誰が断罪されるの?
弟よ。情けない……他の男性に庇われしなだれかかり、にやけてゲス顔を晒している女性に侍るの?周囲に複数の男性を侍らし、しかも己は取り巻きの一人として扱われている。貴方は婚姻前から、ハーレムを構成する様な女性が良いの?侯爵子息が本命なのよね?愚弟はあまりにもチョロすぎではないの?
愚弟の婚約者は隣国の姫。中々会えないけれど、お互いに良い関係を育んでいたはず。姫君も愚弟は優しくて話上手だと褒め、きっと良い関係を作れそうだと話してくれていた。愚弟もそう言っていたはず。姫君が妹と作った料理やお菓子を、お前が美味しいと食べてくれる。とても喜んでくれるからと、姫君は料理を始めたと聞く。夜会でとある女性にレシピ本とマーガレットシリーズ一式を注文された時に私は気がついた。女性は私の正体には気付かなかったけど、彼女は間違いなく隣国の姫君付きの侍女。流石に姫君が隣国まで買いに来る訳にはいかない。マーガレットシリーズは生産が間に合わず、現在国外には輸出されていない。さらには大商会の専売品。つまり我が国へ買い付けに来なければ、入手することはできないの。
侍女曰く隣国から買い付けに来たが、残念ながら店頭販売分は既に売りきれだった。予約も数ヶ月待ち。しかし貴族枠でなら納品が早いと聞き、夜会で私が取り次いでいると言われ探してくれたそう。そのときの注文者はその侍女だったけど、配送先はやはり王宮。しかし警備所付け。配送の場合は私が出向いてのアフターサービスが不可能なため、転売などを防ぐためにも相手の確認が必要不可欠となる。姫君は素性を隠したかったためか、警備所付けでの配送依頼だった。たしかに王宮付きの侍女なら変ではない。しかしちょっとかまをかけ、私は姫様はお元気ですか?と話かけてみた。以前手作りお菓子を戴いたのですと。
侍女は私が知り合いだと解り話をしてくれた。姫様が弟の為に料理の勉強をしていると。姫様の身分なら料理やお菓子作りなんてする事はない。否。させてくれないし、する必要もない。公爵家の妹でさえ変人扱いされてしまうのだから……なので秘密でお願いしたいのだと頼まれてしまった。因みに私は料理は全く出来ません。否。しないだけなのよ?
再度言いましょうか?
弟よ……否……愚弟よ……チョロすぎです。本当に情けない……しかしこれは駄目だ……下手したら戦争案件だし……コイツらは事の大きさに気付いているのかしら?否。気付いてはいないのでしょうね。しかし残念だわ。ボンクラ皇太子はいないみたいだし、コイツらと一緒についでに転がってくれたら助かったのにね。
*****
脳内お花畑の侯爵子息が、後ろ手に女性を庇いながら大声で怒鳴っている。
「私はマリアンヌとの婚約を破棄する! 弱き者を虐める様な女と結婚など出来ない! 貴様はか弱きローズマリーを、嫉妬と身分を嵩にかけ虐めたそうだな! 私はこのローズマリーと結婚する! 私は真実の愛を見付けたのだ! 」
騎士団長予定の脳筋野郎が続く。
「お前は恥ずかしくはないのか? 身分にどんな価値が有るというんだ! 貴様には身分しか価値が無いから、虐めなどの卑怯な事が出来るんだ! 次期騎士団長の私が、卑怯な貴様を成敗してくれるわ! 」
それはあくまでも予定よね? しかも親の七光り。騎士団長は世襲ではありません。
「貴女は本当に卑怯な女性ですね。自身の手は汚さず、取り巻きに手を下させる。証拠はあがってるのです。潔く自らローズマリーに頭を下げなさい。出来ぬのならば次期魔術師団長たる私が、魔法にて地面を舐めさせて差し上げましょう」
貴方もあくまでも予定よね?魔術師団長も世襲ではありませんよ?しかし根性が悪いわね。己が土下座して地面を舐めなさい。
「マリエンヌ。僕は妹がこんな恥知らずな事をするとは思わなかったよ。まさか暴漢にローズマリーを襲わせるなんて。彼女は運良く無事に助け出されたけど、心に大きな傷を負ってしまったんだ。そのとき捕らえられた犯人たちは、マリエンヌと名乗る公爵令嬢に頼まれたと自白しています。本当に情けない。それでも次期宰相たる私の妹なのですか? 恥を知りなさい 」
はあ……もう何も言えません。このボンクラ愚弟が!あなたもまだ次期宰相候補よ。まあ愚弟の場合は優秀さが認められほぼ内定はしているけど、今回のことによってはどうなるか解らない。これは両親に再度頑張って貰わないと駄目かしら?
「マリアンヌ! 言い訳はないのか? ならば肯定と見なす。こいつを国外追放にしろ! 衛兵! 牢に入れておけ! 」
はあ?たかが侯爵の息子に、人を裁く権利が有るとでも?しかも我が家の方が身分的には格上です。格下を虐めたことくらいで裁かれたりはしません。これが身分制度と言うものなの。まあ虐めが事実であるならば、罪にはならなくても、社会的な制裁は受けるでしょう。社交界は魑魅魍魎が蔓延っているからね。しかし刑を決定するのは国王様だけです。たかが侯爵子息にその権利はありません。まさかそれも知らないのかしら?案の定、衛兵は全く動きません。
「おい騎士団! さっさとこいつを牢に連れていけ! 」
あなたは己に騎士団を動かす力があると思うの?自称次期騎士団長も怒鳴っているけど、ギャラリーは完璧にスルーしている。もうお腹抱えて笑っちゃいそうだわ。さてではそろそろ、役立たずのバカ弟の代わりに私が出ましょうか。両親の方を見ると、何してもオーケーのお墨付きサインが出ました。二人ともに、私の性格を熟知しております。しかしコイツらはアホすぎる。公爵家への不法侵入。これだけでも牢屋行きですよ?しかも命知らずにも程がある。今回はほぼ身内だけのパーティー。世間に知られず消されても誰も文句は言えない。皆で隠蔽するからね。あら?そう言えば侯爵夫妻は来ていないの?支度金はしっかりせびりにくるのに、未来の嫁の誕生日くらい祝えないのかしら?まったく姿が見えないわよね?まあどうでも良いことですけど。グフフ。めちゃ楽しみです。
「妹の誕生パーティーでのご乱行。侯爵家も随分不作法になりましたのね? しかも招かれざる者たちまで。私共は金魚のふんまではもて成しません。しかも不法侵入です。さっさとお帰りになられるべきでは? 」
「煩い! 私はマリアンヌに話してるのだ! 貴様ではない! 」
「まあ。マリアンヌとは何方かしら? 」
「何だと! エリザベス! 貴様の妹だろうが! ブライトン! 貴様の姉を排除しろ! ローズマリーの為にも何とかしろ! 」
ブライアンと目が合うけど、情けなさそうに視線が泳いでいる。こりゃ駄目でしょう。
「次期侯爵様?貴方の頭はいかれてるのですか? 我が家には、マリアンヌとやらも、ブライトンとやらも存在しません。ましてやエリザベス何て方もね。どうやら訪問先をお間違えの様です。今お帰りなら、まだ穏便に済ませられますよ」
何だと!バカにしとるのか!と、大騒ぎを始める次期侯爵様。うーん。次期侯爵様って長いわね。もしかしたら廃嫡されるかもしれないし、もうバカ呼びで良い?もちろん心の声だけよ。
「では私からバカな叫びに訂正を入れさせて戴きますわ。先ずは嫉妬は有り得ませんね。妹は貴方を全く好きではございません。婚約の顔合わせ以降に本人と会いましたか? 妹は貴方の顔も覚えていませんよ。妹は引きこもりなのです。どうしても出なければならぬ王家主催のパーティー以外には出席しません。その際にエスコートすらしない。そんな婚約者の貴方が知らぬのも、仕方が無いことなのでしょう」
ずいぶん沈黙が長いわね。何か言い訳しなさいよ。会いにも来ない婚約者に惚れる訳が無いじゃない。つまりは妹も会いに行かないわけよ。それで己に嫉妬するとか、自惚れるのもいい加減にしなさい!
「私も沈黙は肯定と見なします。では身分をかさにと言いますが、我が国は身分制度の有る国です。しかし先程も言いましたが、妹は引きこもりです。しかもその理由が、公爵令嬢なのに菓子など作るのは変人だ! と、とある方に言われたのです。それも目前で菓子を投げ捨てられ踏み潰されました。これも身分差別からくる言葉では無いのでしょうか? 」
「それは話が違うだろう。見下しての差別とは違う。身分にあわせての振る舞いをしろと言うのではないのか? 」
「次期騎士団長でしたか? 妹は今でも堂々と好きな料理やお菓子を作っています。その代償が引きこもりです。つまり貴方の言い方ならば、妹は身分に合う振る舞いを止めたと言う事。貴方は妹に、身分しか取り柄が無いから虐めたと言いましたね。なら変では無いのですか? 」
どうやら意味が理解できていないみたいね。少し説明をして差し上げましょうか?
「妹は身分より趣味を選択したのです。貴方には公爵令嬢が引きこもるという勇気を出す。その意味が理解できますか? 貴族女性としての地位を捨てるのことと同然なのです。社交を止める。即ち良い縁談が無くなる訳ですからね」
「婚約者がいたから安心していたのではないのか? 」
「それは有りません。婚約については引きこもりを始めすぐ、両親の方から侯爵家へ破棄の打診をしていました。それを引き伸ばしていたのは侯爵家です。書類も侯爵家の印とサイン待ちとの事です。この件はすでに王家にも報告済みですし、もちろん両親も妹も納得済みですよ」
侯爵家はかなり以前から資金繰りに喘いでるからね。公爵家からの支度金と持参金が惜しいのよ。息子は会いにも来ないのに嫁入りの為の準備が必要だと、父親は支度金だけはせびりにくるからね。政略結婚の意味を理解出来ない息子を、放置した侯爵も悪いわね。
「ではお次は取り巻きでしたか? 虐めたと言うのはどちらでの事でしょうか? 私はローズマリーさんとやらを見た事も有りません。妹も知らないと言っていますよ? 」
これはマリエンヌに聞くまでもないの。引きこもりのマリエンヌが、家族と知人以外と出会うことはあり得ないのだから。
「何と言う事を言われるのでしょう。こんなに健気なローズマリーを知らぬ振りをするなんて。それこそ失礼では有りませんか。勿論貴族学園での話ですよ」
ほう?どちらが失礼なのでしょうか?
「私と妹は貴族学園に通ってはおりません。それをご存じの上でのお話しでしょうか? 」
弟以外の三バカの顔色が悪くなる。やがて弟に問いかけた。
「「「通っていないのか? 」」」
「はい。たしかに姉と妹は貴族学園には通っておりません。姉は王妃教育で城に通い、一般教養も学園の教師が城に通って教えております。妹は引きこもりの為、特別に学園の教師に家庭教師をして戴いていました。どちらも既に貴族学園での教育課程は終了しています。二人ともに卒業認定試験を合格し、飛び級認定で卒業証書も出ています。因みに昨年は妹が主席卒業です。姉は五年ほど前の主席卒業でした。現在学園に通ってるのは私だけです」
「「「…………」」」
「ではローズマリーさんは、どこで何方に虐められていたのでしょうか? 証拠も有るそうですが、それらを見せて戴けますか? 」
「ローズマリー自身が証拠ですよ。私たちは虐めの痕跡を何度も目撃しています。彼女は涙を流しながら、マリエンヌの取り巻きにに虐められたと訴えて来ました。しかし健気にも、私が悪いのだから我慢すると……」
けっ。アホくさいわね。
「ではローズマリーさんに質問です。貴女は何故己を虐める人々をマリエンヌの取り巻きだと気付いたのですか? しかもマリエンヌは学園にいないんですよ? 」
ローズマリーは私の顔を見た後、何故かジリジリと後退してゆく。両手を胸の辺りでしっかりと結び、涙を流しながら首を振る。貴女はいったい何をしたいの?まさか祈りのポーズなの?私に祈っても容赦はしないわよ?
「わっ私が男爵家だから虐めるの? 私は何もしていないのに! 虐めるのが悪いのよ。私は怖かったの。酷いわ! 」
さめざめと泣き出すローズマリー。大丈夫。可愛そうにと宥めすかす三バカトリオ。弟は抜けたのね。これはひと安心。でも許しませんから!
「ローズマリーさん。私は何故、取り巻きが妹の取り巻きだと気付いたのかを聞いているのです。男爵家だからは関係有りません。関係付けるなら不法侵入と不敬罪で、とっくに牢に入れてます。質問にはキチンと答えて下さい」
酷い。どうして虐めるの?と、ウルウルしながら男性陣を見上げる。慌てて慰める三バカ。なるほどあのポーズが決め手なのでしょう。
「だって! 婚約者のいる男性に話しかけたり、触れたりするのは駄目だと言うのよ! 酷い虐めよ! お陰で皆去ってくのよ。婚約者はマリアンヌでしょ! だからよ! 」
やはりアホなのですか?憶測で犯人扱いですか?そちらののニバカにも婚約者はいるでしょ?バカ弟にもいるんだからね?
「はあ。皆様? これで流石におわかりでしょうか? 婚約者=妹にはなり得ません。しかも婚約者のいる男性に話しかけたり、触れたりするのは駄目。これは虐めでは有りませんよね。常識です。皆去ってくのですか? 流石に婚約者持ちハンターと言われるだけは有ります。皆とはいったい何組の婚約を破棄させたのですか? 貴女に貢いで婚約破棄。今の社交界でのブームだとか?」
バカトリオが呆然としている。本当に知らなかったのね。私ですら顔は知らないけれど、噂は聞いているのに……
「では最後の質問です。暴漢に襲われたそうですね? ブライアン? 実行犯が自白したそうだけど、何を根拠にマリエンヌを犯人と決めたのかしら? 」
「姉さん……実行犯達は依頼者の女と、しっかり顔を見て話をしているんだ。依頼者の特長は金髪に青眼。王家特有の色彩だよ。この国で年齢的に合うのは、姉さんと妹だけだ。しかも名乗っている。それでも違うと言うの? 」
ちっ。やはり身内びいきだった様ね。ダメダメだわ。金髪青眼何て他国には沢山いるのよ。夜会やパーティーでは、大盤振る舞いじゃ無い。我国にだって王家みたいな金髪は少ないけど、茶色やオレンジにに近い金髪はかなりいる。青眼は色の濃淡は有るけど沢山いるわ。ローズマリーだって青眼じゃ無い。金髪だってカツラで何とでもなる。
「あんたバカなの? 何で己の身バレする格好のまま、犯罪の依頼をするのよ。私だったら目立つ金髪何て隠すに決まってるじゃ無い。しかも名乗る馬鹿がどこにいるの? り合えず牢屋の実行犯に面通ししましょう。それで一発解決よ! 」
私はテキパキと指示を出してゆく。
「そのおバカな仲間たちは拘束して。ブライアンとローズマリーもよ。マリエンヌは疲れた様だから、誰かベッドへ。城の地下牢に面通しの許可申請もお願い」
そこへ突然扉が開き侯爵が飛び込んできた。会場を見渡し、拘束された己の息子を見つけ顔をしかめた。
「我が息子とマリアンヌ嬢の婚約破棄は今朝方整った。此方の都合で遅くなり申し訳無い。息子は知らずに録でもない事をした様だ。お詫びは後程。これ等は私が連れ帰る」
「それは困ります。彼等は不法侵入に不敬罪。更には妹マリエンヌに対する侮辱罪に偽証罪。罪人を連れ出されては困ります」
「何だと! 我が息子を罪人呼ばわりか!金か? 慰謝料か? それなら幾らでも払ってやる! だから失礼する。まさかローズマリーとやらが、マーガレットブランドの代表とわな。こりゃラッキーだ。がはははは……」
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ローズマリーがマーガレットブランドの代表?代表は私よ?しかし流石のバカの親だよね。貴様まで名前を間違えるなんて……
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