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あおいだいち  作者: 佐々木 栞
第2章 中学生

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第5話 はじめてのお泊まり?【中学生編1】

「ちょっと遅れる」

スマホにあおいからのメッセージだった。

あおいがうちに初めて来た日から6年が経とうとしていた。

あれから俺たちは小学校1年から中学校1年になった。

今日は入学式だった。晴天とはいかず曇り空でスッキリしない天気だった。

緊張したけど午前中に終わってホッとした。

うちの親は来なかった。

父親は仕事で忙しい。

母さんは放任主義なのでこういったものは出ない。

あおいのお母さんは来てたな。

午後に帰ってきて今はゲームの準備をしている。

あおいがうちに来るようになって1人になれる時間が減った。

それは嫌だった。

でもあおいが目をキラキラさせて楽しそうにしている姿を見て断れない自分もいた。

後で母さんから聞いた話によるとあおいのお父さんは医者。

お母さんは専業主婦で教育から何からかなり厳しいらしい。

あおいは小学生から塾にも通っていたしピアノや水泳までやっていた。

俺ならそんなに習い事をやっていたら心が折れていただろう。

だがあおいは違った。

勉強では好成績を残してピアノの腕も上達し泳ぎも上手くなった。

全てこなしてしまったのだ。

そのうえでうちに遊びに来てゲームをやっている。

俺は年齢が上がるごとにその凄さを実感する。

学年が上がるたびにあおいはどんどん有名になっていった。

とんでもない才女がいると話題になったのだ。

学級委員などもやり成績もトップクラス。

運動神経抜群で容姿端麗ときたもんだ。

俺はというと特になんの特徴もない平凡な小学生であおいとは距離を感じていた。

だがことゲームになると話は変わった。

あおいは超絶にゲームが下手だった。

というのもあおいのお母さんの方針で家でゲームをあまりやらせてもらえないからだと思う。

なんでもすぐできるようになるあおいでもゲームだけは上手くならなかった。

そしてあおいは誰よりも負けず嫌い。

俺に負けるのが納得いかずに何回でも対戦するのは変わらなかった。


あおいが格闘ゲームのスラVにハマってからというもの最近はもっぱらこのソフトで遊んでいる。

家のインターホンが鳴ったと思ったらお邪魔しまーすと玄関から元気な声が聞こえてきた。

ちょっと経ってからどんどんどんと階段を駆け登る音がした。

俺の部屋の扉が勢いよく開く。

「じゃじゃーん!どう?」

あおいは学校の制服姿のままだった。

中学生になってからあおいは髪型を少し変えた。鎖骨まで伸びた髪をまとめて低めの一つ結びにしたようだ。

うちの学校は男子は学ランで女子は紺のブレザーだった。

他の学校と特に変わってるところはない。

「...どうって?」

「可愛くない!?似合ってるでしょ!?」

「あー...そだね」

「なにその反応!?」

「いや学校で見かけたし」

「間近で見れて幸せでしょ!?小学校で人気者だったあおいちゃんのブレザー姿だよ!?」

「自分で言うことじゃなくない?」

「あたしは事実を言ってるだけだもん」

そう間違ってはない。

小学校では人気者だったしあおいを好きな男子も多かった。

春人なんかはあおい好きを公言していたほどだ。

「つまんなーい。大地、女の子は褒めてなんぼよ!そんなんだから大地はモテないんだよ。」

「ほっとけ」

「じゃああたし着替えるから」

「...はぁ?」

「制服のままじゃ動きづらいでしょ。着替え持ってきたから」

よく見るとリュックを背負っていた。

「トイレで着替えてきたら?まだゲームの準備終わってないし」

「狭いから嫌!ここで着替えるから出ていって!」

「いやここ俺のへ」

ギロリと睨まれた。

二度同じことを言わせるなと言っている。

「...へいへい」

「ついでにお菓子とジュースも持ってきて」

俺は部屋を出て一階に降りる。


リビングには母さんがいた。

「あおいちゃんの制服姿可愛かったわね〜。お菓子とジュースそこに用意してあるから」

少し部屋に来るのが遅かったのは母さんに制服姿を見せていたからか。

「ありがとう」

「でも今日天気悪くなりそうだし大丈夫かしら」

「もしも1人で帰れなさそうなら俺が送ってくよ」

お菓子とジュースを持って部屋に向かう。

母さんとあおいはいつの間にか仲良くなっていた。

小学生のとき俺が学校から帰るのが遅れてあおいが先に俺の家に着いた日があった。

その時に母さんとあおいが話したのがきっかけだった。

母さんはあおいのお母さんともいつの間にか仲良くなっていた。

たまに2人でランチなどに行ってるらしい。

あおいの影響力の大きさには驚くばかりだ。

部屋の前についてノックをする。

「どうぞー」と声がしたので扉をあける。

ここ俺の部屋だよね?

あおいは灰色のパーカーにハーフパンツに着替えていた。

制服は勝手に俺のハンガーを使ってハンガーラックにかけてあった。

しかも俺のベッドであぐらをかいている。

「勝手に人のベッドに乗るなっていつも」

「いつも聞いてまーす。言うこと聞く気がないことも知ってるよね?」

くっ...見抜かれてる。

お菓子とジュース類をテーブルに置く。

さっそくあおいはテーブルに移動してジュースに手を伸ばしていた。

窓を見ると雨が降ってきたのか雨粒がついていた。

「雨降ってきたけど今日は早めに帰った方がいいんじゃない?」

「大丈夫!大丈夫!天気予報も確認してきたし!それより早くゲームやろうよ!」

お菓子などを取りに行ってる間にあおいがゲームの準備を進めておいてくれたらしい。

後はソフトを入れるだけになっていた。

ゲーム機を起動させてソフトを入れる。

あおいは相変わらず目をキラキラさせていた。


ゲームを始めて2時間ぐらい経っただろうか。

ずっとゲームしてる。

あおいもうちに来るようになってから少しずつゲームの腕が上達していった。

と言ってもまだ常人のレベルに届くか届かないかぐらいだけど。

少なくとも俺が手加減しているのは見抜くようになった。

露骨に手加減すると怒られる。

手加減しすぎて俺が負けるとさらに怒られる。

あおいが負けても不機嫌になる。

良い具合で対戦するのがいまだに難しい。

マハクラとかをやるほうがずっと楽。

「がー。また負けたぁぁぁぁぁぁ」

あおいがうなだれる。

...窓を打つ雨音が強い。

俺もゲームに夢中になってて気づかなかった。

あおいがうなだれてるのはいつものことなので放っておいた。

窓の外を見てみると道路が川のようになっていた。

え?雨が降っているのも構わず窓を開ける。

近所まで水浸し。

初めて見る冠水に思わず絶句してしまった。

あおいも異変に気づいたようで俺の隣に来て窓の外を見る。

「...うそ?」と呟いた。

あおいと顔を見合わせてリビングに向かう。

俺の部屋にはテレビがないからとりあえず状況確認が必要だった。

リビングに行くと母さんがソファに座りながらニュースを見ていた。

テレビには地元の見慣れた場所が冠水している様子が映し出されていた。

視聴者からの情報提供動画だった。

電車も止まっているらしい。

人生でこんなことなかったから言葉が出ない。

あおいも同じなのか言葉を発しない。

「...これはお父さん今日帰ってこれないね」

そんななか冷静な母。

なんでそんなに冷静なんだ?

「あおいちゃん。今日は泊まっていきなさい。あおいちゃんのお母さんには私から連絡しておくから」

「え?いいの?」

「だってこれじゃ帰れないでしょ。雨もいつ止むかわからないし。」

打って変わってあおいの目が輝き始めた。

おそらくあおいの脳内では、

帰れない→泊まり→ゲームもっとできる!になってることは容易に想像できた。

先手を打たなければ、

「俺は早めにね」

「大地!早く部屋戻ろ!」

もうすでにウキウキして一足先に部屋に向かったあおい。

その姿に不安を覚えた。まさか徹夜か?

頭を抱えながらも部屋に向かおうとしたら母さんから声をかけられた。

「お風呂沸かすから。あおいちゃんに先に入るように伝えておいて」

「うん」

あおいのウキウキする気持ちもわからなくない。

台風とかが来た日ってワクワクしちゃうから。

部屋に戻るとあおいはもうコントローラーを持ってスタンバイしていた。

「徹夜は嫌だよ」

「あたし何も言ってないけど?」

あおいはきょとんとした顔をしていた。

ただの杞憂だったかな?

「母さんがお風呂沸けたらあおいが先に入っちゃえって」

「はーい」

と返事したと思ったらイタズラな笑顔を浮かべこっちを見ている。

「覗くなよ?」

「仮に覗いたとしてその後、俺の命があるのかね?」

「ん?両目の視力失くすくらい鉄拳制裁の刑」

「...代償でかい」

「そう?あたしの裸が見られるだけでも価値はあるよ?命までは取らないし」

「両目のほうが大事なので遠慮しておきます」

ケラケラ笑うあおい。

たとえ冗談でもあおいならやりかねないのが怖いところ。

俺は顔がひきつりながらも自分の席に戻る。

それにしてもあおいがうちに泊まるなんて想定外だ。

...あおいの家は大丈夫かな?

...うちも浸水しないといいけど。

窓の外の暗闇が一抹の不安を煽った。

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