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悪に正義を、阿呆に脚光を!  作者: 広炉ひろ
第三章:乙女奔走編
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16/25

第十六話:オポチュニスト・逃避行6/抜ける。

前回までのあらすじ


苦闘。

苦痛。

辛勝。

〇


敵が来るかもしれないという懸念から、我々は一時間ずつ交代で眠ることにした。

まずは、コガラさんが監視役に躍り出てくれた。

助かる。

「安心して眠ってくださいね」

そういって、コガラさんがほほえむ。

「それでは、恐れ多くもおやすみです」

ゆずの隣の木に寄りかかって、しばらく眠る。


△


たしかあの日は、掛け持ちしてたバイトが一個もなくって、珍しく暇だったんだよな。

それで、それなりに単位も取れていたし、ご褒美の意を込めて、自主休講を使ってたくさん遊ぼうと思ってた。

「にゅふふ…… ゲーム、漫画、アニメ、お洋服、本屋さん、カフェ、何でもできそう!

私は無敵になったのだ! ふへへへへっ」


木の影を踏んで、遊んでいる途中に、私は爆発か何かの衝撃を受け気絶していた。

そして、気が付くと、見知らぬ土地で倒れていた。

私が目覚めたときにはほかの人は全員倒れていたので、とりあえず隣にいた女の人に声をかけることにしたんだった。

でも、全然起きないから、馬乗りになって揺らしてみようかと思ったら、急に目が覚めて

「……ふにゃっ! 私は負けて死んだのか!?」

敵との戦闘のあとに、過去の記憶を思い返すのは、死にそうなやつのあれじゃないか。

葬魔刀……みたいなやつ。

思いっきり伸びをしようとすると、なにかに当たったので横を確認。

隣ですずが眠っている。

「いえいえ、あなたがやっつけたんですよ」

コガラさんは、火が付いた魔法の杖であたりを見張っている。

やっつけた……?

「ああ、そうだった。 眠ってたから、すこし忘れてたかも……」

確か、全力で股を蹴り上げたんだっけ。

でも、女の人だったし、そこまでひどくはないでしょ!

されたことないから知らないけど。

少し、頭の中にある雑念を取り除く作業に集中。

「ねえ、師匠。 すずはなんて言ってた?」

師匠がにやける。

「めっちゃ褒めてましたよ」

私もにやける。


〇


……揺れている。

「すずさん、おはようございます。 昨夜はぐっすりでしたね」

「ふぁっ、敵襲ですか! 皆殺しですね!」

寝起きで、うまく体が動かない。

それに、木に寄りかかる形で眠りこけていたので、腰も痛い。

「違いますよ、出発です」

「えっ。 私は、今起きましたよ。 敵襲でないのなら、今度はコガラさんが寝るのでは?」

これでは、私はただ眠っていただけの阿呆ではないか。

「心配ご無用です。 私の種のエルフはもともと、森に生息することに特化した戦闘民族です。

三日ほどなら寝ずに動けますよ」

「すごっ! かっこいい!」

「何がカッコいいの?」

眠ったほうが心地が良いではないか。

「⋯⋯戦闘民族、とか?」


「さて、ちゃちゃっと行きましょうか。

このあたりの居場所はもうバレてます。

そんなに長居してると、また戦闘になっちゃいますよ?」

昨日もそんなことを言っていたっけ。

「それはもちろんそうするつもりなんですけれど……

なんでゆずはコガラさんにおんぶされてるんですか?」

「昨日使った奴…… 〈アマリリス・リリース〉ってんだ。

能力はその名の通り、身体能力のリミッターを解除するんだよね。 

だから、能力を解除すると、筋肉痛で動けなくなる」

スライムみたいというか、軟体動物みたいというか。

コガラさんは真っ白だし、ゆずは金髪なのでなんだか卵掛けごはんにも見える。

さらに私が上に乗れば、海苔卵かけごはんになる。

「それじゃあ、れっつごー」

「おー」


〇


敵を倒したからといって、場所が変わるわけではない。

それはわかるけども、さすがに森は飽きてきた。

一応、足元にはかわいい顔つきキノコがたくさん咲いていたり、キラキラが大量に張り付いた洞窟なんかもあるのだが、逃亡中の人間に、それらとじゃれあうほどの猶予はないのであった。

「師匠! 見てみて、野生のプリンだよ!」

野生のプリンが、キノコの上で跳ねている。

キノコに着地するたびにぴちゃぴちゃと言っていて面白い。

「そうですねー。 でも、あれは市販品と違って毒抜きされていないので、食べちゃだめですよー」

「まじかぁー」

プリンは、我々を引き留めるかの様に、いつまでもぴちゃぴちゃとし続けた。


プリンの生息地と思しき場所から歩いて約三十分。

木々は一層生い茂っており、あたりは薄暗くなり始める。

不気味な生物たちの遠吠えが聞こえてくる。

「ここからは、ちょっと危険ですね。

攻撃的なワイバーンや、素早いハチがいっぱい出てきます」

「雑魚モンスターみたいな名前ですね!」

なぜかはしゃぐゆず。

「いえ、結構強いですよ。 わたしは、怖くて近寄れません」

珍しく弱気である。

「ま、まあ魔法使えばイチコロですけでね」


そんな、物騒で他愛もない話をしていると、空がより一層暗くなる。

「師匠ー。 なんか、いきなり暗くないですかぁ?」

「あぁ、これは……」

意味ありげな沈黙。

まあ、だいたいわかっちゃうのだけれど。

「攻撃的なワイバーンの群れですね」

羽ばたく音が幾重にも重なって、空気がよどんでいる気がする。

「さすがにこの数はちょっとだけ結構厳しいかもですねぇ」

どっちなんだ。

「本当のことを話しますと、私、魔法は結構自信があります。

なかなか、私よりの右に出る魔法使いはいないと思っています」

「じゃあ、何がダメなんですかぁ!」

「私、運動神経が無いんですよ!」

……なんだそんなことか。

「大丈夫ですよ、私だって無いです!

でも、ラクリマの強化があるから……」

遮り、コガラさんの主張。

「違うんです! 強化込みでも、今のすずさんの半分、あるかどうかなんです」

それはちょっと、困るかも。


〇


一斉に逃げ出す二人と、おんぶされた一人。

「めっちゃ追ってきますよ! どうします!?」

「そういうときはこれです。 あっ、あっ、やべ。

ゆずさんに引っかかって取れませんーっ」

「ごめんなさぁい! でも捨てないでー」

一瞬、捨てるか迷った。


コガラさんの体から突起している杖を引き抜く。

そして手渡そうとした。

「すずさん、あなたがやってみてください!

それ、簡単なやつですから」

えっ、私がみんなをピンチから救うってこと?

習ったこともない魔法をつかって。

「む、無理ですよ! だって、私、魔法のこととか全然わかんないですし……」

「すず、そんなこと言ってる場合じゃないよ!

私のためだと思って、早く魔法を撃ってぇー」

「でも、知らないもん!」

走りながらも、杖を回して眺めてみる。

私の手に流れる微弱な神秘の反応しているのか、薄く赤に光っている。

「適当に、それっぽい台詞を言って、思いっきり振ればいいですーっ」

そんなこと言われたって知らないよ……

ああっ、しょうがない。

「くらえーっ! 〈たぶん死ぬ魔法(キルミーベイベー)〉っ」

突如、杖の先っぽから、神秘のレーザーのようなものが放出される。

撃つ時間に比例して体力が減っていく。

「うぉーっ。 すずかっこいいー」

放った渾身の魔法が、偶然一匹のワイバーンに命中する。

「あ、当ったた! コガラさん、当たりました!」

しかし、とくに何も起こらない。

びっくりしたワイバーンはどこかへ飛び去って行った。


〇


「なんで、何も起こらなかったんですか?」

こんな光弾を正面から浴びて、何も起こらないだなんてことがあっていいのだろうか。

「魔法名を叫ぶだけじゃ、魔法は使えませんからね。

さっきのはいわば神秘を、杖に通して飛ばしただけですから」

レンズに光を照射するイメージが脳裏に浮かぶ。

「でも、コガラさんは、杖がいっぱいあって、なんかいっぱい魔法を使うじゃないですか!」

また、胸元から杖が出てくる。

指揮棒のように振っている。

「では、質問です。

杖とは、どのような役割があるでしょう。

一番、雰囲気作り

二番、杖ごとに使用可能な導があり、神秘を通すことで、導を変化させることができる

三番、魔法を杖にストックして、杖ごとに使い分けて魔法を発動できる

さて、どれでしょうか」

まず、一番の雰囲気作りは無い……と断言したいのだが、初めてコガラさんに説明を受けたとき、能力名のかっこよさが大事、と言っていたのでもしかしたら関係あるのか?

だとしたら、やはりひっかけは二と三に……

「わかった! 全部です、師匠!」

はっ、そんなわけないだろう。

「正解です! さすがですね、ゆずさん」

うぅ、またダメだった……

「今、すずさんに挙げたのは、増幅型と降霊型が使える新品の杖です。

松明の魔法と一緒に、特訓しましょうね」

増幅型使えるのに増幅型のオプションなのか……と思ったのだが、おそらく自分の型と合ったものでないと勝手がわからないから、ということだろう。

「えぇーっ! 師匠、私には!?」

ゆずがコガラさんの上で遠慮しながら暴れている。

「大丈夫ですよ、あります」

ゆずが静止。

「やったー」

「じゃあ、いったん降ろしますね」

「はーい」


ゆずが木にかけられている。

「えぇっと。 ああ、これですね」

コガラさんは、内側の胸ポケットから杖を取り出す。

「降霊型と操作型が使えるやつです。

二人とも、特訓がんばりましょうね」

「「おー」」

ふたりで同時に呼応。

「ところでゆず、もうそろそろ一人で歩けるんじゃない?」


〇


かくして、我々はふたたび歩き出した。

ゆずは魔法の杖を振ったり、技名を考えたり、眼鏡のチェーンにひっかけて遊んでいる。

というか、能力名、技名、魔法名と、能力者は考えないといけないことが多いな。

いや、技名はコガラさんの受け売りだっけ。

「おや、なんか、木の密度が薄くなってますね」

「えっ!? どゆこと?」

「そろそろ、森が抜けられるってことじゃない?」

追手との邂逅は一度だけであった。

かなり順調な逃亡だ。

「ええ、どうやらそのようですねぇ

山の低い高低差が低い場所を超えてきたようですね」

つまり、山に気づいていなかったということか。

コガラさんが、遠くを見つめている。

その目隠し、私も付けてみたくなってきた。

「お疲れ様です、お二人とも。 どうやら、森は無事攻略です」

コガラさんが親指を立てて、こっちに突き出している。

「やったーっ!」

一目散に走り出すゆず。

追いかけて私。

「これで、自由だーっ」


〇


辺りは草と太陽の平原であった。

次回


ついに森を抜けた一行。

しかし、抜けたのはまだ、「森」のみである。

メオリダまで、あとすこし。

次回もお楽しみに。

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