第十五話:オポチュニスト・逃避行5/闘争
前回までのあらすじ
遭遇。
発見。
交戦。
〇
「たかが切り傷一創ごときで、随分とでかい口叩くのねぇ」
ゆずが沈黙を破る。
「お前みたいな馬鹿にはな、ちょっとばかし、強い言葉が必要なんだな」
敵は、神秘で生成した、青いナイフをくるくると回している。
一方私は、二人が戦闘を開始するより前に、木陰から立ち上がり、ゆずへとアイコンタクトを送る。
ゆずの目線の変化に気づいた敵もまた、隙を作らぬようにこちらを、ちらりと一瞥。
わざと、敵に聞こえるように大声でコガラさんに語りかける。
「お逃げくださいお姫様! ここはこのわたくしめが!」
「……(あっ そういうことですね)
はいっ、わかりました! 絶対に、無理はしないようにしてくださいね!」
そう言い残し、急いで森のどこかに消えるコガラさん。
彼女が今準備している攻撃用の魔法と呼ばれるものには、大きな溜めが必要らしいので、逃がして時間を稼ぐ。
「あら、追わなくていいワケ?」
わざと挑発。
「ふっ、あんな雑魚ごとき、お前らを死骸にした後で十分だ」
喋っている途中で、ゆずが飛び出す。
すかさず、ゆずの方向に体を向きなおし、応戦。
青いオーラを纏った拳が、ゆずのお腹を殴りつける。
若干後ずさりするものの、うまく神秘で防御したらしく、すぐに戦闘態勢に戻る。
もちろん私も応戦するために、小石を拾いあげ、敵へと向かう。
あとは、能力を発動して私をタッチすることで、能力の発動条件は達成される。
私の接近に気が付いた敵は、ゆずの攻撃を二発ほど食らいはしたものの、ゆずの攻撃から逃れる。
一度距離を取り直し、呼吸を整えている。
「二対一は卑怯だが、本番でそんなことはいってはいられねぇな。
まとめて相手してやるよ」
「人捕まえて、そのお金で生きてる奴も卑怯だけどね」
ゆずの肩に手を置く。
「さっさとぶちのめしてやりましょう」
〇
私が玉の枝能力を発動するのと、同時に敵が私たちの前で構えを取り出した。
今度はよく見える。
左手を開き、それぞれの指の上に、右手の指を乗せる。
すると、神秘の色が青から黒に代わっていく。
殴るか、蹴るために走り出すゆず。
しかし、それよりも早く、右手の指を左手に添わせて手のひらの上でくっつける。
「〈陥穽〉」
そう唱えると、神秘の色が一気に緑に変化した。
残留型……だったはずである。
「一番最初に、増幅型の〈疾走〉を切っちまったのが痛ぇなあ」
敵は、緑の神秘を周り一面にばらまいた。
シャボン玉のようにプカプカと浮いている。
「残留型の能力なのか……
ってことはたぶん、全部の系統の能力を使えるんだろうね」
「ご名答。 こいつは、触れたら爆発するぜ。
で、知ったところでどうすんの?」
ニヤリとこちらに視線を向ける。
敵は、腕に大量の神秘を貯めている。
これを壁にしながら神秘を溜めて、一撃で決めるつもりなのだろう。
「ふふっ、そんなの叩き潰すだけね!」
私のその発言と同時にゆずが飛び出す。
「はっ? 話聞いてなかったのか。 これは残留型の爆弾……」
「知らんね。 どうせ大したことないに決まってるよ。 それは時間稼ぎのためのブラフね!」
私に教えるためなのか、わざと敵の設置した攻撃に当たりに行く。
私が能力発動する暇もなく、ゆずの右腕が爆発する。
だがその威力は、殴られるのと遜色のない程だった。
「マジかよ…… 案外バレるの早かったな」
〇
「そろそろ、仕留めたいな」
腕の汚れを払うように、右の腕全体を振るう度に、火花のように緑の神秘が溢れ出す。
「お前は私に、耐えられない......」
そう言いながら、ゆずに目掛けて走り出す。
ゆずも、同じく応戦しようとする。
この時点で私は、この小石を敵の前に投げ飛ばし、戦闘の疲労が溜まりつつあるゆずに変わって受け止め、そのままゆずの本気の拳で決着をつけよう、と考えていた。
しかし、それを決行しようとしたその直前で、ゆずはこちらを見る。
手には、敵の血が付着した石を握っている。
「(なるほどね......!)」
その意図を理解した私は、手に握っていた小石をいい感じに投げる。
「今度は、カウンターを食らわせて…… っ!?
一体どこへ……?」
「こっちだよ!」
私の能力で、後ろに転送したゆずが、敵の後頭部に再び攻撃を入れる。
転送に慣れていなかったのか、ゆずは少々バランスを崩す。
敵に関しては、ある程度回復させたとはいえ、一度攻撃を受けた後頭部に再び攻撃を受けた。
倒れこみ痙攣している。
その隙を狙って、体勢を整えなおしたゆず。
「見ててね……」
直後、腰を落としたような姿勢をとる。
スロットによって何倍にも増えた神秘を、すべて脚部に集約させているようだ。
一方の敵は、よろける両足で立ち上がりはしたものの、まだうまく立てていない。
「うわぁーっ!」
奇声と共に、とてつもないスピードで敵の股を蹴り上げる。
そのまま、数十センチほど浮いた。
自身の設置した、小型の残留型能力にもいくつか被弾している。
もはや立つこともできずに地面に倒れこむ敵。
「……ッぐ、ひぐッ……! あぅ……ぅ」
しばらく土と戯れた後、涙と涎を流しながら、気を失って倒れた。
周りに漂う、敵の能力も消えていった。
〇
「ふぅ…… ふぅ……」
息が乱れ、ふらふらのゆずを抱き上げる。
私は神秘のことはよくわからないが、普段の数倍の量の神秘を練れば体が動かしにくくなるくらいの予測はできる。
「すごいじゃん。 さすがゆずだ」
「ふひひ…… ありがとね。 でも、もう無理ぃ~」
ぐったりと私に寄りかかって、全体重を乗せてくる。
「ああ! 重いってば!」
私たちは、敵を殺すためではなく、退けられれば良い。なので、彼女には、トドメは刺さずにしておく。
「そう、だ。 すず、あいつの……バッグからさ、身分証とか……役立ちそうな、ものを」
「もう喋んなくっていいよ。 ちょっと休憩してこっか」
ゆずを、近くの木に降ろしてあげると、すぐに寝てしまった。
ということで、敵から物色をする。
こういうとき、実は敵が起きていました、というのが一番恐ろしい。
棒でつついてみたり、瞼を開けてみたりもしたが、たぶん気絶しているのだろう。
「いやぁ、今日は私、なんもいいとこなしでしたねぇ」
攻撃魔法の準備を終えたコガラさんが、近くの木に寄りかかっているゆずを、つんつんと突いて遊んでいる。
「今日は、ゆずがめっちゃ頑張りましたからね」
「すずさんだって、負けていませんでしたよ? もう、息が合うようになっていて感動しましたよ。
……ところで、敵に馬乗りになって、何をなさっているんです?」
「えっ! ああ!これは、そーユーことじゃなくってですねぇっ......」
心なしか、少し喋り方がゆずに似た気がした。
〇
敵のポシェットに入っていたのは、お菓子、財布、身分証明書、望遠鏡、方位磁針、魔法の杖であった。
どうやらこいつの名前はティーク=クリックと言うらしい。
下の方に四級魔術師と書いてある。
私はどのくらいなのだろう。
「ああ、これは面倒なことになりましたねぇ」
「何がです?」
もしかして、このお菓子は麻薬だったりするのか?
「この杖、見覚えはありませんか?」
「ああっ!」
そうだ、これは、この前指名手配犯と戦うときにコガラさんが私たちに渡してくれた、連絡用の魔法の杖だ!
「ってことは!?」
「はい、ここにはあまり長くはいられません。 ……つまり、何度も言うようで悪いのですが、先を急ぎましょう」
ああ、せっかく少し眠れると思ったのに……
眠るゆずを抱きかかえて、我々はさらに森の奥深いところへと進んでいくのであった。
ちなみに、お金は十分にあることと、余計な因縁をつける必要はない、ということから、彼女の荷物には一切手を付けることはなかった。
思い切り股を蹴られたのだから、その時点で因縁にするには十分であるような気がしなくもない。
私なら、同じ目に合わせるに違いない。
〇
コガラさんが、魔法の杖を一本くれた。
「こうやって、しゅっと振ってみてください」
「こうですか?」
空回り。
「構えは良いですね。 今度は、神秘が熱くなるようなイメージを持ってやってみてください」
全身の力を抜いて、自分の体温を感じてみる。
さっき走り回ったばかりなので、少し火照っている。
「えいっ」
杖の先から、小さい炎が出てきた。
「いいですね。 呪文を覚えて練習すれば、もっと大きく強い炎も出せますからね」
「どうしてこれを?」
「あたりを見てみてください」
暗い。
そういえば、もう夜である。
「それはあげますよ! これからも隙間時間で練習しましょうね」
「がんばります」
「それでは、おやすみなさい」
「おやすみです。 ふたりとも」
かくして、私は一人目の追手の討伐に成功した。
しかし、これはただの賞金首狩りの一人である。
この先には、警護団やら、ほかの狩人たちも待ち構えている。
……ああ、早く寝よ。
◇ アイキャッチ
ティーク=クリック
能力名:【咎を科す霊石】
解説 :賞金首狩りの一人で、四級魔術師。
賞金首をとらえて稼いだお金で、玉の枝を購入している。
彼女は雑魚狩り専門であるが、本人は自分のことを一級の能力者だと信じている。
能力は、構えをとることで神秘の導を変更する特殊型の能力。
と言っても、すべての導を、それが本来の導であるようには扱えず、どれも中途半端なものになっている。 ちなみに、導を入れ替える度に、体力と外傷がある程度回復する。
この能力は本人曰く、様々な相手と戦うことになるから、種類はたくさんあればあるほどいいと思い作ったとの事。
彼女は雑魚狩りではあれど、その実力は本物である。
彼女に足りなかったのは、敗北する勇気であった。
構えは五種類あり
左手と右手をぴったり合わせて、手のひらをくっつけたまま四十五度以上回転させることで増幅型
左手の甲に右手の指先を乗せ、そのままずらして手のひらを乗せることで降霊型
左手の手のひらに親指を除いた四本の右手の指を乗せて、そのうち一本を手のひらから離すことで変質型
左手の指先に右手の指先を合わせて、そのまま左手から離さずに手のひらでくっつけることで残留型
左手の手のひらに、右手の好きな指二本を使って円を描き、左手を握りこむことで操作型
に変えることができる。
それぞれの導の応用した能力などは使用できず、つけるのは身体能力の増加や、簡易的な武器精製などの、単純で融通の利かないものばかりである。
しかし、それ故に使いやすい場面もある。
次回
まだまだ森を歩く一行。
危機と奔走。
親睦を深めよう。




