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灰かぶり令嬢の推測は金の輝き  作者: 飛花落葉


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2/2

後編

「えっと、どういうことでしょう?」


 イザベルは困惑して訊き返す。

 カルロスもきょとんとしている。


「まあいい。コーネリアよ、親書のありかは見当がついているのか?」


 父は慣れた様子で、コーネリアに問いかけた。


「はい。さすがに一つには絞れていませんが」


 コーネリアは落ち着いた様子で答える。


「そこまでできたらお前は名探偵ではなく神だものな」


 父は納得した顔でうなずく。


「私も現場に入ってもよいでしょうか?」


 コーネリアの申し出に父、カルロス、イザベラの三人は視線を交わして、認めた。


「お前が来てくれるなら心強い」


 父は安心したように言う。


「すぱっと解決してくださりそう」


 イザベラは明るい笑みを浮かべ、カルロスは粛々とコーネリアに頭を下げる。


「よろしくお願いいたします」


「はい」


 コーネリアは表面上すまし顔で応じたが、「まずい。一国の皇子に頭をさげられちゃった」と内心あせった。

 

「お、皇子」


 コーネリアがあわてふためくとカルロスはニコリと魅力的な笑みを浮かべ、


「あなたのあわてる姿を初めて見た気がします」


 と言う。

 

「そ、そうですか」


 コーネリアは応じながら「あせって損した」と気持ちを切り替える。

 多くの女性を虜にするカルロスの美しさに、コーネリアは動じていなかった。




 コーネリアが連れてこられたのは、もちろん帝国使節のために建てられた館だ。


 たしかに周辺は武装した警備兵たちがぐるっと囲っていて、誰かが出てくればすぐに気づくだろう。


 手荷物検査を厳格にやれば、親書の持ち出しは不可能だとコーネリアも思った。

 コーネリアが館の中に足を入れたとき、男性の怒鳴り声が聞こえてくる。


「いい加減にしてくれ! これ以上は公務に差し支える!」


「今の声は?」


 コーネリアが訊いたのは、もちろん父親にだ。


「プレフォンス侯だな。容疑者のひとりだ」


 父親の答えは淡々として、感情が殺されている。

 予想外の名前にコーネリアはハッと息をのむ。


「お前とプレフォンス侯の娘と、さらに王子の一件は聞いている」


 父親に言われて、「聞いてないはずがないよね」とコーネリアは現実から目をそらそうとした。


「娘があのザマなのだから、父親が王家に対して不埒なことを考えていたとしても、ふしぎはない」


 コーネリアは父の声に若干の怒りがにじんだことを察する。


 さすがに社交の場で国賓を前にした騒動とあっては、ジャネットとその実家に対して何も思わないのは無理だったらしい。


「だから私じゃない! たしかに娘の行動は愚かだし、親に監督責任があるのは認めるが、こじつけはやめてもらおうか、オーサム侯」


 父と娘の会話が聞こえたらしく、プレフォンス侯爵が姿を見せて抗議してくる。


 そしてコーネリアに気づいたプレフォンス侯爵は、気まずそうに視線で詫びてきて、コーネリアは「おや」と思った。


「プレフォンス侯は私たちにもよくしてくださいますし、正直容疑者になったことが驚きなのですが」


 イザベルが小さな声でコーネリアだけに聞こえるように言う。


「プレフォンス侯のおっしゃるとおりですね」


 そこへもう一人の人物が姿を見せた。


「ロバート伯」


 イザベルの声に若干嫌悪がにじむ。

 一瞬で消えたのだが、コーネリアには充分だった。


「まだお若い皇女と皇子の不手際ではないのですか? まさか親書を紛失したあげく、このような騒動に発展させるとは」


 ロバート伯爵は小馬鹿にした目でイザベルとカルロスを見る。

 発音が帝国風なので、帝国の貴族なのだろうとコーネリアは見当をつけた。


「オーサム侯も大変ですな。立場上、カルロス皇子とイザベル皇女を信じるしかないのですからな」


 ロバート伯爵ははっきりといやみを言う。


「親書探しに協力するのは、職務的にもおかしくはないですね」


 コーネリアの父、オーサム侯爵は淡々と応じる。

 こういうところはそっくりな父娘だった。


「ロバート伯は帝国の貴族で使節団の一人なら、個室をお持ちですよね?」


 コーネリアはイザベラに質問する。


 格付け自体は皇族や事実上の大使と目されるカジャス侯に及ばないにせよ、伯爵という大物だ。


「ええ。それがどうしたの?」


 イザベルはきょとんとして、ロバート伯爵は笑い出す。


「お嬢さん。どなたか知らないが、私に宛がわれた部屋はすでにそこのオーサム侯の部下たちが探し回ったよ。荒らし回ったと言うべきかな?」


 揶揄を超えた嘲弄の意図があるのは明らかだった。

 オーサム侯爵は悔しそうに握り拳を震わせただけで反論しない。


 「お父さまが本気で悔しがってるわ」とコーネリアは、父の感情を読み取る。


「災難でしたね。どんな有様か見てもいいですか?」


 コーネリアは興味を持った風に尋ねた。

 イザベルとカルロスがぎょっとして彼女を見つめる。


 プレフォンス侯爵は首をかしげて、オーサム侯爵の様子をうかがう。

 

「ははは。ジョークがわかるお嬢さんだ」


 ロバート伯爵はツボにハマったらしく大笑いをする。

 

「よろしい。招待してあげよう。かまわないでしょう?」


 ロバート伯爵は挑発するようにオーサム侯爵を見た。


「ええ。ただ、立ち会わせてもらいますがね」


 オーサム侯爵は淡々として応じる。

 ロバート伯爵は相手が動揺していないことに気づき、小さく舌打ちした。


「私たちも行こう」


 カルロスが言ってイザベルがうなずく。


「私もだ」


 プレフォンス侯爵も乗っかってくる。


「まあかまいませんが」


 ロバート伯爵は鼻で笑って許可を出して、先導してくれた。


「一応言っておくがお嬢さん、私の部屋だけ隠し通路があったり、特殊な仕掛けがあったりしませんよ。ここを建てたのは貴国ですからね」


 ロバートはコーネリアに話しかける。

 周囲に聞こえるように言ったのは、当然オーサム侯爵へのあてこすりだろう。


 ムッとした顔になったのはプレフォンス侯爵だけで、オーサム侯爵は感情が読めない顔つきだ。


 意外に思いながらもロバート伯爵は扉を開ける。


「どうぞ、お嬢さん。いかがかな?」


 ロバート伯爵に宛がわれた部屋は、コーネリアの予想通りだった。


 応接用のスペース、執務用の机と椅子がある一室、そこから内扉で寝室へとつながっている。


 応接用のスペースはきれいに片付いているが、執務用の机の上には書類が乱雑に置かれ、読みかけの本が開かれていた。


 壁際には本棚が四台設置されていて、半分ほどが埋まっている。

 コーネリアはきょろきょろと室内を見回す。


「よければ寝室もご覧になるかな? 屋根裏やシャンデリアを探すとか」


 ロバート伯爵が彼女に話しかける。


「いえ、大丈夫です」


 コーネリアは手袋をしたまま執務用の机に近づいて、開かれた本を手に取った。

 そしてページをめくってチェックして、一枚の紙を取り出す。


「ありました。親書です」


 すばやく内容を読み、コーネリアははっきりと告げる。


「な、なんだって!?」


 大きな声をあげたのはカルロス皇子、オーサム侯爵、プレフォンス侯爵の三人だった。


 イザベルとロバート伯爵はぽかんとして立ち尽くす。

 カルロスは大急ぎでコーネリアから紙を受け取って、内容を確認する。


「たしかに。父上の筆跡にサイン、さらに皇室の紋章。本物だ」


 手を震わせながら、カルロスは言った。


「よかった」


 イザベルは安どのあまり、その場でしゃがみ込む。

 対照的にロバート伯爵は茫然としていた。


「貴様の部屋から見つかった件について、覚悟しておけよ」


 カルロスが怒気を向けると、ロバート伯爵はがっくりと肩を落とす。


「ありがとう! あなたは恩人だ! 私だけでなく帝国と王国も救ったのだ!」


 プレフォンス侯爵が喜びを爆発させ、コーネリアの両手を優しくつかむ。


「本当にありがとう! 娘のジャネットがあまりの愚かさで迷惑をかけてしまったが!」


「えっと……」


 父と年が近い侯爵家の当主に一方的にまくし立てられて、コーネリアは困惑する。

 好意と感謝による行動なので、とがめるわけにもいかなかった。


 親書を見つけ出すよりもこの状況をかわすほうが、彼女にとっては難しい。


「プレフォンス侯、その辺にしてやってくれないか。娘が困っている」


「ああ、そうだな。すまない」


 父親からの助け舟でようやくプレフォンス侯爵は落ち着き、コーネリアはホッとして父に感謝した。


「私からも礼を言おう。助かった。ありがとう」


 オーサム侯爵はそう言いながら、そっとコーネリアを抱きしめる。


「よかったです、お父さま」


 コーネリアはホッとしながら答えた。

 やっぱり両親の抱擁が一番落ち着く。


「ところでプレフォンス侯。王子とジャネット嬢の件で、あとで話がしたいのだが?」


 オーサム侯爵の声に迫力が戻る。


「当然だな。私は貴殿とコーネリア嬢の味方をするぞ。陛下に謁見しよう」


 プレフォンス侯爵も力強くうなずいた。

 おそらくエドワード王子とジャネットは、浅慮な愚行を思い知らされるだろう。


 「赤の他人になったのだから知らないけど」とコーネリアは思った。


「では私はこれで」


 偉い人たちが何人もいる場からはそろそろ退散したい。

 コーネリアが暇乞いをすると、カルロスが、


「まっ、待ってくれ。私からもお礼がしたいんだが」


 とコーネリアを引き留めようとする。


「そ、そうよ!」


 イザベルもあわてて兄に続く。

 

「その話でしたら父にお願いします」


 父親のほうが適切に報酬を受け取れるだろう、とコーネリアは判断する。

 オーサム侯爵はうなずく。


 彼は娘の苦手なことをしっかり把握している父親だった。


 だから「国で一番の美女」と言われた妻譲りの美貌を隠し、地味で目立たない姿で日々を過ごすのも認めている。


 「いつか娘が美貌を隠すことをやめさせる友人でもいれば」と、オーサム侯爵は思う。


 コーネリアが本来の美しさを見せ、ほかの男と結婚するという想像をすると何だか腹が立つからだ。


 「まだまだ嫁に行かなくてもいいかもな」と、妻に叱られそうなことを本気で考えるオーサム侯爵だった。






「聞きました? エドワード王子、継承権を落とされて左遷されたらしいですよ」


「あんな愚かな行為に出たんですもの、当然よね」


「オーサム侯爵家と言えば王家にも信頼されている、強い家だとご存じなかったのかしら」


「ご息女のコーネリア様がこの国と帝国を悩ませていたトラブルを見事に解決されたそうよ」


「コーネリア様はとてもすばらしい方だもの。『灰かぶり』令嬢なんて、言う人は見る目がないのよ」


「ああ。ジャネット様のこと?」


「王命を踏みにじって陛下の怒りを買ったとなると、貴族相手の婚姻は絶望的よね」


「父親のプレフォンス侯が激怒したのもまずかったわね」


「こういうとき修道院に入るのが常だけど、経緯が経緯だから修道院でも居場所なんてないでしょうね」


「ご愁傷様という言葉しかないわね」



 このような風評の中、コーネリアはいつものように飄々と過ごしていた。

 

「お嬢様。帝国のカルロス皇子からお手紙が届きました」


「塩対応を返し続けてるのに懲りないわね、あの人」


 家令の言葉にコーネリアはそっとため息をつく。


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