理由【高校生編5】
帰りの電車も混んでいた。
ただ帰宅時間帯ではなかったからまだマシだった。
電車に乗る頃には麦茶事件のことが落ち着きあおいと雑談しながら帰った。
地元の駅に着く。
愛しのホームタウン。
都会より人もそんなに多くなくて落ち着いた。
改札を出た。
ここであおいとはお別れ。
なんだかんだ楽しかったな。
「じゃあね。あおい。また今度」
と挨拶をすると服を掴まれた。
え?
振り返ってあおいを見るとあおいもえ?って顔をしていた。
「まだバイバイじゃないわよ。あたしも帰る方向一緒だもん」
「え?俺はこっちであおいはあっちでしょう?」
お互いの進行方向を指差して示した。
「え?今日はこっちよ?」
俺の家の方向を指差していた。
...全然わからない。
「...どういうこと?」
「言ってなかったっけ?今日から大地の家に泊まりだから」
「...はい?」
あおいからの話を要約すると。
陽奈ちゃんのピアノコンクールの県大会がある。
今日からあおいのお母さんは陽奈ちゃんと一緒に会場近くのホテルに行って前泊しなきゃならない。
大会後も念のためホテルに泊まるとのこと。
あおいのお父さんは仕事で帰って来れない。
家に女の子のあおい1人にしておくのは心配。
かといって友達の家に2泊もさせるのは申し訳ない。
あおいのお母さんが俺の母さんに相談する。
母さん了承。
そのことを息子に報告せずあおいからも報告なく今に至るということらしい。
...母さんなんでそんな大事なことを黙ってるの。
...あおいなんでその事を1番最初に言わないの。
頭を抱えた。
「...あおいはうちに泊まるのでいいの?松本さんの家とかのほうが楽じゃない?」
「大地の家ならゲームできるじゃん」
「いや...ゲームなら遊びに来た時でもできるでしょ。その...長年の付き合いとはいえ年頃の女の子が男の子の家に泊まるのはどうかと...それも2泊も...」
きょとんとするあおい。
「中学のときに一回泊まったじゃない?お母さんが大地なら大丈夫って言ってたよ?ママも大地のこと信用してるし」
ズドンと2つの責任が俺の肩にのしかかった。
めちゃくちゃ重たい。
どうしようとかそういうつもりはないしそもそも俺が空手黒帯のあおいに勝てるわけもないんだけど。
はぁー。
心の中でため息が漏れた。
せっかく夏休みを満喫しようとした矢先に早くもこの大怪獣が降臨するとは。
「...もしかして朝早く来たのって」
「先に荷物だけ置きに行っただけだけど?」
なるほど。
それで来たのね。
...切り替えよう。ここまで事態が進んでちゃもうどうしようもないし。
バス停に向かおうとするとまたあおいに止められた。
「夕方になって涼しくなってきたし歩いて帰ろうよ!あたしアイス食べたい!コンビニ寄ってこ!」
「いやそんなところ誰かに見られたら疑われるよ?」
「この時間に知ってる人いないって。それに一緒にバスに乗ってるところに鉢合わせちゃったら言い訳しようがないでしょ?一緒に歩いてるぐらいならいくらでも言い訳できるもの」
そういうものなのか?
2人きりで一緒に歩いてる時点で疑われると思うんだけど。
あおいはコンビニに入っていった。
考えるのも疲れてきたから俺も続いてコンビニに入った。
お昼に比べたらだいぶ涼しい。
吹き付ける風が頬を撫でる。
夕闇のグラデーションが昼とはまた違った街並みを映し出す。
あおいは俺の隣でゴリゴリくんの新作パイン味を食べながら歩いていた。
コンビニのアイスコーナーで「新味出てる!!」とひとりテンション上がっていた。
あおいはゴリゴリくんシリーズが好きで夏になるといつも食べている。
あおいのテンションに影響されて俺も同じものを買って食べながら帰ってる。
アイス食べながら歩いてるだけでも絵になるなあおいは。
あおいは思い出したように言った。
「あ、そうだ!パパから大地に伝言!変なふうに手を出したら頸動脈切りに行くからって!笑いながら言ってた」
一気に悪寒が走り思わずアイスを持ってない手で頸動脈を抑えてしまう。
「...はい」
そう答えるのが精一杯だった。
あんなに優しそうな人なのにあおいのことになるとめっちゃ怖い。
「パパ心配しすぎだよね。大地はそんなことしないし。あたしが大地に負けるわけないのにね」
「そうだな。もしも喧嘩してもあおいにぶん殴られてK.Oだろうな」
クスクス笑うあおい。
「大地の家着いたらスプマ3やろうよ」
「いいよ」
あおいは中学から高校生にかけて大分ゲームの腕が上達した。
限られた時間しかやってないのに吸収率がすごい。
下手に手加減すると負ける時がある。
あおいはあっという間にアイスを食べ終えた。
食べ終えたゴミを受け取ってビニール袋に入れて持つ。
続けて俺も食べ終える。
夏の時期は溶けるのが早い。
「...そういえばさ」
「ん?」
「今日あたしがナンパされて大地怒ってたけどあれ本気で怒ってた?」
「...それ今聞くの?」
恥ずかしいからやめてほしいんだけど。
「いいじゃん。教えてくれても」
あおいと目が合う。
なぜか真剣な目をしていた。
そんな目されたら言わないわけにはいかない。
「...人生でトップ3には入るぐらい怒ったかな」
まさか人生で1番怒ったとは恥ずかしくて言えなかった。
「...そうなんだ。へぇー!」
あおいは俺の顔を見る。
俺はなるべく目が合わないように視線を逸らした。
「そうなんだ」
あおいは幸せそうな顔になった。
今まで見たことない顔に俺は驚いた。
「そんなにあたしのこと大事だったの?」
今度はイタズラ顔で聞いてくる。
くっ!なかなか逃してくれない...
「...まあ付き合い長いからね」
「ふーん、そっかー」
そっけない返事ながらも嬉しそうなあおい。
満足したのかあおいは質問を変えてきた。
「大地はさ。やりたいこと見つかった?」
「まだ見つかってない。あおいは昔からなりたいの医者だもんね?」
「うん!パパみたいな救急医になるのが夢!パパかっこいいもん!」
「やりたいことがある人が羨ましいよ」
あおいが夢の話をするときはキラキラして見えた。
俺にはそれが羨ましかった。
「あたしにとっては夢も大事だけど結婚も大事!」
「結婚?」
今まであおいと一緒にいたけど恋愛関係の話題が出たことはない。
だから少し戸惑った。
「そ!高身長で優しくてアイドルみたいな顔したかっこいい人と結婚するの!」
「なにその幼稚園児みたいな妄想」
「な!?幼稚園児とは失礼な!?あたしの初めての彼氏候補を馬鹿にする気!?」
「しかも初めての彼氏候補なんだ。ということは初めて付き合った人と結婚希望ってこと?」
「そうよ!それだけは絶対に譲らないって心に決めてるの!」
あーっと...
どこからツッコんでいいのか...
あおいがこんな乙女体質なこと知らなかった。
「...まああおいならできるんじゃない?」
半ば呆れ半ば可能性あるかもぐらいに言ったつもりだった。
「...それ本心で言ってないでしょ?」
「...え?」
...バレた。
それが大怪獣の逆鱗に触れた。
「決めた!今日は大地をスプマ3でボコボコにぶっ飛ばすんだから!早く家帰るわよ!」
あおいが急かす。
話してたら家の近くまで来ていた。
...結婚ね。
遠い未来の話に思えた。
...もう少しで大人の仲間入りなんだ。
それが少し寂しくもあった。
帰宅したとき母さんは夕ご飯を作っていた。
あおいが手伝うと言って台所に立った。
最初は遠慮していた母さんだったがあおいが泊めてもらうのに手伝わないわけにはいかないと譲らなかった。
あおいと母さんが2人で台所に立っている後ろ姿を見るのはなんだか不思議な気持ちになった。
父さんは今日も遅いだろうから3人で夕飯かな。
今日の晩御飯はハンバーグらしい。
なんかあおいがいるとハンバーグだな。
リビングのソファに座って待っているとあおいからできたよと声をかけられた。
テーブル席に向かい3人で夕飯を取る。
中学のあの日以来の光景。
あおいは今日起こったことを母さんと話していた。
母さんは笑いながら聞いている。
ナンパされて俺が怒ったことは言わなかった。
内心ヒヤヒヤしてたんだけど。
夕飯を食べ終えて中学の時と同じように片付けをしてあおいと2人で部屋に戻る。
お風呂が沸いたら呼ぶと母さんから伝えられた。
なんだか久しぶりに部屋に戻ってきた気分になる。
それぐらい今日は濃い1日だった。
俺は座布団の上に座った。
あおいは自分のリュックの中から荷物を出していた。
部屋着、化粧品関係、歯ブラシセット、シャンプー、コンディショナーなどなど?
「...あおい荷物多くない?」
「そう?今回は2泊だけど定期的に泊まることになるかもしれないから持って来れるだけ持ってきたんだけど」
「...ん?今なんて?」
俺の聞き間違いかな?
「だから定期的に泊まることになるかもしれないからあたしの荷物を今日持ってきちゃおうと思ったってば」
「...そんな話聞いてないんだけど」
「言わなかったっけ?陽奈のピアノの腕がすごく上達してきたから大会に出ることも増えるかもって」
「...聞いてないけど」
「じゃあ今伝えたからそれでいいわね」
「いやいやいや付き合い長いけど俺たち他人だよ!?親戚の家とか行ったほうがよくない!?」
「お父さんは東北生まれでお母さんは九州生まれなの。親戚は皆それぞれの地元にいるから。関東からいちいち行ってられないでしょ?お金もったいないし学校だってあるし」
あおいは話しながらも荷物を整理していく。
いつの間にか俺の部屋の一部を自分の荷物置き場に変えていた。
「それなら別々の部屋で寝たほうがよくない!?」
「この家の部屋余ってないでしょ?たまに泊まりに来るぐらいなら大丈夫よ」
...確かに部屋は余ってないけど...
...余ってないけどさあ!
...もう頭痛い。
俺の知らぬ間にそこまで話が進んでいたなんて。
俺のプライベートな時間減るじゃん。
「大地にとってもデメリットだらけじゃないわよ?お母さんから大地に勉強教えてもらうよう頼まれてるから」
...それはデメリット側なんですけど。
あおいは勉強もできるが教えるのも上手い。
実際一回だけあおいに勉強を見てもらってテストの点数が上がったことがあった。
ただものすごくスパルタ教育なのが問題。
「そういうわけだから今日からあたしがいるときは大地のベッドはあたしのベッドになるから」
「はあ!?俺はどこで寝るのさ!?」
「大地用の寝袋買ったから。あそこに置いてあるやつ」
指さされたほうを見ると本当に寝袋が置いてあった。
超コンパクトにまとめられる明らかに安いやつだ。
「窓際のほうに座布団敷いて寝袋で寝て」
「...それマジで言ってる?」
「大真面目。あたし寝袋で寝るの嫌だもん。あたしの寝顔は絶対見ないでよ?見たら殺すからね?」
...俺は状況を飲み込めないでいた。
一階から母さんの声が聞こえてきた。
「お風呂沸いたからあおいちゃん入っちゃってー」
「はーい」
あおいは元気よく返事をする。
自前のバスタオルと部屋着を持っていくあおい。
部屋を出るとき
「あ!あたしのベッドのうえに勝手に乗らないでよ?あとゲームの準備しといてね」
と言い1階に降りていった。




