盛大な勘違い。
今一理解不可能な事案が発生しております。これは私の頭が足りないのでしょうか?うーむ……
否!それは有り得ませんね!頭が足りないのはやはり侯爵の方です!まるで敵を見る様に私を睨み付ける侯爵を、私も敵認定して睨み返してみる。こら!目をそらさない!己に後ろめたいことがないのであれば、私の目をそらす必要はないはずです。
あのー。因みにこの部屋には私達の両親もいます。侯爵は勿論だけど招待客の皆さまは、何故私の両親を見ないの?何故侯爵は私を睨み、お客様は私にすがる様な視線を向けるの?私はラスボス扱いなのでしょうか?一介の公爵令嬢になにを求めていらっしゃるの?まあ一応は皇太子様の婚約者。身分的にはこの会場内では一番高くなる。まだ結婚してもいないのに、未来の王妃として両親にまで気を使われてしまう。私の立ち位置はキチンとわきまえているつもり。しかしこの場を納めるのは私ではなくて良いのでは?なんて言っても無理よね。たぶん両親は一番始めに口を挟んだ、私に責任を取らせるつもりなのでしょう。
もちろん責任は取りましょう。ですが取り合えずは……
お父様?その凄まじい威圧を引っ込めて下さいませ。我が一族は耐えていますが、一部女性陣の足元がプルプル震えています。あ!三バカは腰が抜けました。侯爵は然り気無く椅子に座りました。弟はまだ立てています。後ろ手に縛られていますけど。さてさてどうしたものかしら?面倒臭いからそのまま帰してしまいましょうか?マリアンヌの婚約破棄は整った様だし、慰謝料は好きなだけ出すと言ってるしね。こちらは万々歳です。
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目前には椅子に仰け反りふんぞり返る侯爵。妹を悪役にした事に加え、侯爵の突然の乱入に怒り狂い、静かにぶちギレていた父親。母親はそれを宥めながら父を引きずり退出している。既に誕生会も閉会とし、部屋に残るのは当事者のみ。しかし両親よ。何故に私に任せるの?私はか弱い令嬢なのよ?
「そうかそうか! エリザベスとやらは話が解るな! 慰謝料は任せとけ! 支度金も全て纏めてお返しする」
私は手を振り執事のセバスチャンを呼ぶ。セバスチャンは畏まりましたとばかりに、隣の部屋からニ人の男性を連れて来ました。
「侯爵。ご紹介致しますわ。先ず此方はお城の事務官長の方ですわ。そして此方が大商会の次期商会長です」
「ほう。大商会の跡取りか! 国内のマーガレットブランドは貴店が専売しとるそうだな。しかしやはり貴族相手には役不足と見える。男爵家に代理を頼むとは……まあ良い。これからは侯爵たる私が貢献しよう。マーガレットブランドの代表である、ローズマリーの男爵家は、嫁の実家となるわけだからな! 」
「「…………」」
やはりローズマリーさんを、私だと勘違いしてるのよね?しかしどうしてその様な勘違いが出来るのよ。
「はて。私はマーガレットブランドの代表とは知己ですが、ローズマリーさんとは似ても似つかぬ別人ですよ? 」
「彼女は流石に身バレしたら困るので、カツラをかぶっていた様ですな。私も息子が男爵家の娘と結婚したいと言い出したので、流石に色々調べたのです。もちろん別れさせるつもりでしたよ。しかし棚からボタモチが! もう笑いが止まりませんな。ガハハハハ! 」
煩いわね。さっさと要点を話しなさいよ。
「ローズマリーとやらは、息子が好きすぎてしまった様ですな。わが息子も罪作りな奴だ。虐めの件は自作自演ですよ。しかし可愛いものでは無いですか。己に心を向けて欲しいと言う恋心からです」
アホか?可愛いじゃ済まないんです!公爵令嬢を暴力事件の犯人に仕立て上げる。それだけで充分な犯罪ですよ!侯爵は虐めの件を調べていたという。もちろんマリエンヌとの婚約を破棄させるつもりは毛頭なかった。しかし虐めが事実ならば最悪婚約が破棄になっても、マリエンヌ側の過失として婚約破棄が出来る。さすれば既に何度も無心している支度金を返還する必要はなくなる。先々貰えなくなるのは痛いが、支度金の返還はそれ以上に痛い。
支度金というのは花嫁を迎えるにあたり、より過ごしやすく環境を整えてね?って感じのお金なの。つまり持参金の一部みたいなもの。通常は破談になれば返還するわよ。まあ花嫁側に責があれば、慰謝料の一部に充てられるのが常識ね。屋敷の部屋を改造したりは、中々元には戻せないからね。
しかし侯爵もバカ丸出しよね。マリエンヌの婚約は王家からの宣旨。私と弟も同様。つまり完全なる国益を第一とした政略結婚。これを断る事は出来ない。破談にするにはそれ相応の理由が必要。更には王家の承認がいるのよ。つまり公爵家は、既に国王からの婚約破棄の承認を取り付けている。マリエンヌの精神的状態を切々と訴えたからね。もし元凶と結婚なんかしたら、精神ごと破壊されてしまうかもしれない。それほど最初の出会いは、子供心を踏みにじったのよ。
しかし侯爵家の内情を知る国王は、繁栄している公爵家に寄生させておきたい。侯爵家が潰れるのも面倒だし、我が公爵家にこれ以上の力を付けさせたくはない。弟には隣国の姫が降嫁してくる。さらには私は後の皇太子妃なのだから。そんな余計な心配をするのならば、私の婚約を破棄してください。さすがの皇太子様も、王命ならば諦めるでしょう。
国王はマリエンヌの婚約に対して、侯爵家が納得すれば婚約を破棄しても良いと言っている。但し内情を考えてやってくれと頼まれてしまった。ならば公爵家としては、支度金として支払った分の返金は求めません。しかし慰謝料は支払いません。何故ならマリエンヌは悪くないから。こう国王と文書でやり取りした訳よ。狐と狸の化かし合い。所謂腹の探り合いって奴なの。公爵家が支度金の名目で支払った金額は、既に豪華な離宮がニつは建つ金額だという。そのお金はいったい何処へ行ったの?全て借金の支払いなの?先代も侯爵もさらには息子までも、浪費癖に賭け事好きの豪遊マニアなようなもの。母親も凄い派手だよね。
まあお金が戻ってくるにこした事は無い。しかしきっと戻っては来ないでしょう。
「ローズマリーは金髪のカツラを被り、マリアンヌの振りをして依頼をしたようです。カツラの入手先も突き止めました。公爵家のお嬢様方は、見事な金髪に青眼だと有名ですからね」
ほう。その頭は飾りではなく、息子とは違い一応考える力はあるのね。
「実は牢の暴漢の中に貴族の三男がいたんですよ。その男が言うには依頼人は名を名乗りはしたが、たぶん公爵令嬢ではないだろう。あの依頼者はマーガレットブランドの代表に違いない。とても良く似ていると言うんです。しかも見間違え様の無い証拠も有ると言うのですよ。確かにマーガレットブランドの代表も、金髪青眼だと言われていますからね」
「そうですか。しかし金髪青眼なら他国には沢山いらっしゃいます。それこそカツラかも知れないですわ」
「これは鋭い。私もそう考えました。例えば貴女です。しかし先ずその髪形では有り得ないでしょう? 」
プッ。くっ、くくぅ……
おいそこ!今ドリルヘアーとか言って笑ったわね!後で覚えときなさいな!
「マリアンヌは引きこもりだから除外。国外も考えました。しかし国内で中々手に入らぬ品の仲介を、他国の者では余計に無理だ。そこでローズマリーの登場だ! 彼女は変装が得意だった。だから暗躍していたのだ! 」
それって完璧に己に都合の良いこじつけでは無くて?
「まあそれはもうどうでも良いことです。只今確認して貰った所、婚約破棄は本日間違いなく国王に承認されたそうです。では侯爵にはサインをして戴きましょう。お城の事務官長に立ち会い人となって戴きます。宜しくお願い致します」
机に書類を広げる。公爵家側は慰謝料その他は求めない。または支払う義務は無い。侯爵子息及び取り巻きは、以降マリエンヌに近寄らぬ事。それだけがしたためられている。
侯爵家側は、今までに支度金として受け取った金品を全額返済。また、侯爵子息と取り巻きが起こした不祥事に対しての慰謝料を支払う。婚約破棄自体の慰謝料は許否されたが、不祥事に対しての詫びとの事。
「ではこれで手打ちと致しましょう。この書類は複写した物を、直ぐに王宮に報告と共に提出させます」
「ならば息子たちは返して貰えるのだな」
「どうぞ。侯爵が我が家に慰謝料を支払い放免した形です。どうぞご自由に。因みに我が家の愚息もお連れになって構いませんよ」
弟が悲しげな顔をして此方を見ている。知らんわボケナス!
「いえ。我が家の大切な嫁のローズマリーを守って下さったのです。余程嫁が魅力的なのでしょう。しかし貴方には婚約者がいらっしゃる。今宵の事はお互いに忘れましょう。ではそろそろ失礼致します」
あっ!
「最後に一つよろしいでしょうか?見間違えのない証拠とは何なのでしょうか? 」
「ああそんな事ですか。マーガレットブランド代表と言う女性の首筋には、三角形にホクロが点在していたそうです。ローズマリーにも項近くに3つのホクロが有ります。それで確信したのです。ローズマリーは男爵家の割に羽振りも宜しい。身に付けてる品は一級品ばかり。間違いは有りません」
マジで?そんなホクロが有るの?入浴介助の侍女は何処?後で聞かなきゃ!しかし何故侯爵が息子の嫁予定の項近くのホクロを知ってるのよ。密着してダンスでもしなけりゃ見えないわよ。意味深すぎるわよ!
「お答え有難うございます。では最後に私からの餞別としてお聞き下さいませ」
何だ?と立ち止まる侯爵と子息。
「最初から最後まで人様の名前を間違えて呼ぶな! 無礼にも程が有るのよ! 知らぬなら呼ぶな! 恥の上塗りにしかならないわ! 私の名前はエリザベートよ!妹はマリエンヌ! 弟はブライアン! キチンと聞こえた? 」
もう一度言うわよ!
「エリザベート。マリエンヌ。ブライアンよ! 」
もう覚えなくても良いけど確認はしなさい!
「エリザベス。マリアンヌ。ブライトンじゃないわ! この常識なし! 」
侯爵がワタワタしながら、息子とローズマリー。騎士団長(仮)と魔術師長(仮)を引き連れて出て行く。宰相(仮)の弟は残されてしまった。
はースッキリ。いやいや。そんな事よりホクロよホクロ。ブライアンちょいとコイコイ。後ろに手を回し、ドリルヘアーをよいしょと持ち上げる。
「ねぇ。三角形にホクロなんて有る? 」
「何で姉さんに有るんだよ」
「あら? 貴方には言ってなかった? マーガレットブランドの代表は私よ。商品のアイデアや製作は妹。まさか知らなかったの? 我が家の全てはマーガレットブランドじゃない。市場に出す前に使うから最先端なのよ」
「おいおい。仲間外れにしてたのはお前だろ? 弟は公爵家を継ぐのだからと、サイドビジネスには手を出させなかったクセに。これからは情報位流してやれ。社交界でも必要だろ? それよりホクロはどうなんだ? 」
「あるよ。項と言うより右肩の首筋に、正三角形を描いてる。丁度肩の後ろにかかるから、本人では鏡で見ても解らないね」
「ブッ。しかも普段はドリルヘアーで隠れて見えない」
「…………」
「なら何で実行犯の貴族には……あっ! 」
「そうだな。変装変わりにドリルヘアーを止めていたからだ。確かハーフアップにしていただろ? なら肩を出したドレスなら見える筈だ」
成る程。まさかそんな所まで見られてたとはビックリよ。
「ローズマリーさんは今日は髪を下ろしていたけど、何時もは項を見せているの? 」
「いえ。彼女は癖の無い長髪が自慢なのです。だから何時も下ろしています」
「なのに侯爵は項のホクロを知ってる」
「そう言う訳だな」
「やはりそうなの? 」
「ローズマリーはそんな女性では……でも……」
ブライアンには可哀想だけど、現実は甘くはないの。真実を知らなければ先には進めないからね。
「彼女は優しかったかもしれないわ。でも貴方では無く侯爵子息を選んだ。それが全てよ。真実を知りたくなければこのまま綺麗な思い出にしなさい」
「姉さん……」
「まあまあ! 何なら俺が女の真実を教えてやろう。しかしこれが全て片付いてからな。お兄様と呼んで構わんぞ。遠慮は無しだ! 」
「お兄様って、まさかエリザベート姉様と結婚するのですか? 」
「違うわよ! マリアンヌとよ! 」
「それだけは勘弁してくれ! 俺は死にたくはない! 」
ちょっと!なぜ私と結婚したら死ぬのよ!
「凄く仲良さそうに見えるけど? 」
「止めて! 」
「止めろ! 」
本気で嫌がるニ人。同族嫌悪発動中……
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