これはざまぁへの助走かしら?
すっかり時間を無駄にしたわ。何て事を言ってはいけないわね。だって私は公爵令嬢。しかも皇太子様の婚約者。ゆくゆくは皇太子妃となり、やがては王妃となり国母となる。その為には威厳が必要なのよ。人前でアホ顔を見せてはいけないの。
駄目よエリザベート。にやけちゃ駄目。顔に出しては駄目。絶対に駄目なの。ダメよ……ダ……ダメなのよ……
ふ……っ……ふにゃーん。
いやん。これは可愛すぎるわ。流石にこの子たちを見たら、誰でもデレ顔になるわよーん。可愛いでちゅー。
「おいっ。顔が崩れてるぞ。気を付けろよ。全く……お前も一応女なんだな」
「ロジャース! 忠告は助かるけど……一言余計だわ! 」
「お前さぁ……その顔を皇太子様に見せてやれよ。少しは関係が変わるぞ」
「あんたねー。自分がラブラブだからと、私をけしかけるのは止めて欲しいわ。たしかに私も思ったわよ。己も固くな過ぎるとね。だから笑顔で接した事も有るし、差し入れを持って行った事も有るのよ」
「まさかその差し入れは手作りじゃないよな? 」
こいつは……
「当たり前じゃない。私は料理何て出来ないわよ。それに皇太子様には毒味も必要なの。公爵家の料理人に頼んだわよ」
「なら不都合はないな。喜んだんじゃないのか? 」
「食べなかったの。後で食べるからと侍従に持ち帰らせたわ。しかも毎回よ! お誕生日だからとクッキーを焼いて貰い私がラッピングした時も! チョコが欲しいと言うからお取り寄せまでしたのによ! 一度も私の前で食はべないの(←食べないの)! 」
「何でだ? さすがに解らん」
知らないわよ!私の方が知りたいくらいよ!
「笑顔だって頑張ってみたの。なのに無理してまで笑う必要はないと言われたのよ! 酷すぎると思わない? 」
「それは笑いが不気味だったとか? 違うな。無理して笑わなくても可愛いとかじゃないのか? 」
「私の笑い顔は他人には見せられない顔だと言われましたが? 」
「もう良いから! しかし魔道具でこんなに癒されるとは思わなかったわ。グレイシー様。本当に貴重なお品を拝見させて戴きましたわ。有難うございます」
私は隣国の魔法大国の、魔道具の展示場にお邪魔していた。
*****
今回魔道具の説明をしてくれてるのが、隣国の魔法大国の大使様。国では筆頭魔術師を任ぜられているそう。魔道具作りから魔法の発動や魔術の構築もさることながら、魔力も桁違いに多く兎に角凄いお人なの。魔法とはイメージで構築し発動する。簡単な初級魔法は魔力さえ有れば、巷で良く知られている呪文でも発動可能。しかし魔術師となると違う。それらを独自で創造しなければならない。
魔術師とは中級以上の魔法を、オリジナルで生み出せる魔法使いを呼ぶ呼称なの。
「過程の魔方陣(←この場合は『魔法陣』が正しいかと思われます。それぞれの漢字をネットで調べてみてください。)がまた素晴らしいの一言ですわね。さらにはそれを組み替え完全に己の物にする、無詠唱にまで出来てしまう。本当に素晴らしいわ」
以前たまたまパーティーでお話をした時、私には魔力が有ると教えてくれた。それもかなりある。魔法を使わぬのは勿体無いと、グレイシー様はその場で手持ちの魔法の本を下さった。グレイシー様位になると人の体内の魔力量が可視化して見えるらしい。
「気に入って下さり何よりです。魔道具とは生活をより便利にするものです。しかし常にそばに有るなら可愛いものがよい。これらは研究所の女性チームが開発しました」
確かにそうよね。お部屋に戻るとモコモコちゃんズがお出迎え。居ない間に空気を綺麗にしてくれる。しかもご飯も食べるの。魔力を充電した物を補充するんだけど、それがオヤツの形をしているの!お口にモグモグ入れる姿も可愛すぎるわー。
「現在は空気清浄のペンギン型。床掃除のウサギ型。ランプのオコジョ型。肩揉み機のネコ型です。後この子はそのものの番犬です。部屋や周囲に結界をはり、中の主人を守ります。攻撃機能は有りませんが、所謂犬型警報器です」
わっワンコモフモフに肩揉みネコの肉球モミモミー!ランプオコジョ何て、みよーんとのびるのよ!いやん。可愛すぎる。愛くるしいわー。
「宜しければ贈呈致しましょう。エリザベート様は魔力量も私にひけを取らぬ位有ります。この子たちのご飯も心配もないでしょう。先日お約束した中級魔法の本と共に、控え室の方へ届けさせます。ぜひ可愛がってあげて下さい」
そんな!貰ってしまって宜しいのかしら?どうしましょう。でもタダより怖い物はないと……
「宣伝にもなりますのでご遠慮なさらないで下さい。魔力量を心配せずに可愛がって下さる方は中々いないのです。企画した彼女たちも喜びます。オヤツの種類も他にも沢山有りますので、のちほど一緒にお届けします」
後から何かお礼を送ろうかしら?でもお断りされそうね。ん?あれらはもしかして?よし。これなら!
「それではお言葉に甘えますね。そちらに仕舞われてる魔道具は魔力切れですよね? ならば気持ちばかりですが、私が魔力を補充致しましょう。グレイシー様の魔力は帰宅する為にも必要でしょう? 私は魔法を使いませんので幾らでもどうぞ」
隣国の魔法大国の大使様方は、今回転移の魔法で訪問されたと聞く。転移の魔法はかなりの魔力が必要。魔術師の方でも大変だと聞いている。
「それは助かりますが、本当に宜しいのですか? かなりの量が有りますよ? 」
「ダンスを鑑賞しながら補充しますわ。この穴に指をニ本添え、体内の魔力を循環させるのでしたね」
以前に教わった魔力循環の方法で、魔道具に魔力を循環させてにく。魔道具が発光し淡く青く輝いている。これが白くなると補充が終了となる。
「流石はエリザベート様。お上手です。しかも魔力が全く減っていませんね。これで魔法を使わぬとは……本当に宝の持ち腐れです。是非我が国にスカウトしたいくらいですよ」
「まぁ。お上手ですね。では頑張って補充してしまいますわ」
更に一つ魔道具を手に取り魔力を込める。慣れてくるとどの位の魔力が減ったかを感じる事が出来る様になった。
全て終了したけど、まだまだ魔力には余裕が有りそうね。
「お疲れ様でした。本当に助かりました。魔力はまだまだ大丈夫の様ですね。ですが念の為、此方をお飲み下さい。魔力回復のポーションです」
「…………」
ワイングラスに紫色の液体。見ただけではワインにしか見えない。
「もしかして、もの凄く苦いと言われるポーションかしら? 」
「回復系ポーションには薬草を使用する為、殆どの品に苦みとエグミが有ります。しかししこれは薬草から栽培し、徹底的に苦みとエグミの成分を除去しました。更に清涼感の強いフレーバーを添加しています。少し甘めですが苦くは有りません。我が国自慢の交易品ですので、是非お試ししてみて下さい。味も数種ございます」
恐る恐る口元に近付ける。匂いは良い感じ。柑橘系のフルーツの匂いね。
ゴクリ。ごっくん。
「どうでしょうか? 」
「美味しい……」
「因みに魔力の無い方が飲みますと、何故か物凄く苦く感じるそうです。私にはその苦味を試せませんがね」
一気に飲み干す。魔力がグングン増える感じがする。
「宜しければ他の味も試されて見ますか苺パフェ味何てのもござい…「あー! そのワイン飲みたい! 」…ます……」
「あ!グレイシー様だー! エリザベートってば浮気してるの? グレイシー様はエドワード様の腹違いの兄弟なのよね?
王様が隣国で手を付けた王宮侍女の子供。王様は庶子として認めているけど、己は公には出てこない。影の有る貴公子。前編の攻略対象でないのが残念ー」
「「…………」」
ローズマリー?金髪のカツラ被って何をしているの?それよりやはりバカなのね。公然の秘密を何故大声で話しているの?まさか知らないの?本当に頭がイカレポンチすぎるわ。王様の庶子が隣国の魔法大国にいるのは、公然の秘密となっているの。私もまさか大使がその人だとは思わなかったけど、言われて見れば皇太子様に良く似ている。皇太子様と同じく私とは従兄になるのよね。たぶん色彩はお母様似なのでしょう。
しかも手を付けた何て言い方。王様を侮辱しているととられても仕方が無い。隣国で王宮侍女が子を産んだ時、王様はまだ結婚はされていなかった。女性も侍女とは言え伯爵家の出自。王様は王妃に迎えたいと彼女に伝えた。しかし彼女が身を引いたの。私は王妃になる器では無いとね。だから現在の王妃様もご存じよ。王位継承権は低いけど、キチンと庶子として認められているのだから!
「おやおや。何やら騒がしい。ローズマリーは何を騒いでいるのだ。皆さまマーガレットブランドの紹介と、注文をお待ちかねだぞ。おや?これはエリザベス様。皇太子様だけでは無くグレイシー様にまでコナをかけるとは……次期王妃としてお恥ずかしくはないのですか? 」
「「…………」」
コイツは何様のつもりなのだろうか?今だに支度金の清算すらしていない。しかも王家主催の祝賀パーティーで、商売をしようというの?
しかもまた名前を間違えているし。間違えるなら呼ぶな!私は覚えたくもないので、貴方の名前すら知りません!
「グレイシー様もお邪魔して申し訳ない。流石に今をときめくマーガレットブランドの新作の発表です。魔道具等とは比べになりませんよ。宣伝のお邪魔でしょうが、どうぞご勘弁を」
マーガレットブランドの一部の装飾には、魔道具からの知識を引用してるのですがご存知ないの?そのアフターも売りなのよ?
さあさあ。モコモコちゃんの魔道具。私がイチオシ致しましてよ!うーん可愛い。あらワンちゃん。私に結界を張ってくれたの?そうね。あの人は悪者だからね。ご褒美にオヤツあげちゃう。ワンちゃんにはやはり骨付き肉よねー。お肉の魔力満タンにしちゃう。
はーい。いい子でちゅー。
美味しい?え。お手も出来るの?可愛すぎるわー。
あら?やだ気付かなかったわ。
マーガレットブランドは、魔道具の展示場の裏側で展示してたのね。でもこれは許可を取っているの?ロジャースを覗き見る。どうやら知らぬ様だし、彼が知らぬなら無断で展示しているのだろう。たいした度胸だこと。
それよりあの新作のレシピ本……装丁がちゃっちいわね。色合いも違うし、高級感を出す為の重厚感がない。ペア食器もセット内容が違う。マグカップがグラスになっているわ。
もしかしなくても偽者じゃない。しかしどうして?侯爵はローズマリーをマーガレットブランドの代表と思い込んでいるんじゃないの?思い込んでいるのならば、何故詐欺の様な事をしようとしてるの?
ロジャースが耳打ちしてきた。どうやら侯爵は、男爵がマーガレットブランドの事を知らぬ存ぜぬなので痺れを切らしたらしい。しかし実際に男爵は、本当に何も知らないのよ。ローズマリーの身なりが良いのは貢がせているから。実家の男爵家は慎ましく暮らしている。しかし侯爵はへこたれない。ならばローズマリー個人が、大商会に頼まれ貴族の注文を受けているのだろう。そう考えたらしい。だから注文をとってやったと、大商会の方へ勝手に注文を回してきたそうだ。
「注文書が届いたのが昨日です。しかし図々しいにも程がある。五割ですよ。五割のマージンを要求して来ました。注文者には偽の注文だと既に連絡済みです。侯爵には連絡していませんので、今日は更に大量の注文を取るつもりなのでしょう。しかし、サンプルが偽者とは……」
成る程。大商会が貴族であるローズマリーを伝手に使い、貴族からの注文を受けお小遣いを貰ってると考えたのね。まあ強引だけど、有り得なくはない。しかしそこに己が介入し、五割ものマージンとは恐れ入るわね。
あらやだ。ついつい長い考え事をしてしまったわ。
「いやー。激マズー。何これー! ゲホッ。ぐえぇ……エリザベートって変なの? こんなの飲ん……ヴェェ……」
こら!勝手に飲むな!回復ポーションはお高いのよ。でもローズマリーには魔力がないのね。こりゃ見物だわ。
私が何もしなくても勝手に自滅しそうね。ロジャースと目が合う。
互いにニヤリ。同士よ。
さてさて気付くのは何人いるかしら?
マーガレットブランドの展示側がガヤガヤし始めた。あら。常連客様方が集まり始めたわ。侯爵は喜んでるけどどう捌くのかしらね。
私はグレイシー様に挨拶をしモフモフと離れ、ロジャースと共にこっそりと会場を抜け出した。
私たちの背中を皇太子様がジッと見ていた。私は全く気が付かなかった……
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