第三話 葛藤
「このお方の未来を見ろと?」
「左様、その者が後に添い遂げるのはこの我か、ここに居るポセイドンのどちらなのかを占えばよい」
「それは無理に御座います」
「何、無理とな?」
拒絶するプロメテウスにゼウスは露骨に怒りを見せる。
「このゼウスの命が聞けぬと申すか?」
「はい、無理な原因もまた、ゼウス様、貴方様の命ですから」
玉座から腰を浮かせようとしたゼウスの動きが止まる。
「何、我の命だと?」
「お忘れですか? どんな神であろうとその未来を占ってはならぬ━━そうお命じになられたのは、他ならぬゼウス様に御座いませんか。このお方は女神にあられるようですが」
渋い顔になったゼウスは、深く座り直す。
「そうであったわ。神々の未来を見ると碌なことにならぬ故、見てはならぬと命じたのであったな」
「未来は容易く変えられぬもの。例え変えられても、その本人は勿論、周りに影響を及ぼすのは必定」
「そうだ。況してそれが神ならば多大なる影響を及ぼそう。だから禁じたのだ。すっかり忘れておったわ。これは困った」
ゼウスだけではなく、ポセイドンもまた困惑するばかりだ。
アポロン、そしてテティスもまた成す術なく、重い空気が流れる中、切り出したのはプロメテウスだ。
「一つだけ良き案が御座います」
一斉にその場の視線がプロメテウスに集まる。
「何、良き案じゃと? あるならさっさと申さぬか。して、いかなる案か? 先程云うた通り直接占う事は許さんぞ」
「分かっております。名前は申せませぬが、以前にも似た頼みをして来た神がおりまして」
「何と、女神と添い遂げられるかどうかを占えと? 神の未来を占うのを禁じておると云うのに、なんと不謹慎な」
最後の言葉に周りの視線が集まったのに気付き、ゼウスは咳払いをして紛らせる。
「して、どうしたのじゃ?」
「勿論、神の未来を占うのは禁じられているとその神にも伝えました。ただ、どうしても知りたいとせがまれましたので、思案の末、相手の女神の子がどう言う子かを占ってはどうかと」
「ほう、なるほど。それだと女神を直接占う訳ではないし、その子も未来を占う訳でもないと言う訳か」
面白そうに口を突いたはポセイドンだ。
「それはまた、強引な手を思いついたものだ。このゼウスを謀る手をな」
「ですが、それが駄目だと申されるのなら、私にできる事はもうないかと」
「まあ待て、そう逸るでない。誰も駄目だとは申しておらぬではないか。今は何でも良いから手を使え」
「御意。ただ、先に申しておきますが、占ってもその子の親が誰かははっきりしない場合も御座います。先に申した神も、その占った子の親かどうかは判りませんでしたので」
「それは仕方あるまい。ですな」
これ以上は時間の無駄だとポセイドンが釘を刺すようにゼウスに目を向ける。
「ああ、分かったから、早くせい」
深く頷いたプロメテウスの手が、隣に立つテティスの額にゆっくりと伸びる。




