二者択一すべき時。
うわー。ローズマリーにレイシス王子だけかと思っていたら、魔術師団長(仮)と騎士団長(仮)までいるわよ。これだけいたら騒がしいわよね。でもユリウスはいないのね?
ん?何だか頭悪そうなヤツもいるわね。あれは誰でしょう?
「何を側室腹の姫が偉そうに! 私は次期王だぞ! まあそんな生意気を言えるのも今の内だ。貴様への結納金でコイツらも少しは生き長らえるだろう。お前の忍耐にコイツらの飯がかかってるんだ。若い娘が好きらしいから楽しみにしとけ! ローズマリー行くぞ! 」
「お兄様! 私にはブライアン様が! 」
「煩い! 私をお兄様などと呼ぶな! 道具が口答えをするとは生意気だぞ! ブライアンなどという若造よりも、新しい婚約者の方が金が有る。しかも死ねば莫大な遺産も手に入る。死んだら貴様を再婚させる。更に結納金が入るわ! お前など王家の血筋しか取り柄がないのだ! 少しは役に立て! レイシス! そいつを黙らせろ! 先に行くぞ! 」
「「…………」」
「お兄様……」
「すまない……」
あーあ。修羅場よね。しかしレイシス王子は情けないわね。少しはピシッとしなさい!
「はーい。皆さんこんにちは! 本日の献立は何ですか? 固い黒パン二個に野菜スープですか?あら? このスープには具がないわよ? ではでは私が魔法をかけてしまいましょう。取り出したるは魔法の調味料に不思議な野菜。これらをスープにポチャンと入れまーす。再度火にかけグールグルとかきまぜたら出来上り! あらこれは? ビックリ具沢山に早変り! 」
辺りにふんわりと、優しいクリーム煮の良い香りが漂い始めます。匂いに釣られて集まる人々。そこへリーダーと合流したグレイシー様が現れ、更に調理をはじめます。勿論こちらもコメコメ大商会の調味ソルト使用。ウサギの丸焼きです。その脇の大鍋では更に、小さめにカットしたお肉を、グツグツと煮込んでいます。
こんがり焼けたウサギは、次々と切りわけられていきます。千切りにされたお野菜と共に次々と大皿に盛り付けられます。柔らかく煮込んだお肉にはお米を加えおかゆモドキに。玉子でふんわりとじたらできあがり魔の森で採取した果物も切り分けられています。
「皆さん! 黒パンはクリーム煮に浸して食べると柔らかくなります。黒パンにこちらのウサギ肉とお野菜を挟み食べても美味です。お肉は食べやすく串焼きにもしています。色々なお味が有りますので楽しんで食べてみて下さいね。足りなければどんどん焼きますので、遠慮なく食べて下さいませ」
周囲がガヤガヤと騒ぎ始める。たしかにそうよね。お肉が気になるわよね。
「このお肉は魔の森で討伐された魔物のウサギを調理した物です。どうしても無理な方はスープをどうぞ。こちらのクリーム煮には入っていません」
わぁっとスープ煮の鍋の周囲に群がる人々。あっと言う間になくなる。味を変えながら追加のスープを作って行く。しかしお肉には誰も寄ってはこない。遠目にチラチラ見ているのみ。やはりかなり洗脳されているわね。ひと息ついた所で私とリーダーとグレイシー様も昼食を戴く。パンにお肉を挟んだ照り焼きラビットバーガーにスープ煮。勿論串焼きも戴く。しかしこの調味ソルトは絶妙よね。これを刷り込むだけでめちゃ美味になるんだから素晴らしい!モグモグごっくん。
うん。うんまーい。
沢山の視線と喉を鳴らす音が聞こえる。子供たちが食べたそうに見ている。しかしこちらからは言い出せない。押し付けになってしまうのゃ。誰か勇者はいないのかしら?
「すまない。話を聞いても良いだろうか? 」
振り向くとレイシス王子がいた。
「はい? 何でしょうか? 」
レイシス王子は意を決した様に言う。
「その肉は魔物だと言ったが、本当に食べても大丈夫なのだろうか? 」
「さあ? ですが私たちは皆食べてますよ。畜産出来る動物が少ないのです。食べられる魔物肉を食べて何がいけないのでしょう。勿論、毒性の有る魔物は食べませんよ。魔物を食べたら襲われる? 魔物に理性は有りません。食べようと食べまいと出会えば襲われます。ならば食べても襲われぬ様に対策を立てるべき。食べずに餓死するのとどちらが現実的でしょうか? 」
「…………」
「美味しいですよ。因みに魔の森には貴重な薬草なども生えています。それらは資源です。この国以外は合同で討伐隊を出したりと協力しあい、資源を有効的に活用しています。素材が多分二度と手に入らぬと思われる、万能薬もつい先日調剤されたのですよ」
「!!!!! 」
「あの幻の万能薬がか!? 」
「はい」
私が遺跡から脱出した際に乗っていたポット。その中で意識を落としていた私に降り注いだという萎れない沢山の花びら。それらの調剤レシピ。開いてみてビックリゆ。それはどんな病でも治癒出来ると言う幻の万能薬のレシピだったの。しかし萎びぬあの花の素材の仕組みは解らない。二度と調剤する事は叶わないでしょう。
「しかし人間病は気からと申します。食事がままならぬなら病所ではありません。ここにいる方々には、先ずは食事が必要なのではないのですか? 貴方たちは魔物に操を立て餓死するおつもりなのですか? 」
「…………」
「お兄様! 私がご馳走になりますわ。お姉様? このお肉を戴いても宜しいでしょうか? 」
お姉様……ブライアン? 私は結婚前に呼ばれちゃったわよ。中々芯の強い良い姫様じゃない。度胸も有るみたい。
私は串焼きのお皿を手渡す。ついでとばかりに千切り野菜にマヨソースをかけ差し出した。姫様が串焼きを手に取りかぶりつく。
「お……美味しい……」
パンに野菜とお肉を挟みレイシス王子にも手渡す。暫し戸惑い姫様同様にかぶりつく。
「こっこれは肉汁が……生まれて初めて食べる味だ。旨すぎる」
痩せこけた子供の手を引く母親が、あずおずと声をかけてきた。
「どうぞ遠慮なく食べて下さいな。小さなお子さんやお年寄りには、消化の良いおかゆをどうぞ。こちらはお肉を、柔らかくなるまで煮込んでいます。お米を入れてるので腹もちも良く、玉子で栄養満点です」
器におかゆをよそい、風の魔法で少し冷ます。
「熱いから良く混ぜて冷まして食べてね。沢山有るから慌てないで」
おかゆの鍋に沢山の子供たちが集まってくる。おかゆを食べるのを見た大人たちも、徐々にお肉に手を伸ばし始め、王子と姫も率先して手伝いを始めた。
気づくとグレイシー様は王子様と話をしていた。姫様は子供たちの補助をしている。しかしなぜかグレイシー様と王子様がキョロキョロとし始めた。誰かを探してるの?もしかして私かしら?
その反対側から突如怒鳴り声が聞こえてくる。良く見ると神官らしき人々の塊を、リーダーが一人で抑えていた。いったい何事なのかしら?
「貴様らは神を冒涜するのか! 何故魔物肉を喰らう! 人間をやめるなら魔の森へ行け! この国の者たちに迷惑をかけるな! 」
「そうだ! もし魔物が報復の為に入り込んだらどうするんだ! 血生臭いその身を恥じて死ね! 死にたいなら国から出て行け! 神様を蔑ろにすると天罰が下るぞ! 」
洗脳されてる悪の権現。まあまだまだ下っ端の神官さまのご登場ね。しかし神と言っても大元に気付けなかったあの神様よね?ちょっとマヌケよね?漸く介入して修正しようとはしてくれている。しかし流石にあの神様でも、魔物に操を立て餓死しろとは言わないわよねぇ?
因みにこの世界の神様は一人だからね。国により教義や姿は変われども、神は唯一の創世神様のみ。創世神様がこの世界の全てを司っているのよ。私はリーダーの側に行き大声を張り上げる。
「魔物肉を食べないのはこの国、自称聖国のみよ。聖国以外では常識となっている魔物肉を食すという食事情。この世界を創世したと言う神様が、世界の常識を否定する筈がないじゃない」
そんな訳あるか!屁理屈を言うな!と罵声が飛び交う。喋り続ける私に掴みかかろうとまでする。勿論こちらは結界で防御済みよ。
でも私は最後まで言い切るわよ。だってこの神官たちの体格も肌艶も良いんだもの。肉なしの食生活でどうしてそんなに余裕が有るのよ。まさか大神殿で養鶏でもしているの?家畜になる動物といったらコッコバードとモーモー位。しかしどちらも貴重でお高くて入手しずらい。更にはタマゴとミルクをとるのが優先で、食肉になるのは年を取ってから。本当に少ないのが現状なのよ。漁獲量の少ない海産物何てなおのこと。なんとか海水を汲み上げ塩を作ろうともしない、断崖絶壁のこの国では到底無理。どれも手に入れられるとは思わないのだけど?
「この国以外では魔物肉は普通に食料だもの。だって食べなきゃ死ぬのよ。神様だって己が創り育てた世界を、人間を滅ぼしてまで壊したい筈がないじゃない。違うかしら? 」
神官たちはまだ文句を垂れているが、飢えた庶民の人々は静かに私の声を聞いている。静まり返る背後から啜り泣く声が聞こえてくる。
「生きる為に魔物肉を食べるなと神が言うのならば、神は代替となる食物を与えてくれる筈。なのに何故家畜となる動物が少ないの? 何故驚異となる魔物は増え続けるの? 魔物も人も食物連鎖により生かされている。それが真実ではなくて? それとも既にこの世界は、唯一の創世神様にも見捨てられてるのかしら? 」
「「「貴様は我々の神を冒涜するのか! 」」」
「私はそんな事を言ってはいないわ。因みに貴方方は毎日肉類を食べてるのかしら? その肌艶に体型ならば食べているわよね?
その肉は畜産された物? コッコバードもモーモーもかなり高価で希少だけど、大神殿は随分お金持ちなのね」
「神に遣える我々には、寄進としてタマゴやミルクが毎日届くのだ! 魔物肉等食べとらん! 」
「え?肉ではなくタマゴやミルクを食している? でもタマゴやミルクもお肉と同じ家畜から得るのよ。お肉よりは安価だけど畜産された物はかなり高価よ。我が国でも魔物のタマゴやミルクを代替えにしている。畜産の品なんて王族がパーティーで使う位よ。出所は確かなの? 鑑定して差し上げましょうか? 」
押し黙る神官たち。さてもうひと押しかしら?
「お前ら惑わされるな! 大神官様が間違いを申す訳がない! 煩い! 煩い! 黙れー! 魔物を食し堕ちた外道が何をほざくー! 」
グループとは違う神官らしき人物が、喚き散らしながら走りよってくる。その後ろからは魔物が二匹。ゴールデンバッファね。人々は二匹の魔物に戸惑い逃げ惑う。
「我々は魔物を食べん! 貴様らが食べたからだ! 穢れたその身を魔物に差し出し国に潜入させた責任を取れ! 」
そう騒ぎながら逃げ惑う神官たち。あのー?貴方たちは魔物を食べないのならば、魔物から逃げなくても大丈夫なのでは?己らが逃げたら食べなくとも襲われるって証明してる様なもぬのよね?バカよねー。
「結界発動ー! 」
私は広場を覆う様に円形に結界をはる。その中心にはバッファが二匹。その二匹を中心に、円形の結界をドーナツ状に変化させる。
「リーダー! 庶民の人たちを結界の外に出さないで! 一度出たら戻れない。水色の枠が結界よ。解りやすく色を付けたわ!
やだ! 神官さんたちは入る必要はないじゃない。襲われないのだから、堂々と外にいなさいよ! 」
ドーナツ状の結界を半分に割り、神官たちだけをドーナツ結界から切り分け魔物の側に移す。ドーナツが割れると同時にバッファ二匹が飛び出し、神官たちの入る結界に向かい突撃し、ドンガンと体当たりを始めた。腰が抜けたのか坐り込み動かない神官たち。
「うーん。随分な腰抜けね。流石にここで結界を外したら鬼よね。流石の私も寝覚めが悪いわ」
仕方がないわね。では行くわよ!
神官たちの入る結界に雷を落とし電撃を纏わせる。体当たりをしていた二匹のバッファは、体に伝う電撃に麻痺し動きが鈍くなってゆく。
「ミニチュアウィンドカッターいけー! 」
動きの鈍くなったバッファに次々と魔法を当てる。しかしバッファまでが遠い。己の背後には戦えない人たちの結界を抱えている状態。もしもの時に結界を修復できる者が、余りにも離れるのは不味い。リーダーは今だに混乱し泣き喚いている人々を誘導し背後の結界内の人々を守っている。
どうしよう。やはり私が前に出るべきなの?神官たちの結界を気にしなければ、ドカンと魔法をぶっぱなせるけど、流石にそれは無理よね。多分結界は保つとは思うけど確実だとは言えないし、流石に殺したら夢見が悪いわ。それに最近何だか魔法の威力が上昇してる感じがするのよ。
全く制御が難しくて困る……
あ……あれは!
結界に阻まれてはいるが確かに人影が見える。右手奥の結界の陰に、剣を構えたグレイシー様が見えた。
「グレイシー様! 聞こえますか? 出来るならトドメをお願い出来ますか? 」
グレイシー様は何故か動かない。聞こえていないの?魔物とは別の方を向いているからもしかして結界に包まれた神官たちの向こうに誰かがいるの?まさか魔物が?確かにグレイシー様が剣を構えてる何て変よ。グレイシー様は魔術師だもの。しかも無詠唱で杖も持たない。剣も余程の事がないと使わないと聞いたわ。
これは甘えてはいられない!
「結界内の神官たちは、死にたくなければ耳を塞いで踞りなさい! トルネードカッターいけー! 」
竜巻が神官たちの結界を中心に渦を巻く。やがて竜巻の力に屈し二匹のバッファは崩れ落ちた。
「レイシス王子! 脇にさす剣はお飾りなのですか? もう魔物は殆んど動けません! 貴方が一番魔物に近いのです。トドメをお願い出来ませんか! 」
レイシス王子が駆け出し、二匹の魔物にトドメを刺した。多分本物の魔物を見るのは初めてなのでしょう。それでも鍛練はしているのね。中々様になっているわ。
私は魔物に近より生存を確認する。魔物の処理をし収納して安全確認。結界内で姫様と話をしていたリーダーに手を振る。リーダーが気付いた為、庶民側の結界を外す。
後は姫様に任せたのかリーダーが駆け寄ってくる。私は背後に振り返り、神官たちの結界を解く。
解いた結界の跡には、腰を抜かし踞る神官たち。泡を吹いて気絶している人もいるわね。全く情けない。
グレイシー様は!?
結界が完全に消滅する。色の付いた結界がなくなり、視界がクリアになってゆく。
そこには相対した二人の人影。
グレイシー様と……
女性?絶世の美女?否。男性ね。多分この人が……
「クリスティーネ様。いえ。今世ではエリザベート様でしたか?
また出会えましたね。しかし貴女は今回も私を……いいえ……またきっと全てをお忘れなのでしょうね。貴女は未練なく逝ったのでしょう。それはとても喜ばしいことです。しかし私は……そしてまた貴女は忘れたまま彼奴と……」
やはり……
貴方が大神官のユリウスなのね。
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