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あおいだいち  作者: 佐々木 栞
第3章 高校生

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第15話 茫然自失【高校生編6】

俺はまるで世界が変わったみたいに茫然自失としていた。

そんな状態でもゲームの準備は進めるのが我ながら情けない。

ゲームの準備が終わり体育座りであおいがお風呂から出るまで状況を整理することにした。

えーっと...

えーっと...

頭の中で整理しても整理しても天上天下唯我独尊理不尽大魔神に蹂躙されるところしか思いつかない。

変えられない未来。

人生って理不尽の連続なんだ。

あおいがお風呂から出て部屋に戻ってきた。

「お風呂お先〜。お母さんが大地も入っちゃえって」

「...はい」

俺は部屋を出て脱衣所に向かう。

中学のときはあおいの後にお風呂に入ることに変な意識をしてしまっていたが今となってはそれどころではない。

あおいはどれぐらいの頻度で来るのか?

それによって俺の時間はどれぐらい潰されるのか?

そればかりが頭の中をグルグルと周る。

固まっていく思考。

...もうしょうがない。

湯船に浸かってゆっくりする頃には俺の心は静かに諦観することを選んだ。

お風呂から出てリビングに行くと母さんがテレビを見ていた。

「母さん、お風呂出たよ」

「はーい」

ここは文句の一つでも言っておかねば。

「母さんさ」

と言いかけたところで

「あおいちゃんがいると明るくていいわね〜。楽しいわ〜」

と被せ気味に言われてしまった。

何も言えなくなってしまった。

「大地どうしたの?」

「...なんでもない」

そうだった。

母さんはあおいに甘いんだった...

リビングを出て自室に戻る。

あおいがゲームに熱中していた。

まるで幼い子供のようなキラキラとした笑顔。

...なぜだろう。

この笑顔を見るたびに許してしまう自分がいるのは。

「あ、やっと大地お風呂出た!早く一緒にやろうよ!」

さっきまでの気持ちがまるで嘘だったんじゃないかと思うくらいに消えていった。


「そろそろ寝ようかしら」

時刻は23時ぐらい。

衝撃が走ってあおいの顔を見てしまう。

「なによ?」

「いや中学の時みたいにてっきり徹夜コースかと」

「お泊まりは今日だけじゃないんだし徹夜じゃなくてもいいでしょ。眠くなってきたし」

「あおいでも眠くなるなんてことあるんだね」

「なにそれ?人を変人みたいに。人間なんだから当然でしょ」

正直助かる。今日は色々あって疲れたし。

明日もゲームはやるし片付けないで端っこに寄せておいた。

あおいがあくびをする。

本当に眠いらしい。

俺は寝袋に入った。

あおいが電気を消した。

暗闇からあおいの声がする。

「大地。おやすみ。念のためもう一回言っておくけどあたしの寝顔見たら殺すからね」

「はいはい。わかりましたって。おやすみ」

...今日は疲れたな。

俺の意識はすぐに落ちていった。


翌朝、ハッと目が覚める。

あれ?俺寝袋で寝てる...?

意識がしっかりしてくるとあおいが机で勉強していた。

時計を見てみると6時だった。

「あら。大地。早いわね。おはよう」

「...おはよう」

なんであおいがいるんだっけ?

...そうだ。あおいが泊まりに来てるんだった。

寝起きで頭が働いていない。

ぼぉーっとする。

あおいは既にシャキッとしている。

「こんな朝早くから勉強してるの?」

「そうよ。もう習慣ね。やらないと気持ち悪いの」

どおりで長年成績優秀なわけだ。

「顔洗ってきて。大地も一緒に勉強するわよ」

最悪な提案だ。

顔に出てしまう。

「嫌そうな顔してもダメ。大地の勉強の面倒を任された以上、今より成績が下がるなんて許されないからね。あたしの沽券に関わるの」

「...へいへい」

部屋を出て洗面所に向かう。

朝の日差しが眩しく感じる。

まだ寝足りない。

洗面所で顔を洗い歯磨きをして部屋に戻った。

とりあえず夏休みの課題でも進めるか。

勉強道具を取り出して席についた。


勉強を始めて2時間は経っていた。

あおいは集中力を切らさない。

すごい熱量だ。

その姿からあおいは本当に医者になりたいんだと実感する。

ただそろそろ朝ごはんの時間だ。

「あおい。そろそろ朝ごはんの時間」

「そうなのね。一旦休憩にしましょう」

2人でリビングに向かう。

母さんが朝ごはんの準備を終えていた。

「ちょうどよかった!今準備終わったところなの」

3人で食卓につく。

父さんは朝早くから仕事だ。

今日の朝ご飯はご飯、味噌汁、納豆、鮭、海苔といった日本の朝ごはんってメニュー。

「いただきます」

昨日の夜とは打って変わって静かな食卓だ。

皆、朝ごはんを食べ終えた。

「ごちそうさまでした」

「お母さん、朝ごはん美味しかった!」

あおいが笑顔で伝えた。

「うふふ。ありがとう」

嬉しそうに答える母さんが出かける支度を始めた。

「あおいちゃん。わたしこれからパートに行ってくるね。13時頃には帰ってくるから」

「お母さん、パート始めたんだ?」

「うん。簡単な掃除の仕事だけどね。大地も手がかからなくなってきたから時間もできたし」

「...へぇー」

あおいがこちらを見ている。

...なんだその疑いの目は。

ある程度自分のことは自分でできるぞ。

反論の目線を送ったがあおいに届いてるのかどうか。

「そしたらあたしがお昼ご飯作るよ!」

「あおいちゃんが!?いいよいいよ。私が帰ってきたら作るから」

「大丈夫だよ!あたし普段から妹のご飯作ってるし。簡単なものでよければだけど」

「...そう?じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら」

母さんは上機嫌になった。

あおいからの手料理がよほど嬉しいらしい。

母さんが玄関まで向かうので2人で見送りにいく。

「じゃあ行ってくるね!あおいちゃんのご飯楽しみにしてるわ!」

「うん!いってらっしゃい!気をつけてね」

「いってらっしゃい」

母はパートに出かけていった。

「じゃあ調理器具何があるかちゃんと把握したいから台所見せてもらえる?」

「うん」

台所に行きあおいが確認し始めた。

「調理道具多いわね。ママが褒めてたわけだわ」

料理好きなのも母さんとあおいのお母さんが仲良くなった要因のひとつであった。

あおいの確認がひと通り済んだ。

「じゃあ食材買いにスーパーに行きましょう」

「え?冷蔵庫にあるもので済ませるんじゃないの?」

「使う予定のものもあるかもしれないのに勝手に食材使うわけにいかないでしょ」

「いやースーパーに2人でいるの見られたらまずいんじゃない?」

「大丈夫じゃないかしら。この時間ママと買い物行っても同級生に会った事ないし」

「いや万が一があるかもしれないでしょ?」

「心配症ねー。じゃあ帽子とマスクはしていきましょう。大地帽子持ってる?」

「...ない」

「ないなら仕方ない。マスクだけになるわね。あたし先に着替えてくるから」

と言って俺の部屋に向かった。

あおいさん、バレたくないのにガードゆるゆるすぎません?

俺が心配症すぎるだけなのかな...


あおいは、

紺のオーバーサイズのTシャツ。

ショートパンツ。

とラフな格好で出てきた。

俺も着替えを済ませて2人でスーパーに向かう。

俺のうちからスーパーまでは歩いて5分ぐらいなので近い。

この暑さの中歩くのはしんどいから助かる。

暑い。

5分だけでも長く感じた。

スーパーに着いた。

冷房ありがてぇー。

俺は買い物カートを持ってきてカゴを入れた。

あおいが食材を次々にカゴに入れていく。

その後ろ姿が新鮮だった。

そういえばあおいと2人でスーパー来たの初めてだ。

あおいを見る。

あおいは食材選びに真剣だった。

ふとあおいがこっちを見た。

「なに?」

「いや慣れてるなと思ってさ」

「ママと一緒に買い物来るからね。大地アイス買ってかない?」

「うん。帰り道食べようよ」

アイス売り場にやってきた。

「あ!大地これにしようよ!」

あおいが取り出したのは、ぱぴこだった。

ぱぴことは小さなペットボトルみたいな形をしたチューブが2本1組で入ってるアイス。

味はチョココーヒーを選んだ。

「これなら帰り道にちょうどよさそう」

ぱぴこをカゴに入れる。

「じゃあお会計しちゃいましょう」

カゴの中を見るにお昼は冷やし中華かな。

会計を終わらせて袋詰めしていく。

また暑さのなか歩くのはめんどくさいが家までの我慢。

あおいがぱぴこを取り出し半分こする。

「はい」

「ありがとう」

ぱぴこを受け取るとあおいが手を差し出してきた。

「なに?」

「荷物重いでしょ?半分持つわよ」

「このぐらいなら大丈夫だけど?」

「いいから半分よこしなさい」

とビニール袋の持ち手半分取られてしまった。

...これ相当仲良しに見えないか?

アイス食べるのにマスクも外すしもし見られたら...

帰り道、アイスを食べながら何度も周りを見渡してしまう。

「さっきから何キョロキョロしてるの?」

あおいが訝しげな視線でこっちを見ていた。

「なんでってこんなところ誰かに見られるわけにいかないじゃん」

「アンタの家の周りに同級生はいないから大丈夫よ。むしろそんなにキョロキョロされるほうが目立つからやめてくれる?」

「そうなんだ。それ知ってたなら教えてくれればよかったのに」

「わざわざ言うことじゃないでしょ」

それもそうか。

あおいとアイスを食べながらの帰り道は行きよりもずっと短く感じられた。


帰宅してスーパーで買ってきたものを冷蔵庫に入れた。

夏は自宅が1番の安全地帯。

2人で部屋に戻る。

時計は10時を指していた。

「それじゃあ大地の成績表見せて?」

ドクン。心臓が飛び跳ねる。

...それだけはダメだ。

「...なんで?」

「なんでってあたしが勉強教えるのに大地の実力知らなきゃ教えようがないじゃない?」

そうだった。

そんな話になってるのすっかり忘れてた。

「えぇーと...全体で中盤ぐらいだよ?」

「...なにその曖昧な答え?順位見た方が早いでしょ?成績表だして?」

思わず視線を逸らす。

あおいの目線がキツくなる。

「だ・い・ち?」

「...はい」

諦めて成績表を取り出してあおいに手渡した。

あおいが俺の成績を確認してる間、生きた心地がしなかった。

ものすごく笑顔のあおい。

「...大地くん」

...やば。めっちゃ怒ってる...

「この成績はどういったことかしら?」

「...いやー...そのですね...テスト勉強の息抜きにFPSやり始めたら止まらなくてですね...そのままズルズルと...はい...」

あおいがギロリと俺を睨む。

自然と正座になってしまう。

「...大地くんは夏休みの間あたしと猛勉強するの決定ね♡あたしが納得するまで勉強してもらうから。夏休み明け課題テストがあるわよね。そこで90点以下取ったら許さないから♡」

「いや先生90点以上はさすがに」

「...何か言った?」

めっちゃドスの効いた声だった。

「...いいえ。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

深々と頭を下げる。

...情けない。

「あたしが納得できるまで勉強したら一緒にゲームやろうね♡」

なるほど。

あおい様がご納得されるまでゲーム禁止令が発令されました。


「とりあえず答案用紙を見せて。全部ね」

あおい様からの命令により全教科の答案用紙を出した。

あおい様がそれを確認した。

その間、もちろん正座。

「なるほど。テストの点数が響いて1学期の成績が落ちたわけね」

「...左様でございます」

「大地って勉強する習慣付けてるの?」

「...いえ。これといって」

「勉強は毎日の積み重ねよ?ゲームが急に上手くなって強くならないのと一緒で急に成績は良くならないの」

「おっしゃる通りでございます」

「まずは勉強するのを習慣にすることだけどひとまず夏休みの課題終わらせて。この夏は全教科1学期にやった内容の復習。2学期に向けて予習もするわよ」

「...え?」

「あたしが持ってる問題集で確認テストもするからね。そこでも90点以下取ったら許さないから」

「...え!?」

「あたしが教えるからには学年で10位以内には入ってもらいたいところね」

「...え!!?」

「決めた。大地は高3の夏までに10位以内に入ること!」

「...え!!!?」

あおいの目が鋭くなる。

「... 大地ならできるでしょ。何か問題があるかしら?」

「...いえなんでもございません。やらせていただきます」

...終わった。

高校生活で3回しかない夏休みの1回が確実に終わった。

しかも再来年まで枷までかけられた。

...さらば俺の夏休み。

俺は心の中で泣くしかなかった。

「じゃあお母さんが帰ってくるまで勉強しましょう。大地は課題早く終わらせてね。時間ないんだから」

「...はい」


さっきの続きの課題を進めることにした。

あおいは夏休みの課題を終わらせているようで別の勉強をしていた。

静かな部屋。

ノートに書き込む音や参考書を捲る音が響く。

12時頃になったらあおいが立ち上がった。

「あたしお昼ご飯作ってくるから。大地は課題進めてて」

「俺も手伝うよ?」

「大地は課題進めるほうが大事!そんなに手間かからないから大丈夫よ。台所借りるわね」

そう言うとあおいは部屋を出ていった。

...思えばあおいの手料理初めてだ。

少し楽しみにしながら課題を進めた。

時間が経つのが早く感じた。

「ただいまー」

「おかえりなさい」

母さんとそれを迎えるあおいの声がする。

パートから帰ってきたらしい。

俺も課題を一区切りつけてリビングに向かう。

テーブルにはもうお昼ご飯が用意されていた。

思った通り冷やし中華だった。

具材は錦糸卵、ハム、きゅうり、トマト。

王道の冷やし中華。

「いただきます」

各々が食べ始めた。

「美味しい!」

母さんが特に驚いている。

「あおいちゃん!すごく美味しいわ!」

「ありがとう」

あおいは照れながらもお礼を言う。

「タレも手作りね。麺に合わせて具材も細切りにしてるし。具材の下処理もバッチリ」

母さん、テンション上がりまくり。

気持ちはわかるけど。

確かに美味しい。

母さんがテンション高くて俺が美味しいというタイミングを逃してしまった。

こうなると言うのに勇気がいる。

ましてやあおい相手となると。

でもあおいがせっかく作ってくれたし。

「あおい、冷やし中華美味しいよ」

半ば強引に言った。

よかった。

言えた。

あおいは俺からの感想はないのかと思っていたのかキョトンとしていたがすぐに笑顔になった。

「ありがとう」

その笑顔に少しドキッとしてしまった。

なんだこの感情。

ひとまず冷やし中華を食べ進めることにした。

まさか母さんが1番最初に食べ終えた。

よほど嬉しかったのだろう。

満足感が伝わってくる。

皆が食べ終えたので俺が洗い物をやることにした。

あおいが食器を拭くのを手伝ってくれた。

あおいが昼ごはん作ってくれたからそこまではって遠慮したんだけど手伝うと言って拭き始めた。

2人で作業しているのを優しく母さんは見守っていた。

洗い物も終わり部屋に戻る。

あおいが俺の夏休みの課題の進捗状況を見た。

「今日はここまで終わらせてね」

だいぶ先のページを示されてしまった。

ぐっ。

やるしかない...

それにしてもあおいの勉強量には驚くばかり。

今まで知らないことばかりだったんだなと改めて思う。

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