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【連載版】婚約破棄された公爵令嬢は義兄に溺愛される~ヤンデレ義兄の偏愛が重い~  作者: 雪野みゆ


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2/13

2.

 パーティー会場から学園の寮に帰った後、早々に荷造りを済ませ、領地へ帰ることにした。


「あの、腹黒ドS兄貴! どうせあいつが企んだことに違いないわ!」


 領地へ帰る馬車の中で兄への暴言を口にする。兄のわたくしに対する執着心は異常なのだ。


「お嬢様。お兄様のことをそんな風に仰ってはなりません」


 侍女のテレサに注意されるが、知ったことではない。


 王都から領地までは馬車で半日ほどだが、車窓から外の景色を眺めながら、終始わたくしは兄への怒りを募らせていた。


◇◇◇


 領地に帰ると、満面の笑みを浮かべた兄が領主館の前で待っていた。


 あらかじめ先触れを出しておいたので、帰る時間は分かっている。だからこそわざわざ出迎えに来たのだろう。


 兄の顔を見た途端、怒りがこみあげ、張り飛ばしてやりたいのをこらえるのが大変だった。


「やあ、セシル。おかえり。めでたく王太子殿下に婚約破棄をされたそうだね?」


「ええ、お兄様。おかげ様でさらし者にされた挙句、見事に婚約破棄されましたわ」


 さらさらとした銀髪を風になびかせ、エメラルドグリーンの瞳が曲がった笑みを浮かべている。その整ったお顔を崩してさしあげましょうか? お兄様。


「これで君の貰い手はなくなったね。婚約破棄された貴族令嬢は傷物とみなされて、結婚の話はなかなか来ないからね」


「お兄様のお望みどおりになりましたわね」


 兄にエスコートをしてもらいながら、領主館の中に入る。


「そんな君を僕が妻に迎えてあげよう。セシル、僕と結婚しよう」


 突然、兄がとんでもないことを言い出す。


「は? わたくしたちは兄妹よ。結婚できるわけがないわ」


 兄リュシオンは黒い笑みを顔に貼り付ける。あ。これろくでもないことを考えている時の悪人顔だ。


「僕たちは血がつながっていない。君も知っているだろう?」


 そう。兄とわたくしは血がつながっていない。


 非常にややこしいのだが、わたくしは隣国の皇帝の第七皇女という、どうでもいい立場の子供だったのだ。


 隣国の伯爵令嬢だった母は父である皇帝に見初められて嫁いだ。といっても側室だが……。


 しかし、母はすぐ皇帝に飽きられて、後宮から追い出されてしまった。わたくしが六歳の時だ。


 わたくしは側室の子とはいえ一応皇女なので、後宮に残ってもいいと父に選択権をもらえた。だが、後宮にいても退屈そうだったので、母についていくことにしたのだ。


 父はあえて止めなかった。皇子であればともかく、側室のしかも七番目の皇女など気にもとめていなかったのだろう。


 皇帝に捨てられた母は実家に戻ることを許されず、慣れぬ旅をしながら、この国に辿り着いた。


 途方にくれていたところを先代のシルヴァード公爵に拾われた。先代のシルヴァード公爵はわたくしの義父だ。先妻を亡くしたばかりの義父は母に一目ぼれしてプロポーズをしたところ、母は快く受けた。


 シルヴァード公爵夫人になった母は義父と仲が良く、幸せそうだった。義父のシルヴァード公爵も実の娘のようにわたくしを可愛がってくれたのだ。


 非常に曲がった愛情の注ぎ方だったが、七歳上の義兄もわたくしを可愛がってくれた。当時は曲がった愛情と気づかなかったのは、わたくしが愛情を欲していたからだ。


 実の父とたくさんいる腹違いの兄弟姉妹とはあまり交流がなかった。その分、母が愛情を注いでくれたが、後宮の日陰者としてひっそり暮らしていたのだ。


 穏やかなシルヴァード公爵家での生活は楽しかったのだが、幸せは長く続かなかった。


 わたくしが九歳の時に旅行へ出かけた両親は途中で事故に遭い、帰らぬ人となってしまったのだ。


 ある日、十六歳で公爵位を継いだ兄はわたくしを連れて王宮に登城した。その時にわたくしは王太子殿下に見初められたのだ。後日聞いた話によると「顔が良かったから」という理由だったらしい。


 これも後から聞いた話なのだが、王宮に登城した日が王太子殿下の婚約者を決める茶会の日だったという。


 そして、十歳の時に王太子殿下の婚約者となったのだが、最後まで兄は反対していた。


 わたくしは自分の所有物だからという、どうしようもない理由で……。


「戸籍上では兄妹よ。結婚なんて無理よ」


「大丈夫。君は隣国の皇女に戻ったから」


 いつの間に戸籍操作をしたの!? 治外法権の権力を使いすぎでしょう! てか! 簡単に認めてるんじゃないわよ、父!


「何の問題もないよ。安心して僕の妻になるといい」


「問題大ありよ! このバカ兄! わたくしは貴方が嫌いだもの」


 人を所有物扱いする最低野郎のところに嫁ぐなんてお断りだ。しかも義理とはいえ兄の嫁になるなんて最悪でしょう!


「僕は君を愛している。だいたい王太子の婚約者を決める茶会の日だって渋々連れていったんだ。勝手に婚約者に決められてしまって後悔しているよ」


 兄はわたくしを偏愛しているのだ。本人は溺愛と言っているが……。


「それで裏でいろいろと工作して婚約破棄させたってわけなのね」


「それは誤解だ、セシル。王太子があのなんとか子爵令嬢に心移りしたと聞いて、君が不幸にならないように少しやつらの手助けをしただけだ」


「そういうのを工作って言うのよ!」


 どっと力が抜けてソファに身をあずける。


「君の実の父上には許可をもらっているよ。一ヶ月後に結婚式を挙げよう」


「嫌だって言っているでしょう! 人の話を聞け!」


 兄は最後までわたくしの話を聞かず、部屋を出て行ってしまった。

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