第十六話:オポチュニスト・逃避行6/抜ける。
前回までのあらすじ
苦闘。
苦痛。
辛勝。
〇
敵が来るかもしれないという懸念から、我々は一時間ずつ交代で眠ることにした。
まずは、コガラさんが監視役に躍り出てくれた。
助かる。
「安心して眠ってくださいね」
そういって、コガラさんがほほえむ。
「それでは、恐れ多くもおやすみです」
ゆずの隣の木に寄りかかって、しばらく眠る。
△
たしかあの日は、掛け持ちしてたバイトが一個もなくって、珍しく暇だったんだよな。
それで、それなりに単位も取れていたし、ご褒美の意を込めて、自主休講を使ってたくさん遊ぼうと思ってた。
「にゅふふ…… ゲーム、漫画、アニメ、お洋服、本屋さん、カフェ、何でもできそう!
私は無敵になったのだ! ふへへへへっ」
木の影を踏んで、遊んでいる途中に、私は爆発か何かの衝撃を受け気絶していた。
そして、気が付くと、見知らぬ土地で倒れていた。
私が目覚めたときにはほかの人は全員倒れていたので、とりあえず隣にいた女の人に声をかけることにしたんだった。
でも、全然起きないから、馬乗りになって揺らしてみようかと思ったら、急に目が覚めて
「……ふにゃっ! 私は負けて死んだのか!?」
敵との戦闘のあとに、過去の記憶を思い返すのは、死にそうなやつのあれじゃないか。
葬魔刀……みたいなやつ。
思いっきり伸びをしようとすると、なにかに当たったので横を確認。
隣ですずが眠っている。
「いえいえ、あなたがやっつけたんですよ」
コガラさんは、火が付いた魔法の杖であたりを見張っている。
やっつけた……?
「ああ、そうだった。 眠ってたから、すこし忘れてたかも……」
確か、全力で股を蹴り上げたんだっけ。
でも、女の人だったし、そこまでひどくはないでしょ!
されたことないから知らないけど。
少し、頭の中にある雑念を取り除く作業に集中。
「ねえ、師匠。 すずはなんて言ってた?」
師匠がにやける。
「めっちゃ褒めてましたよ」
私もにやける。
〇
……揺れている。
「すずさん、おはようございます。 昨夜はぐっすりでしたね」
「ふぁっ、敵襲ですか! 皆殺しですね!」
寝起きで、うまく体が動かない。
それに、木に寄りかかる形で眠りこけていたので、腰も痛い。
「違いますよ、出発です」
「えっ。 私は、今起きましたよ。 敵襲でないのなら、今度はコガラさんが寝るのでは?」
これでは、私はただ眠っていただけの阿呆ではないか。
「心配ご無用です。 私の種のエルフはもともと、森に生息することに特化した戦闘民族です。
三日ほどなら寝ずに動けますよ」
「すごっ! かっこいい!」
「何がカッコいいの?」
眠ったほうが心地が良いではないか。
「⋯⋯戦闘民族、とか?」
「さて、ちゃちゃっと行きましょうか。
このあたりの居場所はもうバレてます。
そんなに長居してると、また戦闘になっちゃいますよ?」
昨日もそんなことを言っていたっけ。
「それはもちろんそうするつもりなんですけれど……
なんでゆずはコガラさんにおんぶされてるんですか?」
「昨日使った奴…… 〈アマリリス・リリース〉ってんだ。
能力はその名の通り、身体能力のリミッターを解除するんだよね。
だから、能力を解除すると、筋肉痛で動けなくなる」
スライムみたいというか、軟体動物みたいというか。
コガラさんは真っ白だし、ゆずは金髪なのでなんだか卵掛けごはんにも見える。
さらに私が上に乗れば、海苔卵かけごはんになる。
「それじゃあ、れっつごー」
「おー」
〇
敵を倒したからといって、場所が変わるわけではない。
それはわかるけども、さすがに森は飽きてきた。
一応、足元にはかわいい顔つきキノコがたくさん咲いていたり、キラキラが大量に張り付いた洞窟なんかもあるのだが、逃亡中の人間に、それらとじゃれあうほどの猶予はないのであった。
「師匠! 見てみて、野生のプリンだよ!」
野生のプリンが、キノコの上で跳ねている。
キノコに着地するたびにぴちゃぴちゃと言っていて面白い。
「そうですねー。 でも、あれは市販品と違って毒抜きされていないので、食べちゃだめですよー」
「まじかぁー」
プリンは、我々を引き留めるかの様に、いつまでもぴちゃぴちゃとし続けた。
プリンの生息地と思しき場所から歩いて約三十分。
木々は一層生い茂っており、あたりは薄暗くなり始める。
不気味な生物たちの遠吠えが聞こえてくる。
「ここからは、ちょっと危険ですね。
攻撃的なワイバーンや、素早いハチがいっぱい出てきます」
「雑魚モンスターみたいな名前ですね!」
なぜかはしゃぐゆず。
「いえ、結構強いですよ。 わたしは、怖くて近寄れません」
珍しく弱気である。
「ま、まあ魔法使えばイチコロですけでね」
そんな、物騒で他愛もない話をしていると、空がより一層暗くなる。
「師匠ー。 なんか、いきなり暗くないですかぁ?」
「あぁ、これは……」
意味ありげな沈黙。
まあ、だいたいわかっちゃうのだけれど。
「攻撃的なワイバーンの群れですね」
羽ばたく音が幾重にも重なって、空気がよどんでいる気がする。
「さすがにこの数はちょっとだけ結構厳しいかもですねぇ」
どっちなんだ。
「本当のことを話しますと、私、魔法は結構自信があります。
なかなか、私よりの右に出る魔法使いはいないと思っています」
「じゃあ、何がダメなんですかぁ!」
「私、運動神経が無いんですよ!」
……なんだそんなことか。
「大丈夫ですよ、私だって無いです!
でも、ラクリマの強化があるから……」
遮り、コガラさんの主張。
「違うんです! 強化込みでも、今のすずさんの半分、あるかどうかなんです」
それはちょっと、困るかも。
〇
一斉に逃げ出す二人と、おんぶされた一人。
「めっちゃ追ってきますよ! どうします!?」
「そういうときはこれです。 あっ、あっ、やべ。
ゆずさんに引っかかって取れませんーっ」
「ごめんなさぁい! でも捨てないでー」
一瞬、捨てるか迷った。
コガラさんの体から突起している杖を引き抜く。
そして手渡そうとした。
「すずさん、あなたがやってみてください!
それ、簡単なやつですから」
えっ、私がみんなをピンチから救うってこと?
習ったこともない魔法をつかって。
「む、無理ですよ! だって、私、魔法のこととか全然わかんないですし……」
「すず、そんなこと言ってる場合じゃないよ!
私のためだと思って、早く魔法を撃ってぇー」
「でも、知らないもん!」
走りながらも、杖を回して眺めてみる。
私の手に流れる微弱な神秘の反応しているのか、薄く赤に光っている。
「適当に、それっぽい台詞を言って、思いっきり振ればいいですーっ」
そんなこと言われたって知らないよ……
ああっ、しょうがない。
「くらえーっ! 〈たぶん死ぬ魔法〉っ」
突如、杖の先っぽから、神秘のレーザーのようなものが放出される。
撃つ時間に比例して体力が減っていく。
「うぉーっ。 すずかっこいいー」
放った渾身の魔法が、偶然一匹のワイバーンに命中する。
「あ、当ったた! コガラさん、当たりました!」
しかし、とくに何も起こらない。
びっくりしたワイバーンはどこかへ飛び去って行った。
〇
「なんで、何も起こらなかったんですか?」
こんな光弾を正面から浴びて、何も起こらないだなんてことがあっていいのだろうか。
「魔法名を叫ぶだけじゃ、魔法は使えませんからね。
さっきのはいわば神秘を、杖に通して飛ばしただけですから」
レンズに光を照射するイメージが脳裏に浮かぶ。
「でも、コガラさんは、杖がいっぱいあって、なんかいっぱい魔法を使うじゃないですか!」
また、胸元から杖が出てくる。
指揮棒のように振っている。
「では、質問です。
杖とは、どのような役割があるでしょう。
一番、雰囲気作り
二番、杖ごとに使用可能な導があり、神秘を通すことで、導を変化させることができる
三番、魔法を杖にストックして、杖ごとに使い分けて魔法を発動できる
さて、どれでしょうか」
まず、一番の雰囲気作りは無い……と断言したいのだが、初めてコガラさんに説明を受けたとき、能力名のかっこよさが大事、と言っていたのでもしかしたら関係あるのか?
だとしたら、やはりひっかけは二と三に……
「わかった! 全部です、師匠!」
はっ、そんなわけないだろう。
「正解です! さすがですね、ゆずさん」
うぅ、またダメだった……
「今、すずさんに挙げたのは、増幅型と降霊型が使える新品の杖です。
松明の魔法と一緒に、特訓しましょうね」
増幅型使えるのに増幅型のオプションなのか……と思ったのだが、おそらく自分の型と合ったものでないと勝手がわからないから、ということだろう。
「えぇーっ! 師匠、私には!?」
ゆずがコガラさんの上で遠慮しながら暴れている。
「大丈夫ですよ、あります」
ゆずが静止。
「やったー」
「じゃあ、いったん降ろしますね」
「はーい」
ゆずが木にかけられている。
「えぇっと。 ああ、これですね」
コガラさんは、内側の胸ポケットから杖を取り出す。
「降霊型と操作型が使えるやつです。
二人とも、特訓がんばりましょうね」
「「おー」」
ふたりで同時に呼応。
「ところでゆず、もうそろそろ一人で歩けるんじゃない?」
〇
かくして、我々はふたたび歩き出した。
ゆずは魔法の杖を振ったり、技名を考えたり、眼鏡のチェーンにひっかけて遊んでいる。
というか、能力名、技名、魔法名と、能力者は考えないといけないことが多いな。
いや、技名はコガラさんの受け売りだっけ。
「おや、なんか、木の密度が薄くなってますね」
「えっ!? どゆこと?」
「そろそろ、森が抜けられるってことじゃない?」
追手との邂逅は一度だけであった。
かなり順調な逃亡だ。
「ええ、どうやらそのようですねぇ
山の低い高低差が低い場所を超えてきたようですね」
つまり、山に気づいていなかったということか。
コガラさんが、遠くを見つめている。
その目隠し、私も付けてみたくなってきた。
「お疲れ様です、お二人とも。 どうやら、森は無事攻略です」
コガラさんが親指を立てて、こっちに突き出している。
「やったーっ!」
一目散に走り出すゆず。
追いかけて私。
「これで、自由だーっ」
〇
辺りは草と太陽の平原であった。
次回
ついに森を抜けた一行。
しかし、抜けたのはまだ、「森」のみである。
メオリダまで、あとすこし。
次回もお楽しみに。




