↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/43

第十八話 砦の青班

「はーい。到着した人はこっちの受付まで〜」


聞き慣れた適当そうな声。

分厚い扉の付いた玄関を潜って最初に聞こえたのは、それだった。


ロビーらしき玄関には大勢の人間が溜まっている。


受付らしき机の前には腕章を受け取るための列ができ、その横では持ち込まれた木箱や布袋が次々と奥へ運ばれていた。


床に荷物を広げて中身を確認している人や、壁際に座り込んで休んでいる人もいる。

剣や槍を抱えた人間がこれだけ密集していると、ただの人混みよりずっと狭く感じる。


その人混みを掻き分け、声の方へ向かう。


マシロだ。


「あっ、ヴィル達も着いたんだね。待ってたよ」


言いたいことや聞きたいことは沢山あるが、まずはマシロの話を聞く。


「はい。これ、着けといてね」


青色に染められた腕章を人数分渡してくる。

渡された腕章は簡素で、染められただけの布といった感じだ。頑丈でもなさそうだ。


「…………青班の役割はなんだ?」


ヴィルが不信感を隠すつもりもなく、マシロに問う。

それは多分、青班全員が思っていることだ。


「えー、なんだっけなぁ? トイレ掃除とかだったかも?」


予想はしていたが、まともに答えるつもりはないらしい。

ヴィルも苛立った様子を隠す気はない。


「おい」


「ま、そのうち分かるよ? それまでは紫班と同じ探索で良い。私も不確定なことを自信ありげにペラペラ喋りたくはないしね。ただ、何かあったら報告するように! 以上! それじゃあ付いてきて」


返事も待たずに歩き出す。


青班の全員がヴィルの方を見るが、大きな溜息を吐いて首を横に振るだけだった。


「なんていうか……適当な人っすね!」


「フィリに言われるって相当ですね……」


エルが困ったように眉を顰めて言うが、付き合いが長そうなロアはなんとも言えない顔をしている。


「胡散臭いとも言うがな」


「……確かにね」


吐き捨てるように言うモーブが、ある意味一番的を射ているかもしれない。


非常に胡散臭い。


マシロのことは多少知ったが、微量の感謝とか、多少はある仲間意識とか、そういう感想を抱く前に『胡散臭い』という言葉がどうしても枕詞に付く。


「…………アレでも間違ったことはしない……ハズだ」


ヴィルが一応フォローするが、誰も信じられない。

“俺”も信じられない。多分ヴィルも信じていない。


それでも今は追いかけるしかなかった。


受付から離れて廊下へ入っても、人の気配は途切れない。


開けられた部屋の前には、まだ整理されていない荷物が積まれている。

既に防具を脱いで寝台に腰掛けている人もいれば、武器を壁際に並べて手入れを始めている人もいた。


別の部屋では四人分らしい荷物が床を占領しており、狭そうにその隙間を歩いている。


たった今まで無人だったはずの砦が、少しずつ人の住む場所に変わっていっている。


それでも、石造りの壁と等間隔に並んだ扉のせいか、生活感が増すほど逆に妙な感じがした。


「はい! ここが君達の部屋さ。女子はその隣」


一応男女別で、鍵も付いているようだ。

多少広めの部屋に、二段ベッドが二つ置かれている。


石造りの部屋を見ると、どうしても牢屋のように見える。

檻がないだけで、まんま質素な牢屋だ。


まぁ、ここまで来る途中に見た他の部屋も牢屋みたいだったから、なんとも言えない。


モーブやロア、ヴィルは部屋があるだけマシだと荷物を広げている。

とはいえ武器置き場や机が一つあるだけ、登塔家の部屋としては幾分か良い。


廊下を通っている時にも、寝台があることに妙に喜んでいる登塔家を何人か見かけた。


“俺”からすれば二段ベッドが置いてあるだけの質素な部屋だが、これでも十分良い方らしい。


「後で話があるから、受付まで来てね」


案内は済んだとばかりに、こっそりマシロから耳打ちされたことだけが恐怖だった。


隣の女子部屋はどうなのかと、少し様子を見に足を向ける。


扉には覗き穴のようなものはない。

そこは安心だ。


ノックしてみるが、触った感じは石というより金属に近い。

扉だけは特別頑丈に作られているようだ。


中からしか鍵を開けられないようになっていて、しかも外開き。

外に荷物でも置かれたら、開かなくなりそうだ。


「これじゃあ、中の物を外に出さないようにするみたいだな」


「誰っすか?」


声を聞きつけたのか、扉が開錠される音がする。


フィリのアホ毛が、主人より先にぴょこりと顔を出した。


「あぁ、アルっちっすか。どうかしたっすか?」


「あぁ、そっちの部屋の様子はどうかなと思って」


「んじゃ、どうぞっす」


フィリが身体を傾け、その隙間から中を軽く覗かせてもらう。


チラリと見た限りでは、別段変わった様子はない。

“俺”達の部屋と似た独房だ。


窓から見える景色が、隣と少し違うくらい。


「あんまり変わらないね」


「そうですね。特に隠し扉などもないようですし……」


短い間に探ったのか、エルが答える。


「……アル。この部屋、どういうことだと思う?」


言葉少なげにアイリーンが聞いてくるが、“俺”の感想は一つだ。


「閉じ込めるって感じかな……」


「そうっすよねぇ〜」


誰もが抱いた感想だ。


一体何をしようというのか。

いや、何が起ころうというのか。


「まぁ、呼ばれたから。できるだけ聞いてくるよ」


「呼ばれたって、マシロさんにっすか?」


首を縦に振って肯定する。


自分では普通に頷いたつもりだったが、内心を隠すのに失敗して、かなり嫌そうな顔をしていたと思う。


「あの人、胡散臭そうっすから気をつけてっすよ! アルっち」


マシロはどれだけ疑われてるんだ。


曖昧に笑って返すしかなかった。


女子部屋を離れ、受付へ戻る。


来た時よりも廊下に荷物が増えていた。


壁際には水の入った桶がいくつも並べられ、部屋の前では濡れた外套を広げて乾かしている人もいる。

どこかから金属を擦る音が聞こえ、別の部屋からは笑い声まで漏れていた。


遠くでは誰かが人数を確認する声を張り上げている。


百人近くが一つの場所に集まると、僅かな時間でもこうなるらしい。


まだここに来て大して経っていないはずなのに、砦は既にただの建物ではなく、登塔家達の仮の生活拠点になり始めていた。


それでも、数日もここで暮らすことになると思うと気が重い。


何より今から、その原因の一人と思われる人物と話をしなければならない。


「いやぁ、何度も申し訳ない、とは思ってるのだがね?」


「……んで、なんの用なんだ?」


用事があるなら、さっき話せば良かったのに。


人前で話せない内容となると、転生者関連だろうか。


「ん? 蝿の魔獣っていうか、デカい魔獣がいたでしょ?」


「あぁ……」


正直、あまり思い出したくもない外見だったが、それだけに鮮烈に覚えている。

まだ一週間も経っていない。


「アレと似たようなのが、また出るよっていう報告だよ」


「あぁ……ん? ちょっと待て。ちょちょ、ちょっと待て」


蝿魔獣は強かった。


勝てたのは偶然が味方してくれたから、という面も大きい。


そんなのが、また?


「なんで“俺”にだけ言うんだ!? もしかして、この砦ってそれのためか!?」


蝿魔獣換算なら、流石に少し過剰な気もするが。


「えぇ? だって説明できないしさ。特殊な魔獣……まぁ仮に『大魔獣』って呼ぶとして、それが来るなんてさ。それに、魔獣が消えるのは不可解だよ」


まぁ、確かにそう言われればそうとも言えるかもしれない。


「もしかして、魔獣が消えたのを警戒してこの人数なのか? っていうか、前はなかったのか?」


「質問ばっかりだね。魔獣が消えたのは、その大魔獣のせいだと私は睨んでる。前はこんなことなかったよ」


心外だ、と言わんばかりに首を振るマシロ。


だが内容が内容だけに、話が大きすぎてすぐには飲み込めない。


「もしかして……青班ってそういうことか? アレみたいなのと戦えってこと?」


エル、フィリ、ロアの実力はまだ分からない。

だが、アイリーン、モーブ、ヴィルの実力なら知っている。


もう一度蝿魔獣と戦ったとして、確実に勝てるとは言えない。

だが、確実に負けるとも言えない。


「そうなるね。ちなみに、君だけに話した理由は分かるかな?」


考えてはみるが、答えになりそうなものは思いつかない。


「…………なんで?」


「まぁ、答えないけどさ」


「なんでだよ!」


「これだけ知っててくれれば良い。“みんな”も私も、適当に選んでるわけじゃない。むしろ大魔獣には死んでもらった方が良いし、みんなが生きてくれていた方が都合が良いってこと」


それだけ聞くとなんとも言えない。


だが、珍しく真剣そうな表情をするマシロに少し気圧される。

白い肌と、水色と金色の両目が妙に光り輝いて見えた。


「分かった分かった。ちなみに、その『大魔獣』ってのが出ない確率はどんなもんなんだ?」


「んー、0%」


ふざけるな、と怒気が湧く。


どうにも、平穏は諦めるしかないようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。