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戻ってきた日常(2)

 ラファエレさんに20回目の敗北を受けた日は、ちょうどレオナルディさんもお休みで、私とフェルディの負けっぷりを見て

「なるほどね」と、にやっと笑ってアドバイスをくれた。

「テレンスは、もっと軽い剣にした方がいい。魔法は使わないんだろう?」

そう言って、細めの木刀を貸してくれた。

「攻めるのは、テレンスじゃなくて、フェルディで。テレンスは後ろでフェルディの動きを見て、あいつの攻撃に合わせるんだ」

 息が落ち着くのを待って、再度試合を始めた。

 フェルディと組んで、自分が後方につくのは初めてだった。

 ラファエレさんとフェルディが戦うところは何度か見たことがあったけれど、フェルディは一人で戦っているときのほうが速い。勝てはしないけれど、ラファエレさんの動きに十分ついて行っている。私がハンディになっているんだろうか。

 フェルディの動きを見る。

 左に回られると弱い。そこを攻めてくるラファエレさんを右後ろから狙うと、一瞬対応に遅れた。隙をついてフェルディが前に出る。少し押している。

 あえて邪魔をせず、任せてみる。

 何もせずに右に立っただけで、ちらちらと視線が気にしてる。面白い。時々フェイントを入れながら、手伝えるか様子を見る。

 フェルディの木刀が空を飛んだ。

 左肩を打たれるところを私が受ける。力が足りず、押負けそうなところを、フェルディの腕が伸びてきて、ぐっとはじき返すと、私から木刀を受け取ってそのまま胴に一撃を食らわせた。とはいえ寸止めに近いものだけど。

 初勝利に思わず

「やった!」

と飛び上がったフェルディに、何の練習もしていないのにハイタッチから大きな音を立てての握手がピタッと決まった。

 思わず声を上げて笑ってしまった。

「ちぇっ。」

 ラファエレさんが悔しそうに、口をとんがらせていた。

「はい、わかったことは?」

 レオナルディさんからのおさらい確認。

「私が先に行くと、フェルディが遅くなる」

「半分正解。」

「私が遅いのに、フェルディが合わせてしまう?」

「そうだ。魔法はなしだろ?」

「はい」

「普段、力が足りないのを、魔法で補ってないか?」

 言われた通りだった。

「それなのに、ラファエレの木刀借りてたら、重すぎるだろ。自分に合った武器を見極めること」

 なるほど。自前の武器ならともかく、模擬戦用の刀なんて、どれも同じだと思ってた。

「他には?」

「フェルディは左が苦手、かな」

「今まで気が付かなかった?」

「…周りをちゃんと見てなかった、から?」

 レオナルディさんは、こくりと頷いた。

「魔法を使った攻撃でも、テレンスは一発狙いだろ? でも防御の時は、よく周りを見て、サポートが早い。誰かと組むときは、攻撃よりサポートのほうが向いてるんじゃないか?」

「猪突猛進も、大魔法があれば決まるだろうけど、剣の技量はまだまだだからなあ。」

 ラファエレさんも、わかっていたらしい。

「そこへ来て、フェルディは君が動きやすいように展開するだろ? 君は暴走する。フェルディは危なっかしい君を守るのに必死になる。そして自滅。大体このパターンが多い」

 うーむ、やばい。心当たりがありすぎる。

「いやあ、もう見てるこっちがこっぱずかしいから、絶対負けてやるかって気合入りまくるわー。あー、あまずっぺ!」

 謎の一言の後、ラファエレさんは「休憩!」と、飛んで行った木刀を拾って戻ってきたフェルディに声をかけた。

 少し休憩を取った後、レオナルディさんも交えて練習をし、最後はラファエレさんとレオナルディさんの決闘じみた打ち合いになっていた。


 5回に1回は勝てるようになって、二人の役割もいろいろ変えてみて、呆れられるような必殺技を大失敗しているうちに、私も1対1で稽古をつけてもらえることが増えてきた。

 少しは上達しているのかもしれない。嬉しくなった。


 毒トカゲが1匹、街の近くに表れるようになり、急遽夜の討伐が行われた。

 緊急事態で、最近臨時要員に登録した同じクラスのジェイスが人集めをしていて、一緒に参加することになった。

 あまり討伐要員が集まらなかったことに加え、騎士団から人が来る前に張り切った面々がフライングで攻撃をはじめて毒トカゲを無駄に怒らせてしまい、ちょっと苦戦を強いられた。騎士団が来るまで何とか持たせ、本格的な攻撃は、騎士団と数人の討伐要員が引き受けた。

 結果、討伐が終わったのは夜中過ぎで、健康的な生活に慣れていた自分には、少し遅すぎる時間だった。


 翌日は眠気との戦いで、久々に飯より寝る、を選んでしまった。

 「…、テリィ、…テリィ」

 名前を呼ばれて目を開けると、校舎の陰のいつもの休憩の場所にいた。

 そう言えば、久々に木にもたれて居眠りをしていた。木に…もたれて?

 もたれていたのは、フェルディの肩だった。半年前には同じように肩にもたれて平然と居眠りをしていたのに、今の自分の姿に気が付くと、急に戸惑いを覚えた。なんだか顔が熱い。慌てて体を起こした。

「もう授業始まるよ。まだ眠い?」

 ゆっくりと首を横に振った。

 ぐっすりと眠ってしまった。意識が澄み渡る。

「あ…。…ありがとう」

 フェルディは、手にしていた本をゆっくりと閉じ、黙って笑っていた。あの頃と何も変わってない。変わっているのは、

 私?


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