第十三話:オポチュニスト・逃避行3/遭遇
前回までのあらすじ
逃亡経路確認。
逃走してどうする。
結界を抜ける。
〇
「やっぱりね、能力名にちなんでたほうがオシャレよね。
『ジャックポット』とか『アンリミテッドリール』とかさ!」
「でも、ゆずの能力ってどうやって応用するの?
発動のポーズに名前でも付けるワケ?」
「なによ!応用なんていっぱいできるんだからね!
たとえば…… そうねぇ………… えっとぉ………………」
もう足音しか聞こえんなくなってきているぞ。
「あっ! 今来そうだった! ちょっとだけいいアイディアが来そうだった!」
「教えてよ」
「…………」
足音すら消えそうであった。
そんななか、コガラさんが口を開く。
「お二人とも、盛り上がっているところ申し訳ないのですが、そろそろ最後の結界を抜けることになります」
「ということは、もう、私たちを守れるのは、私たちだけになるってことですね……」
ゆずが、珍しくまっとうなことを言っている。
「少し、怖いかもです」
「…………実は言っていませんでしたが、結界は内側から修復ができます。
そのため外側からこのレベルの結界を破ることは事実上不可能です。
つまり、私たちの指名手配が完全に抹消されるころまでここに引きこもれば、戦わなくても済むんです」
「いえ、大丈夫です、師匠。 私たちやれます。
ここにずっと閉じ込められてたら、権力の思うつぼのような気がして腹も立ちますし!
すずはどうする?」
「……はあ。 今ゆず、私たちって言ったでしょ?
わかってたくせに」
私だって、森に閉じ込められたくなんかない。
たしかに安全は魅力的ではあるものの、せっかく手に入れた能力を、新たなチャンスを酷使せずに、二度目の人生を棒にふるうのは、まっぴらごめんと考えた。
「私も、ここを出て、次の都市へ向かう。
その覚悟はできています」
「それでは、行きますよ……
気を抜けば、それはそのまま『死』につながりますからね」
縦に揺れる首元、踏み出す右足。
それは、侵入者を拒むためにあったとは思えないほど柔く、私たちの門出を歓迎した。
「サヨナラ。名も知らぬ森よ。 達者でね」
〇
結界の外の世界は、今までと変わらない。
そりゃそうである。
結界は死線でも川でもない。
「進みましょうか。 脅すようなことを言いましたが、お二人は私が命を掛けてお守りしますからね。
もとはと言えば、私が面倒くさがって納税しなかったのが原因ですから」
「でも、ゆずは警官をボコボコにしましたし、コガラさんだけが悪いわけじゃありませんよ」
「いえ、それがそうでもなくって。
この辺りでの殺人の罪の重さは二の次。 最も重い罪は、脱税なんです。
管理局の儲けが減りますから。
だから、本来なら対して仕事をしない上に替えが利く末端の警官への暴行程度の罪はそんなに重い罪にはなりません」
「ちなみに、コガラさんはいったい何円脱税したんですか?」
「管理局どころか政府の人間でさえ知る由もありませんが、だいたい二億エメラルです」
二億エメラル……ってことは二億円!?
一体どんだけ稼いだらそんなお金を稼げるのか。
というか、そもそもどんだけ稼いだらこんなに課税されるのか。
「なんで、そんなに膨大な量に……?」
「私の家は見ましたよね。 あそこに置いてあった魔法雑貨はすべて資産です。
つまり、あれら全てに税金が付与されるのです」
床を覆い隠すように積み重ねられた魔法雑貨達を思い出す。
「ちなみに、彼らは実際には何円脱税しているのかすら知らないでしょうが、さすがに二億なんて額はすぐにばれそうなものなので、いずれはこうするつもりでした」
「じゃあ、あのおうちにあった魔法雑貨、持っていかなくてよかったんですか?
もう少しなら入りますよ。 私のバッグのなか」
「いえ、大切なものや気に入ってるものはすべて、先ほど預けた宝箱の中に詰めてあります。
ですから心配せずに歩きましょう」
〇
非常に順調に移動できていた。
まだ、警護団とも賞金首狩りとも出会っていないし、出てきた魔物も、オークとゴブリンくらいであった。
やがて、私たちは巨大な壁に行く手を阻まれる。
「ああ、これですね。 これが都市を守る壁です。
私は大きい壁と呼んでいますが正式な呼び名は無いので、適当に呼んでください」
「えぇっと、師匠。 これを抜けるとどうなるんでしたっけ」
「この先にも森があります。
ハイネは森と山に囲まれた都市ですからね」
えぇ、また森か。
もう飽きた。
「その森を抜けると山があって、さらにそこを抜けると平原にでます。
そこから少し歩くと、メオリダに到着です」
「よし、がんばるぞー」
楽しそうなゆずだった。
〇
「さて、どうしましょうかね」
コガラさんは、困った風なかをして、杖で壁を小突いている。
ここで、妙案がぱっと出てくればかっこいいだろうなぁ。
「あっ、師匠! いいこと思いつきましたよ」
「あっ、ちょっと! ゆずは自分の新技を考えてなさいよ!
このパーティーのかっこいい担当は私なんだからね!」
「かっこいい……? なんのことさ。
とにかく、言ってもいいかな。 私のアイディア」
とは言っても、何も思いつかないので、軽々と譲らざるを得なかった。
「師匠の能力って、物体の形状を変形させられるんですよね?
だったら、壁の形を変形させて大きな穴を作ったらどうですか」
「その手がありましたね。 銀行を襲撃した時のことを思い出しますね」
今度は、詠唱せずに魔法陣を起動させた。
「えぇっと、このサイズともなると案外難しいですね……」
コガラさんにも、できないことがあるんだ。
しかし、難しいとは言いつつも、すでに這えば通れるほどの穴は開いている。
げに恐ろしき魔法操作。
「このくらいが限界でしょうか……
これ以上やると、門ごと崩壊してしまいそうです」
「えぇ。四つん這いになって進むの~? 恥ずかしいよぉ」
ゆずにも羞恥心があったのか。
あっ、いいこと思いついた。
「それじゃあ、私の能力で向こうに移りましょう!」
〇
小石を持ってくる。
「【果樹園の執行人】っ!」
私は、まだ詠唱をしないとうまく使えない……気がしている。
「ほらゆず、こっちに来て」
手招きをすると、ゆずがこっちにやってくる。
神秘を纏って手で触れる。
「うわっ、びっくりしたぁ。 すずってそーゆーこともするのね」
「能力の発動よ! わかってんでしょ!」
小石を、壁の穴の向こうに投げ飛ばす。
「転ばないようにね」
「なにが…………」
そう言い終わる前に、壁の向こうで転ぶ音が聞こえた。
「すごくいいですね、すずさんの能力。
ラクリマについて何も知らずにここまでの能力を仕上げるだなんて、相当ですよ」
「うへへ…… ありがとうございますっ。
さて、次はコガラさんの番ですよ!」
〇
壁の外の世界は、壁の内側の世界と特に違わなかった。
「なんか、新鮮味がないねぇ……」
「よく考えてみなさい、ゆず。
私たちはここに来るまで、大したことしてないでしょ。
せいぜいゴブリンだったかオークだったかを何匹か殺した程度。
旅はこれからよ」
「うぅん、手厳しい。」
「さて、先を急ぎましょう。
運が良ければ、誰も私たちのことを見つけずにメオリダに到着できそうですから」
それを願うばかりである。
森は、外見こそそこまで変わらないが、明らかに何かの気配が多くなっている。
おそらく、魔物の類の気配なのだろう。
「そうですね。 まだ、誰もいない今のうちに!」
〇
かくして、私たちは都市外の森を歩き出した。
現在は、体感二十分ほど歩いている。
特に大きな問題はなく、時折出没する汚い魔物を殺したり、ゆずの新技を一緒に考えるなど、特に結界内にいたときとかわらない。
「いやはや、これならラクショーで着いちゃいますねぇ」
「そんなことばっかり言ってると、敵が出てくるよ」
「ええ、その通りです」
コガラさんが小声で喋り始めた。
ああ、非常に嫌な予感。
「もうお分かりかと思いますが、つけられていますね。
どうしますか?」
「えっ!? マジ!?」
「あっ、馬鹿………… そうそう! あのブランドから新作出るんだよね!」
とっさのフォローではあるものの、この世界にファッションブランドなどあるのだろうか。
いや、服が売ってたんだからあるのだろうか。
以下、小声。
「(ちょっと! 折角こっちは、『追跡に関しては知らない』ってアドバンテージがあるんだから!
なるべく、それを優位に使わないとだめに決まってるでしょ!)」
「(あっ、そっか。 ごめんごめん、気を付けるよ)」
「(で、どうすんの? このまま気づかないふりで、相手がしびれを切らすまで待ってみる?
それとも叩き潰す?)」
「(安心してくださいね。 お二人には私が付いていますから)」
「(それもそうだ。 すず、叩き潰すよ)」
次回
衝撃の敵の能力。
森を抜けたい。
力無き奔走。
次回もお楽しみに。




