前で動くのをやめ、上半身を乗り出し気味に、拳をメンダコに命中させる。

乾いた肉音が当たりに響く。

メンダコ側は、別に痛くはなかったようだが、びっくりして逃げて行った。

「まあ、お上手」

「でも、メンダコ逃げちゃいましたよ?」

「後で見つければよいのです。 時にすずさん。 今のゆずさんの神秘がどのように使用されていたかわかりますか?」

隣で見ていたので、よくわかる。

「拳に溜めていましたね」

即答する。

「それでも正解ではあります。 ですが、もっと大事なところを見落としていますよ」

わからない。

「では、答え合わせです。 正解は、足にも神秘を溜めていたんですよ」

「なんでですか?」

というか、なんでゆずはそんなことを知っているのだ。

「神秘を、足に集約させて強化し、同時に地面をつかむように這わせて、殴った後の反動を最小限に抑えていたんですよ」

やはり、師というのは弟子の成長が最もうれしいものなのだろうか。

「でも、私は教えていませんでいたね」

「じゃあ、どうやって?」

「おそらく、自然と体が動いたのでしょう」

なるほど、なかなか隅に置けない奴だ。

私は全く分からなかったし、そもそも神秘で衝撃を抑える、という発想がなかった。

「ちなみに、うまく使えばこんなこともできますよ」

コガラさんが、中指の第二関節に神秘を集めて、魔法の杖をぐるぐると回している。

ひと昔に流行ったハンドスピナーというやつのようだ。

「かっこいいでしょう」

遠くから、ゆずが走ってくる音がする。

「結局、メンダコ逃げちゃいました…… ごめんね、すず」

「いいえ、心配ありません。 メンダコよりも私の方が五百倍強いですから。

あとですずさんは、私と組み手をしましょうね♡」

「ゆずを超えます」


〇


その後は、舗装された道に戻り、何もない景色を楽しみつつ、しりとりをして時間をつぶす。

「うぅーん。 じゃ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

「うぁぁっ。 また『る』!? 全っ然、面白くないよぉー」

「ゆずが始めたんでしょ」

しりとりも続きすぎてきた。

無心で足を動かしていると、ゆずのお腹が鳴る。

「うひゃっ」

阿呆な声が漏れている。

「そういえば、お腹がすきましたね……」

昨日から、何も食べていないので当然である。

というか、まだ一日しかたっていないのか。

もう、三日くらいたっているのかと思っていた。

「そうですね、そろそろランチにしましょうか」

「師匠! あそこの木陰で食べましょう!」

ゆずが、大きな木を指さした。

虫が降ってきそうで嫌である。


〇


木陰に腰掛け、簡易的に精神を統一させることを試みる。

ぼけぇっとしていると、コガラさんが私のバッグから革製の袋を取り出した。

「はい、クッキーとメロンパン、紅茶です」

また、随分と日本の放課後チックなものを……

「おぉ、おいしそう」

手に取ろうとするゆずを、コガラさんが静止させる。

メロンパンを調伏するために、血の禊が必要なのだろうか。

「ちょっと待ってくださいね」

コガラさんが、魔法の胸ポケットをごそごそと漁っている。

「しっかり手を洗いましょう」

また、新しい魔法の杖が出てきた。

私のバッグに入っている十五本の魔法の杖は、一体何に使われるのだろうか。

「〈泡沫(アクア・フォーゲル)〉」

乳白色のオーラに包まれた杖の先から、透明な水が出ている。

なんだが不思議な光景である。

「これも、私の神秘が杖を通して変質したものですよ。

魔法っておもしろいでしょう」

「つまり、これは師匠の一部ってことですか……

私は今、師匠で体を洗っている……」


〇


手を洗った私たちは、あらためて木陰に腰を掛け、革袋から昼食を取り出す。

「では、気を取り直して、いただきます」

この世界における食べ物といえば、やはりもにゅもにゅとしたケーキたちが思い浮かぶ。

心の片隅に、どうせもにゅもにゅとした食感なのだろうな、という疑惑が払拭しきれずにいた。

しかし実際に食べてみると、あの食べ物たちが何だったのかよくわからないほどに、さくさくとしていて非常に食べ応えがある。

焼きたての様に温かく、くちどけも良い。

美食というのは、こういうことなのであろう。

「あーっ、なくなっちゃいました!」

「……私も」

気が付いたら、もうなくなっている。

「申し訳ないのですが、今日のお昼の分はそこまでですよ」

まあ、一応は逃亡者なのだし、しょうがないか。

ああ、早く目的地に着かないかなぁ。

ちなみにこのクッキーはどこで買えるのだろうか。


〇


太陽が、少々傾き始めた。

我々は、食べ物の残骸をバッグに詰め込んで再出発する。

「ああ、まだ食べたいよぉ」

私もまだ食べたい。

「もう、あれはないんですよねぇ

まあ、たぶん向こうの都市でも買えますよ」

「また、やるべき事が増えてしまった……」

眼鏡をすちゃり、とかけなおしている。

「ところで、コガラさん。 その都市とやらまではあとどのくらいあるんでしたっけ」

場合によっては、もう一回ほど野宿しなければならないのだろうか。

「さて、知りませんね。 あとちょっとじゃないですか?」

「え……? し、知らない!? じゃあ、今は適当に歩いてるってことですか!?」

我々は、推定五時間以上は歩いている。

もし、これで「実は、目的地反対側でしたー」ということになったら、私の精神は現実に追いつけなくなる。

「でも、よく考えてみてください。 こんな何もない平原で、唯一の舗装された道。

どう考えたって、どこかにつながっているに決まっています」

まあ、そうか。 たしかに、どこにも向かわない道をわざわざはそうする必要は、見当たらないな。

「そもそも我々は、最悪メオリダにつけなくても、どこか別の場所につくことができればどうにかなりますからね」

「まあ、喋ってても進まないので、とにかく歩きましょうか……」

そこでゆず。

「ねぇ! あの影、ハイネの門と壁みたいじゃない!?」

「あ、ほんとですね」

「やったー! あと少しか……」


〇


もちろん、現実はそううまくはいかない。

「お三方、待ってくださいなー」

後から、久々に第三者に接触される。

黒いドレスに、ハイヒール。

金髪の髪は毛先に近づくに連れて青みがかっている。

黒服の金髪がこの空間に二人いるのだが、不思議と似た者同士、という感じはしない。

「なんでしょうか、あなたは」

コガラさんが、杖を用意。

ゆずは、さりげなく私の前に立つ。

私は、とりあえず神秘を練って、それっぽいポーズをとる。

「あ、そんな…… 確かに、私はお三方の懸賞金が目当てで、ここまで参りました。

しかし、私は戦闘が得意ではありません」

「じゃあ、ここで私たちが火葬だけしてやるよ」

「ひっ。 少しお待ちください…… 私の能力に、殺傷力はございません。

だから、お話を聞いてください」

ゆずがこちらに目を合わせる。

たぶん、「お話聞いてあげようかな? どうしよう、すず。 私迷っちゃうわ!」

ではなく、「このメス豚の首をへし折るから能力の準備を」と言っている。

「では話だけは聞いてみましょう。 よろしいですか?」

「まあ、師匠がそういうなら……」

今度は、ゆずが師匠の陰に隠れる。

虎の威を借りる狐。


〇


「私は、正々堂々とあなたたちに勝負を挑みます。

それが、私の能力」

「というと?」

「私の能力は『ゲーム』

ゲームを行い、私の能力が再現可能な範囲の、その勝者の望みを叶えることができます」

非常に簡潔な解説が終了した。

「なるほど。 まあ、いいかな。 ばいばい」

意外だ。

ゆずなら飛びつくと思ったのだが。

「いいえ、『聞いた』時点で、それはもうできませんわよ……

そういう能力ですから」

ドス黒い、赤の神秘が辺りを包み込む。

「【遊戯の流儀(ボーダー・フェイク)】……

ふふっ。 ゲームは、もう始まってるの」


次回


敵の能力、「ゲーム」の攻略。

阿呆と知略。

一行は、無事、メオリダにたどり着けるのか。

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