試すということ
試すという選択が、必ずしも正しいとは限りません。
ここから、少しずつ答えのない怖さが見えてきます。
「……試すって、何をだよ」
誰かが言う。
当然の疑問だった。
何をすればいいのか。
何をすれば減るのか。
何をすれば減らないのか。
何も分かっていない。
「……簡単だ」
あの男は、落ち着いたまま言った。
「“何か”をやる」
「……だから、それが分からねえんだろ!」
苛立った声が飛ぶ。
空気がまた荒れ始める。
「なら――」
男が、一人の方を見る。
「お前、さっき何もしてないよな」
指を向けられたのは、近くにいた細い男だった。
「……は?」
突然のことに、戸惑っている。
「な、なんだよ」
「ずっと立ってただけだ」
男は淡々と言う。
「つまり、“何もしない状態”だ」
周囲がざわつく。
「それでポイントは減った」
「だったら」
一瞬、間を置く。
「動いたらどうなるか、試す価値はある」
空気が凍った。
「……は?」
細い男の顔が引きつる。
「な、なんで俺なんだよ」
当然だ。
誰だって、やりたくない。
「別にお前じゃなくてもいい」
冷静な声。
「でも、誰かがやらないと分からない」
「ふざけんなよ……」
声が震えている。
「俺は嫌だぞ」
一歩、後ずさる。
「……じゃあ俺がやる」
別の声。
全員が振り向く。
さっきとは違う男。
少し強気そうな顔をしている。
「どうせこのままでも減るんだろ?」
笑おうとして、失敗している。
「だったら、何かした方がマシだ」
その言葉に。
誰も何も言えなかった。
正しい。
でも――怖い。
「……好きにしろ」
冷静な男が言う。
止めない。
ただ、見ている。
「……いくぞ」
強気の男が、一歩前に出る。
全員の視線が集まる。
息を呑む音が、やけに大きく聞こえる。
男が、ゆっくりと歩き出す。
一歩。
二歩。
三歩。
スマホは――反応しない。
「……減らない?」
誰かが呟く。
「いけるんじゃね?」
少しだけ、空気が緩む。
「ほらな」
男が振り返る。
「動いても問題――」
その瞬間。
スマホが震えた。
全員の空気が止まる。
男が、自分の画面を見る。
「……は?」
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「え……?」
顔が青ざめる。
「なんで……」
後ずさる。
「今、何もしてねえだろ……」
その時。
冷静な男が、小さく言った。
「……違う」
誰もがそいつを見る。
「歩いた」
静かな声。
「“行動した”」
その言葉に。
理解が、追いつく。
「……まさか」
誰かが呟く。
「動くだけで……?」
「断定はできない」
冷静な男が言う。
「でも――」
その瞬間。
また、スマホが震えた。
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「やめろ……」
男の声が震える。
「やめてくれ……」
何もしていない。
ただ、立っているだけ。
それなのに。
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一瞬だった。
男の体が、崩れる。
ドサッ
重たい音。
さっきと同じ。
いや、それ以上に重い。
「……は?」
誰かが声を漏らす。
「動いただけで……?」
理解が、現実になる。
「……クソが」
誰かが吐き捨てる。
「何もしてもダメ、してもダメってかよ……」
逃げ場がない。
完全に。
「……違う」
また、あの男の声。
全員がそいつを見る。
「今ので分かったことがある」
冷静な目。
恐怖を押し殺した声。
「“適当に動く”のがダメだ」
「……は?」
誰かが睨む。
「意味のない行動は減点される可能性がある」
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「つまり――」
一瞬、間を置く。
「“意味のある行動”を見つける必要がある」
その言葉に。
誰も反論できなかった。
正しい。
でも。
「……どうやってだよ」
誰かが呟く。
答えはない。
ただ一つ、分かったことがある。
(適当に動いたら死ぬ)
それだけだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しずつ、このゲームの“危険さ”が分かってきたと思います。
ですが、分かったところで――正解があるとは限りません。
よければ、この先も見届けていただけると嬉しいです。
――あなたなら、この状況で動きますか?




