続・私は前世持ち。
私はこの世界に生まれてから異端だったの。前世の記憶さえ思い出さなければ……何度もそう思ったわ。でもこんな私の心配をしてくれる優しい両親がいた。そして自身も抗えない未来を決定付けられながら、地道に努力を続ける姉が側にいた。そんな家族に私は甘えすぎていたの。でも私は救われた。
私は未来を変えられたわ。でもこれは私の努力だけじゃない。確かに逃げると言う方向へだけど、私は私なりに努力はしたわ。しかしお姉様は、残念ながら婚約破棄を出来なかった。でもローズマリーがゲームオーバーの道を進んだ事により、悪役令嬢たちの破滅へのルートは潰された筈よ。もしこの先元婚約者の侯爵子息とローズマリーが結婚したとしても、断罪され投獄され国外追放にされる筈だった悪役令嬢は私。でも今の私にはゲームの中での私よりも、手を差し伸べてくれる沢山の味方がいる。そして何よりも、ロジャース様が側にいてくれる。だからもう大丈夫。そう安心していたの。
この世界は前世のゲームの世界じゃない。似ているけど違う世界。しかしゲームとはまるで平行世界の様に酷似している。存在する人物しかり。起こりうる未来しかり。つまりはゲームと類似している事柄は、これからも起こりえて世界は続くのよ。例えこの世界で生きる人々が、ゲームの世界の人々と異なっていてもなのでしょう。それらが複雑に絡まりこの世界の未来を形どってゆく。
ヒロインたるローズマリーのゲームオーバーでは終わらない。否、終われない。だってこの世界はゲームではないのだから。生きる人々には現実なのだから。この世界はこれからもずっと続いてゆく。既に私の知ってるゲームの世界とは剥離している。だから私はすっかり失念していたの。
お姉さまごめんなさい。
忘れていて本当にごめんなさい。私は安心してしまっていました。ゲームオーバーに。そしてヒロインたるローズマリーのバッドエンドに。これで全て終わりだと。悪役令嬢になりうる私たちは牢には入らず、もちろん国外追放にもならない。だからもう安心なのだと。
でもそうじゃなかった。時間は進みゲームの様に止まったりはしない。現実の世界では例えどんな結果を得ようとも、世界は廻り時は進むのだから。
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前世の私がクリアしたゲームには続編が有ったの。でも前世での私は面倒だからやらないと同僚からのプレゼントを断った。それ位お菓子作りの仕事にのめり込んでいた。だから続編をプレイしなかったの。しかし同僚が言う。現実の男性に興味ないのなら、せめてバーチャルで慣れなさい。一緒に恋ばなしたいのよ!と、攻略本を渡され休憩時間に熱く語られたわ。
だから詳しいイベントまでは解らないけれど、おおよその内容は理解しているつもり。
後編は所謂下克上。前作で大人気だった悪役令嬢のエリザベートが、隣国ニつを跨ぎ活躍する。つまり後編は、エリザベートお姉さまがヒロインとなる。
実は前編での攻略者のルートで、皇太子様のルートだけは特殊だった。他の攻略者たちは其々の心の闇の隙間をヒロインに暴かれ、言葉巧みに癒され簡単に落ちてしまう。更に魅了の魔法で強固に絡め取られてしまう。そして結婚してハッピーエンドのエンディングを迎える。
しかし皇太子様だけは完全には落ちなかった。皇太子様はそれほどにエリザベートを愛していた。病んでると言われるくらいの愛だったの。しかしそれが仇となってしまう。エリザベートが男性と仲良くしているのに腹を立て、自身にも焼きもちを妬いて貰いたくなる。その一時の気の迷いでヒロインの誘いにのり、エリザベートを試してしまう。やがて婚約者が身分の低い令嬢と仲良くしていると知り、私と言う婚約者が居るのに!と、エリザベートが嫉妬心からローズマリーを虐めていると言う噂が立ち始める。しかしながらエリザベートは政略結婚と言う立場を弁えている。更には皇太子の隠された性癖を知っている為、無理に婚約を継続したいとは考えていない。よってそれらは勿論事実無根であった。
しかし皇太子はその噂を信じて喜んでしまう。更には徐々にローズマリーの魅了の魔法に蝕まれてゆく。しかし流石に王族。精神操作の魔法は簡単には効かなかった。しかし魅了はジワジワと浸透してしまい、やがて完全な傀儡となってしまった。
そして断罪の婚約破棄へ。
勿論エリザベートによる虐め等は全くない。完璧な事実無根だった。勿論エリザベートは、虐めについては否認した。しかしローズマリーの傀儡となったエドワードは、エリザベートを牢に入れ国外追放にすると宣言してしまう。
エリザベートは皇太子様を諌められなかった己の責だからと、それ以上の反論をせず婚約破棄を了承し牢に入った。
ここまでがプロローグ。牢の中へ差し出された攻略者からの四本の手。エリザベートがいずれかの手をとり、優雅に微笑む画面から続編のゲームは始まる。
ゲームの中のエリザベートは、典型的な高位貴族のお嬢様。王妃教育による知識や体力は有れど、特別な力などは無かった。断罪時点では普通のご令嬢だった。それ故政略結婚の大切さを理解しており耐えていた。しかしそれがいけなかったのかと牢の中で反省する。私がもっと本音を皇太子様にぶつけていればと……
しかし。
取り敢えず牢を出てから考えよう。エリザベートはかなり能天気だった。高位貴族ならばの優雅さと気品を備えたエリザベート。だがその少し天然な性格故知り合うと親しみやすい。そんなエリザベートの人気は高く、家族とは疎遠だったが周囲にはモテモテ。人脈も有り牢の中のエリザベートには、沢山の人々の救いの手が差し伸べられる。
そしてエリザベートはその中の一人の手を掴む。
続編のヒロインたるエリザベートは、攻略者の手を借り力を付けてゆく。魔法しかり武術しかり諜報技術しかり。
やがて魅了の力を使い王妃となったローズマリーを断罪し、そして王妃の座から引きずり下ろす。王宮はほぼローズマリーの魅了の魔法に侵されていた。先代の王も王妃も貴族もだが、当然の如く既に即位していたエドワード王もだった。ローズマリーの贅沢三昧に浪費癖。更には重鎮の貴族たちは、己の金儲けにしか興味がない。更にエドワー王はローズマリーのいいなりだった。
国はすっかり傾き崩壊直前。国民は貧困に喘いでいた。そんな王宮にエリザベートは攻略者の一人と乗り込む。そして次々に粛正し国を立て直す。やがては攻略者を伴侶に迎え、国の女王となった
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【攻略者1、グレイシー】
魔法大国の筆頭魔術師。魔術師団長。実はエドワードとは腹違いの兄弟。母は魔法大国伯爵令嬢。これは公然の秘密となっており、庶子として認知されている。低いが王位継承権も有る。(公にはされていないが、すでに継承権は放棄済)
母は己の器では無いと隣国の王妃の座を蹴った。実は母の伯爵家は自国の暗部を束ねる隠密の家系。建前上は自身が断ったとなっている。しかし上からの圧力も影響していた。ある程度の機密を知る人間を、他国の王家へ輿入れさせる訳にはいかなかった。
グレイシーは伯爵家で諜報としての訓練を受けた。魔力も高い為あっと言う間に頭角を現す。実は魔術師は表の仕事で有り、諜報としての裏の仕事の方が比重が重い。
幼い頃隣国の高位貴族の屋敷に潜り込み、幼い少女に出会い愛しく思う。しかし公爵家の者にみつかりそうになり、別れも言えなかった事が心に堪えた。後にその少女があの出会いの日、腹違いの弟の婚約者になったと聞き心に闇を抱えてしまった。
【攻略者2、ドレイク】
魔法大国の騎士団長。侯爵家の三男坊。元は王宮の近衛隊の隊長だったが、とある理由で辞めて騎士団入りをした。かなりの脳筋。
魔法大国出身にしては、所持魔力がかなり少ない。その為侯爵家では冷遇されていた。本人は家族に認めて貰いたいと、少ない魔力と剣技をあわせ努力した。しかし近衛隊隊長まで上り詰めても、その気持ちは報われなかった。
幼い頃からの婚約者がいたが、その婚約者をとある夜会で兄に奪われてしまう。兄にも婚約者がいたにも拘らず、その場で婚約破棄を言い渡された。それらの次第を隣国の皇太子の婚約者として来訪していたエリザベートにたまたま目撃されてしまう。
「あらあら? 何だか不穏な所にお邪魔してしまいましたわ。でもそこの貴方?
婚約破棄上等ですわね。こんな尻軽女等、喜んで熨斗を付けて差し上げなさいな。ですが婚約とは王が決定する事。こんな人目のある所で宣言する事では有りませんわ。しかもお相手の男性も既に婚約者がいらっしゃる筈。その方はどうなさるおつもりなの?
しかし勇気がおありですわ。この公衆の面前で、おニ人の不貞を堂々と宣言なさる訳ですもの。私には到底真似出来ませんわ。おほほほほ」
エリザベートの張りの有る声に会場は静まり返る。視線が此方に集まる。勿論上座の王もしっかりと見ていた。結果兄の方は婚約者との婚約は解消となり、侯爵家の後継からも脱落し次男が後継者として繰り上がった。勿論ドレイクの婚約も解消となり、身軽になったドレイクは近衛隊を辞め騎士団に入り直した。元婚約者は後に辺境の貴族の後添えとして結婚したが、やはり不貞を働き離縁され修道院行きとなったという。
エリザベートの言葉は当前の事で客観的な事実だった。しかしその事実を己は言葉に出来なかった。また誰もが当前の事を、言葉で発する事が出来なかった。その当前の言葉を堂々と発する事の出来る女性。己はあの言葉で救われた。是非また豪胆な彼女に会いたい。お礼を言いたい。常々そう考えていた。
【攻略者3、レイシス】
自称聖国の第一王子。しかし王位継承権は第ニ位。世継ぎは正室腹の第ニ王子となる。聖国では何事も正室の子が優遇される。
レイシスは幼い頃から、王子とは言え汚れ仕事ばかりを与えられていた。第ニ王子は愚鈍で父王のいいなり。女癖も悪くその尻ぬぐいまでもが仕事だった。周囲にいる見目の良い女性には全て手をつけてしまう。それを防御する為の人事にも頭を悩ませていた。側室で有る母親を盾にされ言いなりになるしかなかった。生真面目で思い詰めるタイプ。自傷癖有り。なまじ優秀な為古株の真面目な貴族の人たちを見捨てられない。身分を捨て出奔したいが、母を捨ててまでは出来ない。
父王と愚兄に命令され、婚約破棄され牢に入れられたと噂のエリザベートを拐いにゆく。(大義名分的には亡命)その際エリザベートに自傷の傷を見られ全てを知られてしまった。
【攻略者4、ユリウス】
自称聖国の大神官。美貌の麗人と言われているが、勿論女性ではなく男性。自身の容姿と魅了の瞳を武器に、大神官の地位にまで成り上がった。本人は全く相手にしていないが、狂信的な信者に囲まれている。
聖国の人間にはほぼ魔力がない。しかし大神官には魅了の瞳と未来予知の力が有った。未来予知はそれ程強い力ではない。しかしエリザベートが牢に入れられた件を知り得たのはこの未来予知によるもの。エリザベートが高魔力持ちな事も予言し、聖国に取り込む事を王に進言した。
※※※※※
コメコメ大商会の応接室で朝食を戴きながら話を聞く。ふんふんなるほど。しかしそのゲームというものはずいぶんとご都合主義なのね。なんだかイラッとくるわよ。モグモグ。ごっくん。
うーん。しかしこの納豆ってのは食べずらいわね。しかもなんだか独特な風味が……え?風味消しのための薬味が色々有るから入れるの?特にネギがお勧め?辛子も入れるの?でも私はこちらの海苔の方が良いわ。あら?でも納豆汁は美味しいわね。
「こりゃまた珍妙な珍味だな……お貴族様が食べる物じゃないだろ? エリーは……平気そうだな」
「平気でーす。マリエンヌの料理に間違いはないのです! 特にこの白米!
ロジャースのご先祖は神様なのです。今や我が公爵家の税収の要なのですぞ。これらはその白米を美味に食するおかずなのです!
貴様もお握りにはお世話になっているだろうが! 文句言うならもうやらんぞ! 」
「親父臭い口調だな」
「煩いわ! 」
まあまあ仲良き事は良い事だと、ロジャースに頭を叩かれた。
「リーダーは合格貰ったらしいな。しかも上手くいけば出世コースだ」
そう言えば何だかニヤニヤしていたわね。妙に張り切っていたし。合格に出世コースって何よ?
「まあエリーは気にはなるだろうが気にするな。男同士の話だ。大丈夫。お前に不利になる様な事はしない。マリエンヌが泣くからな」
気になるに決まっているでしょうが!
「マリエンヌは大丈夫なの? 」
マリエンヌは朝方まで私の為に前世のゲームについて書き出してくれていた。思い出せる限り。それなのに朝ごはんの用意までしてくれたの。目の下にクマまで出来てるので、流石にロジャースが少し寝る様に言ったらしい。
「寝れば大丈夫だ。先にご先祖の日記を読んでくれたから無理が出たんだ。日記は記録しているから後で再生する。簡単に言えばご先祖は、この地に根付く前あの遺跡に迷いこんだそうだ。そこでパパと呼ばれたニ人の死を見届けた。後を少女たちに任せ再度旅だった。最後の脱出ポットを操作出来る、信用できる高魔力持ちを探す為にな。しかし残念ながら死ぬまでに見付けられらなかったんだ。遺跡を封印出来ねば、また我々の様な不幸な者が産まれる。そう呟き死ぬ間際まで探していたそうだ」
あの遺跡はそんなに重要だったの?
「我々の様なって? 」
それは哀しい真実。禁忌の集団召喚と巨大な天変地異との符合。稀な偶然が生み出してしまった不条理。
「あの遺跡には異世界と繋がる穴が有ったらしい。そこから異世界の魂が迷いこんでいたんだ。その魂たちはこの世界の理にのみ込まれた。そして一部は消滅し一部は転生した。沢山の異世界の魂が遺跡で朽ちさ迷った影響らしい。更にはなぜか異世界の記憶を思い出してしまう。これらは本来なら有り得ない事らしい」
これらの解決案が遺跡の封印だったのね。
「そしてマリエンヌが前世を思い出したのは、私が近くにいたからだ。本当にすまない」
先祖は自身の血筋に続くという枷を、遺跡で出会った魔術師にかけられたと言う。異世界の魂が近くに存在すると、その記憶を思い出す様に促す術。異世界の知識は多いほど良い。思い出した人物を保護し、手助けするマニュアルも作成し後世に残した。そうする事により、遺跡を封印出来る高魔力持ちを見付け易くした様だという。
「マニュアルは以前私も読んだが、確かに高魔力持ちをみつけたら協力を仰いで欲しいと書かれていた。意味が解らなかったが、マリエンヌに日記を解読して貰い真実を知った」
そんな事は私に謝る事じゃないわよ。でもマリエンヌが思い出したのは侯爵子息との顔合わせの時よ。まだロジャースと出会っていないじゃない。
「本当にすまない。そんな変な顔をしないでくれ。お願いだ。頼む……」
「マリエンヌが許しているなら私が兎や角言う事じゃないわよ。でもマリエンヌが思い出したのは、ロジャースとの出会いより前じゃない」
「…………」
「察しろよ。ロジャース様は幼い頃の妹さんに一目惚れしてたらしいぞ」
え?でも何時よ。マリエンヌは引きこもりで……
「あー! もしかして! 侯爵子息との顔合わせの為に大商会を屋敷に呼んでドレスを作った時?
いやー。ロジャースも微じゃなくて立派なヤンデレよ。しかもロリコンじゃない。マリエンヌー! コイツで良いの? 心配すぎるー! 」
「義姉上? 心配なさらないで下さい。マリエンヌは幸せですよ。私も幸せです。お次ぎは義姉上の番です。しっかりお手伝い致しますよ」
う……胡散臭い。嫌すぎる。
ドタバタ!ドタバタ!
「もうやだー!助けて!姉さんー!助けてー!嫌だー!」
え?何?どうしたの?この声はブライアン?何故コメコメ大商会にいるの?
部屋の扉の前で争う音がする。
バタン!
「姉さん助けてー!!」
?????
私に飛び付きすがり付くブライアン。はて?どうしてここにいるのかしら?
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