戻ってきた日常
退位式から3日後、私は元いた寄宿舎に戻ることを許された。
伯父との授業は、週に2日ほど、学校の終わった夜に続けられることになった。
新しい腕輪が渡され、今度は自分でつけ外しができるものだった。魔力を低く抑えるのに加え、「崩壊の祝福」という呪いがつけられ、その効果は「宿題」と言われた。
姉からは、箱に入った金貨を渡された。
私から姉へ渡していた「賄賂」を、姉はほんの一部しか使わず、残りは貯めてくれていた。また、前の長官がくすねていた私の給金の半分も戻り、にわかにお金持ちになった。
安心していると、何にお金を使っていたのかを聞かれ、ごまかし方が下手すぎて問い詰められ、授業料を自分で払っていたことを白状させられてしまった。危うく学校に戻ることを留保されるところだった。
これについては父が譲らず、今後は授業料は家から出すことになった。
ラファエレさんには、2対1の決闘を申し込み、笑って受けてもらえた代わりにコテンパンにされた。
そして、時間がある時には私にも稽古をつけてくれることになり、フェルディと一緒にしごかれに行くようになった。作戦もいろいろ考えたけど、今のところなかなかうまくいかない。何とか隙をついても、最終的には負けてしまう。
騎士団の自主訓練にも混ぜてもらえたり、少しだけ討伐にも連れて行ってもらうことがあった。
四聖だったことは周りにはばれていなかったけれど、「テレンス」という臨時要員の話は多少なりとも聞こえていたようで、魔法を使った補助はそこそこ頼りにされた。
「テレンス」の登録を抹消してなかったせいで、街の警備団から臨時討伐のお呼びがかかることもあり、学校に支障がない休みの日はこっそり参加していた。
「親に怒られて、学業優先です」というと、時々しか参加できないことも理解してもらえ、年配の討伐隊の人には「勉強は若いうちにしておけ!」と励まされた。
かつてのように、行かなければならないというプレッシャーがないのはありがたかった。
成績は、居眠りが減った分、少しはましになったけれど、決していい方とは言えなかった。
油断すると、先生の声が子守唄に聞こえてしまうのは、身についてしまった悪い習慣だ。
季節の変わり目に送られてくる服にズボンや今までにないシンプルなワンピースが混ざるようになった。気が向いたらチャレンジ、としつこく送られてくる母好みの服も数枚混ざっていたけれど、ナタリアはちょっと物足りないようだった。
髪が伸びて後ろで1つにまとめることが多くなった。
髪が伸びれば少しは女の子らしくなる、と期待していた面々は、逆に更に勇ましさを増した姿に、そっちへの期待はなくしたようだった。
退位式から4か月後、姉とリュートは無事結婚した。
人が死にかけている間にラブラブ離島隔離生活を送った甲斐があり、早々に決意しなければいけない状況になった訳だけど、二人の気持ちはいつでもOKだったので、特に問題はなかった。魔王が父に予告もしておいたようだし。
この年でおばさんと呼ばれるようになるのかと思うと、ちょっと複雑ではあるけれど、楽しみな気持ちの方が大きい。母のお世話焼きも、私から孫へと移ることを期待して…。
姉が貯めてくれていたお金を、この機会にお祝いとして二人に渡した。
結婚式、そしてリーヴェ家で行われた披露宴。久々のドレス姿は慣れなかったけれど、前よりはシンプルなものになっていて、少しは動きやすかった。にもかかわらず、2時間もしないうちにうずうずして、早くいつもの格好に戻りたくなった。
時々向けられる、ねちっこい好奇の目線が不快だった。
誰かが、私のぶどうジュースをワインにすり替えていた。
少し酔いが回ったついでに、四聖の一人エリアスにケンカを売り、余興に腕相撲をした。少し粘りはしたものの、案の定勝てなかった。
四聖の3人は私の正体を知っているので、遠慮もなくそのまま少し話をした。4人目はまだ保留になっていると聞いた。返り咲く?と言われたけれど、丁寧にお断りをした。
そのあとすぐに兄に連れられて、自分の部屋に戻った。多少のアルコールくらい平気だと思っていたけれど、異様ににふらついているのを見て、慌てて助けに来てくれたようだった。
「ばか」と4回も言われた。
姉のために今日は最後までいようと思ったのに、どうもうまくいかない。
兄の説教の中で何度も唱えられた警戒心も、注意も、すべてが面倒で、叱られながらそのまま眠ってしまった。




