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第三十八話 金色スライム最後の活躍

霧の森の中を“俺”達は走っていた。


じめじめと粘つくような空気が素肌に絡みつき、

皮膚に気持ち悪さを与えている。


そんな中を“俺”達は金色スライム魔獣の本体を探して走り回っていた。


森のどこを見ても、それらしい姿は見えない。

突然マシロと黄班の女が立ち止まって、仮拠点の方を見た。


「どうした?」


ヴィルが異変を察して即座に聞くが、黄班の女の表情は暗い。


いや、ややこしい。両方マシロでいい。


「仮拠点の方でもう一匹大魔獣が現れたみたい。筋骨隆々な兎の人体模型みたいな魔獣と…大量の人に擬態する分体が、どうやらロア君達の方に出たみたいだね。」


「…ちょっと待て!不味いだろ!」


ロア達の所に行くべきかどうか一瞬考えるが、すぐ呆れたようなマシロの言葉に邪魔される。


「まさか、彼らの所に行くわけじゃないよね?

君はあのスライム君の本体に狙われてるんだよ?アレまで彼らの所に行くのはちょっと可哀想かな。それにみんな森に逃げたみたいだし。今更行ってもね」


何かを言い返そうとして二の句が継げなくなってしまう。


自分が何でもかんでもできるなんていうつもりはないが、いない方が良い、とハッキリ言われるとキツいものがある。


現状だと最善は金色スライムの本体を倒す、ということは理解しているつもりだ。

だがやはり不安は不安だ。


「…まぁアレだ。安心しろ。アイツをすぐに倒せば、それだけ早くもう一匹の兎に集中できる」


一応気を使ったヴィルの言葉にやる気の使い方を切り替える。


“俺”の魔力の残りは6割あるかないかだ。連戦は厳しいように感じるが、勝つしかない。


「なぁ!おーい!あんたら大丈夫か…?」


木の陰から紫班の若い男が顔を覗かせた。

こちらを見て驚いた顔をしているが、すぐ剣をしまって手を上げて敵意がないことをアピールしている。


何か違和感があるが、とにかく生存者だ。


「そっちこそ大丈夫?何があった?」


敵意がなさそうなことに安堵しつつ、相手と同じように剣を仕舞う。

双方構えていても仕方がない。


「いや…拠点の方に変な敵が…」


無言でマシロが突然氷塊を発射する。

あまりの凶行に“俺”の認識を完全に置き去りにして、男の上半身を押し潰しながら木に直撃した。


「おまっ…!」


「偽物」


ヴィルが氷塊に触れてすぐ隣に『転移』させると、男の死体はなく潰れた魔石だけがある。


「……なんで」


「なんで分かった、なら前も説明したよね?」


いや…聞いたけど。

確かに何か違和感はあったが。


「これに関しては俺も怪しいとは思ったが…」


「ヴィルも?」


「大量の分体が出たって話があったのに、偽装を疑わず武装解除して投降するやつだからな」


ヴィルの違和感を聞いて納得する。

引っかかっていた違和感はそこか。

妙にスムーズというか、紛れ込みに来ていたって感じがする。


「あれは多分私達の様子見だけどね。こっちが捕捉しているのと同じく、あっちも私達を捕捉しているみたいだね。さっきのは上手くいけば紛れ込めるかな、って判断かな」


「なる…ほど?」


金色スライム魔獣の本体を倒すにはかなり障害が多そうだ。

魔石を一応念入りに砕いて、また走り出す。


「じゃあレミは別行動で。分体を見つけたら殺して」


「おっけー。それじゃ」


黄班のレミと呼ばれたマシロの『共有』相手が別の方向に走り去っていく。

金色スライム魔獣の討伐のために居た方がいいような気もするが…。


「いいのか?」


「いいよ。他の登塔家の子達も心配だしね。それにこっちの私さえいれば倒せるさ」


そういうものか、と納得する。

強情になるほど不安というわけではない。

それにレミ…マシロ?が行ってくれると少しは安心できる。


「『共有』ってどんな感じなんだ…?」


ふと疑問に思ったことを聞く。

わざわざ口に出していたが、何か理由でもあるのだろうか。


「多重人格が近いかな?主人格は身体の持ち主の。『共有』で無理なく人格が増えてるけどね。

だから普段はレミはレミのままだよ。こういう時は私が表面に出るけれど」


「そんな感じなのか…」


自分が増える…かなり恐ろしい能力だと思ったが、聞く限りではそこまで恐怖には感じない。


「こっちかな」


マシロが指差している方向に向かう。

地中に潜った金色スライム本体は、仮拠点の方に向かっているようだ。

分体と共に戦うつもりかもしれない。


アイリーンがかなり防いでくれているようだが、

無事だろうか…。


足元が僅かに鳴動する。

…無事だな。今、地響きしたもん。


…アイリーンについては考えないことにする。


「〜〜!」


遠くから言い争う声が聞こえる。

生存者か。あるいは擬態した金色スライムか。


木々の隙間を縫って進む。


「だから俺らは人間だって!」


「近づくなっ!」


「殺す!」


赤班や紫班の人達が言い争っている。

12人程度の集団だ。

団体の別れ方的に4:8だ。


マシロの方をチラリと見るが、特に反応はない。

金色スライムはいないのだろうか


「何を争っているんだい?」


「あぁ!?なんだ…確か内街の白いやつじゃねぇか。お前らも近づくなよ」


紫班の男達が剣を向けてくるが、マシロは平然と言い切った。


「ここにあの魔獣はいないよ」


「なんでわかんだよ!」


当然の文句である。

“俺”も何も知らない状況でそんなことを言われても二つ返事で受け入れるわけがない。


「分かるから。そうだね。君と…君は肉体関係だね?」


マシロは紫班の男Aと…紫班の男Bを指差す。


…………いや。“俺”はツッコまないぞ。

ヴィルの方を見るが、とても真面目な顔をしている。


「お、お前…!」


「お前っ!」


「いや…知ってるし」


「バレてないつもりだったのか?」


AとBが剣を振るわせながらマシロに向けるが紫班からの声は温かい。


待ってくれ。“俺”は何を見せられている?

……喧嘩していた赤班の連中まで、“俺”と同じような顔をしている。


…これでマシロが信用を取れるなら、いいか…?


「分かった分かった!とりあえず信じるから何も暴くな…ただ信用したわけじゃねぇ…お前らもいいか?」


紫班の男が赤班の人達を見る。

紫班の人達が武器を仕舞ったのを見て、赤班の人達も武器を納めた。


「「た、助けてくれ……」」


別々の方向から、全く同じ顔の黒班の男二人が現れた。


「ふむ…」


どちらかが偽物なのは間違いない。

だがマシロは動かない。


「「あいつは偽物だ!僕が本物なんだ!!」」


「おい!お前くんじゃねぇ!」


赤班と紫班の人達が再び抜剣して、新しく現れた

黒班の男に向ける。


「おい!青班の白いやつ!わかんだろ?どっちだ?」


「うーん。分かるんだけどね…分からないことがあってね」


マシロが無造作に振った。

たったそれだけで黒班の男二人は横に落ちていくように、背後の木に叩きつけられる。


重力だとは分かったが、同じくそれを察したであろうヴィル以外の全員が驚いた表情を貼り付けている。


「なんで両方とも偽物なのかな?」


「「違う!俺が本物だ!!」」


寸分違わず同じことを叫んだ。

両方偽物…?どちらかが偽物ではなく、両方…金色スライム側もだがマシロが見破れると察したはずだ。

見破れる以上、二体出しても同じのはず。


「あぁ。なるほどね。ヴィル。両方腕だけ切って」


「了解」


ヴィルが風魔術を一人目と二人目に放つ。

木に貼り付けられた黒班の男がジタバタともがくが、風の刃が双方の右腕に直撃した。


一人目は切りとられた腕の断面は、血ではなく金色の液体が出ている。

だが二人目は血が出ている。

断面はしっかりと人間の腕だ。


「おまっ人間じゃねぇか!」


「よく見て」


咄嗟に反感を覚えるが、マシロが平然として顎を向けてあっちを見ろと促してくる。

言われてよく考えてみると確かに違和感がある。


「……出血量が少ない?」


「死体を纏ってるんだよ。私がさっきみたいに押し潰したら、纏ってた液体部分は魔石さえ砕ければ塵になるから、私が人を殺したように見えるってわけだよ」


……なるほど。

つまり金色スライム魔獣は唯一見抜けるであろうマシロを損ねるのではなく、マシロの信用を損ねる作戦だったわけか。


「ごめんね」


マシロが言葉だけ謝りながら躊躇いなく指先から電撃を放つ。

両方の金色スライムに直撃して、ビクビクと痙攣した後、端から塵になって消えていく。


「さて、じゃあ行こうか。死体は確保しておいて。また使われると面倒だから…君達はここで待機ね」


「…あぁ…いや、はい」


紫班と赤班の男達を放置したまま、“俺”達はまた走り出したのだった。


金色スライム君は本当は強いの…

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