第四十一話 鳴動
魔力が切れた身体で敵の攻撃を避ける。
魔力の補正がない“俺”では、金色スライムの攻撃はほぼ見えない。
なのに見えないはずの攻撃を“俺”は避けていた。
腕が半ばから斬り飛ばされる。足が抉られる。
血が噴き出る。
無い腕を動かそうとして、欠けた腕でペンギン魔獣を殴り飛ばす。
激痛が走るが、今は気にしていられない。
魔力欠乏のせいで虚脱感が襲ってきている。
ペンギン魔獣も金色スライムも襲ってきている
千鳥足のようにふらふらと動いてなんとか避ける。
再生もしない。
ただ血が抜けて、力も抜けていく。
自分の血で塗れながらも“俺”は生きていた。
攻撃を回避できる、とは言っても分かるのは魔石に対しての攻撃だけのようだ。
それでも魔力がない状態で魔石を守りきるのはかなり難しい。
このままだとじわじわと削り殺されてしまう。
ペンギン魔獣のせいで足場が崩され、足が泥に沈む。こういう攻撃は分からないようだ。
足を抜こうとして、抜き方が一瞬頭から抜ける。
「しまっ…」
ヴィルが視界の端で驚いた顔で腕を突き出している…恐らくは風魔術を使おうとして禁止されている。
こっちの禁止は解除されているはずだと、足を急いで抜いて逃げようとするが、土が硬くて抜けない。
予感に従って剣をクッションにして分体の攻撃を一撃は止める。
片手で力負けしていても、魔石を避けさせるくらいはできた。
マシロの方をちらりと見るが、笑っている。
だがすぐ目が合ったかと思うと少し頷いた。
準備はできた、と言うことだ。
そう信じたい。
少し安堵しているとその瞬間ヴィルがこちらにナイフを投げつけてくる。
先程の嫌な予感は避けろとは何も言っていない。
「は!?」
ナイフが“俺”に突き刺さったのを感じた。
マシロの方を見ると、前に見たように大きな水球を手のひらに浮かべている。
突然ヴィルが手首を切って、血を空に打ち上げた。
ヴィルの凶行の意味はわからないが、マシロは前に見た爆発をやるつもりだ。
狐面が初めて“俺”から外れた。
金色スライムは一直線にマシロを見る。
金色スライムが分体をこちらに向かわせてきて、本体はマシロの方に駆け出した。
突然分体が視界から消えた。
いや、“俺”がヴィルの隣に急に立った。
『転移』させられたと気がついたが、分体達もこちらを見失って、周囲を探している。
「マシロ!準備できたな!!」
「もちろん」
水球には既に電気が見え、溜めが始まっている。
確かにあの爆発なら金色スライムも消し飛ばせるはずだ。
だがマシロの手のひらの浮いていた水球が操作を失って落ちた。
金色スライムの禁止だ。
そりゃ、あんなこれ見よがしに…。
何かがおかしい。
背筋がゾッと冷えた。
禁止にではない、嫌な予感が膨らんでいる。
「なんだあれ…」
さっきは止まった言葉が溢れでた。
遥か頭上で様々な光が迸っている。
火や電気、風や氷で。
空中で大きな魔術が一点でぶつかって、光が消える頃に、予感の正体に気がついた。
遠くの戦闘音も、木々のざわめきも、その瞬間だけ消えたように感じた。
空が落ちてきている。
いや、正しくない。透明で巨大な何かが落ちてきている。
驚きを声で発する前に景色が切り替わるような気持ち悪さ覚え、何かが眼前に出現したかと思うと、顔面から突っ込む。
痛む鼻を押さえて周りを見ると見慣れた石造りの部屋にいることに気がついた。
ヴィルの『転移』だ。
と理解したのはすぐだったが、事前に一言あっても良いとは思う。
だがすぐにそんな文句は消え失せる。
大地の唸り声と間違えるほどの爆音が鼓膜と、周囲の空気を震わせる衝撃波となって体を突き抜けていく。
天井から細かな砂埃が落ち、扉が勝手に軋んでいる。
そして衝撃波が身体を通り抜けるより早く、何もなかった空中からマシロとヴィルが生えてくる。
それに続くように人がドタバタと部屋に増えていく。
金色スライムに覆われていた人達だろうか。
咄嗟に脈を取って生死を確認する。
意識はないが、大きな傷はなく息はある。
それにしても『転移』って側から見るとこんな風になっているらしい。瞬きした間に急に物体が生えてくるのはやはり奇妙な感じだ。
「なんだ今の…?」
「ん〜。魔力の隕石。魔力災害と似たようなものかな」
「………分かった。それで金色スライムはどうなった?」
わからないが、そういうものなら納得するしかない。
「金色スライム?ユニークな呼び名だから採用するけど、粉々だよ。ほらあげる」
マシロが懐に手を入れたかと思うと、黒色の薄く光る宝石を取り出して投げつけてくる。
「うわちょっ」
それが金色スライムの魔石だと気がついた瞬間、落とさないように空中で掴もうと手を伸ばしたが、掴んだ瞬間魔石は粉々に砕け散っていく。
「…」
なんとも言えない沈黙を感じたが、蠅魔獣を倒した時と同じように、何かが流れてくる感覚がある。
だが変わらず肉体に一切の変化はない。
「弁償…とか…?」
雑に投げたのがマシロとはいえ、普通に考えると
貴重品…ではないのだろうか。
だがヴィルは険しそうな顔をしているが、“俺”の事を無視してマシロを睨んでいる。
「ん?あぁ気にしないで」
当の本人は対して気にした様子もなく、“俺”の手の中の粉々になった上、塵となって消えていく魔石を興味深そうに見つめていたのだった。
派生作『中身がないもの』もよかったら見てね。
本編のストーリーには直接関わらないけど、あるキャラの過去を綴ったものとなっております。
見なくてもいいけど、見てくれたらよりいい…そんな作りになっておりますの。




