第十四話:オポチュニスト・逃避行4/変身
前回までのあらすじ
都市からの脱出は完了。
次なる舞台は、都市外の森。
迫る追っ手の魔の手。
〇
総意、迎撃。
「(小声で作戦を立てても齟齬が発生するものです。
三手に分かれるのでいい感じに察して合って、倒しましょう」
いい感じってなんなんだ、とは思いつつも他にいい解決策も思いつかないので腑に落とすしかなかった。
「(それでは、いきますよ。 三、二、一……ゼロー!)」
一で出るのか、ゼロで出るのかもわからないので、やっぱりそれくらいは決めたほうが良かったのでは、という疑念はぬぐい切れない。
〇
いきなり、ターゲット三人が全く関係のない方向に走り出すのだから、敵だってかなり焦るだろう。
混乱に乗じて、このままボコボコに殴り飛ばしてやろう。
いやぁ、しょうがない。 私を狙う悪い人なんだから。
「チッ 案外早く気づかれちまったな。
しょうがねぇ」
ああ、残念。
どうやら相当の手練れらしい。
全く焦っていないし、こちらの思惑は一瞬でバレたと言っていいだろう。
しかし、瞬間に私たちをしとめるつもりはないらしく、謎のポーズを取り始めた。
「【咎を科す霊石】ッ!」
赤いオーラを垂れ流しているので、増幅型か。
一瞬黒かったような気もするけど。
「〈疾走〉
死なない程度に叩きのめしやるよ……」
ああ、やばいなぁ。
これ絶対強いやつだ。
急に眼を閉じたのは、おそらく増幅の能力で聴覚やらなんやらの機能を増加させて私たちの場所を探っていたんだろう。
ちょうど足元に手ごろな石ころが落ちている。
神秘を付着させ、私が隠れているのとは向かい側の木へと石を投げ飛ばす。
「ああ、そっちに居るのか。 舐めやがって」
私が石を投げたほうに歩き出す敵。
キレながら無防備な背中をこちらにさらしている。
私が触手だったら今頃お前は苗床になっているぞ。
私は触手にはならないが。
〇
背後から飛び出す。
「くたばりやがれーっ」
渾身の神秘を、拳に込める。
「へへっ。 お前がな!」
残念ながら、私の作戦は見抜かれていたようであった。
そもそも、石を投げただけなので作戦と呼べるかも怪しい。
「んぐっ」
いともたやすく拳は避けられた。
敵の右足が、私のかわいいお腹を無慈悲に蹴り飛ばす。
まずい、早く能力を発動しないと。
「【果樹園の執行人】っ!」
敵の攻撃が完全に食い込む前に、投げた石との位置を交換できたので、ダメージはかなり抑えられただろう。 よろけてしまうのだが、立てないことはない。
「ほう…… ぱっと見は位置を変える能力っぽいね……
石を投げたことも加味すると、事前に設定した場所か、神秘でマーキングした物体との位置を変えるような能力だろうな」
ああ、一瞬で能力の神髄がニブイチにまで絞られてしまった。
もう、強がるしかない。
「どうやらただの雑魚じゃなさそうね。 褒めてあげるわ」
「あんたは、どうやらただの雑魚そうね。 早いところ私の娯楽費に変えてあげる」
言い終わる前に、蹴りを入れようとする。
しかし、それも防がれる。
「こっちは何人も狩ってんだから、やっぱり経験が違うよな」
そう言い終わるのと同時に今度は私が脚を蹴られる。
もちろん、バランスを崩す。
「安心しな。
殺すと、懸賞金が減ることもあるんだぜ」
「いいのかな? 私の能力を知らずにそんなことしちゃって。
もしかしたら、殴られるほどに強くなったりするかもよ?」
「は? 何言ってやがる。 どうせハッタリだろうよ。 時間稼…………」
「へっ、バーカ。 ぺちゃくちゃ喋りすぎたってーの」
かなりいいタイミングでゆずの拳の介入があった。
「へえ、案外いいパンチしてんな」
「まだ本気だしてないからねっ!」
「お互い様だな」
△
「【一剣二鎌三爆破】
『左手で私にタッチ』を『鈴寿すず』に宣言!」
これが私の考えた新技〈八百長捲り〉。
わざわざ敵の今後の動きを予知して宣言するよりも、自分の味方を対象にして条件を満たした方が速いと私は考えた結果、この技の発案に至った。
「ほう、面白そうな能力だな。
とりあえず、その『左手であんたにタッチ』ってのを達成させなければ良いと見た」
「ほんとにそうかなぁ? これを指定時間内に達成できないと発動する能力かもよぉ?」
「いやいや、それならこんな会話はせずにさっさと逃げればいいし、そもそもあんたのお仲間を能力の対象に選ぶ必要はねぇんじゃねぇか?」
ほう、こいつ、ちょっとだけ頭がいいようだ。
さっさと叩き潰さなくては。
「喰らえっ ただのキック!」
「こいつ見てなかったわけ? そんなの簡単に防げんだ……」
〇
二度目の隙。
「なんだ、大したことないじゃん」
手には、少し大きめの石を握っている。
滴る血。
「んん…… ああっ」
立ち上がろうとする敵を蹴り飛ばす。
「無理無理ぃ。 こんな石のフルスイングを後頭部に食らって、立てるわけないじゃん。
まあ、あんたほどの能力者なら」
「はぁっ。 はぁっ」
「大丈夫、平気だよ。 人殺しにはなりたくないから、急所は外しといた。
頭の何処が急所なのかはよく知らないけど」
「この……メス豚が……!」
「ははっ もう捨て台詞も絶え絶えじゃーん。
よくそんなんで賞金首狩りとか名乗れるね」
ゆずに馬鹿にされながら、敵は手元をお腹の下でごそごそとさせていた。
「あれあれぇ? そんなところで手、ごそごそさせてるって……
もしかして結構ヤバめの変態さんなんですかねぇ~。 自分がこれから野ざらしで森に放置されるのに興奮しちゃってるんですかぁ?」
「【咎を科す霊石】……」
今度は青色のオーラが流れだしていた。
「あれ、すず!? 導は一人一つなんじゃないの?」
「一人一つなのは、能力じゃなかったっけ?
でも、導は神秘の色なわけだから、こっちも一人一つなのかな」
いくら急所をはずしたとは言え、後頭部を石でぶん殴ってやったんだ。
さすがにこんなに早く建てるはずがない。
この能力、思った以上に厄介そうだ。
〇
「これが〈熾烈〉……
見てわかる通り降霊型の能力が使えるようになる。
おまけに、『変身』するたびに傷が少し回復するおまけもついてる」
わからなかったので助かる。
というか、変身するたびってことは、まだ何個か残っているのだろうか……
「でも、なんで二つの導を使えるワケ?」
「それを言っちゃったら、しょうがないじゃない。
ヒントはここまで。 さっきの一撃分の借りは必ず返すから」
「やってみなさいよ。 一度使った攻撃が私に通るとでも?」
もちろんそんな自信は湧くことすらない。
「すず! 早くタッチして!」
はっ、と思い出す。
そうだ、タッチできればゆずの能力は起動する。
「あんたら阿呆だな。 させるワケねぇだろ」
「なら、止めてみなよ」
〇
向こうに行ってゆずにタッチしたいのだが、敵が邪魔だ。
どうやって敵の攻撃をかわせば、ゆずのところまでたどり着けるだろうか。
「ちょっと、すず! 能力を使いなよ!」
「あっ、すっかり忘れてた」
敵の攻撃を防御して、能力の解析をして、防御されないように攻撃もして、なおかつ自分の能力も最大限生かさないといけないのだから大変である。
「【果樹園の執行人】っ!」
神秘を付けた小石を投げ飛ばし、能力を発動する。
「させるかよ!」
もちろん、敵は小石の方を向く。
馬鹿め!
能力を発動したからと言って位置が変わるとは限らないのさ!
猛ダッシュでゆずの方まで走り抜ける。
大きな木があるので、そこをぐるっと回れば敵が振り返っても問題ない。
もちろん、敵にはすぐに見つかりはしたものの、もはやどうにかなる距離ではなかった。
「タッチ!」
「あっ」
敵が自分の策略に嵌まってくれるのは、なんとも気分が良いものである。
「よしっ、スロット発動ーっ! なにがでるかなぁ?」
〇
この隙に攻撃されないか心配だが、スロットは一瞬で止まった。
スロットが出したナンバーは六だった。
途端、ゆずの体からとんでもない量の神秘が溢れでる。
「ふへへっ。 これだからギャンブルはやめらんないんだよねぇ!」
溢れ出す神秘が髪を揺らしている。
「へぇ、ちょっとは楽しませてそうじゃん……」
敵はもちろん、強がっている。
「これは、〈アマリリス・リリース〉。
見りゃわかると思うけど、身体能力の大幅な向上が能力だよ」
コガラさんほどではないものの、相当な量の神秘だ。
これなら、倒しきれるだろうか。
「覚悟しな。 今度は、そのポーズがとれないように腕をへし折ってあげるから」
「じゃあ、私はその綺麗な脚をいただこうかね!」
敵も負けじと神秘を大量に出し始める。
しかし冷静に敵を見てみると神秘の量は、最初の頃の私たちと比べて少し多い程度だ。
もしかして、たくさんの導を使える代わりに「構え」と「「神秘の量が少なくなる」という制約を設けているのだろうか。
それなら、導を入れ替えるタイミングさえ与えなければ、戦闘に向かない降霊型でなおかつ中途半端な神秘の量のこいつを、袋叩きにできる!
〇
私は、木陰に隠れてゆずの戦闘のサポートを行う。
もちろん、私はゆずに触れたことがあるので能力発動の対象にすることができる。
あとは、手ごろな小石や葉っぱも対象にして、ゆずの位置を変えて敵の攻撃を回避させればよい。
私が眺めている間、しばらく肉弾戦が続いた。
このタイミングで、なんの前触れもなく場所が入れ替われば、ゆずはバランスを崩してしまうかもしれない。
今の私にできる最善の選択は、ゆずを見守りつつ、ベストのタイミングで位置を入れ替えることだ。
現在は、神秘の量が多いゆずが若干優勢である。
優勢ならばいいか、とも思ってしまうがもう少し圧倒的な力で無双できても良かったと思う。
軸足に蹴りを入れ、右わき腹に一発入れられる。
次の攻撃は防御したはいいものの、がら空きになったお腹に神秘の籠ったパンチを喰らっている。
「やっぱり経験の差ってのは、単なるパワーだけじゃ覆せないんだよ」
「劣勢な奴が何言っても、無駄ってわからないかなぁ?」
三発ぶりに、ゆずの一撃が敵に入る。
かなり重い音がした。
「うへへっ。 君、能力いっぱい使えるようにしたは良いものの、結局うまく使いこなせてないで、全部中途半端になってるじゃん」
「うるせぇ! 降霊型が少し苦手なだけだ!」
そういうと、敵は再び構えを取り始めた。
もちろん、そんな隙を与えることなく、ゆずの強烈な蹴りが入る。
今度は綺麗に躱すも、躱した先ですぐにゆずのキックが入りそうになるので、構える時間は作れていない。
「チッ、やるしかねぇか」
練られた神秘が腕に集まっていく。
〇
戦闘から目を離さずに、位置交換のタイミングを狙う。
そうしていると、いつの間にか私の隣にコガラさんが座っていた。
「まぁ、ゆずさん、かなり成長しましたねぇ」
「うわっ。 いつの間に」
「すみません。 出ないほうが良いタイミングが多くって」
「大丈夫です。 いてくれるだけで心強いですから」
私たちが会話をしている間に、なぜか敵は一切の防御を辞めていた。
「怖くなっちゃったのかな? でも、君が悪いんだからね。 辞めないよ」
続く蹴り。 まるで乙女とは思えない。
「あっ。 ゆずさん! 下がってください!」
「えっ?」
よそ見をした隙に、お腹の表面の皮膚に切り傷ができている。
「苦手な導で、さらに即席ってことを加味したら、かなりいい出来じゃねぇかな?」
防御を辞めたのは、武器の生成に神秘を使いためだったのか。
流れるゆずの血。
それが地面につくよりも早く、魔法の用意をするコガラさん。
「前にも、そんな能力と戦ったからねぇ。 もう飽きたよ」
「でも、死ぬのは初めてだろ?」
緊張と静寂があたりに走る。
次回
敵の能力とは。
決着はいかに。
逃亡劇はまだ続く。




