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以前短編で投稿したものの連載バージョンです。
加筆、一部修正しましたので、短編とは少し異なる部分があります。
今日はわたくしの結婚式なのだが、なぜか盛大な土下座から始まった。
「愚息が誠に申し訳ない!」
この国グリンデル王国の国王陛下が床に額を擦りつけ、絶叫している。それは見事な土下座だ。その隣では王妃殿下まで頭を下げている。
ついでに先日わたくしに婚約破棄を告げた元婚約者の王太子殿下が、父である国王陛下に頭を掴まれた状態で床にめり込んでいた。
あのままだとデスマスクができそうね。
ちなみにここは聖なる大聖堂の祭壇前である。
それはともかく、何がどうしてこうなった?
「セシル?」
隣から妙に甘ったるい声が降ってくる。
白い礼服に身を包んだわたくしの夫――いや、まだ夫になっていないけれど。銀髪碧眼の麗しの公爵様。世間一般ではそう呼ばれているが、彼の本当の姿はわたくしと公爵家の使用人たちしか知らない。
その麗しの公爵様、リュシオン・シルヴァードが不満げにわたくしを覗き込んでいる。
「誓いの口づけの途中なのだけれど?」
そう。誓いの口づけを中断されたので、機嫌を損ねたのだろう。
「知りませんわよ。王太子殿下に邪魔されたのですから……」
「あと少しだったのにね」
「何がですの?」
「君を合法的に僕のものにするまで」
ぞわっと背筋が震えた。
この男、笑顔で恐ろしいことを言うのはやめてほしい。
わたくし――セシリア・シルヴァードは、つい一ヶ月前まで、グリンデル王国の王太子レオニードの婚約者だった。
しかし学園の卒業パーティーの場で、王太子殿下から盛大に婚約破棄を宣言されたのである。
◇◇◇
遡ること一か月前のことだ。
「セシリア・シルヴァード、其方との婚約破棄を宣言する!」
婚約破棄を宣言した王太子殿下の流麗な顔は怒りに染まっている。黙っていれば、絵に描いたような王子様なのだが。まあ、わたくしの好みではないけれど。
分かっていた。王太子殿下の隣にいるどこかの子爵令嬢だっけ? が学園に入学してきた時から、殿下のわたくしに対する態度が変わってきたからだ。元々塩対応ではあったが、さらに磨きがかかった感じだった。
王太子殿下は隣にいる金茶色の髪にブラウンの瞳を潤ませた小動物を思わせる令嬢を抱き寄せる。
「其方はここにいるエミリーに嫌がらせをするよう、周りの者に教唆をしていたそうだな」
へえ。あの子爵令嬢はエミリーという名前なのね。今、初めて知ったわ。嫌がらせをした覚えはないのだけれど、勝手にでっちあげられたのね。
「それどころかエミリーを亡き者にしようと、襲撃を企んでいたそうだな」
それって証拠はあるのかしら? いいえ。異を唱えたところでありもしない証拠を突き付けられるだけね。
「そのような者を王太子妃にするわけにはいかぬ! 其方の実家であるシルヴァード公爵家は我が国で唯一治外法権を認められているゆえ、其方を罰することはできぬ」
我がシルヴァード公爵家は、今の王朝よりずっと前の王朝から続いている古い名家だ。
今の王朝の初代国王とどのような取引をしたのかは不明だが、治外法権を認められたらしい。
王太子殿下はおろか国王陛下でもシルヴァード公爵家の人間を裁くことはできない。
「私としては処刑してやりたいところなのだが……」
どうして格下の子爵令嬢ごときに嫌がらせをしただけで処刑されるのかしら? いや、嫌がらせしていないけれど。前から思っていたけれど、この王太子殿下は頭が空っぽだ。中身が入ってないんじゃないのかしら?
「当主のリュシオン殿が其方を領地に返すよう、便りをよこしてきた。早々に領地に帰ることだ」
現シルヴァード公爵家の当主リュシオン・シルヴァードはわたくしの兄だ。つまり、わたくしを裁けるのは兄だけ。正確には義理の兄なのだが、そのことを知っているのは、シルヴァード公爵家の人間だけだ。
一応、婚約破棄をするにあたって、兄に伺いを立てたのだろう。用意周到なことだ。
そもそも最初から王太子殿下の婚約者など重荷でしかなかった。未練は全くない。
「承知いたしました、王太子殿下。エミリー様と末永くお幸せに」
淑女として完璧なカーテシーをすると、パーティー会場を後にした。




