第6話 はじめての夕食【中学生編2】
ゲームを再開して20分ぐらいしたら1階から声をかけられた。
「あおいちゃーん!お風呂どーぞ!」
「はーい!」
あおいは返事をして脱衣所に向かう。
窓の外を見る。
雨はまだ弱まるそぶりすら見せない。
時計を見る。
いつもならあおいが帰っている時間帯だ。
...改めてあおいがうちに泊まることに現実感が湧いてきた。
今まで遊びにきたことはあっても泊まったことはない。
...謎の緊張感が漂う。
なんだこれ?
これからの傍若無人に耐えるための準備運動か?
自分の気持ちに疑問を持ちながらも1人で再びゲームの世界に入る。
...集中できない。
高鳴る鼓動。
そんなに浸水してこないかと不安になっているのかな?
なるべく考えないようにしながらあおいがお風呂から出るまでゲームをしていた。
女子のお風呂タイムって思っていたより長い。
あおいがお風呂に入った時間を正確には記憶していないが長く感じる。
女の子の兄妹がいれば違うのだろうが俺はひとりっ子だからわからない。
あおいには二つ下の妹がいる。
確か陽奈ちゃんだったかな。
あおいの家には行ったことがないから面識はない。
あおいいわく妹のほうが顔は可愛いらしい。
あおいは妹を溺愛している。
可愛くて仕方ないとよく言っている。
その都度、「あんた手ェだすなよ」と念を押される。
いや面識ないのにどう手を出すんだと毎回思う。
俺に対してさえこうなのだから実際近づく男には容赦ないんだろうなと思うと怖い。
想像したくないのに頭に浮かぶあおいが怒ってる姿。
怖くて身震いしてくる。
階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
あおいがお風呂から出たらしい。
部屋の扉が開く。
あおいの肩にはバスタオルがかかっていた。
「お風呂お先でしたー。大地も入っちゃってってお母さんが言ってるよ。そのあとご飯だって。」
「はいはい。...ずっと前から思ってたんだけど俺の母さんをお母さん呼びするのはなんなの?」
「あたしにとって大地のお母さんはお母さんなの!あたしのママはママなの!」
...何を言ってるのかしら、この子は。
...全く理解できない。
俺の疑問が表情に出ていたのかあおいは不満げな顔をしている。
「いいから!お風呂冷めちゃうから入っちゃいなよ!」
あおいが俺の背後に回って背中を押す。
追い出される形で部屋を出た。
あおいの思考回路は時々理解不能だ。
わからないことは考えても仕方ない。
俺は脱衣所に向かった。
脱衣所について違和感を覚える。
いつもなら家族では1番にお風呂に入れられる。
...明らかに空気が違う。
温かい浴室。
水分が残った浴室の床。
なんとなく感じる湯気。
さっきまであおいがお風呂を使ってた雰囲気が丸々残っていた。
俺ももう中学1年生。
同級生女子が使ったお風呂。
そのあと入るのに何の気持ちがないわけではない。
ただ怖いのはそんな気持ちでお風呂に入ったとあおいに万が一にも知られてしまった場合だ。
...想像するだけでも恐ろしい。
もはや考えたくない。
からかいなどを含めて何が待っているかわからない。
ふぅー。大きく息を吐く。
俺は心を虚無にしてお風呂に臨んだ。
普段ならのんびり湯船につかるのが好きだ。
しかし今日は気持ち早くお風呂を出た。
もはや倒したと言っても過言ではないほどの強敵だった。
いつもは味方なのに。
脱衣所を出てリビングに行くと母さんがちょうど夕食の配膳を終わらせたところだった。
「あ、ちょうどいいときにお風呂出たわね。ご飯にしましょう。あおいちゃん呼んできて」
「うん」
俺は階段を上がり部屋の扉を開けた。
あおいはゲームをしていた。
「...男の子ってお風呂早いのね」
あおいは驚いた顔をしていた。
誰のせいだよ。誰の。と思ったが口には出さず
「ご飯できたって」
「やった!もうお腹ペコペコ〜」
と言ってあおいはひとあし早く部屋を出た。
俺もその後に続いて部屋を出る。
2人でリビングにつきテーブルに座る。
今日はハンバーグだった。
「やった!ハンバーグだ!」
あおいははしゃぐ。
母さんが台所から来てテーブルに座る。
「今日はあおいちゃんが泊まることになったからハンバーグにしたの!あおいちゃんハンバーグ好きでしょ。」
「うん!大好き!ありがとう!」
あおいがハンバーグ好きなのを俺は初めて知った。
いつの間にこの2人そんなに仲良くなったんだ。
そんな疑問はさておき俺もお腹が空いたので箸を取る。
3人が揃って
「いただきます」
と言い思い思いに箸を伸ばす。
あおいはさっそくハンバーグに手を伸ばしていた。
箸で切り分けて一口食べて、
「美味しい!めちゃくちゃ美味しいよ!」
幸せそうな表情をするあおい。
「まあ!ありがとうあおいちゃん!おかわりもあるからいっぱい食べてね!」
「うん!」
あおいは幼い子どものようにわんぱくに食べる。
「母さん、父さんから連絡あった?」
「あったよ。電車が動いてないみたいで今日は会社に泊まるって」
父さんの帰りが遅いのはいつものことだけどひとまず事故とかに遭ってなくて安心した。
それを察したのか母さんは言う。
「父さんなら大丈夫よ!生き残ることならしぶといって自称してるぐらいなんだから」
「その自信はどこからくるの...」
「さぁ」
母さんは味噌汁を啜りながら答える。
きっと母さんはその言葉の意味を知ってる。
でも子供に言うことじゃないと思って言わないんだと思う。
ひとまず俺もハンバーグに手を伸ばすことにした。
美味しい。
「母さん、ハンバーグ美味しいよ」
母さんは笑顔で
「そう。ありがとう」
と返事をした。
美味しいものを食べられるのって幸せだ。
突然、あおいが思い出したように言う。
「そうだ!聞いてよお母さん!大地があたしの制服姿を可愛いって言ってくれなかったの!」
...幸せな気分が吹き飛んだ。
よりによってそれを母さんに言うなんて。
恥ずかしくなって顔が赤くなる。
慌てて反論する。
「可愛いのも似合ってるのは肯定はしたじゃん!」
「それも渋々だったもん!大地の口から可愛いって聞いてないもん!」
くっ...それは確かに言ってないけど。
「あーあーあー!お母さんは可愛いって言ってくれたのに大地は言ってくれないんだー」
わざとらしく膨れた顔をするあおい。
母さんは笑って聞いてるだけ。
どうする!?ここまで攻められっぱなしだぞ!?言うしかないのか!?いやそんな恥ずかしいこと言えるわけない!でも言わないとこれずっと言われるやつだ!...どうする!?
コンマ数秒の思考の末、意を決した。
箸を置いてあおいのほうを向く。
「あおい!あおいの制服姿はいつもとは違って大人びて見えて可愛かったよ!」
すごく真面目な顔で伝える。どうだ!
あおいはびっくりした表情をしていたが次第に頬が緩んでいく。
その後、今まで見たことないとても嬉しそうな顔をした。
「あ...りがとう!お母さん!ご飯とハンバーグおかわり!」
「はいはい」
あおいからお茶碗とハンバーグの乗っていた皿を受け取る母さん。
それすら見れずに下を向く俺。
あおいの嬉しそうな顔に逆に赤面してしまった。
結局、恥ずかしかっただけだ。
顔が真っ赤なまま箸をとり夕食を再開した。
あおいはおかわりしてたはず。
なのにあっという間にご飯を平らげてしまった。
え?早くない?
ちょうど3人とも夕食が終わった。
「ごちそうさまでした」
あおいは食器をまとめ始めた。
「あおいちゃん。そのままでいいよ。私が片付けておくから」
「ううん。手伝うよ!今日急に泊まることになっちゃったからせめてものお礼!」
「そんな気にしなくていいのよ」
「お母さんまだお風呂入ってないでしょ?あたしが洗い物やっておくから入っちゃいなよ」
ここはあおいの加勢をする。
「俺もあおいと一緒にやるから」
「...そう?じゃあお言葉に甘えようかしら」
母さんはどことなく嬉しそうだった。
「ありがとう。じゃあお風呂入っちゃうわね。2人とも、夜更かしはほどほどにね〜」
と言い母さんは脱衣所に向かう。
リビングにあおいと2人きりというのもなんだか新鮮だ。
あおいと2人でテキパキ食器を台所まで運ぶ。
「このスポンジ使えばいいの?」
あおいが指をさして聞いてきた。
「そうだけど俺が洗うからあおいは食器拭いてよ」
「いやあたしが洗うよ。あたしじゃ拭いたあと食器棚の食器の位置わからないから。大地が食器拭いてしまって」
「わかった。じゃあ俺先にテーブル拭いちゃうね」
布巾を持ってテーブルに向かう。
テーブルはそんなに汚れていなくてすぐに拭き終わった。
台所に戻るとあおいがテキパキと食器を洗っている。
家で手伝いしてるとは聞いてたけどかなり手慣れていた。
初めての台所でも動きに淀みがない。
俺は洗い終わった食器を拭き食器棚に戻し始めた。
「ふふっ」
動きは止めずにあおいが急に笑い出した。
「どしたの?」
「いやさっきの思い出しちゃって」
「さっきの?」
「いやー...」
「なに?」
「...大地が褒めてくれたところ」
ドクン。
一気に心音が上がる。
忘れかけてたのに。
ここは平然を装っておこう。
「何か問題があった?」
「いやあんな真面目に答えてくれると思ってなかったから」
「うれ...おかしくて」
「おかしくて!?こっちは真面目に考えて答えたのに!?」
ケラケラ笑うあおい。
そのあとなぜか顔を背けるあおい。
顔は見えなかったが耳は真っ赤だった。
そんなにおかしかったかなぁ。
ちょうどあおいのほうの洗い物が終わり残りは俺の拭き作業としまい作業のみ。
あおいは手を拭き終えると、
「あたし、先に部屋に戻ってるね」
と言い2階に上がっていった。
女子を褒めるのは難しいな。
残りの食器を拭き片付けていく。




