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【連載版】婚約破棄された公爵令嬢は義兄に溺愛される~ヤンデレ義兄の偏愛が重い~  作者: 雪野みゆ


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11.

 波乱だらけだった王太子殿下の婚約披露パーティーから一週間後。


 わたくしは自室で一通の手紙を握り締めていた。正確には握り潰して燃やしてやりたい衝動を、必死で抑えていた。


「奥様、お顔が怖いです」


 テレサがお茶を挿れながら、冷静に指摘する。


「当然でしょう」


 手紙をひらひらと振ってみせた。


「これを見てみなさいよ」


 テレサが手紙を読みあげる。


「『愛しい娘セシリアへ。離宮が完成したので見に来るとよい。ついでに歓迎式典を行うつもりだ。皇女復帰のお披露目も盛大にやろう。父より』」


 手紙を読みあげた後、テレサは沈黙する。


 一瞬の後。


「歓迎式典ですか」


「そこじゃないでしょう!?」


 問題だらけ、いや、問題しかない。


 離宮が完成していること。歓迎式典。そして最後の盛大にやろうって……。


「嫌な予感しかしない!」


 叫んでいると後ろからふわりと抱きしめられる。


「義父殿らしいね」


 リュシオンだった。気配なく近づいてくるな。お前は暗殺者か!? あ。ある意味似合うかも?


「笑い事ではありません」


「でも、行くんだろう?」


「わたくしには拒否権が」


「ないね」


 ですよね!


 なぜなら、父は人の話を聞かない。そういえばリュシオンもそうか。共通点が多い。


 もしかして相性がいいのでは?


 いや最悪だわ。


◇◇◇


 数日後。


 リュシオンとわたくしはマイエルフェルト帝国に向かう馬車の中にいた。


 グリンデル王国からマイエルフェルト帝国の帝都までは、およそ七日ほどの旅程となる。


 本来なら大変な長旅になるはずなのだが……。


「おかしい」


 窓の外を眺めながら、わたくしは呟いた。


「何が?」


「快適すぎるのです」


 その快適さは馬車のおかげだ。揺れが少なく、疲れない設計になっている。


 おまけにふかふかの座席で腰が痛くならない。


 馬車の中でティータイムもできる。


 何なの、これ? 移動する応接室?


「義父殿が用意したからね」


 口元に弧を描きながら、リュシオンが平然と言い放つ。


「皇族専用の馬車らしいよ」


「聞かなければよかった」


 どうりで快適なはずだ。


 しかも護衛の数がおかしい。どう見ても一個中隊くらいいるのではないだろうか?


 戦争でも始める気かしら?


「大切な娘が帰国するんだ。これくらいは当たり前だろう」


「当たり前なの!?」


「義父殿にとってはね」


 どうやら父の親バカは想像以上らしい。


「ただね……」


 今まで肘をついて窓の外を眺めていたリュシオンがじっとわたくしを見つめる。


「僕としては揺れる馬車の中でセシルを膝の上に乗せて、君が快適に過ごせるようにするつもりだったんだけどね」


 うわあ! そういえば、この男もシスコンだった。いや、もう夫婦だから妻バカ?


 前言撤回。父よ、感謝します!


「まあ、揺れなくてもいいか。セシル、おいで。僕の膝の上に」


 満面の笑みでリュシオンが腕を広げる。


「結構です!」


◇◇◇


 三日後。


 国境を抜けてマイエルフェルト帝国の領土に入った。


 今日は街道沿いの宿に泊まる予定だ。宿と言っても、貴族向けの高級な宿である。


 しかし――


「本日は皇女殿下の貸し切りです」


 宿の支配人は胸を張って言った。


「なぜ?」


「皇帝陛下のご命令です」


 やっぱりというか、そうではないかという確信があった。


 宿の前に騎士。宿の中にも騎士。屋根の上にも騎士。しかも全員武装している。


 いつからここは要塞になったのか。


「わたくし暗殺でもされるのかしら?」


「義父殿が心配しているだけだろう」


「過保護すぎるでしょう!?」


 夕食の時間。


 食堂に入ると、料理がずらりと並んでいた。


「これ、何人前あるのかしら?」


 思わず料理長に尋ねると、彼は誇らしげに答えた。


「皇帝陛下から皇女殿下の好物を全て用意するようにと命じられました」


「全部?」


「全部です」


 テーブルにずらりと並ぶ料理の数々。多すぎる! リュシオンと二人だけで食べきれるわけがない!


「父上はわたくしを何だと思っているのかしら?」


「目に入れても痛くない愛娘だろう」


「重いです」


 頭痛がしてわたくしは額を押さえる。


 リュシオンはふふと小さく笑う。


「僕は嬉しいけどね」


「なぜです?」


「君が愛されている証拠だから」


 その言葉を聞いてしばし沈黙する。


 昔のわたくしであれば信じなかっただろう。父は母とわたくしを捨てたと思っていたから。


 会いたいとは思わなかった。


 でも、今になって振り返ってみれば、父は父なりに守ろうとしていた。


 豪快だけれど不器用。少々どころではなく迷惑ではあるけれど……。


「……困った父ですわね」


「うん」


 リュシオンが微笑む。


「でも君とそっくりだ」


「どこが!?」


「素直じゃないところ」


 反論しようとしてやめた。思い当たるところがあるからだ。


◇◇◇


 そして旅は続き――


 七日目。


 マイエルフェルト帝国の皇宮が見えてきた。


 荘厳なシンメトリーの巨大な宮殿が目の前にそびえ立っている。


 皇宮の全貌を見るのは実に十年ぶりだ。最後に見たのは母とここを去る時だった。


 そして、門から皇宮までずらりと並ぶ騎士たち。


「……嫌な予感がします」


「奇遇だね」


「リュシオンも?」


「いや」


 楽しそうにリュシオンが笑う。


「歓迎式典が思った以上に大事になってそうで楽しみだなって」


「帰りたいです!!」


 だが、無情にも馬車は進んでいく。


 大帝国マイエルフェルトの皇宮へ。


 皇女セシリアの帰還を待ちわびる人々のもとへ。主に父の皇帝がだが。


 まっすぐと進んでいった。

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