あ!マズいかも……
あー。うっかりしていたわ。まさか元騎士団長(仮)が、魔法使いたちと共に遅れている何て思いもしなかったから……私の顔が割れちゃったかしら?もし気付かなかったとしても不味いわよね。私からの誰だとの問い詰めに黙秘をした。つまり私が彼を知っていて、しかも心良く思っていないことを知られてしまった。穴の中にいる餌にされているニ人に話せば、私が誰かが解るかもしれない。餌のニ人。ううん。魔術師団長に私の存在がバレてしまう。突入した時に何気に目があったけど解ったかしら?まあ夢うつつだろうし大丈夫だと思いたいけど……うーん。やはりこれマズいのではないのかしら?どうしたら……
「リーダー悪いけど少し時間を貰えるかしら? 私ちょっと巣穴に戻ってくるわ」
「何故だ? 上に餌になっている奴らの報告はした。救出なら指示が出るまで待てよ」
「勝手してごめん。餌は魔術師団長とその息子なの。その息子は騎士団長の息子とバカをしでかして、討伐隊の見習いに降格していたの。例の妹と私の婚約破棄の件よ。その騎士団長の息子が行軍に遅れたのか、魔法使いたちの中に混ざっていたわ。理由を聞いても黙秘。
だから魔力も少し有るからと、反省させる為に巣穴に閉じ込めてきたのよ」
「お前なぁ。それ早く言えよ……だが俺も見たくないものを見たショックで、餌が誰かを聞くのを忘れていたわ。つまり魔術師団長と息子は何処かで落ち合っていた。多分元騎士団の奴もだな。仮にも騎士団に入れた奴が、行軍に遅れるなんて有り得ん。それでお前らは顔見知りだと。だからどうしたんだ?
」
「伯爵家でのパーティーの事が有るじゃない。私がここにいるのがバレるとマズいのよ。エリザベートとしてバレていないのなら構わないのだけど……」
リーダーが私の顔を眺めてウンウン唸っている。
「認識阻害の魔道具の性能を、かなりアップさせたんだろ?
俺には今なら全く解らないぞ。それに先の餌のニ人は大丈夫だと思う。常に魔力を喰われているから、虚ろでほぼ意識はないはずだ。ウサギの体液の麻薬効果で生かさず殺さず状態なんだ。心配なら救出の際に、元騎士団員だけ分ければ良い」
確かに認識阻害の魔道具の性能はかなりアップさせたわね。魔道具作りの先生が解らない位だと誉めてくれたくらいだから大丈夫かしら?
「我が国の魔術師団長の魔力量だけが心配ね。でも魔術師団長はドリル髪型のエリザベートしかしらない。ヘッポコ魔術師団と信じてもう心配は止める!
バレたらそれまでよ。物理で沈黙させましょう! 」
「ヘッポコって……後物理はヤメロ。死ぬわ。でも心配は要らぬ筈だ。魔術師団長も今回の演習で格好をつけ、メテオだったか?
ワイバーンにあれを唱えて掠りもせず、魔力切れで死にかけたそうだ。まあそれでも心配ならばグレイシー様に見て貰えよ。あの方の魔術と魔力量は近隣諸国では随一のはずだ」
はっ!そうよ!グレイシー様よ。もしかしたら私の初恋の君じゃない。にへら。
「…………」
リーダーめ。その痛い子を見る様な目は何なのよ!ならばこれを見せてあげましょう!マジックバックをゴーソゴソ。おトイレまででも何処にでも一緒。私が幼い頃から大切にしているこのポーチ!そうよ。あの時に貰ったお花の指輪。小さくなっちゃったから、ポーチの飾りボタンに作り直して貰ったの。このポーチなら何処にでも持ち歩くからね。
「どう? 可愛い飾りボタンでょ? 」
私はリーダーの目前でヒラヒラと振り、これでもかと見せつけ説明する。
「だからそれが何なんだ?
取り敢えず理解はした。エリザベート様は五才の頃、自宅の公爵家のお庭で見知らぬ男の子と数日遊んだ。別れ際にお花の指輪を貰った。それが隣国の魔術師である、グレイシー様かも知れない訳ね」
「あったりー。それがとても素敵だったの。お庭のミニ薔薇を私の掌にちょこんと乗せて、己の蝶のカフスボタンを片方外して呪文を唱えたの。すると蝶が飛び立ち、ミニ薔薇の周囲を回りながら、合体して指輪になったのよ。
私の指をクルリとリングが回り、本当に手品みたいでドキドキしたの。オマケに指先にキスよ。やだぁ。カフス片方だけじゃ使えないじゃない。これは私が是非にも何かプレゼントしなくてはダメね。気付かないなんて私ってば、本当にダ・メ・な・子!
」
「片方だけのカフスボタン何て既に捨てられてるだろうに……しかし幼女にキザなことをするな。まさかそういう趣味なのか?
グレイシー様はそんなタイプには見えんが……むしろ外交での顔の皇太子様にピッタリじゃん。しかしうすら寒い……」
リーダー?
「頬染めてモジモジするなんてマジいつものキャラじゃねぇ……しかし魔力持ちって事はやはりグレイシー様なのか?
否。皇太子様の線もまだ捨てられん。何故隠されているかは解らないが、血筋的にも魔力なしなどはありえない。多分皇太子様にも……」
おいこら!すべて口から漏れているんですけど?もしかしなくてもそのデスリは心の声なの?つまり本心ってことよね?
「まあ良い。ならばグレイシー様に見て貰いがてら話をしに行こう」
「良くないわよ! さんざん私とグレイシー様を馬鹿にして! グレイシー様はキザで幼児趣味でもないし、エドワードに魔法は使えません! 」
「やっ止めろー! 魔法を飛ばすな!俺を殺すつもりか! 」
殺すわけないじゃない。いたぶるだけよ?
*****
ずーん。がーん。どどーん……そ……そんなぁ……初恋の君がグレイシー様ではないなんて……
「そりゃそうですよねー。私ってばつい調子に乗ってしまいました。グレイシー様、本当にごめんなさい」
流石に直球で聞くのはバカだったわ。ご本人だとしても、流石にご自分では肯定出来ないわよね。すっかり討伐隊の男所帯に慣れすぎて、公爵令嬢どころか女性の嗜みまでなくしていたわ。
はっ、恥ずかしくて死にそうよ……
でもあんな事が出来るのは、絶対にグレイシー様だけよ!
「いえいえ。しかしロマンチックなお話ですね。それ程の魔法の使い手に、私も是非お会いしてみたいものです。しかし公爵家のお庭でのお話ならば、皇太子様ではないのですか?
丁度婚約なされた位のお年では? 」
うーん。それは伯爵にもリーダーにも言われたわよね。でもねー。皇太子様には魔力がないのよ。だからねー。
「なあ? 皇太子様は本当に魔力なしなのか?
俺は社交界には出ないから解らんが、上位貴族程魔力持ちだ。俺にも有るんだ。皇族で魔力なしなど、血筋的にもありえないだろ? 俺は今まで聞いた事もないぞ」
リーダーが私の目を見る。そうなの?確かに魔力なしだと公式に聞いた訳ではないわね。でも私の前で魔法を使わないし、周囲の皆さんが使わない=魔力なしだと言っていたのよ。騎士団長も皇太子様には魔力がないと言ったわよね?だから思い込んでいたのかしら?
不思議な顔をしているグレイシー様のお顔を見つめる。グレイシー様はなぜか驚きのお顔で、目を真ん丸にして瞬きをしていた。
「まさかご存知ではなかったのですか?
皇太子様はかなりの魔力持ちですよ。確かに諸事情により、二十才までは魔力を封印なされています。まさかエリザベート様が知らなかったとは……」
ええー!高魔力持ちの皇族の男子は、精通を迎えると二十才まで魔力を封印されるの?理由は高魔力持ち程子供が出来やすいから。望まぬ子供は後の不幸に繋がる。要らぬ後継者争いを生まぬ為にも、高魔力封印の儀式は我が国の王家で代々続けられているという。なぜそんなに大切なことを婚約者に伝えないのよ!
「でもそんなに余裕綽々としていて、後継者が生まれなかったらどうするの? 」
「何故かその心配はないんですよ。皆様情熱的でいらっしゃる。必ずお好きな方と結ばれている為か、隣国の王家は常に子沢山ですよね。特に高魔力持ち同士の相性は、離れがたい位に抜群だそうです」
そこまで聞いてはいませんけど?
「そりゃあ……単に我慢させ過ぎて拗らせてんじゃね? 初夜には十年単位のムラムラが爆発かよ。そりゃ直ぐにも出きるわな。エリザベート様ファイト一発!
お互いに癒し魔法でエンドレス。最初に満足させれば、後は楽になるだろ? 相性抜群ならもう体から落とされてしまえ! こりゃナイスだ。頑張れ! 」
嫌よ!頑張れないわよ!それに封印されているなら抜群ではないじゃない!あ……初夜には解除されるのね……
「公式には公開されてはいませんが、私はすでに継承権は放棄しております。お姉様は他国へ嫁がれていられますし、弟君方も皇太子様を補佐するためにと勉学に励まれております。エリザベート様には何の憂いもございません。皇太子様とは高魔力同士。お子は直ぐにも授かりましょう。王家に入られても、なにも心配はございませんよ」
グレイシー様って、結構残酷よね。初恋の君にときめいていた私のハートを、見事につつき回して粉々に粉砕したわよ。却ってスッキリしたけど……やはり浮かれポンチの初恋は実らずなのよね。だけど私の事情を知りながら、ニコニコと満面な笑顔をみせて話すことなの?人が良さそうに見えて、実はかなり腹黒タイプよね。しかもここで然り気無く皇太子推しをするの?エドワードが余計に嫌いになりそうよ。
「やはり初恋は実らずなのね。グレイシー様へのトキメキが、ものの見事に粉砕されましたわ。しかし皇太子様推しは如何なのでしょう?
私は公式の場で婚約破棄をされた女。返り咲きは有り得ませんわ」
「それは忘れてやれよ……」
「無理です。私は何度も猶予を与えました。なのにあの情けなさ。私には支えきれる自信がございません」
「皇太子様は側にいてくれるだけで良いんだろ? そんなに堅苦しく考えなくて「ふざけないで下さい! 」も……」
「では何ゆえに私は幼い頃から妃教育などを受けてきたのですか?
リーダーは私に、己は家名を名乗っていないと不思議がっていましたが、何故私が聞きもせぬ家名が解るか理解できますか?
妃教育で貴族名鑑を全て覚えるのです。その領地の特産品から納税額。家族構成に不穏因子について。因みに近隣諸国の主だった国の重鎮もです」
「…………」
「しかも私たちの婚約は政略だけでは有りません。皇太子様が私が良いと、リストの中から選ばれたそうです。我が国では側妃は認められていません。ですから本人の気持ちを優遇するそうです。皇太子様が指名した私は、たまたま身分も魔力量も申し分がなかった。だから婚約者に決まったのです」
「…………」
「しかしそこに私の気持ちはいっさい含まれておりません! 政略結婚? 構いませんよ。互いに育める何かが有るのならばね。しかし愛されているのだから喜べ?
側にいるだけで良い? 私に子を生むだけの人形になれと仰るの? ふざけないで!
私は手込めにされても言いなりになんてならない。絶対に逃げるわよ。結婚したいなら胡座をかかずに誠意を見せなさい。それが嫌なら何でも言う事を聞くお人形さんと結婚するのね」
「「…………」」
「グレイシー様? 何でこんなに拗れるんだ? 皇太子様は何故エリザベートが好きなら態度でしめさない? 否。あれでしめしているのか?
何故普通に愛情を伝えないんだ?
変態チックなのは俺も男だから理解は出きる。しかし誕生日位はプレゼントしろよ。多忙なのは理解できる。だが何故茶会に出ない?
ちょいと顔を出して甘い言葉を囁けば良い。変態チックは仲を深めてこそじゃないか? しかも自分からはプレゼントを催促するそうじゃないか? 」
「それは……」
皇太子様とは婚約してから一度も、お茶会をご一緒したりした事がない。さすがに王家主催や外交関係の公式パーティー等にはペアで参加をする。しかし本当にそれだけ。私は王妃教育でお城に連日の様に通う。王妃になれば社交のためのお茶会を開いたりもする。その練習の場に王妃様が呼んでくれても来た事がない。まるで私の参加を避けている様にしかみえない。ダンスのレッスンでも男性側のパートを踊ってくれた事がない。しかもなぜか私の妃教育の先生方は女性のみ。ダンスは異性と踊る程上手くなる。なのに私は女性としかダンスレッスンをした事がない。つまり婚約者では有るが、私たちは年に数回の公式パーティーでしか会わないのよ。
それでも私は次期皇太子妃。皇太子様の婚約者で未来の王妃。やがては国母となる。もちろんこんな立場の私には、誰も近寄っては来てはくれない。特に男性は顕著で、当然の様に私のダンスのお相手は皇太子様のみ。家族すら遠慮しなくてはならない。まれに仲良くお話が出来る人たちもいた。しかし連日の王妃教育で私は録にお茶会にも参加出来ない。直ぐに疎遠になってしまう。取り巻きの様に近寄る令嬢方もいた。しかし旨味がなければ皆去ってゆく。私は孤独だったの。家族だけが支えだった。それでも!私が今まで頑張って来たのは……
「私が王妃様主催のお茶会から帰宅しようとしていた時、王妃様が皇太子様を無理矢理引き摺って来たことがあったの。王妃様は皇太子様の私への態度を知り、私にある選択肢を与えてくれた。私はその選択肢が有ったからこそ、今まで孤独でも頑張れたの。
「「…………」」
「私が十八才になるまでは、絶対に不埒な事をさせない。互いを尊重し納得しあい仲を深めなさい。それが無理なのであれば、王妃様のお力で婚約の解消を王に進言して下さる。そして私には素敵な旦那様を紹介してくれるといわれたわ」
結局それからもたまに会えば変態じみた事ばかり。尊重も納得もありえなかった。此方からお誘いしたお茶会の招待状は、いったい何枚無駄になったのかしら?
(多分それだ。皇太子様はアホなのか? 何故そうくそ真面目に……)
(あの方も極端すぎるのです。何故普通の婚約者としての仲を深める事も出来ぬのでしょう? )
(他を紹介するとか言われたからだろ。しかし普通に仲を深めりゃちょいエロも変態じゃなくなるのに……)
何かしら?リーダーとグレイシー様が唸っているけど、そんなに難しい話をしたのかしら?まあ良いや。あ!そうだ!指輪の件をマリアンヌに聞いてみましょう。もしかしたら何かアドバイスをして貰えるかもしれない。ゲームの話に出ているかもしれないしね。
「エリー? 一つ聞いても良いか? 」
「良いも悪いもないわよ。答えたくなければ答えないし、答えられるならば答えます。質問は何時でもOKです。当たり前でしょ? 」
「…………」
当たり前だがイラつくわ。しかしコイツを周囲が認めるのも理解できる。あの皇太子様にはコイツ位返せる奴でないとダメなのだろう。言いなりの庇護欲を誘う様なお嬢様では駄目なんだ。可哀想だが既に周囲を囲まれている。なら幸せに円満に夫婦になれるのが一番なんだよな。
「あのな?
普通の恋人たちは恋人繋ぎしてデートを重ねる。デートでムードが盛り上がりファーストキス。仲を深めながらのボディタッチに深いキス。まあ高位貴族には少ないが、記念日に初お泊まりデートして夜景見てラブラブ。初の初子作りラブエッチ。この基本の流れは変態じゃないよな?
」
「リーダーのバカ!私は子供じゃないのよ! 流石に婚姻前に子作りは不味いけど、それ以前まで位は理解しているわよ! 」
「つまりは皇太子様がその手順を踏んでいない。踏まぬなら品性高潔に清く正しくすれば良いのに、なにかと漏れ出してしまうエロオーラが不味いと言う訳だ。確かにこれは皇太子様の態度が悪いな。お前だって一応は女性だし、ロマンチックとやらも必要だよな。これはやはり一度腹わって話そう。皇太子様の話を聞いてやれ」
一応も何も!どう見ても女じゃない!然り気なく貶めてくれるわね!
「そうですね。是非話し合いの場を設けましょう。それほどに愛しいのならば、何故正直に本物を愛でぬのか?
エリザベート様の思考は乙女の常識です。私も正直見ていて歯がゆいのです。互いに納得しあえば良いのですよ。相互に愛が有れば変態は溺愛になるのです!
痘痕も靨なのですから! 」
え……それはちょっと違うと思うけど?何があれほどに愛しいの?本物を愛でるって何なの?まさかグレイシー様まで、等身大の人形のことを知っているの?
「エリザベート様? 指輪の魔法ですが相手がハゲ親父だったらどうでしたか?
つまりそう言う事なのです。相手に好意が有れば何事も正義になるのです。相思相愛になれば良い。正義ならば溺愛に監禁問題なしです! 」
グレイシー様!問題が有りすぎですー!二人とも好き放題言いすぎよ……
「しかし我が王家の血は恐ろしいわ。グレイシー様も充分素質有りだよな。取り敢えずこの話はまたにしよう。魔道具の件は大丈夫だそうだから、餌の救出は命に危険がない為早朝に決行。今日はこれにて解散。エリー、悪いが宿舎まで送ってくれ」
グレイシー様に挨拶をして外に出る。私はリーダーの前を通過し、魔の森に向けて歩き出す。
「おい? どこに行くんだ? 」
「まだ明るいわ。討伐しながら帰りましょうよ。可愛い弟妹へのお土産の為にも稼ぎましょう。身体強化をかけるから、帰宅まで一時間はかからないわ。さあ行くわよ!
」
「…………」
「早くして。帰らないの? 」
「怒っているのか? 」
「心当たりが有るのかしら? 見て解りませんか? 」
「解りました。お供させていただきます」
ふんだ!グレイシー様と一緒に皇太子推しをするからです!
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