第3話 初めて家に来た【小学生編2】
次の週の土曜日。
時刻は13時を迎えた。
家のインターホンが鳴った。
母さんが応対してる声が聞こえた。
「大地ー。お友達の清水さん来たわよー」
「はーい」
階段を降りて玄関を出ると清水さんがいた。
何やら紙袋を持っていた。
「いらっしゃい」
「...お邪魔しまーす」
清水さんは靴を脱いだ。
その場で綺麗に揃えてた。
「僕の部屋2階だから」
僕が進むあとを清水さんが付いてくる。
階段を上がり部屋に入った。
ベッドと勉強机。
部屋の真ん中にテーブル。
壁際にモニターが置いてあって時計もかかってる。
何の変哲もない部屋。
清水さんは恐る恐る入ってきた。
部屋のある一画に視線が移った。
「前田くん!これ全部ゲーム機とソフト!?」
「そうだよ。昔のやつ。お父さんのなんだ」
カラーボックスに綺麗に整列された歴代ゲーム機やソフトに清水さんは目を輝かせた。
「お父さんがゲーマーなんだ。好きに遊んでいいから僕の部屋を倉庫として使わせてくれって言われて」
「へぇー!!どれも見たことないのばかり!!これゲーミングPC!?」
「うん。お父さんのお古だけど」
「すごい!!すごい!!」
清水さんは興奮しているようだった。
そんなにゲームが好きだなんて知らなかった。
コンコン。
部屋のドアがノックされた。
「大地ー。入るわよー」
母さんの声だ。
扉が開くと母さんがビニール袋いっぱいに何かを持ってきた。
中身を確認すると大きいペットボトルのジュースとコップを2つ。
それにてんこ盛りのお菓子が入っていた。
「いらっしゃ〜い。清水あおいちゃんだよね!ゲームばっかりの部屋だけどゆっくりしていってね」
「ありがとうございます!これママから!!」
清水さんは手に持っていた紙袋を渡した。
「あら。気をつかわなくていいのにー。今度お礼しなくちゃ!あおいちゃん、そのワンピース可愛いわねー!お母さんが選んでるの?」
「自分で選んで着てます!」
「しっかりしてるねぇ。うちの子はまだ」
「母さん!」
「あ!ごめんなさい!ふふっ。ごゆっくり〜」
母さんは部屋を出ていった。
袋からジュースやコップ、お菓子をテーブルに出した。
清水さんはそれを見て目を輝かせていた。
...母さん。大量にとは言ったけどこんなに用意したんだ。
「好きに食べて」
「いいの!?」
「とりあえずここ座って」
座布団を用意して丸いテーブル席に案内した。
「ありがとう!いただきます」
清水さんは座ってクッキーを食べ始めた。
僕は向かい側に座ってコップに注いだジュースを飲んだ。
清水さんの目線は再びゲーム棚に向かっている。
「...何かやる?」
「いいの!?」
目がキラキラして眩しい。
「いいけどポコモンの対戦はしなくていいの?」
「今はいい!それより他のゲームで遊んでみたい!」
「ポコモン以外やったことないの?」
「ない!ママがあんまりゲームやっちゃダメって言うの!ポコモンもようやく買ってもらえたのよ!」
清水さんはソフトを物色しながら答えて何か見つけたようでソフトを取り出した。
「あ、これ知ってる!!これやってみたい!!!」
それはファカコンのスーパーマリモブラザーズだった。
マリモというキャラを操作してお姫様を助けに様々なステージを乗り越えていくゲームだ。
ファカコンをセットして清水さんにコントローラーを持たせる。
ワクワクしてる清水さん。
それが僕には新鮮だった。
僕はもうゲームがある環境が当たり前だったから。
お父さんともゲームで遊んでるし。
ゲームが始まって清水さんは夢中になってやっている。
それを見ているのは不思議と心地よかった。
...前から薄々と気づいてはいた。
清水さんは学校にいるときよりもゲームをやってるときのほうが圧倒的に口が悪い。
「はぁぁぁぁぁ!?」
「ふざけんなぼけぇ!!」
「それはずるい!!」
「邪魔じゃ死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
...まるで別人だ。
僕も口が悪くなってしまうことはあるけれど清水さんには及ばない。
横でドン引きされていることなど知る由もない清水さんはひと満足したようだ。
「他のゲームある?前田くんと一緒にできるやつ!さっきからあたしばかりゲームして申し訳ないもの」
と言われて何かあるかなと考えた。
「今、マリモやったから2人しかいないけどスタブラとかかな」
「スタブラがあるの!?皆がやってるって言ってて気になってたの!」
Uii Uを準備して清水さんにコントローラーを渡した。
清水さんはまたもワクワクしていた。
スタブラを起動してひと通り操作方法を教えた。
「こんなにキャラがいるのね。何使っていいのかわからない」
「最初は使ってみたいと思ったキャラで大丈夫だよ。まずはトレーニングモードでやってみて」
「うん!!」
清水さんはトレーニングモードでさえも楽しそうにやっていた。
清水さんはいろんなキャラを試していく。
その中で選んだのがザムズだった。
「ザムズ使いやすい!!光線かっこいい!!前田くん、勝負しましょ!!」
「じゃあ僕はマリモ使おうかな」
ルールは戦ってステージから落ちた方が負け。
残機は3つ。アイテムなし。
ステージは初心者でもやりやすいところを選んだ。
いざ勝負。
清水さん初めてだし手加減するか。
僕なりに精一杯手加減して勝負するも僕の圧勝。
...まあ初めてだし。
清水さんに声をかけようと見てみるとものすごく落ち込んでいた。
清水さんのこの雰囲気、前にもあったような...
あっ!この感じ。
そう。ポコモンでの勝負のあともこの感じだった。
しまった...と後悔するも遅かった。
「もう一回!!!」
清水さんは食い気味に言ってくる。
「う、うん...」
再戦するもまたも僕の圧勝。
「くぅぅぅぅぅぅぅ」
ものすごく悔しそうな清水さん。
「あたしはキャラ変えるけど前田くんはそのキャラのままでもう一回!!!」
「はい」
これいつまで続くんだろう...
不安が頭をよぎった。
もう何回対戦しただろう...
まるで遥か彼方を見るような気持ちになる。
清水さんは対戦するごとにピリピリしていった。
お菓子はやけ食い、ジュースをがぶ飲みまでしていた。
あんなにお菓子とジュースがあったのにほとんど清水さんがたいらげてしまった。
「...清水さん、夜ごはん食べられそう?」
「食べるもん!!そんなことよりもう一回!!」
...ここらで中断しないと一生やることになりそう...
「あっ!そうだ!僕のポコモンから一匹あげる約束してたじゃん!もうそろそろ帰る時間だし選んだ方がいいよ」
清水さんは壁にかかってる時計を見て考えていた。
「...わかった。じゃあ前田くんのポコモン見して」
...ふぅ。少し休憩できる。
シン3TSを渡すと清水さんはしばらく悩んでいた。
「...これにする」
と言って選んだポコモンは簡単に捕まえられるポコモンだった。
「...これでいいの?」
てっきり強いポコモンを選ぶと思ってた。
「うん。ブルーダイヤだと出ないしそれに...」
「今日一緒にいっぱいゲームしてくれたから」
照れくさそうに言う清水さん。
その姿にドキっとした。
なんだ!?これ!?
自分でもよくわからない感情にビックリした。
「それと清水さんじゃなくてあおいって呼んでよ」
「なんで?」
「仲良い子は皆そう呼ぶの!」
「えぇー恥ずかしいよ」
「ダメ!」
「えぇー...あおいちゃん?」
「ちゃんはいらない!あ・お・い!」
「...やっぱりはず」
「あ・お・い!!」
「...わかったよ...あ...おい」
顔が熱くなるのを感じた。
あおいさんは満足気に頷いた。
...慣れるまで心の中ではあおいさんって呼んでおこう。
「あ、でもあおいって呼んでいいのは2人でいるときだけだからね!学校とか友達とかといるときは清水さんって呼んで!2人で遊んでるのは内緒にしてね!」
呼び方を変えてほしい理由も内緒にしてほしい理由もよくわからなかったがうなづいておいた。
「あたしも2人でいるときは大地って呼ぶから」
僕の事も名前で呼ぶらしい。
それも恥ずかしいんだけど...
「それと前から思ってたんだけど僕じゃなくて俺にして。僕ってなんか弱っちそう」
「...俺」
もう逆らう気力はなかった。
「そうそう。俺の方がいいわよ」
あおいさんはまたも笑顔で頷いた。
ふと時計を見た。
もう時間だ。
僕につられてあおいさんも時計を見た。
「あ、もう時間だ!!あたし帰るね」
あおいさんはテーブルに散らばっているお菓子やジュースをまとめて片付け始めた。
一緒にやるとすぐに片付けは終わった。
「玄関まで送るよ」
2人で階段を降りて玄関に向かう。
玄関であおいさんは大きな声で
「お邪魔しましたー」
と言った。
奥のリビングから
「はーい。また来てねー」と
母さんの声がした。
一緒に玄関を出た。
あおいさんはしきりに周りを誰もいないか確認していた。
「じゃあね大地!!また来るから!!ポコモンとスタブラのリベンジするから!!」
と言って帰っていった。
嵐が過ぎ去ったようだ。
玄関に戻る。
...あれ?またって言った?
...本当に?
疑問に思いながら自分の部屋に戻る。
さっきまでの2人がいた熱がまだ部屋に残っている。
...なんだか少し寂しいや。
その寂しさは1人でいる安堵感のうちにいつの間にか忘れていった。
あの日から2週間後。
インターホンが鳴る。
玄関を開けると満面の笑みのあおいさんがいた。




