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ヒロインの行く末【another side】

【とある地下牢にて】


(?&?の会話。)


薄暗く湿気のこもる階段を下る。鉄格子が見えて来た所で見張りにかち合う。牢内の者に暫し話を聞く故、他の見張りに回る様に伝えた。鉄格子を抜けると牢獄には似合わない様な調度品。ここは貴族の政治犯等が入る監獄だ。耳を澄ますと奥の方から女の嬌声が聞こえてくる。正直胸くそが悪くなる。しかしあの者はもっと嫌な筈だ。私が顔をしかめ詰る事では無い。


暫くすると己とみまごう男が、バスローブ一枚の姿で出てきた。


「待たせましたか? 」


「否。良い。先に風呂へいけ」


「ではお言葉に甘えますね」


シャワールームヘ行く後ろ姿。この者は私が物心が付いた頃から側にいた。否。側と言うより影にいた。私の影武者だった。しかし自然に気付いた。この者は己の身内だと。だからこんなにも似ているのだ。そして解りあえる。近くても不自然ではない。しかしそれだけ罪悪感も募る……


「お待たせしました。ローズマリーには薬を仕込んでます。朝までグッスリです。先ずは彼女の夢物語でも話しましょうか? 」


「頼む」


シャワーを浴び、色彩を元に戻した男が戻った。私たちはソファーに腰をおろし話始めた。


***


ローズマリーは自身をある物語の主人公だと思い込んでいる。この世界はその物語の世界。その物語のヒロインであるローズマリー。彼女は全部で貴族学園に通う中、五人の男性に愛される。その中から好みの男性を選び、仲良くなり交際を始める。お相手は選択制。自分好みの男性と、必ず幸せになれる物語。


「仲良くなる際に邪魔をしてくるのが、男性たちの婚約者たちになります」


物語のヒロインたる己は、全ての結果を知っている。だから五人の男性達に愛されぬ訳が無い。仲良くなれず友達止まりの場合も有る。しかし私は愛されるヒロインだから、結果を知る私にはそれは有り得ないことだと言う。


「商会のロジャース様が既にいるので、五人には間違いなく愛されているのだそうです」


「その根拠は良く解らんな」


「物語の主役がローズマリー。相手の男性が、侯爵子息、公爵子息、騎士団長の息子、魔術師団長の息子、そして皇太子様です。この五人全てと愛を交わすと、隠れていたロジャース様が出現するそうです。結婚式で花嫁の彼女を強奪するそうですよ」


「…………」


「それは無いな。しかしロジャースか? 何か知っていそうだな。アイツは後で絞めるか。まあ居場所は吐かんだろうがな」


「私も吐きませんよ。あの方の信頼を失いたくはないですからね」


「まさか……」


「いえ。そう言うつもりではございません。私は奔放なあの方の気質が好きなのです。あの方ならやがて王妃となっても、お飾りだけでは済まぬでしょう。それを楽しみにしてるのです」


「王はお前を認めている。願えば彼女を娶り王にもなれる」


「ほう?それは魅力的ですね」


「…………」


「しかし貴方はそれで良いのですか? それは私に対する憐憫ですか? そんな物は要りませんよ?

私は王の器ではない。母と同じなのです。もし本当に欲しいなら奪いますよ。母も王妃の位は欲しくなかったのです。解りますか?私と母を侮辱しないで下さい。確かに人に下に見られる仕事では有ります。ですが私たち一族は誇りを持ち働いています」


「すまん。私のえごだな。これからも対等でいてくれ。そして叱ってくれ。グレイシー兄上……」


「はい。エドワード」


しかし、この年で頭を撫でられ安心する己が恥ずかしいな……


*****


【翌朝の別の地下牢にて】


(エドワード&ローズマリー)


しかし寒い。まあ牢獄なのだ。当たり前だな。冷え冷えとした一人用の牢には、隅に簡易トイレが有るのみ。ベッドも無く床にマットがひかれ寝具は毛布のみ。今は肌寒い位だが、先々寒くて眠れぬ位になるだろう。まあそれまでここに置くつもりはないが。


牢の鉄格子に寄りかかり転がる物体を見る。


マットの上に転がるのは、昨晩の内に通常の牢へ移されたローズマリーだ。流石に寒いのか毛布を何度も引っ張り己にかけ直す。


しかし何時まで寝る気だ。


「いい加減に起きろ! このゲスが! 」


「ムニャムニャ寒いわ……エドワード様は何処? 離れないでよ。寒いじゃない」


「…………」


気持ち悪い。鳥肌が立つ。


「牢番! 目覚めに水をかけてやれ」


「解りました! 」


「んぎゃぁー! なゃに? 何よ! 何事よ! 」


「もう昼近いぞ。バカ者が! 」


「…………」


「エドワード様? どうしたの? もしかして足りなかったの? いやん。なら遠慮なんてしないで。私はギヤラリーがいても構わないわよ」


「悪いが貴様には欲情せんし、こんな所で盛る趣味もない」


「エドワード様は変ね? どうしてそんなに怖い顔をしているの? 昨晩だって抱いてくれたじゃない。私に子を産み王妃になって欲しいと言ってくれたのに」


「悪いが私は貴様に触れた事はない。あれは私の影武者だ。しかも貴様が聞いたと言う睦言は、全て貴様に都合の良い言葉のみ。快楽と夢だけを与える魔術だそうだ」


「魔術? まさかグレイシー様? なら私はグレイシー様でも良いわよ。だからここから出して! いきなり何故こんな牢なのよ! 」


「ようやく少しは頭が働いたか? 全くのアホではなかったのか。だが罪人に選択の余地はない! しかもグレイシー兄上と貴様となど有り得ん!因みに貴様を愛すると言う五人の子息だが、私を含め皆正気に戻ったぞ。かなりの魅了が効いていた様だな。完全にもとに戻るのは大変だそうだ」


「うそ! 私は魅了何て使っていない! それにまだロジャース様がいるじゃない! 」


「貴様には残念だろうが、ロジャースはマリエンヌと婚約した。まだ決定事項では無いが、貴様のせいで取り潰しの侯爵家。ここに下から繰り上がり、ロジャースに爵位を与える話も出ている。魅了はそのペンダントだ。良く握りしめてるだろう。気付かなかったのか? 」


「知らない。このペンダントは幸運のアイテムで本当の母の形見だって。お願いをすると叶えてくれるゲームでのアイテムよ! 」


ローズマリーは市井で育ったという。男爵が若い頃お忍びで市井に行き、夜の繁華街で夜を共にした女から産まれた。女が死んだ後形見のネックレスから、父親たる男爵が浮上した。ネックレスは、男爵が女に買い与えた物だったそうだ。


「ゲームとは夢物語の事か? 男爵は普通のネックレスだと思っていた様だな。魔道具として使用されていなかったから魔力がもったのだろう。しかしそろそろ限界だ。男爵は良い人だろ? キチンと貴様を引き取った。娘がいないからと、義母だって可愛がってくれたんだろ? なのに何故なんだ? 」


ローズマリーはなぜか口を開かない。悔しそうに拳を握りしめている。


「貴方に何が解るの!恵まれた王子様に何て解らないわよ! エリザベートだってそう! 何故貴族学園に通わないの? マリエンヌは何故引きこもりなんてしたのよ! そうよ! 悪役令嬢たちがキチンと悪役をしないからよ! だから私が不幸になるのよ! 」


「救われんな……貴様は貴族になり何が努力をしたのか? 何故彼女たちが貴様の為に不幸にならねばならない? 何故悪役をしなければならんのだ? 」


「私はヒロインなの! そう決まっているのよ! 」


「現実を見ろ! 貴様の言う夢物語は確かに色々と符合が合う。本人や身内しか知らぬ話で相手を籠絡してたらしいからな。ならば何故貴様は牢にいる? それはこの世界が現実だからだ。夢物語の話は一つの仮定にしか過ぎんのだ! つまり別の話も有るんだ。その夢物語では同時に幾人もと付き合うのか? そうではないのだろ? 私は愛する者とだけ添い遂げたい。同時に五人等有り得ん! 」


確かに攻略する時には一人ずつだけど……でもデータが残ってるから、ロジャースが出てくるのよね?などと、ローズマリーは呟いている。まるで現実から逃避している様な姿には呆れてしまう。


「理解できんか……ならば仕方がかいな。因みにヒロインは市井で育ち、母が亡くなり男爵家に引き取られる。厳しいマナーレッスンやダンスレッスン。勉学にも励み貴族学園での成績は常にトップ。しかし貴族に染まりきらない素直さに可憐さ。学園中の男が虜になるだったか? 間違いはないな? 」


「そうよ! 間違いはないわ! 」


「良く言えるな。間違えだらけだ。マナーもダンスも教養もダメ。成績等は学園最下位だぞ! よくそれでのうのうと……エリザベートや令嬢たちが、トップに立つ為にどれ程の努力を重ねてると思うんだ! つまりヒロインとやらが違うんだよ。貴様はヒロインでは無ない。だから夢物語の様にストーリーとやらも進まないんだ。己とヒロインを比べてみろ。共通点は境遇のみだ」


そう。ローズマリーは己はヒロインだからと、なにもせずとも大丈夫だと思ってた。ヒロインは成績は優秀だからやる必要はない。悪役は虐めてくれる筈。そう思い込んでいた。たしかに小さな苛めはあったのだろう。だから話を大きくする為に自作自演までして、マリエンヌを婚約破棄させ断罪した。エリザベートを私から引き離すために魅了を使用したのだ。


「もしかして婚約破棄を進めた時に言い淀んでいたのは、本気でエリザベートと破棄したくなかったからなの? 」


「もちろんだ! 貴様の甘言に乗せられエリザベートに逃げられてしまった。まあ逃がすつもりは毛頭ない。補足したらニ年後まで待たずに、即既成事実に持ち込んでヤる。絶対に許さん! 」


「そこはストーリー通りのヤンデレなのね。でもミイラ取りがミイラになる筈だった。それは多分このペンダントのせいなのね」


「少しは理解できたか? 」


「ええ。私はどうなるの? 」


「通常なら不敬罪でとっくに首がとんどるわ! だが少しは情けをかけてやろう。公開処刑か獄中死を選べ」


「…………」


「ねえ?私の話にはまだ続きが有るのよ。例えば三年前の大洪水。あれも知っていたの。あの洪水で飢饉がおこり、沢山の子供が死んだ筈。そんな未来予知も出来る。エリザベートの逃亡先も解るわよ。どう? 私を解放して。次期王たる貴方には必要ではなくて? 」


「はぁ。しかし本当に浅ましいな。大洪水で飢饉は起きなかった。マリエンヌが保存のきく堅パンや、日持ちのする乾燥食材等を考案してくれていたからな。またエリザベートが領地の視察中に、堤防の亀裂を発見し一年かけ修復した。一メートル上乗せしてな。だから多少の被害は出たが死人は出ていない」


「それは! ならマリエンヌとエリザベートも転生者なの? 」


「転生者とは夢物語の話か? まあ良い。つまり知り得ていても、何もしなかった貴様の手など借りたくは無い。未来の王としても恥ずかしいわ! エリザベートも己で手に入れる。貴様の力など借りん! 」


ローズマリーが憤怒の表情で、私に掴みかかって来た。牢番が慌てて制止に入るが、ローズマリーの胸元のネックレスが光り魅了の魔道具が発動した。


「残念だが私には効かん。これのお陰だ。しかし……」


エリザベートからの魔道具を見せる。


「どうやら牢番にはかかってしまった様だな。しかも魔力全開でだ。このままでは彼が可哀想だ。ローズマリーが責任を取ってやれ。どうせ貴様は獄中死だ。重罪人の入る男女同室部屋だ。中で女王になれれば、男にかしずかれ天国だそうだぞ。まあ女王でも下僕でもヤる事は一緒だ。今まで貴様に泣かされた婚約者たちに侘びながら啼くが良い」


牢番は嬉々としてローズマリーを拘束し始める。ローズマリーは後ろ手に縛られ、もはや自由すら奪われてしまっていた。


「いやー! 私はヒロインなの! こんな薄汚れた場所で死ぬのはいやー! 止めて! 汚い手で触らないで! 痛い! いきなり止めて! 触るな! いやぁ…ぁぁ…ぁん。やぁっ。あぅ……」


本当に浅ましい。


「おい監視は他にいるか? 」


バタバタと数人が集まって来た。


「これ等が収まったなら、女だけを重罪人の牢へ入れろ。監視の男は魅了の魔道具の被害者だ。無罪放免だ。間違えるな。女は王族に魅了を使用した重罪人だ」


監視の者たちが、なぜか沈黙している。


「何だ? ああそういう事か。こんな浅ましい女でも需要は有るんだな。重罪人の牢に入れるのは何時でも構わん。だが殺すな。また絶対に逃がすなよ。逃がしたら貴様らも同罪だ。牢に入れたら報告しろ」


私は言い捨て牢を出る。背後で幾つもの足音が響き収まる。既に助けを呼ぶ声はなく、嬌声だけが牢内にこだましていた。


エリザベート……


浅はかな私を許してくれ。


私は必ずお前を手にいれて見せる。


*****


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