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婚約破棄された公爵令嬢は義兄に溺愛される~ヤンデレ義兄の偏愛が重い~【連載版】  作者: 雪野みゆ


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30.

 ガラス片が飛び散る手前で、わたくしはソファの陰に隠れる。


 壊れた窓から黒い覆面の男が侵入してきた。


「セシリア皇女! お命頂戴する!」


 おお! 絵に書いたような暗殺者のセリフだ。


 などと感心している場合ではない!


 わたくしはガーターベルトに仕込んでいる短剣を素早く取り出す。


 ソファの陰でじっと息を潜めているが、わたくしはプロの暗殺者ではないので、気配までは消せない。見つかるのは時間の問題だろう。


 しかし「うっ!」という声がしただけで、暗殺者が迫る気配がない。


 そっとソファの向こう側を伺うと、口元を黒いマスクで覆った男が、暗殺者を肩に担いでいるのが見えた。


 マスクの男はわたくしに気がつくと、目を細めひらひらと手を振っている。


 その目は見覚えがあった。子供の頃、行き倒れていた盗賊だ。今はリュシオンの諜報部隊の隊長だと聞いた。


 何か声をかけようかと思ったが、男は暗殺者を担いだまま、さっと窓から去っていった。


「……やっと姿を見れたわね」


 いつもあんな感じで陰から守ってくれていたのだろう。


 もう聞こえないだろうが、「ありがとう」と一言お礼を言っておいた。


「どういたしまして」


 後ろから声が聞こえたので、文字どおり飛び上がった。


「きゃあ!」


「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」


 お茶セットを片手にクスクスとリュシオンが笑っている。


「驚くに決まっていますわ!」


 気配もなく声をかけられることが、最近多くなった。何度経験しても慣れるわけがない!


「ふふ。ごめんね」


 テーブルにお茶セットを置くと、リュシオンはわたくしの髪に口付けを落とす。


「……いつから見ていましたの?」


「う~ん。窓ガラスが破られた辺りかな?」


「助けなさいよ!」


 最初から見ていたなら、暗殺者から庇うとかしてくれてもいいのに!


「でも侵入者が入ってくる前にカインが動くのが見えたからね」


「……カインって誰ですの?」


「諜報部隊の隊長」


 あー! あの人カインっていう名前なのね!


「そして、君を守れと命じたのは僕だよ。だから助けたも同然だろ?」


「それは屁理屈でしょう!?」


 命じたのはリュシオンでも、暗殺者から守ってくれたのはカインだ。だから、実際助けてくれたのは彼というのが正しい。


「まあ、でも一応お礼は言っておきますわ。リュシオンが彼に命じていなければ、ただではすみませんでしたもの」


 ただでやられるつもりもなかったが……。


「おや? 素直だね」


 ふんとそっぽを向くと、リュシオンはわたくしを抱き寄せる。


「セシルが無事で良かったよ。かすり傷でもつけようものなら……」


「……どうしますの?」


「物理的に八つ裂きにするところだったよ」


 物理的って何だ!?


「怖いわ!」


◇◇◇


 騒ぎを聞きつけた父と兄夫婦が急いでわたくしたちの部屋にやってきた。


「セシリア! 襲われたと聞いたぞ! 大事ないか!?」


 血相を変えた父に思い切り抱きしめられた。苦しい!


「それにしても、大胆な暗殺者ですわね」


「うん。堂々と窓ガラスを破ってくるなんてね」


 アレクシスお兄様とカザリーンお義姉様の言うとおりだとわたくしも思う。


 暗殺者とは、もっと秘密裏に動いて依頼を遂行するものではないのか?


「暗殺者ギルドも遂に人手不足になったようですね」


 リュシオンは父の手をさりげなく払って、自分のもとへわたくしを引き寄せる。


「どういうことですの?」


「考えてごらん。今まで暗殺者ギルドが放った刺客は離宮の牢にいるんだよ」


 そういえば、まだ誰一人として解き放ってはいない。


「なるほど。暗殺者の数は無限ではない。しかもギルドにはランクがある。ランクの高い暗殺者はほとんどいないということか」


 父がからからと笑う。


「今日の刺客は質が悪いということか」


「真正面から飛び込んでくるアホな暗殺者はそうそういませんものね」


 アレクシスお兄様とカザリーンお義姉様もなかなか辛辣だ。そのとおりだけれど……。


◇◇◇


 暗殺は未遂に終わったので、予定どおり舞踏会に参加する。


 ファーストダンスはもちろんリュシオンと踊ることになっていた。


 最初は皇太子夫妻が踊るので、リュシオンとわたくしは父と一緒に玉座から二人が踊るのを見るのだ。


 音楽が鳴り、アレクシスお兄様とカザリーンお義姉様がフロアの中央で踊り始めた。


「カザリーンお義姉様。何てダンスがお上手なのかしら」


 かろやかに舞うようにダンスを踊るカザリーンお義姉様に魅入っている。


 クルクルと回るお義姉様の動きに合わせて、緑の何かが目に入る。


 あれはもしや!?


「リュ、リュシオン。カザリーンお義姉様が腰に付けているあれって……まさか……」


「呪われた玉佩だね」


 やっぱりか!?


 東の国の商人から購入したいわく付きの翡翠!!


「ばっ! 爆発するかも!?」


「大丈夫だよ。対で身につけている分には問題ないだろう。たぶん……」


 たぶんって何だ!?


「カザリーン殿なら呪いくらい跳ね返すだろう」


 確かに呪いくらい跳ね返しそうな強い方ではあるけれど……。


「それより、次は僕たちが踊る番だよ」


 それよりで片付けるな!


 だが、リュシオンが言ったとおり、舞踏会が終わるまで呪われた玉佩は静かなものだった。


 わたくしが手にしていると爆発するのに、どうして?

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