22.
マイエルフェルト帝国には古くから続く伝統がある。
それは皇室主催の大狩猟祭だった。
年に一度、皇族、貴族、騎士たちが皇室所有の森で狩りを行い、腕を競うというものだ。
狩りの腕前だけではなく、騎乗技術、判断力を問われる。
元々マイエルフェルト帝国は、いくつもの国を統一して建国された国だ。初代皇帝が武門の名家出身だったため、皇族を始め帝国貴族は武術を嗜む習わしがある。
武を競う行事が帝国にはいくつかあるが、その一つが大狩猟祭なのだ。
「嫌です」
父に呼び出され大狩猟祭に参加するように言われたが、わたくしは拒否した。
「参加するつもりはございません。どうしてもと仰るのであれば、見学でお願いします」
「却下だ」
「父上」
しかし、逃げることはできなかった。
父と兄、カザリーンお義姉様。しかもリュシオンまで参加するという。
皇族勢ぞろいでは断ることはできない。半ば強制参加させられることになった。
こうなったのも元はといえば……。
前日の晩餐でのことだ。
家族で食事をしようと父に招かれたので、リュシオンとともに皇宮へ参上した。
話題が大狩猟祭のことになった時だ。
「狩りなんてしたことがありませんわ」
グリンデル王国では狩猟の習慣がないため、当然狩りはしたことがなかった。
わたくしが不満を漏らすと、全員微妙な表情に変わる。
「覚えていない?」
アレクシスお兄様が怪訝な表情で尋ねる。
「何をです?」
「六歳の頃、君は熊を倒したことがあるんだよ」
「はっ?」
全く記憶がないのだけれど!?
「わたくしはその場面を目撃しましたわ」
偶然その場を目撃したカザリーンお義姉様の話によると、こんな感じだった。
わたくしが六歳の頃、父に連れられて大狩猟祭に参加したことがあるそうだ。まだ、幼かったので皇族用に設けられた見学席にいたのだが、運悪く熊が現れた。
他の皇族たちが逃げる中、わたくしは一人取り残されてしまったのだ。
「ところがセシリア様は動じることもなく、熊に向かって石を投げたところ急所に当たり、見事熊を倒しました」
その頃のことを思いだしたのか、カザリーンお義姉様は少し興奮気味に語る。
ん? 石を投げて? 倒した?
「ちょっ……ちょっとお待ちくださいませ。熊相手に石を投げただけで倒せますか?」
例え急所に当たったとしても、熊が驚いて逃げるか、反対に怒らせるのではないだろうか?
「調べましたところ、ただの石ではありませんでした」
「でも子供が投げれる石などせいぜい小石くらいではありませんか?」
「呪われた石だったのです」
はい?
「セシリア様が露店で購入されたペンダントについていた石です」
また呪われた物!?
「あの……カザリーンお義姉様。もしやその石爆発したりしませんでしたか?」
「あら! 覚えているではありませんか。そのとおりですわ。急所に当たった後、爆発して熊は死にました」
やっぱりか!?
リュシオンが堪らないと言う風に笑い出す。
「アハハハ……! セシルは呪われた何かを見つけるのが得意だね」
好きで見つけているわけではない!
「さすがは余の娘だ! 引きも強いのだな!」
うるさい。黙れ、父!
「違います! 偶然ですわ!」
わたくしは慌てて弁解をする。
「偶然とはいえ強運です。運も実力のうちですわ」
カザリーンお義姉様が断言する。
この方の場合、妙に説得力がある。
そんなわけで大狩猟祭に参加するきっかけとなったのである。
◇◇◇
そして大狩猟祭当日――
「さあ! 始めるぞ!!」
めちゃくちゃ楽しそうな父は見るからに張り切っている。
「今年こそは竜を狩りますわよ!」
カザリーンお義姉様も張り切っている。っていうか。この森って竜が出るの!? 生態系めちゃくちゃじゃない!?
宰相がルール説明を終えた後、一斉に皆が飛び出した。
ここまでは順調だった。
◇◇◇
わたくしはリュシオンと馬を並べてゆっくりと森を進む。
小鹿やうさぎがぴょんぴょん飛び跳ねている。小鳥がいい声でさえずっていて可愛らしい。
「平和ですわね」
「そうだね」
はなから動物を狩る気はないので、のんびりと自然観察をしている。
「ああ。癒される」
「僕はセシルを見ているだけで癒されるよ」
リュシオンはわたくしに付き合って動物を狩る気はないらしい。
「ねえ、リュシオン。あの辺りでお茶にしませんか?」
狩りに出る前にテレサがちょっとしたお菓子と冷やしたお茶を用意してくれたのだ。バスケットに入ったそれらはリュシオンの馬に乗せてある。
「いいね」
その時だった。
ヒュンと風を切る音がする。
「セシル!」
矢が真っ直ぐにわたくし目がけて飛んできた。
危うし! セシリア。




