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第二十八話 金色スライム魔獣

         第28話


……どうするべきか。


無論、全員無事に脱出するためには、大魔獣の討伐はほぼ必須だ。

その上、塔の外には出せない。出さない方がいいはずだ。


「ったく。なんで俺が……」


紫班の……名前は知らないが、集まりで最初に叫んでいた剣を持った男だ。


「知らないわよ」


こちらも名前は知らない。

同じく声を上げていた黄班の女性だ。


マシロ曰く、人選は誰でも良かったから適当だそうだ。


先頭にはヴィルとマシロ。

その後ろに“俺”とアイリーン、モーブ、フィリ、エル、ロア、レイ。

そして他班の二人が続いている。


今、“俺”達は青班と赤班のレイ、黄班と紫班から一人ずつを連れ、一層の霧の森を歩いている。


名目は、脱出のための偵察だ。


そう考えると凄いメンツだ。


青班は八人中三人が転生者。

他班の三人のうち、一人は大魔獣だ。


……後半は、マシロを信じるなら、だが。


視線がちらちらと後ろへ逸れてしまう。

不審がられないよう見ないのが正解とは分かっているが、赤班の腕章を見ると妙に心がざわつく。


「レイっち! 災難っすね!」


「……あぁ」


フィリがレイの方へ絡みにいっている。

だが返事はどことなく上の空で、確かに疑わしいと言えば疑わしい。


フィリも不思議そうに首を傾げたが、それだけで何かを確信する様子はない。


木々の隙間を抜けてくる冷たい霧が、じんわりと服にこびりついて気持ち悪い。


オレンジ髪の少女の時ほどではないが、大魔獣への嫌悪感が心の奥で沸々と湧いてくる。

だが、なんとも言えない違和感がある。


「……それにしたって、大魔獣って奴はいなかったな」


モーブがそう言いながらマシロの方を見るが、いつの間にか後ろを向いていたマシロは、ニコリと曖昧に笑って誤魔化す。

答える気はまるでないようだ。


「いないに越したことはないよ」


そう自分では言うが、います。

推定ではあるが、めっちゃ後ろに。


「大魔獣? ってなんだ?」


レイが口を開いた。


こちらで勝手に付けた呼称だから、本人ならぬ本魔獣には分からないのだろう。


「あぁ、さっき攻めてきた魔獣達を指揮してる存在の呼称だよ」


「そうなのか」


レイの言葉には疑問もなく、ただ納得が込められている。


普通なら、そんなことを黙っていたことに怒ったりするはずだ。


「は!? そんなの居たのかよ! んなことも黙ってたのか!?」


名前の知らない紫班の男のように。


「いやぁ、ごめんごめん。今言ったし、良いよね」


雑な扱いに、妙に呆れが強く出る。


だがマシロは適当なことを言いながらも、視線だけは後ろから外さない。

よく後ろを見ながら歩けるな。


「良い訳ねぇだろ!!」


紫班の男が悲痛げに叫ぶが、どうにも可哀想とは思えない。


「フィリ……レイさん、何か変じゃありませんか……?」


「そう……っすね。まぁ、あんな戦いの後っすから」


付き合いの長そうな彼女達に、若干の疑問を植え付けることには成功している。


「そうそう。言い忘れてた。大魔獣について分かったことがあるんだよね! アル君」


「え?」


マシロが急に話を振ってきて、フィリとエルの会話に集中していた“俺”は一瞬反応が遅れる。


「なんだっけかな……大魔獣は確か、登塔家の中に潜んでる、だっけ?」


「!?」


聞いてた話と違う。


レイの違和感をフィリ達三人に植え付けつつ、マシロの判断以外の証拠を集める……だったはずだ。


いや、この流れで問題はないのか?


「! そ……うだね」


視線で助けを求めてみるが、マシロは相変わらずニヤニヤしているだけだ。


ここでレイの名前を言って良いものか?


「それは一体……?」


エルが疑問げな声を上げるが、“俺”が誰よりも聞きたい。


全員の視線が集中している。

胃に穴が開きそうだ。


てかヴィルが肩に手を置いてきた理由がよく分かる……分かってたなら言え。


「……いやぁ。分からない」


「なんだったんっすか!」


フィリの突っ込みが入るが、曖昧に笑うしかない。

レイのことを指差せるはずもない。


「……なんだ、人騒がせな奴だな」


レイが安堵したのか、薄く笑う。


とても人のふりをした大魔獣のようには見えない。


「気をつけて!」


アイリーンの鋭い声が、“俺”達の間を走る。


“俺”とモーブ、それと多分マシロとヴィルがすぐに反応して武器を構える。

遅れて残りの人達も武器を構えた。


大体アイリーンがこう言う時は、魔獣が近くにいる時だ。


「上!」


アイリーンが言った瞬間、影が差す。


それを追うように上を見ると、電気を纏った触腕が伸びてきていた。

全長七メートルはあるだろうか。


二層で遠くから見た、あの空を飛んでいる電気蛸だ。


突如現れたように見えたが、電気の音も、蛸周辺の葉が揺れる音もしない。

風魔術で音を消している。


その触腕が、上から叩きつけるように“俺”へ向かって伸びてくる。


剣で切ろうとしたが、一瞬躊躇して避けた。


電気を纏った蛸なんて切ったら感電しそうだ。

同じ理由で、水の触手も使えない。


「なんか“俺”ばっか狙ってないか?」


動き自体は素早くない。

それに加えて木々が電気蛸の邪魔をしており、思うように戦えていない。


蠅魔獣のように木々を砕くほどの力もないようだ。


だが蛸の横についた目はこちらを一心に見つめ、触腕も“俺”にばかり伸びてくる。


そのせいで、ヴィルが放った風魔術を避ける素振りすらない。


切り刻まれ、地面へ落ちる前に塵となって魔石だけを残した。


もしかして囮に使われたのは……。

マシロの方をチラリと見るが、薄く笑っている。


つまり、今の話を聞いた中に大魔獣がいるのは確定的だ、ということだろう。


それを“俺”に教えるためだけに、今の話をしたのか。


“俺”を知恵者のように扱って、大魔獣に狙わせる……と。


ガバガバというか、むしろ電気蛸の接近に気づいて放置していただろ。


戦闘に参加する気配のなかったレイを見るが、別段変わった様子はなくフィリと会話をしている。


「アル!」


アイリーンの声に、反射的に後ろへ飛び退く。


紫班の剣を持った男が、“俺”に向かって剣を突き出していた。


「は!?」


突然の凶行に“俺”達が驚いている間に、黄班の女が動く。


土魔術で石の塊を作り、紫班の男の頭へ叩きつけた。


べちゃ、と頭が消し飛ぶ。


凄まじい勢いで殴られたせいか、頭の内容物が辺りへ飛び散る。


……金色の液体が。


「……!」


断面からは血の赤ではなく、金色が見えている。


なんでだ、と考えるより先にヴィルが頭のなくなった身体へ火球を放つ。


霧が蒸発する音が聞こえ、火球が直撃した瞬間、大魔獣の身体が弾け飛んだ。


「チッ」


倒せたかと思ったが、ヴィルが舌打ちする。

金色の鞭のようなものが視界の端で揺れた。


次の瞬間、腕を掴まれ、身体が一気に五メートルほど後ろへ引かれる。


さっきまで“俺”がいた場所を見ると、金色の液体が地面へ深く沈み込み、そのままズルズルと動いて黒煙の中へ消えていく。


“俺”の腕を掴んでいたのはアイリーンだ。

助けてくれたらしい。


黒煙が立ち上る中、人型のナニカが起き上がる。


マシロが腕を振るい、風魔術で黒煙を吹き飛ばした。


そこにいたのは、人間の身体に黄金の狐面を被ったナニカ。

人間の身体と言っても凹凸はなく、マネキンが想起される。


身体の表面は薄く波打っており、金色のスライムを無理やり人型に当て嵌めて、狐面を付けたような姿だ。


「なんだ!? いきなり!!」


レイが大声で叫ぶ。

普通にこっちが聞きたい。


人間だと思っていた奴が大魔獣で、大魔獣だと思っていた奴が人間で……あぁもう分からない。


レイも困惑していたが、金色のスライムを見るとすぐに切り替えたのか、槍を構える。


「いやぁ、間違ってたみたいだね」


あまりに適当すぎるマシロにブチギレそうになるが、敵から目は離せない。


というか、人選的に絶対分かってた。


最初に紫班の男へ攻撃した黄班の女性も、彼女も仕込みだったのか。


「彼女は、私が『共有』した相手だからね。私が分かることは、彼女も分かるよ」


マシロが先回りして答えを言ってくる。


てか、やっぱ分かってたのか。


なんでレイを疑わせたとか、嘘をついたとかは、一旦棚上げするしかない。


ぐにゃん、と金色のスライムの腕が変形する。


その瞬間、嫌な予感に駆られて全力で右横へ飛び退いた。


避ける前まで立っていた場所を見ると、金色の液体が地面深くまで沈み込んでいる。


明らかに致死攻撃だ。


「やっぱり、あいつ“俺”のこと狙ってるな」


マシロへの恨み言は、霧の森に吸われて誰にも聞こえなかった。

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