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婚約破棄戴きました!

沢山の女性が集まってきている。女性が集まると始まるのがお喋りよね。マーガレットブランドの商品を見ながら、ご婦人方が侯爵に声をかけている。


「ねえ。会場で展示なんて初めてよね? 特に今回の新作はプレミアムで高価なお品。サンプルは大商会でのみ手にとれると聞いたわ。これらは大丈夫なのかしら? 」


「そうよ。私も先日予約したわ。でもやはり実物を見るには、予約票を大商会へ提示する形と聞いたわよ。まあ信頼してるから、わざわざ見には行かないけど」


「そうよね。必ずマーガレットブランド代表のお嬢様が、直接自宅まで届けて下さるもの。ついでにアフターもして下さるから助かるのよ」


どう言う意味かと、周囲の人々がガヤガヤし始めている。


「ご婦人方、どうぞご心配なさらないて下さい。今回は侯爵たる私の仲介により、特別にご用意出来たのです。やはり見本が有りました方が宜しいかと、私が自腹で購入して参りました」


「え? まだ発売されていないのよ? 」


「それは特別にですから。代表本人もいらっしゃるので、是非宜しくお願い致します」


「「「…………」」」


サンプルを見定めた一部のご婦人方が、ヒソヒソと隅で輪になり始めている。それでもマーガレットブランドの人気は衰えず、ますます人集りになってゆく。マーガレットブランド代表だと言うローズマリーは、可愛いでしょー。素敵でしょー。を連発し、予約は此方とやや強引にサインをさせてゆく。


ローズマリーにサインを促されていた女性の一人が、彼女の手を振り払い突如大声をあげた。


「やはり可笑しいわよ! 代表が違うじゃない! あの方はそんな品のない下品な話し方をしないわ! 」


「そうよね。下品すぎるわ。代表はお茶を飲むだけでも指先まで優雅だわ。正体は隠されているけど、育ちの良さは隠せない」


「何ですってー! なら買わなくて良いわよ! さっさと何処かへ行け! 」


「「「…………」」」


ほらね?クスクス。


やはりね……当たり前よ。


まぁ。何てお下品な口を……


絶対に偽者よ。品物もよね。


現に不味いと騒いでたじゃない。


あれはポーションよね?


クスクス。そうよ。


王も何故こんな展示を許可なされたのかしら?


ヒソヒソと噂はさざ波の様に広まってゆく。


「私はローズマリーよ! 侯爵が私が代表だと言うからしているの! 偽者じゃない! 私は私! 可憐なるヒロイン。エドワード様にも愛される乙女よ。身分が低いからって虐めるな! 」


誰も虐めてなんていないじゃない。被害妄想過ぎるわ。思考も変だしこれはもうどうしようもないわね。


でも流石にこれでは詐欺になってしまう。マーガレットブランドにも傷が付くし、王宮主催のパーティーにも傷が付くわ。仕方が無いわね。


「ロジャース行くわよ。宜しく」


「任せとけ! 」


互いに小さな声でエールを送りあう。さあ出るわよ!


*****


ダンス終了と共に、皇太子様への祝辞やお祝いの品々が贈られ始める。その中に私たちは、王の了解を取り混じった。私エリザベートは、マーガレットブランド代表として。ロジャースは大商会の後継としてね。


「皇太子様。この度の外交の成功、誠におめでとうございます。我が商会も、近隣諸国との取引に力を注いでゆくつもりでございます。此度の祝いの品として此方をご用意させて戴きました。我が商会専売であるマーガレットブランドの新商品です。発売前でございますが、是非先にお試し下さい」


ロジャースが大商会代表として挨拶を述べる。私はマーガレットブランド代表として、贈呈品を乗せた台を皇太子様の前に運んだ。


「お初にお目にかかります。マーガレットブランド代表でございます。どうぞお見知りおきを。今回の新製品は新婚向けとも言われております。是非御成婚時にお役立て下さいませ」


皇太子様はわたしをジッと見ている。気付いているかしら?特にバレても構わないんだけど、動きづらくなるのが嫌なのよ。


「…………」


やはり下に視線が行くのね……


お祝いの贈り物は、誰からでも見る事が出来る様に、一画に展示されている。マーガレットブランドの新商品も、そちらに運ばれる。


「マーガレットブランドのお品の中に、一部魔道具の原理を応用した装飾がございます。例えば此方のカラトリー(←カトラリー)ケースの飾り石や、花瓶等の飾り石の部分です。これらは魔力を含む魔力石と申します。魔道具の動力に使用するには満たないな石を、輝きが美しい為に使用しました。勿論このままでも美しいのですが……」


私は花瓶を手に取り皆様から見える様に様に手を添える。すると更に飾り石が光り、キラキラと輝き始めた。ゆっくりと手を離す。


「魔力を与えると、更にこんな感じになります。魔力石に魔力が充填され、輝きが増したのです。この魔力の補充は、魔力が有れば何方でも行えます。但しこの国では魔力持ちが少ない。その為商会にご持参。またはご相談して下されば、私がメンテナンスに伺っております」


ザワザワと会場内が騒がしくなる。やはり皆さまの視線の先は……


「ところで皆さま! 隣国の魔法大国の魔道具はもうご覧になりましたか? 私は特にこのオコジョちゃんを気にいってしまいました。実は此方のオヤツ。この内部に魔力石が組み込まれております。はーいあーん。動力をオヤツに見たてており、パクリと食べちゃうんです」


可愛いと歓声が上がる。掴み所はバッチリね。


「書類仕事の際には手元にチョコンと座り、灯りをともしてくれます。みよーんとのびて、手元を的確に照らしてくれる良い子です。実はマーガレットブランドの装飾は、此方の魔道具の原理を使用させて戴きました。」


装飾に使われてる魔力石は所謂くず石と呼ばれるものなの。小さすぎて動力としては使用できない。本来ならば魔力だけを抽出し廃棄される。私はそれに目をつけたわけ。綺麗だしその輝きは宝石にも劣らない。しかも安価で手に入れることができる。


「これにて説明を終了させて戴きます。では皆様、御前失礼致します」


私とロジャースは次の方に場所を譲り、壁際へ下がる。すると以前私と取引をしたご婦人方が詰め寄せてきた。


「やはり! マーガレットブランドの代表様に商会のロジャース樣! 此方が本物。ローズマリーとやらは偽者よ! 新商品だって品質どころか品まで違うじゃない。ポーションが不味いと怒鳴ってるし! まさか侯爵様は詐欺をするおつもりなの? 」


「そうね。マグカップがグラスだし、飾りの石もただのガラス玉よね」


侯爵が慌てて弁解をする。


「まさか詐欺だなんて! あの者が間違いなくローズマリーが代表だと! 」


犯罪者の自白を信じる方がバカよね。


「侯爵樣。先日も私はお伝えしましたが、ローズマリーとやらは違いますよ。此方の方が、マーガレットブランド代表に間違い有りません。決定的な証拠も有ります。ローズマリーとやらには魔力が有りませんよね? ポーションが不味いのがその証拠です。代表に魔力が無ければ、メンテナンスが出来ませんよ。また商品は専売ですので、我が商会から以外は購入出来ないのです。信用の為に卸しもしておりません」


「では! では代表は何故!? 」


「それは私が商品企画のプロデュースをしているからですわ。レシピや道具の考案は妹が。私がそれらをマーガレットブランドとしてデザインし商品化させました。商会さんに製作と販売はお任せしておりますが、ブランドの経営者は私と妹なのです。ですから私が直接受けた注文も、必ず商会を通しております。税の関係もございますからね。私は私たち姉妹の品を商品化し販売して下さる商会さんの、販売ルートのお手伝いをさせて戴いているだけなんですよ」


貴族のご婦人方はかなり多忙でのんびり買い物を楽しむ余裕もない。また大貴族ともなるとうかうか出歩く事も出来ない。ロジャースはそんな貴族様の為に、出入りの商人の様な事もしている。しかしマーガレットブランドの売り上げはかなりのもの。中々手が回りきらず、ならばと私が貴族を受け持つ事にしたの。何故皆さん素性の解らぬ私を信用するのかって?だって皆さん私だと知っているんだもの。女性の勘は鋭いのよ。これも所謂暗黙の了解と言う奴ね。だから私は金髪のままにしてるの。公爵家の肩書きは信用に価するからね。それでも男性陣にバレないのには笑えちゃうのだけど。


「あ! 侯爵様。我が商会に昨日送付されてきた注文書ですが、全て理由をお話しキャンセルさせて戴きました。皆様今朝方から再度予約をして下さいました。我が商会は予約さえ戴ければ、キチンと発売日にお届け致します」


予約を取っているのは必要数以上の生産と、販売日当日に商会窓口が混乱にならない為だもの。キチンとするわよ。


「因みに注文を受けただけで商品の在庫も知らず、注文書を送り付け発送もアフターも全て商会に丸投げ。それで商品代金の半額をマージンとしろと? 貴方は商売をなめているのですか? 商品製作に人件費。どれ程かかるとお思いで? バカにさる(←する)のも大概にして欲しいですね! 」


項垂れる侯爵様。ローズマリーは三バカと何か言い争い暴れている。


「私からお渡しする予約の書類にも、商会への注文になるとキチンと記載されています。また連絡先は商会となっております。注文書自体がマーガレットブランド特注の紙で、花とロゴが透かし模様になっております。心配な方は此方の本物と己の注文書を見比べてみて下さい。予約はまだまだ受け付けております。商品も予約分は販売分と分けております。心配なさらないで下さいませ」


ふう。漸くひと息ついたわ。王様はどうかしら?大丈夫そうね。何時の間にか魔道具の裏に有った展示も片付けられてる。侯爵は警備兵に連行された。


王様には商会から話を通して貰っていたの。王家主催のパーティーでの不祥事は王家の面子にも関わる。全て見て見ぬふりをしてくれる約束。但し後始末だけは、王様が付ける事が条件だったのよ。


「このくそ女! 私の仕事を取らないでよ! 私は侯爵に頼まれてマーガレットブランドの代表をしているの! 偽者とか関係ないのよ! 予約の分だけお小遣いが貰えるの! 」


「「「ローズマリー……」」」


流石の三バカもそろそろ頭が冷めたのかしら?呆れた顔をしてるわ。ローズマリーは頼まれたからしていると言う。頼まれて誰かの真似をするのは確かに犯罪ではない。でも本物を前にして語るのは、明らかに人権侵害よね?


「私の真似をするのは、確かに犯罪には当たらないかもしれません。しかし私の人権を侵害してるわ。それに貴女の受けた注文では品物が届かないの。つまり人に損害を与えるの。ここで犯罪が成立になるのよ。解らない? 」


「解んないわよ! なら私に注文を取れと言った侯爵が悪いんでしょ! それにアンタの人権なんて侵害してないわ! 私みたいな可愛い子に真似て貰えるなんて、通常より素晴らしいと評判が上がるわよ! 」


ダメだこりゃ。


私とロジャースは顔を見合わせ頭を抱える。王様ってば!何でこのバカも連行しないのよ。全くもう。面倒ね。


「あー!エドワード様だー。貴方の愛するローズマリーはここにいますよー。今晩も呼んで下さいね」


ローズマリーが三バカを振り払い駆け出してゆく。


あわれ三バカ……


ローズマリーが皇太子様の周りを、ぴょんぴょん跳ねながらくるくるまわる。鬱陶しさげ(←鬱陶しげ)に手で追い払う皇太子様。しかしめげずに食い付くローズマリー。


あ! 無理矢理キスした!


呆然と立ち竦む皇太子様。男ならピシッとしろ!何まとわり付かれているの?まあ良いわ。私はさっさと着替えて来なくちゃ。このままで帰宅の挨拶は出来ないからね。


ロジャースとグレイシー様に挨拶をし、私はこっそりと退出した。


*****


まだローズマリーといるのね。そろそろラストの挨拶の時間だけど、もしかしたらローズマリーをエスコートするつもり?妙に仲良さげに見えるわね?


「皇太子様。そろそろラストの挨拶ですがどうなさりますか? 」


「出たな悪役令嬢!エドワード様は私をエスコートしてくれるの。だから貴女はお役御免よ。ねえ? エドワード様? 」


「ああ……私は貴女と……」


「嬉しい! なら早く挨拶何て済ましちゃいましょ」


「いや。私は……」


「皇太子様? 本当に婚約者で有る私ではなく、そちらのご令嬢とで宜しいのですか? はっきりなさって下さい」


「未練たらしいな! エドワード様は私を愛してるのよ。貴女とは婚約破棄するって。さっさと消えなさい! ねえ?エドワードさまぁ……」


「ああ……」


皇太子様の目を見る。虚ろな瞳は私の目を捉えてはいない。皇太子様は変態だけど、キチンと人の目を見て話す人の筈。


私は皇太子様に近より、魔道具のペンダントを首にかける。私は思い切り皇太子様に腕で払われ昏倒した。イスにかすった額から血が滴り落ちる。


ペンダントをかけられた皇太子様の体が、淡く光り始めやがて収まった。


「おい。大丈夫か? 」


ロジャースが駆け寄り、私を支え立たせてくれた。グレイシー様もやって来て、治癒の魔法をかけてくれる。


「大丈夫です。おニ人共に有難うございます」


皇太子様は私に手を差し伸べる事も無く、今だじっと私の方を見ていた。


私はふらつく足元を気付かれぬ様に、思い切り力を入れて歩き出す。皇太子様に向き合い再度たずねる。


「これで最後です。私ではなくその方と最後の挨拶をするのですね?王宮主催のパーティー。しかも自身が主役。その貴方がその方を伴う。その意味を理解されてるのですね? その方を愛しているから、私とは婚約破棄をするのですね? 間違いは有りませんね? 」


静まり返る場内。何時の間にか会場中の注目の的になっていた様だ。


「おい。幾ら何でも……」


「あれは魅了によるものです……」


ニ人が小声で私を諌めてくる。でも違う。そうじゃ無い。もう魅了の効果は消えた筈。なのに何故キチンと拒否し、答えられないの?


「私は……」


「しつこいな! 婚約破棄で良いの! 昨晩の様に私がバッチリ愛してあげる」


「あぁ……」


「そうですか。了解致しました。国王様の御前でのお言葉。私、しっかりとお受け致しました。婚約破棄の手続きの方を、どうぞ宜しくお願い致します。それでは失礼致します」


私は振り向きもせずその場を歩き出す。


「まっ待ってくれ! 」


背後からガシリと腕で腰をホールドされる。更には反対の腕でドリルを前に倒された。ぐっ、ぐえぇ……むっ胸が苦しい。圧迫される。


突然何をするのよ!腰の腕を外そうと暴れるがびくともしない。突如肩に痛みが走る。


「うぅー! い、痛ーい! 痛いわよ! 離れろこの馬鹿ー!」


私の大声に腕が緩む。その拍子に腕から抜け出した。肩に噛み付いた?いったい何をしてくれちゃっているの?


皇太子様をキッと睨み付ける。


「やはりホクロ……誰彼構わず……」


は?何を言っているの?ハッキリとしなさいよ!


「この正三角形を描くホクロを、誰彼構わずに見せたのか!? 」


は?ホクロ?まさか!


「自分でもつい先日まで知らなかったのに、誰彼構わずに見せるわけがないじゃない。何を言っているの? 」


「このホクロは私だけが知ってれば良いのだ! 」


「何故本人すら知らなかった事を知っているの? ねえ! 何故よ! 」


なんだかこれはヤバそうよ。言質は取っているしさっさと逃げましょう。


「婚約破棄された女は早々に去りますわ。ではお幸せに! それでは! 」


私は逃げる。ダッシュで会場を去る。


兎に角逃走よ!

これだけ公衆の面前で恥をかかされたんだから、家出しても許される筈。何なら縁切りして貰おう。ロジャースを挟めばマーガレットブランドは安泰だしね。


これはラッキーすぎる。


あ!魔道具返して貰うの忘れちゃったよ。あーあ。


*****


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