↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)  作者: 桜鶯
第2章・婚約破棄は新たなる珍事を招く。
29/38

それぞれの想い。

ユリウス様……


憎しみと怒りの涙はやがて絶望の涙へ変わったのだろうか……静かに流れる涙が止まりカップを包んでいた両手が膝に落ちる。やがてその俯く顔を静かに上げ、ユリウス様を見つめる私をその瞳に捉えた。


しかしその瞳には生気が無い……まるで虚無を写す様なその瞳には、耐え難い空虚さを感じてしまう。私の姿を写している筈のその瞳には、多分私を写してはいないのでしょう。写る姿は確かに私だけど、今のユリウス様に見えてる姿はきっと……


「エリザベート様。私を思い出さなくても構いません。その方が貴女は幸せになれる筈。クリス。否。クリスティーネ。最後に私の名を呼んで貰えませんか? あの頃貴女が私を呼んでくれた名をです」


ユリウス様ではなく?


「最後にお願いです。私は龍治です。何度生まれ変わっても、始まりのこの名前だけは忘れなかった。クリスは発音が上手く出来ず、私をリュウと呼んでいました。私は龍を神と奉る神社の息子だったのです。最後に狭間で龍神様が私にお慈悲を……」


私はソファーに座るユリウス様の背中を抱き締めた。


「ユリウス様。否。リュウ。クリスを愛してくれてありがとう」


どうしよう。自分から話をしましょう。話を聞かせてと言ったのに、私から何を伝えたら良いのかが解らない。クリスティーネの記憶のない私が、ユリウス様に何を言っても説得力がないでしょう。いっそそれならば……


「リュウ。クリスと貴方との想い出を教えて。私は全てを知りたい。何度も言うわ。忘れてしまっていてごめんなさい。今の私に何が出来るかも解らない。でも一緒に頑張りましょう。リュウの気持ちが報われる未来を私は一緒に探したい。その瞳に光を灯したいの。お願い」


「…………」


「一時間程、私たちに時間を貰えるかしら? 」


「お姉さま……」


「「エリー……」」


「クリス……否。エリー私は……(ドガン! ドガガガガン! ドゴォォ~ン! )……エリー! なっ何が!? 大丈夫ですか? まさか地震!? 」


部屋全体がまるで地震の様に揺れている。ドガン!ガゴン!と、地鳴りの様な音が響き渡る。一体何が起こっているの?


「マリエンヌっ! 大丈夫か? 」


マリエンヌを抱え込んだロジャースが、転がりながら体勢を立て直す。リーダーもソファーから転がり落ち壁に激突していた。額から血が流れている。大事はないみたいだけど一応回復をしておきましょう。


「リーダー大丈夫? 回復飛ばすわ! 」


「悪いな! しかしこの衝動は何だ? 地震じゃないぞ! 窓から外を見てみろ。木々や建物は全く揺れていない! 」


確かにそうね。建物は頑丈だとしても、地震ならば木々位は揺れている筈。それにこの部屋には結界を張っている。地震の揺れならば上階のこの部屋は殆ど揺れない筈よ。音だって直接結界を攻撃してる訳じゃ有るまいし……


なのに何故こんなに響くの?ってまさか!


(ドガガガガガ! ドガン! )


やっぱり!これは結界を攻撃しているのよ!まさか破壊しようとしているの?こんな事するのは誰よ!まさか自称聖国やバカたちがする訳もなし。やっぱりアイツなの?もう!大事な時に面倒くさいわね!


(ドオン! ズドオォォーン!! )


ヤバい。壊れるかも!


「Barrier repair! 結界修復ー! 」


「リュウ来て! 皆ごめん! 一時間位アイツを足止めして。私はエリーよ。クリスではない。だからこそ公平に二人を知りたい。過去も今も未来もね」


「「あぁ。任せとけ! 」」


(ズドオォォン!! )


結界に亀裂が入ると同時に人影が現れた。やはり……


「エドワード! 」


「龍治! クリスから離れろ!! 」


やはり貴方もも前世を覚えているのね。どの位覚えているの?うぅん。今はエドワードよりユリウス様よ。


「It is restrained by ivy!蔦でぐるぐる巻きにして! そのまま一時間放置! 死にはしないわ。本当に何て肝が小さいの! 情けなさ過ぎるわよ! 結界を壊した反省しなさい! 」


「クリス何故だ!? 」


私はエドワードをミノムシ状態にして天井から吊るす。


「追っかけて来たら本気で殺るわよ! 少し位自重しなさい! 結界を張る時に遠慮してと伝えた筈よね? 破壊してまで飛び込むなんて、情けないと言うより恥ずかしいわよ! 私が追跡されてる気配に気付かないとでも思ったの? 過去を覚えてるなら尚更よ。ここで貴方は飛び込むべきではなかった。正直呆れたわ。私たちは一時間で戻る。戻るまでこの部屋から一歩でも出たら許さない……」


しかも私をクリスと呼んだ。


「記憶のない私には、貴方はエドワードなの。エドワードにクリスと呼ばれたくないの。ユリウス様。否、リュウはクリスは過去だと、私はエリーだと理解してくれている。エドワードはどう?

リュウが出てきた途端私をクリス呼びするの? 」


「…………」


「わっ私は……」


「言い訳しないで。間抜けなその姿では何を言われても滑稽なだけ。聞きたくもない。私たちのいぬ間に少し考えておいて。では暫く失礼するわ」


私はユリウス様に手を差し出す。


「あ! これは置いてくわね。早々に返して貰うべきだったのかしら。まさか結界を破る様な暴挙に出るなんて思わなかった。エドワード? 本当に残念だわ」


私は通信機付きの、ネックレス型の魔道具を外して机の上におく。


「クリスティーネ……」


「まだ言うの? しつこい男は嫌われると言うか、私は大嫌いだと常々伝えている筈よね? 」


「クリス!! 」


「いい加減にして! 人の話を聞かないエドワード何て大嫌いよ! 絶対についてこないで!! 」


私はぐるぐる巻きのエドワードを放置し、リーダーとロジャースを見る。二人が頷いてくれる。有難う。私はユリウス様の手を取り転移した。


「ユリウス様。目を開いて」


良かった。まだ残っていたわ。もうかなり緑の葉に覆われているけど、まだかなりピンクの小花も残っている。本当に良かった。


ユリウス様は呆然と一点を眺めていた。


*****


【リーダー side】


あーあ。皇太子様やっちまったな。魔力の封印の件でかなり株を上げていたのに!男としての我慢も理解できるから、俺らも随分よいしょしたんだぞ!折角の俺らの努力が水の泡だよ。


(大嫌い……大嫌い……大嫌いだと……私を大嫌い……ブツブツ……)


今の結界破壊で全てを無駄にしやがったよ。もう少し我慢しろよ!しかも私はエリーだと言っているのに、前世の名前で呼ぶか?ガキじゃ有るまいし、全く女心の解らん朴念仁かよ。しかも何度も繰り返しやがって。全くどうしようもないヘタレだよなぁ……


(龍治をリュウと呼ぶから……龍治だって……何故……私は駄目なんだ……どうして僕は……)


しかも惚れた女にだけだ。男の俺としては皇太子様の気持ちは痛い程理解できる。しかし何故取り繕えないんだ?恋愛何て痘痕も靨だ。惚れさせちまえば己も多少は落ち着くだろうし、エリーだってほだされる筈だ。変態加減を更正できれば、政略結婚なら出来ると言ってるんだからからな。


(クリス……やはり僕を恨んでるの? 君に無体を強いた僕を今だに憎んでいるのか? クリス……君は許すと言ってくれたじゃたいか……お願いだ。僕を見捨てないでくれ……大嫌い何て言わないで……クリス愛している……)


しつこいのはやはり前世が絡むのか?


(クリスティーネ……君は僕の全てなんだ。子供だって……生むなと言ったのに……君は死んで僕を一人に……)


否。ユリウス様の話では、生まれ変わる度にエリーと皇太子様は結ばれている。しかもそれがエリーの幸福だからと、ユリウス様は己を律して一歩引いている。三人の間に確執は有れども、最終的に二人が結ばれているのは事実だ。なのに皇太子様のあの余裕のなさは一体……


俺がロジャース様から聞いた以外の何かが有るのか?俺は荒筋を聞いただけだから核心までは迫れない。


(クリス……クリス……君は許してくれたのに……やはり僕を憎んでいるの? ねぇ……クリスティーネ……)


やはり前世の因縁が縛っているのか?


(クリス……どうして龍治と……僕のクリスティーネ……)


「…………」


「ウガー! 煩いわ! しかも気持ち悪いわ! このボンクラ皇太子! クリス、クリスとウザすぎる! 頭がいかれているのか? 彼女はエリーだ! 否。皇太子様の前ではエリザベートだろうが! エリザベートとしてさえ向かいあって貰えていないのに、更に話をややこしくしてどうするんだ! 彼女はエリザベートだ! クリスティーネじゃない! いい加減にしろ! このボンクラ皇太子が!! 」


「「…………」」


ヤバい……ついぶち切れて本音を……もしかしなくても俺って不敬罪?俺手打ちにされちゃう?


エリー様助けてー!


*****


【ロジャース side】


よく言ったな。リーダーよ。骨は拾ってやる。安心しろ。しかしマジにウザすぎる。確かに皇太子様は以前から、エリザベートに対しては極端にウザかった。しかしここまでではなかった筈だ。しかも一人称が私から僕に変わっている。皇太子様は公私共に私だった筈だ。しかも何度も転生を繰り返し、始まりの異世界での前世は殆ど記憶になかったんだ。


私が初めて皇太子様に出会った頃は、真面目で優秀なお人柄だと評判だった。勿論現在も対外的にはこのイメージで変わらない。また婚約者のエリザベートにベタ惚れしていると囁かれていた。まあこれは仲良き事は美しきかな?てな感じで、お世継ぎも安泰だと喜ばれていた。


しかし私が初めてお城に上がり、エドワード皇太子様に拝謁した翌日の事。貴族会議の終了間際にとある貴族が皇太子様に意見を陳情した。エリザベート様との婚姻前に側室を侍らせたらどうか?世継ぎの憂いをなくす為にも、是非後宮を機能させよと。これに対し、皇太子様は一刀両断した。


「私はエリザベート以外には性的な気持ちが沸かない。他の女は虫けらと変わらん。私が女共に見せる笑顔は社交だ。社交辞令を理解できず、私に触れる女は全て死ねばよい。貴殿らは虫に性的な事を感じるのか? 娘を虫けらの様に捻り潰されたくなければ、出すぎた事を申すな! 」


静まり返る室内。


その後、皇太子様のその言葉は有言実行された。皇太子様に色目を使う女は尽く排除され、色仕掛けでくる様な女は家族諸とも捻り潰された。貴族たちは竦み上がったという。


「ロジャース! サイズが変わった様だから新しいのを頼む。これが資料だ」


実は初めて皇太子様に拝謁した時、頼まれたのはエリザベート様の等身大の人形作りだった。皇太子様は定期的にエリザベート様のサイズを諜報に調べさせていたのだ。因みに人形を恃まれた際には、皇太子様に前世の記憶等は全くなかった。記憶がなくとも、エリザベート様に異様に執着していた。


「そうだ。ロジャース。何か欲しい品はないか? 褒美を取らすぞ。貴殿には礼を言おう。貴殿に会い大切な事を思い出した。やはり私は間違えてはいなかった。私とクリスは運命だった。絶対に逃がさない」


クリス?


「クリスティーネだ。今はエリザベートだがな」


エドワード皇太子様がニヤリと笑う。その笑いにゾクリと背筋が冷えた。まさか……


そのまさかが的中した。しかも前世は始まりの異世界人だと言う。しかし思い出したのは当時のフローラ公爵家についてと断片的な数度の前世。何度か生まれ変り生きた断片だけ。


「毎回違う人生だった。しかし変わらない事が一つだけあった」


それがクリスティーネ。今世ではエリザベート様。必ず己の側にいて、必ず結ばれたのだと言う。


私の存在がエドワード皇太子様の前世を思い出させた。多分マリエンヌが私と出会い思い出した、この血に潜む枷のせいだ。しかし結ばれるなら良い。不幸にならぬ運命ならば……


その後お二人は、まるでいたちごっこの様だった。はたからみたら微笑ましい光景だったのだろう。


己に近付く婚約者以外の女を、本当に虫けらの様に躊躇無く葬りさる。皇太子様の裏の顔を知らなければ……


エリザベート。否。エリーが本気で変態加減を嫌がっている事を知らなければ……


そして今回の皇太子の異常なまでのウザさ。まさかユリウス様との邂逅で、更なる記憶を思い出したのか?ならば何処まで思い出したのだろう?


前世は前世。そう言い切れるのは全てを忘れている場合だけ。覚えてる者には割りきれぬだろう。しかもエリザベート様は、全てを忘れている。


しかしそれが本当なのだ。神は罪深い……


やはり私にも責任は有るのだろう。皇太子様は見守ろう。エリーには出来るだけ手を貸そう。ユリウス様には……


本当に申し訳なさしかない。自力で二度狭間を越えた。それが意味する事が、どれ程の辛さと絶望を彼に与えたのか?


私には想像も出来ない。


コメコメ大商会初代の日記。日本語と言われる異世界語で記載された部分。マリエンヌが解読してくれた部分には、ユリウス様が日本と呼ばれる異世界に戻った事。コメコメ大商会から公爵家へ献上されたティアラの奇跡。それら初代が知り得た事が記載されていた。しかしそこに、龍治(リュウジ)君。リュウがこちらの世界に戻った記録はたかったのだから。


そしてエドワード様。否。佑真(ユウマ)君。ユウの犯した罪。


全ての決着は当事者のみにしか出来ない。しかし……前世の柵の解決はどうしたら良いのだろう。


やはり私たちは、見守るしか出来ないのだろう……


エリー。頑張ってくれ。


*****


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。