二人の行方
レオナルディ・レオナールが魔法騎士団を通してリーヴェ家を訪問してきたのは、間もなく昼という時間だった。
できるだけ急いでいたにもかかわらず、どういう訳かうまくつなぎがつかなかった。
嫡男のウリエレが応対し、対応の遅れを謝罪した。
レオナルディが弟から預かったというメモを見せ、弟から知らされている内容を話していると、リーヴェ家の執事が来客中を承知でノックをしてきた。
「ウリエレ様、これを」
手渡されたのは、妹テレシアから父にあてた手紙だった。一昨日出されたものが、「何らかの手違い」で今届いた、と伝えられた。
中身は今レオナルディから話された内容とほぼ同じだった。
意図的に仕組まれた「遅れ」と考える方が自然だった。
テレシアが向かったというジラルディ伯爵家へ、騎士団が派遣された。
その途中で、プリマヴェーラ家の馬車が王都へ戻ってくるのが確認され、馬車を止めたが、そこには同行したはずのテレシアも、それを追ったフェルディの姿もなかった。
騎士団の半数は残り、半数は予定通りジラルディ邸へ向かった。
姫は忘れ物を取りに遠縁のジラルディ伯爵のところへ行っただけだと言い、中にいた侍従たちも異論はなかった。
「テレンス」のことは知らない、とそこにいた誰もが言った。
しかし、その中に見知らぬ男がいることに気が付き、大騒ぎになった。
男は、ジラルディ伯爵家の下男だと言った。
馬車に同行しながら、男は何故乗っていたのかわからない、男以外の者も何故共にいるのかわからない状態で、しかもその男は親指を後ろ手に結ばれ、自由が利かない状態だった。紐を解くと、長時間その状態だったことが推察されたにもかかわらず、道中誰も、縛られていた本人さえもがおかしいと思っていない、異様な状態だった。
男のことがなければ、ただ忘れ物を取りに行ったという姫の言葉を信じたかもしれない。
忘れ物の指輪には石がなかったが、指摘されても姫はただ首をかしげただけだった。
ジラルディ邸に向かった者たちは、屋敷の壁の一部が崩れているのに驚き、家主の応答も待たず館に入った。
中には手に怪我を負ったジラルディ伯がいて、執事の治療を受けていた。
魔法の研究をしていた伯爵が実験に失敗したという話だった。
ベアトリーチェ姫が来て、指輪を持って帰ったことは確認が取れた。同行していたのは侍女、侍従、護衛たちだが、リヴァーサ王家に関わる魔具であったため、屋敷に入ったのは姫だけで受け取るとすぐに帰った、と証言した。
家の壁を崩すほどの爆発騒ぎは、姫が帰った後で起きたものと説明された。
「テレンス」または「テレシア」と名乗るものは来ていない、と家主もその家に仕える者も口を揃えていた。
この時点で、テレシアの行方を知るものはいなくなった。
家の前に馬をつないだままの馬車があったが、ジラルディ家のものだった。事故で片付け忘れていたと言った。
ジラルディ邸の中を見ていた騎士団員の一人が、壁に刺さっていたナイフを抜いた。
「これで指を怪我されたので?」
「爆発のせいでナイフが飛んだのでしょう」
ジラルディ伯はそう答えた。
ナイフを見つけた騎士団員、ラファエレは、黙ってそのナイフを持ち帰った。
夜になり、魔法騎士団の本部の一室にはフェルナン・リーヴェ侯爵とその嫡男ウリエレ、ジェラルド・レオナールとその子供レオナルディ、ラファエレが集まっていた。
テレシア、フェルディは共にまだ戻っていなかった。
「ジラルディ伯爵邸に行ったのは間違いないようです」
ラファエレが、伯爵邸で見つけたナイフを机の上に置いた。
「兄が、弟に渡したナイフが刺さってました」
「ジラルディ伯は北の魔女がらみでリヴァーサとつながりがあってね。特に伯は北の魔女を崇拝していたから、魔女を消滅させたのがテレシアだと知れば、何らかの恨みは持っているかもしれない」
北の魔女が黒い森で消滅したことは、ここフィオレンツァでも知るものは少ない。この面々でもラファエレは初耳で、ぼそりと「まじかよ」とつぶやいて、しごいてきた弟子に少し身震いした。
「にしては、ジラルディ伯とベアトリーチェ姫との話がうまくまとまりすぎていて、ちょっと気味が悪い。そのあとも、館から動いていないようだし」
ウリエレが考えを巡らせているとレオナルディが
「リヴァーサに連れ去られた可能性は?」
と、情報はないか促すように尋ねた。ウリエレは答えなかったが、ラファエレが
「今のところはないかな。ジラルディ邸には伯爵家の馬車と、ベアトリーチェ姫の一行以外、出入りした形跡がない。ジラルディ伯自身が家で大人しくしていて、むしろ大人しすぎて気味が悪いくらいだ」
ウリエレは、目で父を追った。
「何かあったなら、テレシアが騒ぎを起こしていてもおかしくない。伯爵邸の壁の崩壊がそうなのかと思ったんだけど、なんか違うんだよな。…らしくない」
父、フェルナンが、ウリエレと目を合わせた。
「テレシアが動いたなら、壁以外の気配がなさすぎる。まるで魔法で消し去ったかのように…。」
「魔王がらみ、と言いたいのか」
ようやくフェルナンが口を開いた。
「疑いで調べられる相手ではない。」
弟妹を心配する子供たちの視線を受け、それでも侯爵としての立場も考えると、うかつなことはできない。魔王と友として接することはあっても、機嫌を損ねれば国家の惨事となる。
気になることはあった。
自分の妻アリシアに似た姪の姿を見ることを楽しみにしている、そう言いながらも、明らかに次第に興味を失っていた。
フェルナンの娘アリシアの退位式で、アリシアを見る彼の目はいつになく冷やかだった。
結婚式への出席も辞退した。
だが、それとテレシアがつながらない。
退位式では上機嫌で娘をエスコートし、その後も親子としてはどちらも歩み寄ることがないものの、魔法関連で師となり、それなりに良好な関係を築きつつあったように思えていた。
「だが、居所を知っているかくらいは尋ねても無作法にはならないだろう」
情報があれば、こ魔法騎士団を通して連絡を取り合うことで、その日は解散した。
しかし、フェルナンの心配をあおるように、魔王と連絡はつかなかった。




